気に食わない後輩〈切原side〉
 

「切原ーっ!」
「うわっ、て何だよ遠山」
立海大附属に入って2年目。
やっと俺にも後輩が出来んだな、と楽しみにしてた。
……まさかこんなやつだとは思わなかったけどな!
「なあなあ切原ー、」
こいつは遠山銀音。
入学早々柳先輩と試合をした1年生だ。
どんな相手にも敬語なんか使わねーし、正直苦手だ。
何でこんなに懐いてくんのかも全く分かんねー。
ともかく、初対面からして俺は遠山が苦手だと感じた。
多分入学したときの俺よりも強い。
そんな感情もあって、遠山には近寄らないようにしていたんだ。
「赤也、次は銀音と試合だ」
柳先輩にそう言われたときは嫌で仕方なかった。
「はいはい、そんじゃー10分で終わらせてやるぜ」
どちらにせよ遠山が苦手だと感じても、遠山がそこそこ強いのには代わりなかったからそんな軽口……挑発を言いながら了承した。
「よろしゅうな、切原!」
そんな俺の挑発にも気付かずに遠山は、笑顔で俺に手を差し出した。
その手を握るのに一瞬だけ躊躇して、俺は握手した。











「はあ、はぁ……」
何だよ、柳先輩と試合してたときよりもコイツ動きが良い…?
「やはり、俺との試合の最中もパワーアンクルを付けていたのか」
「(!? それじゃああれは本気じゃなかったってことかよ…!)」
面白ぇ、それでこそ……………。
「潰しがいがあるってもんだ」
唇を舐める俺のコートに真っ直ぐにボールを打つ遠山。
俺はそのボールを足元に深く鋭く返した。
「ぐぅ…っ」
唸り声を上げて遠山がボールを返した。
段々とパワーでこちらが押してきた。
まだまだ、これからだ。
もう一度、深いボールを打つ。
「ふんっ……ぬぅうー!!」
大きく回転を掛けながら、遠山がボールを打ち返してきた。
先程のボールよりもずっと重いボールだ。
「こんなもんかよっ!」
俺が打つボールに喰らい着いてくる遠山の足に向かって俺はボールを鋭い回転を掛けて打った。
「っ、どりゃあ!」
咄嗟に遠山は当たりそうになった足を引いて、距離を取りながら返してくる。
周りのざわめきなんて聞こえないくらいに、俺は遠山にボールをぶつけようとしていた。
勝つ為に、手段なんか選ばない。
王者である俺ら立海は…ましてレギュラーが入ったばかりの新入部員に負けちゃならねえ。
「赤也、止めろ!」
ちらりと耳に入った言葉に気付かないフリをして、俺はただボールを打った。
ただ、少し失敗してボールを上げた。
「………っ超ウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐ー!」
そう叫びながら遠山はグルグルと回転したかと思うと、上から回転を加えた勢いでスマッシュを打った。
多分、真田副部長の風林火山の『火』よりもずっと強い。
「あんな技を持ってるとは」
「…………なかなかやるじゃんか」
打ち返そうとして、弾かれたラケットを手に取り俺は遠山を見据えた。
潰す。
潰す潰す潰す潰す潰す!
頭の中がそれだけしか考えられなくなって、目の前が赤くなっていく。
「アンタ、…………潰すよ?」
止めようとする先輩達を無視して、俺は試合を続けた。
















「っ、ぐぁ……ぅ」
気付けば遠山は頭から血を垂らし、膝はガクガクと小刻みに振るえていた。
「あ、俺……」
フッと熱が冷めていき、やっと状況を理解した。
俺は遠山に、ラフプレーをしたんだ。
「き、りはら……」
カラン、とラケットを落として遠山はふらりとコートに倒れた。
「遠山っ!」
慌てて遠山に近寄れば浅い息を吐きながら身じろぎした。
「切原…大丈夫なん?」
「俺は怪我なんかしてねえだろ、」
「ボール、ぶつけたさかい…スマン」
小声で言う遠山に少し恐怖を覚えた。
いつもなら元気が有り余り、大声で話しているのに。
今の遠山とは似ても似つかない。
「銀音!」
名前を呼びかけながら近付いてくる先輩達に遠山を渡した。
「ちょお、寝る……」
寝息を立て始める遠山に全員で安堵を覚えたレギュラー陣。
勿論、俺に詰め寄り始めた。
柳先輩は怪我の具合を見てたけど。
「…どうやら怪我は大したことはなさそうだな」
遠山の頭に包帯を巻き、柳先輩は立ち上がった。
「赤也、」
「…すんません、頭に血が昇りました」
苦手だからって、同じ部のやつに俺は何をやってんだよ…。
少しだけ自分に罪悪感が生じた。
「とりあえず、赤也が銀音に着いていろ。良いな?」
「、了解っス」
頷き、俺はベンチに寝かされている遠山の横に移動した。
苦手、か……。
そもそも何で俺は遠山が苦手なんだ?
だって、思ったことは大した理由になってなんかいないじゃんか。
「何だってんだよ…」
小さな寝息を立てる遠山を観察する。
こいつは俺が入学した時よりずっと華奢で、すんなりと部に馴染んだ。
俺みたいにすぐに先輩と試合をしたにも関わらず、そうはならずに。
気付けばまだ2日しか経ってないのし名前呼びだし。
「赤也、」
「仁王先輩…」
休憩に入ったのか、仁王先輩がこちらに来た。
「お前は、銀音ちゃんのことが苦手なんか?」
飄々とした態度で、何食わぬ顔をして仁王先輩は聞いた。
「そんなこと、ないっスよ」
否定して、俺は遠山に視線を移す。
「嘘じゃろ、いや……苦手っていうよりは…」
「何スか、」
「いや。ただ、赤也もまだまだやと思っただけぜよ」
「は?だから何の……」
「ピヨ」
よく分からない擬音を呟き、仁王先輩はコートに戻って行った。
「だあー、もう!マジで何なんだよ……」
ホントにごちゃごちゃする。
仁王先輩は俺に遠山のことが苦手というより、って言った。
じゃあ苦手じゃないなら何なんだ?
「赤也ー」
「丸井先輩…」
「んな顔してっとワカメが増量するぜぃ?」
「なっ…誰がワカメっスか!」
今度は丸井先輩がこっちに来た。
来るなり、ワカメって…最悪だ。
「そーそー。やっぱ赤也はこうでなくっちゃなー」
プクー、とガムを膨らましながら丸井先輩はニッと笑った。
「へ…?」
「ああ、いやさ。お前、遠山に大して敵意っつーか…うん、まあ向けてたろ?」
「いやいやっ、向けてないっスから!」
「そーか?なんか見てると、分かりやすいぜ」
そんな向けてた、か…?
考えてると丸井先輩は吹き出した。
「ま、嫉妬も大概にしとけよぃ」
ヒラヒラと手を振りながらジャッカル先輩のとこに歩いて行った丸井先輩の言葉に固まる。
俺が、遠山に嫉妬?
……それこそないだろ!
だって、年下だろ?
そんな大人気ないこと…。
「『ありえない』と思っている確率86%」
「って、柳先輩!?」
いつの間に!?
てか心を読まないで下さいよ…っ。
「別に読んでいる訳ではない。今までの赤也の行動パターンから推測したものだ」
「そ、そうっスか…」
流石柳先輩……。
「ところで赤也」
「何ですか?」
「ブン太の言葉を否定していたみたいだが、思い当たる節は全くないんだな?」
こちらを静かに見据える柳先輩に、俺は戸惑った。
それじゃあ、まるで…。
「『俺がホントに嫉妬してるみたいじゃないっスか』と、お前は言う」
柳先輩に先回りされる。
「残念ながら、俺の目から見ても赤也は銀音に嫉妬しているように見えるな」
ポン、と俺の頭に手を置きながら柳先輩は言った。
「何で、遠山に嫉妬しなきゃならないんスか…」
「それは分からない。だが赤也。苦手だと感じる理由がそうではないのか?」
これからスマッシュ練習だからて、柳先輩はコートに戻って行った。
苦手だと感じる理由…。
ああ、そうか。
そう考えると、全部俺が遠山に嫉妬しているみたいな理由ばかりだ。
先輩を取られる、なんて。
「俺、ガキっぽいな…」
「何がガキっぽいん?」
俺にタックルしてくる……遠山。
「遠山……」
「楽しかったな、切原!また試合しよーなっ」
へへっ、と笑顔を向ける遠山。
「お前、俺がボールぶつけて怪我させたのに……」
「んー?やって、切原はぶつけたらすぐ謝ってくれたやん!」
「あれは、ちが…」
だってあれは謝ってる訳じゃない。
とりあえず口に出して、挑発しているだけだ。
そんな俺の否定に言葉を被せるように遠山は笑って言う。
「あ、せや!うちん事は銀音って呼んで欲しいんよ」
「え、あ…名前でか?」
「おんっ、切原とはもう友達やからな」
俺、部活の先輩なんだけどな…。
けど、笑顔のまま俺を見つめてくる…銀音に根負けする。
「ま、仕方ねーから呼んでやるよ」
「ホンマ?切原と友達やーっ」
大声ではしゃぐ銀音に、俺は呆れた声で言った。
「少し静かにしろって!真田副部長に怒られ…」
「ほう、二人とも何を騒いでおる」
「げっ、やば……」
真田副部長がこっちを凄い形相で睨んでいた。
「練習中であろう、たるんどるぞ!」
全く、と真田副部長は平手打ちをしないで戻って行った。
え、あれ…?
いつもなら平手打ちしてくんのに…。
もしかして、俺と銀音の様子に気付いてて怒鳴っただけ…?
ありがとうございます、真田副部長。
多分副部長が来なかったら謝る機会を逃してました。
「なあ、銀音」
「んー、なん?」
「ボールぶつけて、悪かった」
「お?よう分からんけど、ええよー」
もう銀音の中では無効だったみたいだな。
つーか、ぜってえ忘れてる。
「はあ……」
何で、俺こいつに嫉妬してたんだ。
馬鹿らしくなってきた。
「あーっ、溜息つくとお化けが来るって光が言うとったで!」
キョロキョロと周りを見ながら銀音が言った。
誰だ、光。
「こんな昼間っから来る訳ないっしょ」
ぐいっと頬を引っ張ると、銀音は騒いだ。
「んじゃ、さっさと練習に戻ろーぜ」
「おん!早う打ちたいな」
何だかんだ言って、こいつ相手に嫉妬してんのも馬鹿らしいし。
それに悪いやつじゃねえってのもよく分かったしな。
これから、楽しくなりそうだ。



前へ 次へ

 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -