楽しみなんよ、テニス
 

今日から本格的な学校生活が始まる。
どの学校も例外はなく、勿論立海大附属だって同じだ。
「えーと…あいあむ銀音」
「そうだー、名前を言うときは『I am』だ。この場合……」
銀音のクラスは今、英語の授業の最中だった。
「(暇やー…金ちゃんに会いたいなぁ)」
当てられたあと、ぐでーと机に伏す銀音にバシッと先生が出席簿で頭を叩く。
「こらー遠山ー寝るんじゃねえ。ちょっと廊下に立ってろ」
「おん…」
ノロノロと立ち上がり、ふらーっと教室から出た銀音にクラスが笑い出す。
「金ちゃんに会いたい…」
ぽつりと銀音は呟き、廊下に座り込んだ。














授業が終わり、放課後。
部活の時間になると、銀音はすっかりテンションが上がっていた。
「よっしゃーテニスや、テニスやー!」
「いつも元気が良いな」
「あ、ジャッカルやん!やってテニスやで!?ごっつう面白いやんか!」
ぴょんぴょんと部室を跳ね回る銀音にジャッカルが苦笑する。
「ほら、早く着替えないと部活が出来なくなるぜ」
「あ、せやった」
ハッと気付いて銀音はガサガサと服を着替え始める。
「それじゃ、俺は先に行ってるぜ」
ラケットを片手に出て行ったジャッカル。
部室には既に銀音しかいない。
「……よいしょっと」
テニスシューズの紐をしっかりと結び直した銀音はコートに走り出した。
「真田ー!今日の部活は何やるんー?」
「銀音か。今日は基礎練習を重視して行う」
「おん、了解!」
ビシッと敬礼のポーズを取り、銀音は切原の元に駆けて行く。
「きぃりぃはーらー!」
「うわっ、何だよ銀音…!」
「柔軟組もーや」
ぐりぐりと頭を押し付ける銀音を引きはがしながら、切原は言った。
「たく…ほら、柔軟やるなら離れろって」
「おー、早うやろ」
ペタァ、と地面に体をくっつけて銀音は笑った。
「銀音には柔軟の補助必要ねえな…」
一応背中をぐいぐい押しながら切原は言う。
「次は切原やよー」
「はいはい、」
交代して、切原の背中を押す銀音。
「ちょ、力強すぎ…!」
「えー」
「えーじゃねえよ!」力加減が出来ていない銀音に切原が言う。
「ったく…ほら、次やるぞ次」
「了解やで」
柔軟が終わり、基礎練習になると銀音は走り込みを他の1年生と一緒になって始めた。
「だっ」
レギュラー陣と一緒に練習している銀音のことが面白くない何人かが、足を出したりとちょっかいを掛けてくる。
たたらを踏み、銀音は首を傾げた。
「悪い悪い」
「おんっ、ええでー」
ニヤニヤとした顔で謝るそいつらに笑顔で頷く銀音。
悪意を向けられたことに気付いた様子はない。
そんな銀音の姿に更にニヤニヤするそいつら。
「あいつら…」
そんな様子を見ていた丸井はムッとした顔でそれを見つめた。
「何やってんだよ」
丸井がよそ見をしていたので近くにいたジャッカルが注意する。
「あんまり他のところばっか見てると真田に怒られるぞ」
「分かってるって」
丸井はもう一度だけ銀音の方を見て、再び練習に集中した。

















「10分休憩!」
真田が合図をして、各々休憩に入る。
「なあ、遠山。そっちにあるボトルからドリンク持って来いよ」
「了解やでー」
「何やってんだよぃ、お前ら。飲み物は自分達で取りに行く決まりだろ」
銀音の目の前に立ち、丸井は言い放った。
「あ、丸井先輩……」
「全くさ、うちは実力主義なわけ。ひがむのは勝手だけどそういった姑息なこと、真田が見たら平手打ちモンだぜ」
「す、すみません…っ」
「ほら、行くぜぃ銀音」
呼び方を変えて、丸井は銀音をそいつらから離れた場所に連れて行った。
「なあなあ、丸井。今名前で…」
「んだよ、嫌なのか?」
「嫌やないで!ちょおビックリしただけや」
「なら良いだろぃ。……つーか、何で言いように言われたり使われたりしてんのが分からねえんだよ」
「抑えつけんといてっ!縮むん嫌やー!」
ぐいぐいと頭を抑えつけながら、丸井は話す。
「こんくれーで縮まねえから」
「丸井には分からんのや!金ちゃんと身長開けたらどないすんねん!」
「金ちゃん?」
「双子の弟やっ」
丸井の手から逃れた銀音はイーッと歯を見せる。
「へー…双子の弟、ね」
「何や、金ちゃんのことはやらんで」
「いらねえって」
ハッとした顔で警戒を始めた銀音にズバッと切り捨てる丸井。
「これより練習を再開する!」
「お、もう始まるみたいだな。……銀音もこっちの練習に入ってろぃ」
「何でや?」
「そりゃあ実力もあるし。つか、何でさっきは向こうの練習に混じってたんだよ」
「え、やって1年生は外周やって、さっきのやつらが……」
指差しながら銀音が言った。
「…次からは柳か真田に聞けよ」
呆れた声色で丸井が言い、コートに歩いて行く。
「おん、」
その後ろを着いて行く銀音。
「なんか兄弟みたいっスね、」
そんな二人を見ていた切原がぽつりと呟いた。



















「ありがとうございました!」
練習が終わり、全員が着替え始める。
レギュラー陣はさっさと着替えて、部室から出て行った。
他の部員達も徐々に帰り始めていた。
「コート整備、終わったー…」
今日は整備の当番だった銀音は一人ぽつんと着替えた。
「立海てテニスごっつ強いし、ビシバシやな」
着替え終わり、銀音は携帯を開いた。
メール受信のマークが点いており、操作をする。
「あ、光からや」
ピピ、と携帯を操作して歩きながら電話する。
「あ、もしもし光?」
『何や、銀音か。何の連絡もなしに何しとんねん阿呆』
向こうから聞こえた苛立っている声に、銀音は謝った。
「金ちゃんから聞いとらんかったん?…スマン」
『まあええけど。あいつが言うと思ってるんか』
「思ってへん」
きっぱり答えて、銀音は笑った。
「やっぱ光と話しとると楽しいな」
『やったら何でそっち行ったんや』
「んー…強いやつとテニスしたかったんや!」
『はあ…まあ、たまには連絡入れんと承知せんから』
ほなまた。
ブツッと通話が切られる。
「あ、切れてもうた。…光に挨拶しなかったんは悪かったかもしれんな」
携帯を仕舞い、銀音はゆっくり家までの道を歩く。
「金ちゃんにも電話せんと」
家に着いたらすぐに電話しようと決めて、銀音は走った。



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