ねた帳 | ナノ




ここから抜け出したい

※夢じゃないし暗いです。





はあはあ、乱れた息遣いが辺りに響く。
後ろから【アイツ】が追い掛けて来るのが破壊音で分かる。
−−ーどうしてこうなってしまったんだろう。
分からなかった、今日もバイトがあるし、花ちゃんに返事を返さなきゃならないのに。
だって、あれは私じゃない。
花ちゃんのこと、そんな風になんて思ってなかった。
『ウザい、ジュネスの店長の息子だから仲良くしていただけ、調子に乗っちゃって』
−−−違う!
私はそんなこと思ってなんかいない!
私じゃない、私じゃないの…!
足が縺れる。
倒れ込みそうになった私の目に映ったのは何もないところから生えて居るような指先。
そこで思い出す。
私を突き落とした人も顔を何もないところから出していた。
助かる、かもしれない。
死に物狂いで私は手を伸ばした。
届いた!
お願い、私を引っ張り上げて!
必死だった。
けれどその腕が私に引っ張られてこちらにどんどんその姿を表す。
ある程度こちらに腕が入って来た状態で止まると今度は戻ろうとする。
これで助かる!
そう感じて私は安心した。
次の瞬間、私の腕から掴んでいた腕がすり抜ける。
待って、置いて行かないで…!
そう思っても腕は消えてしまった。
後ろで物音。
私は振り向くしか出来なかった。
『花ちゃんがウザい何もかもウザい!』
「やだ、違…!」
そう言いながら近寄る、先程まで私の姿をしていた【アイツ】からまた逃げ始める。
誰でもいいから、助けて!
懐から何かが落ちたのも気にならない。
ただ走った。
必死に走って、私は気がつけば商店街の中にいた。
霧が濃くてボンヤリとしか周りが見えないけど、生まれてから馴れ親しんだ場所を見間違える筈がなかった。
『……いい…に』
「え、何…?」
誰かの声が響く。
『ジュネスなんて潰れればいいのに』
「…!」
『小西さん家の早紀ちゃん、ジュネスで…』
「何、これ…」
ガタガタと私の体が震える。
誰もいないのに、どうして…!
私の体が勝手に走り出す。
この声が聞こえない場所に行かなきゃ、行かなきゃ…。
私は家に飛び込んだ。
今度はお父さんの声がした。
『早紀!何度言ったら分かるんだ!』
『小西酒店の長女として恥ずかしくないのか!』「もう、嫌…」
私は座り込んでしまった。
何で、どうして。
私はただ…。
『ただ、何?』
「………」
『まただんまり?まあいいけど。あーあー、やっぱりみぃんなウザい。ほっといてくれればいいのにね』
「違う…」
『違わないわよ。だってずうっとそう思って生きてたじゃない』
「…、」
『でもそれももう終わり』
ビリ、ビリと何かが破かれる音に私は顔を向ける。
「それは…止めて!」
『花ちゃんだってそう!本当はウザくてウザくて堪らなかった!店長の息子だから!可愛がってただけなのに!』
私が声を上げても紙は…映画のチケットは切り刻まれていく。
「酷い…」
『酷い?勘違いしないでよ』
紙がパラパラと床に落とされる。
『これは私が貰ったもの。アンタはもう私じゃない。本物は一人でいいの』
「あ、ああ…嫌…」
恍惚とした声で言うと【アイツ】は近寄って来る。
花ちゃん、ーーーー。









「…小西先輩、寝てんのかな」
携帯を握り締め、俺はそう呟いた。
時刻は午後十一時五十分過ぎ。
いつもならメールしても返事が返って来る時間なのに、小西先輩からのメールはなかった。
一日間が空く程度ならたまにあったけど、こんなに間隔が空いたことはなかった。
「やっぱ先輩、疲れ気味だったし。それでかな…」
昨日の昼間に話したときのことを思い出す。
体調でも崩したのかもしれないな。
明日のシフト、無理そうなら俺が入ってフォローしねえと…。
ボンヤリとそう考えながら、テレビを見やる。
俺は今夜もマヨナカテレビを見ようとしていた。
昨日のマヨナカテレビが何故か妙に気になって仕方がなかった。
何処かで見たような気がしてならなかったんだ。
若干体が怠さを訴えていたけど俺はテレビを見続ける。
……十二時だ。
電源を入れていなかったテレビが付く。
「…やっぱりそうだ、これ…!」
小西先輩だ。
間違いない、でも様子が可笑しい…。
ーーー花ちゃん。
「! 小西先輩!?」
不意に小西先輩の声が聞こえた気がした。
気がつけばテレビの電源は切れていた。
…夢、か何かか?
そう結論着けて、俺は寝ることにした。
明日。
明日小西先輩に聞けばいいんだ。
マヨナカテレビ見ました?って。

小西先輩が主人公の腕を掴んでいたらみたいな妄想から。
最初の主人公がテレビの中に腕を引っ張られていたとき。
あのとき、テレビの中から腕を引っ張っていたのはテレビの中から出たい小西先輩だったんじゃないかなと考えました。
それを後から知って一悶着あれば…。
少しご都合主義みたいなものになりますが。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -