皆と弁当食べたでーっ
 

真田と柳と友好を深めた翌日。
今日は丸一日休日練習である。
「えーっ、真田副部長こいつとラリーやったんスか!?」
「ああ、そうだが」
部室で着替える際に聞こえた話に思わず切原は反応した。
いつやったんだ、など言いたいことは沢山あるがまず気になるのは。
「何で柳先輩も真田副部長もアイツのこと名前呼びなんスか!」
「駄目だったか、赤也?」
「いや、駄目とかじゃないんスけど!」
カッと開眼しながら聞いてくる柳に焦りながら切原は答えた。
「昨日の今日でいきなり名前呼びに変わってたら驚きますって!」
「赤也、正確には一昨日の今日だ」
律儀に訂正してくる真田に切原はあ、そうっスね…と呟いた。
「ともかく、何があったか聞かせてくださいよ副部長!」
柳に聞いても上手くはぐらかされるのが分かっている為切原は真田に標的を絞った。
「何があったと言われてもな……」
真田の中では解決していることなので言うのは構わないのだが……説明するとなると自分のことだから、お握りを食べさせたときのことを言ってしまいそうな気がするのだ。
「色々話し合った結果だ」
とごまかし、真田はさっさと部室から出て行った。
「あ、ちょっ…副部長!?」
自分も着替え終わり切原はすぐに追い掛けた。
すぐ後ろで行われていたビデオ鑑賞会に気付かずに。
「仁王、柳生、丸井、ジャッカル」
「何じゃ柳」
「どうかしましたか、柳君」
「なんか用かよぃ」
「どうしたんだ?」
四者それぞれの反応を見せながら近付いてきた4人に、柳は昨日撮った写真を見せた。
「! これは…」
「は…?あの真田がこんなことする訳ないだろ」
「つーか父親が幼児にご飯やってるようにしか見えねえだろぃ」
「……参謀、あとで俺の携帯に送りんしゃい」
「ああ、構わないぞ」
上から柳生、ジャッカル、丸井、仁王、柳。
それぞれ驚き、感想を言うが仁王だけはマジな目で柳に写真を送るように頼んでいた。
「その時のムービーもあるぞ」
ムービーを再生しながら柳は言った。
「何と言うか…遠山君が雛みたいですね」
素直な感想を口にした柳生に、周りは頷いた。
「確かにな、つーかあいつ小動物っぽくねえか?」
「確かに言えてんな」
コソコソと話しながら部室を出るレギュラー陣。
「あっ、遅いでー!」
準備運動が終わり暇そうにしていた銀音がだっと駆け寄り柳に飛び付く。
「おっと、どうした銀音」
「あんなあんな、昨日のお握りのお礼にあとで渡したいモンがあるん」
「あれくらい気にしなくても良かったが?」
暫く引っ付いて満足したのか離れた銀音。
「真田にも用意したんよー」
周りが準備運動を終わったのを見た銀音は1年生のメニューを始めながら言った。
「そうか。………ああ、銀音のメニューはこっちだぞ」
柳は銀音が1年生のメニューをするのを止めさせて、紙を取り出しながら言った。
「何や、これ?」
「ひとまず銀音の能力が測りたいからな。…スポーツテストのようなものだ」
その言葉に周りがざわついた。
それが意味するのは、銀音がレギュラー入りする可能性があるということ。
レギュラー入りでなくともそれに近いものがある。
「うーんと…長距離、短距離、ボレー練習、サーブに…めっちゃあるやんっ」
「出来るだけ早めに測定したい。やれるな?」
柳に渡された紙に書かれていることを読み上げながら銀音は唸った。
そんな銀音の頭をポンと一撫でしながら柳が聞くと、銀音は頷いた。
「ふむ、測定については俺が記録をする。後は……赤也、」
「あ?なんスか、柳先輩」
丁度通り掛かった切原を柳は呼び止めた。
「銀音の身体能力が測りたくてな。少し手伝ってくれ」
「ういっス」
了承した切原と共にグランドの方に移動する。
「何やればいいんスか?」
「そうだな…ではスタートの合図を頼む」
などとドンドン測定を進めていく。
「では、次は基本のフォームなどを見る為に打ち合いなどを行う。まずは乱打」
切原が両際に放つボールを打ち返す銀音の動きをノートに書き込む柳。
ボレーやサーブ、何処へアプローチするのかを調べる。
「――――もういいだろう。二人とも休んでいいぞ」
ぱたりとノートを閉じて柳は言った。
その言葉に二人は打つのを止めて柳に近寄った。
「身体能力は高いな。特に高いのは体力だった」
「体力? そういや、休憩殆どしないで測定してたっスよね」
「ああ、銀音が疲れた様子を全く見せなかったからな。様子を見ながらやっていたら全て終わらせてしまったよ」
切原と柳が話しを進めるなか、何を話しているのか全く分からない銀音はぽつりと言った。
「んー…何の話かさっぱり分からんよ」
話に集中して聞いていない二人を置いて、銀音は移動した。



















1年生用のメニューを見ながら柔軟をしていた銀音はお昼休みになった為お弁当を取り出した。
「お、遠山の弁当お握りばっかだな」
「おんっ、頑張って作ったんや」
「それは凄いですね。中の具は何ですか?」
「タコ焼き」
「……それは」
即答した銀音にどう反応していいか分からなくなったレギュラー陣。
「あ、でもな。真田と柳に持って来たんはもっと凄いもんなんやで!」
リュックをゴソゴソと漁る銀音。
中から色々なものが出て来る。
「んーとな……あ、これやこれっ」
はいっと二人に綺麗なラッピングがされている袋を渡す。
「これは何だ?」
「クッキーや!」
「手作りのようだな」
「はっ!?真田と柳クッキー貰ってんのかよぃ!」
ずりー!と騒ぐ丸井をジャッカルが抑える。
「確かにずるいの」
「真田と柳の分しかないで?」
タコ焼き入りのお握りを食べながら銀音は言った。
「俺も食いたいぜぃ……、なあ遠山!」
「なんー?」
「明日俺に作ってこいよ」
弁当を口に含みながら丸井が言う。
「えー、嫌や」
「なあ良いだろぃ?」
銀音の頭をぐりぐりと抑えながら丸井が聞く。
「いーやーやーっ!」
ジタバタと丸井の手から逃れようと銀音が暴れる。
「あっこら、暴れんなって!」
「おいブン太、止めとけって」
ムキになって羽交い締めにする丸井をジャッカルが宥める。
「丸井、銀音、ジャッカルがそろそろ止めておかないと弦一郎に怒られる確率89%」
「貴様ら……いい加減にせんか!たわけ共め!」
バシーン!とジャッカルが平手打ちされた。
「っつ……何で俺が…」
「む、すまない。つい……」
とばっちりを喰らったジャッカルに真田が謝った。
その音に驚いたのか銀音が二人を見比べた。
「今ごっつ大きい音したで!?」
興奮気味に銀音は近くにいた切原に飛びついた。
「うわっ、食ってるときにくっつくなよ」
「えー」
渋々離れた銀音は柳生と仁王のところに飛び込んだ。
「遠山君、危ないですよ」
「す、スマン……」
しゅんとした顔で謝った銀音。
「そんなことよりもう食い終わったん?」
「ええ、そうですよ」
「遠山は食い終わったんかの」
「あとちょっとや」
残っていたお握りを頬張りながら銀音は返事を返す。
「……ぷはぁっ、ごっそうさんでした!」
最後にお茶を飲んで、手を合わせて挨拶をして銀音は仁王と柳生にじゃれつく。
「遠山君、」
「あー…あんな、苗字じゃなくて名前がええ」
「唐突じゃな」
遠山君と呼ばれ、銀音は少し顔をしかめた。
そんな銀音に気付いた仁王が楽しげに笑う。
「やって、苗字は呼ばれ慣れとらんもん」
「最初に会ったときに言えばよかったじゃろうに」
銀音にそうにやりとした笑みを浮かべながら言った仁王に柳生が溜息をつく。
「仁王君、とおや……銀音君を虐めるのは止めたまえ」
止めに入った柳生が銀音からの視線に気付いて、呼び方を直す。
そんな柳生に驚いたのか仁王は少しだけ目を見開いた。
「……まあ仕方ないの。銀音ちゃん、でええか?」
「おんっ」
そのやり取りを聞き、柳生は小声で仁王に話し掛けた。
「仁王君、女性でない方をちゃん付けなど……」
「本人がええって言っとるんじゃからいいナリよ」
サラッとかわして仁王は立ち上がった。
「仁王、何処に行く」
「ちょいと水道まで行ってくるぜよ」
真田に尋ねられて、仁王はダルそうに返事して歩き出した。
「そうか、もう午後練が始まるから早めに戻ってこい」
真田の一言で全員が練習の準備の為に動き始めた。
「銀音、午後からはレギュラーと一緒に練習に入ってくれ」
柳がそう伝えて、リストバンドを渡した。
「? 何やコレ」
「重り入りのリストバンドだ。常にこれを付けて生活してもらう」
「足に付けているパワーアンクルは好きにしろ」
「気付いとったんやな、」
「初めにな」
真田と柳に言われた通りにリストバンドを付けて、足のパワーアンクルを外した銀音。
「む、それは外さなくていいのか?」
「おん、これは金ちゃんとお揃いやから」
金太郎とお揃いのリストバンドの上から被せるようにリストバンドを付け、銀音は感触を確かめるように腕を振った。
「ん、バッチシや!」
「そうか。……そろそろ時間だな、弦一郎」
「ああ、」
二人がコートに向かうのに銀音は着いて行った。



前へ 次へ

 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -