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※マイキー「たい焼き屋のおじさんは知ってる」の続編。2人の距離を詰めていくところが書けなかったので供養。

トーマンの集会に行くのはもう何度目だろう。両手で足りなくなってからは数えるのをやめたけど、お試しとは言え総長の彼女である私は割とみんなからよくしてもらっているし、知り合いの三ツ谷くんもいるから割と早く打ち解けられた気がする。

 それにマイキーの妹のエマちゃんとも仲良くなったので集会中は彼女とおしゃべりしている。エマちゃんとの恋バナは楽しくて時間を忘れるのでそのおかげで最初は怖かった不良の集まりも少しずつ楽しくなってきた頃だった。

 その日も集会中、少し離れたところでエマちゃんとおしゃべりしていた。エマちゃんになんで付き合うことになったのか聞かれたのでことの経緯を話していると、彼女がある一点で怪訝な顔をした。

「マイキーが純情…?」
「だって暴走族の総長さんなのに女の人と付き合ったことないんでしょ?」
「うーん、まあ。女の人といるよりケンちゃんたちとバイク走らせてる方が好きって感じだけど」
「手を繋ぐの恥ずかしそうにしてるし」
「…」
「それに間接キスして好きになっちゃうなんて小学生かなって感じだし…」
「あのねナマエちゃん。マイキーはナマエちゃんのこと前から知ってたよ」
「え?」
「うちが口出していいかわかんないし。マイキーに聞いて?」

 どういうこと?

 そう聞こうとした時、
「エマー」
とドラケンくんの声が聞こえてきた。

「あ、終わったみたい。それじゃ、ウチ行くね!バイバイ!」
「あ、うん。またね!」

 エマちゃんを見送ったあと、総長さんの姿を探すと何やら場地くんと話している。まだかかりそうだったから少し歩こうと境内から離れて石段を降り始めた。

 エマちゃんが言ってたのってどう言うことなんだろう。三ツ谷くんに会いにきてたからその時見かけたことがあったってことかな?

 そう思いながら石段に座っていたら月明かりを遮ってくる影が目に入った。見上げると、
「ばぁっ」
と無邪気な笑顔を私に向けてくるマイキー。
「わっ」
「なんでこんなとこいんの?」
「あ、ごめんね」
「ナマエ迎えに来るのキライじゃねぇからいいけど。危ないからあんま離れんな」
「うん…ありがとう」
「ん」

 そう言って私の手を引っ張って立たせたかと思えば腰に手を回してきて、そのせいで彼の整った顔が近くにくる。彼の真っ黒で吸い込まれそうな瞳に映る自分の顔がなんか情けない顔をしていて恥ずかしい。

「あ、のさ」
「何?」
「マイキーって私のこと、前から知ってた?」
「なんで?」
「エマちゃんがそんなようなこと言ってたから」
「ウン、知ってた。三ツ谷の隣の席に可愛い子いんなって」
「か、かわいいって…私のこと知ってたなら言ってくれたらよかったのに」
「んー、一目惚れしたから付き合ってって言ったらオレと付き合った?」
「…え、ええ!?」
「ナマエさ、間接チューは友達でもするって言ってたじゃん?」

 ん?この話の流れでその質問はなんなの?全く話の流れが読めないけど頷く。

「じゃあ手を掴むのは?」
「え?」
「それは友達ならいい?」
「まぁ手を掴むくらいなら」
「ふーん。ナマエの男友達って誰?」
「うーん。三ツ谷くん?あと最近は場地くんとか松野くんも仲良くしてくれるし友達だといいなって思ってるけど」
「じゃあそいつらにオレがいつも雪乃にすることされたら、どう思う?」
「え?」

 本当に何が聞きたいんだろう。

「頭を撫でるの、三ツ谷にされるのはいい?」
「う。うーん…ナシ、かな」
「バジに肩を抱かれるのは?」
「…それはダメな気がする」
「千冬と手を繋ぐのは?」
「…」

 答えない私にマイキーは
「でもオレとはいいんだな」
と笑う。
「だ、だってマイキーはお試しだけど恋人、だし」
「お試しとお試しじゃない恋人って何が違うの?」

 彼が言いたいことがだんだんわかってきて急に心拍数が上がってドキドキする心臓を、バカ、鎮まれ!と叱咤した。

「じゃあこれは?」
「え?」

 気付いたらマイキーの端正な顔が目の前にあった。目を瞑るマイキーに、あ、まつげ長い、なんてどうでもいいことを考えていたら、チュッとリップ音と共に唇に柔らかい感触がした。そして目の前にある彼の瞼がゆっくり開かれて、彼のハイライトのない眼差しが私を捕らえた。

「嫌だった?」
「…」

 嫌、じゃなかった。

 そんな私の気持ちは言わなくても分かると言うように私の頬に手を添えてきた。

「ねぇナマエ。オレの初チュー奪ったんだから責任とって」
「っ!は、初チュー奪われたのはこっち…!」

 そう言うとマイキーは待ってましたとばかりにニヤリと笑って、
「じゃあ責任とって一生ナマエのこと幸せにするから、お試し終わろ」
と言いながら私に二度目の口付けをしてきた。

「!」
「オレ、オマエのこと逃がす気ねぇから。諦めてオレの女になって」

 なにこれプロポーズ…?

「顔真っ赤。ナマエはホント純情で可愛いよな」

前の私なら純情はそっちでしょ!と答えてた。

でも今の私は彼が純情なだけの男じゃ無いことを知っている。私にたい焼きを食べさせてくれた手で容赦なく人を殴って、普段はこがない自転車を私を乗せるためにこいでくれた足で私を殴った男を半殺しにする。それでも、オムライスに旗がないと怒って、子供みたいに手を繋ぎたがって、私が手を握り返すと嬉しそうにする。

この人は純粋な人。

そんな彼にみんな惹き寄せられたし、わたしもすっかりそのうちの一人になってたらしい。

「マイキー。私マイキーのこと好きみたい」

私がそう言うとまさかそんな答えが返ってくると思わなかったのか、マイキーは虚をつかれたみたいな顔をした後私の大好きな顔で笑った。

        ◆◇

ちょっと静かにして!そう言う前に
「ふえーーーーん!ふぎゃーーー!」
と眠りを妨げられたことによる不快の鳴き声が我が家に響き渡った。ケンちゃんとウチの子ども、メイが起きたのだ。

「あ!ほら起きた!寝かしつけるの大変なんだからね!」

足元に転がっていた空き缶をぐっと掴んでマイキーに向かって投げつけるとその頭に当たった。けれど反省の色がないマイキーに

「待ちなさいよマイキー!」

と言いながらもう一つ空き缶を投げつけた。でも兄は相変わらずすばしっこくて避けられて代わりにタケミっちにカーンと当たった。それを見たケンちゃんが笑っているので、マイキーは
「笑ってないでなんとかしろよ、ケンチン!!」
と焦ったように逃げて行く。

「まーた始まった」
三ツ谷にそう言われるけど今日という今日は許さない。

この男どもは
「あの頃さ…」
「ケンチンその話何回目
「あ、三ツ谷たち呼ぶか」
「タケミっちもな!」
なんて言ってうちに集まる。マイキーの恋人のナマエちゃんも今日は珍しく潰れちゃったのかこたつで丸くなって寝ているので、嗜める人がいないからさらにやりたい放題。

「マイキー!逃げるならナマエちゃんに言いつけるから!」
「ちょ、それはダメ」

ナマエちゃんからよく怒られているマイキーはそう言うと観念したように止まった。

「マイキー皿洗いね。ウチ寝かしつけてくるから。ケンちゃんはゴミ片付けして」
「ケンチンめっちゃ尻に敷かれてるじゃん」
「マイキー、口じゃなくて手動かして」


口を尖らせながらもちゃんと手を動かし始めるマイキーを横目にメイの元に向かった。
寝かしつけて戻るとまた酒盛りが再開してた。でも片付けてあるしさっきよりは落ち着いてるから許す。

「寝た?」
「うん」
「いつもありがとな」

そう言ってその大きな手でケンちゃんがウチの頭を撫でる。出会った頃から変わらず優しくてカッコいいケンちゃんだけど、父親になってさらに頼もしくなった。

「こんなうるさい中よく寝れるよね」
騒ぎの中寝ている二人が目に入った。いつでもどこでもよく寝るパーちんは置いておいて、雪ちゃんがこんなんなのは珍しい。

「どーせマイキーがまたナマエちゃん無理させたとかだろ?」
そう三ツ谷が言うとマイキーはムスッする。
「三ツ谷は苗字な!」
「あーはいはい、ミョウジさんな」

同じ学校だったし、仕事でも付き合いのあるトーマンの中じゃ一番ナマエちゃんと仲のいい三ツ谷にはいつまでもこうして嫉妬するマイキーだけど、ナマエちゃんはそんなとこが可愛いだなんて言ってる。

まさかまだマイキーのこと純情だなんて思ってないよね?

そう10年来の友人のことが心配になってすやすや眠るナマエちゃんの顔を覗くと、そのタイミングでケンちゃんの電話が鳴った。

「あ、来た。タケミっち、玄関開けてやって」
「はい!」

「酒買ってきた」
「ツマミもな」
タケミっちが出迎えると場地と一虎がパンパンになったコンビニの袋を携えて入ってきた。仲良し3人組で経営するペットショップがなかなか大変みたいでだいたい遅れてやってくる。

「千冬は?」
「店。最近ちょっと調子悪いヤツいるから日替わりで泊まってンだよ」

昨日はオレが見てたから寝不足、と来たばかりなのに欠伸をしながらコタツに入る場地が、
「ナマエ寝てんじゃん。珍しいな」
と呟いた。

「ナマエなんか最近いっつも眠そうなんだよね」
「へー」
「それに食欲ないみたいだし。かと思ったらバカみたいにグレープフルーツ食べるし、よくわかんない」

ん?眠い?食欲ない?グレープフルーツ?
それって…

「それって妊娠してんじゃねーの、ナマエちゃん」

一虎がボソリと呟いた。

         ◇◇

寝ちゃってた…。

最近仕事が立て込んでて眠くて眠くて…。そのせいでストレスが溜まってマイキーと同じペースで甘いもの食べてたら太っちゃったんだよね。無神経なマイキーにお腹をつままれたから最近流行りのグレープフルーツダイエットを始めたんだけど…。効果ないしもうやめようかな。

目を覚ますとなぜかものすごく盛り上がってて、みんなからおめでとうと祝福をされた。なんのことか全くわからなかったけどどうやら私が妊娠したことになってるみたい。

残念ながら今生理中なので妊娠してないんだけど、あまりにマイキーが喜んでて…。
いつか結婚しようという話はしてたけど、まだ具体的には何も決まってなかったからほんの少しだけ不安に思ってた。でもそれを彼の得意の蹴りで蹴飛ばすかのように
「ナマエ!結婚式いつする!?あ、今から籍入れるか」
なんて私の肩をグッと掴んできた。もし妊娠して彼に嫌がられたらどうしよう、なんてことも思ったこともあったけどそれも杞憂だったみたい。むしろ逆に妊娠してないと言い辛い場面があるなんて思いもしなかった。

「役所行こ!」
呆気に取られて何も言わない私の様子を見たみんなが落ち着けと言うけど、その制止を振り切ってマイキーは私の手を掴んで走り出した。彼の昔と違って夜の闇に同化しそうな黒髪が揺れていて、そんな彼をずっと見ていたい気分だけど、そろそろ本当のこと言わないとな。

「あのね、マイキー」
「ん?」
「私…今生理中なの」

マイキーが固まって、きょとんと首を傾げる。

「妊娠してないよ」
「な!…ハァ…」

マイキーは道路の上だと言うのにその場に座り込んで彼の艶やかな黒髪をガシガシとかく。

「ごめんね…なんか喜んでるマイキー見たら言えなくて」
「ん、こっちもごめん」
「じゃ、戻ろっか」
「なんで?役所行こーよ」
「え、でも…」
「…子供いなかったらオレとケッコンすんのイヤ?」

マイキーのこんな顔は久しぶりに見た。ほんの少しだけ不安そうにしてるけど、断られるわけないってわかってる。

「そんなわけないよ。さっきだって、その、嬉しかったし」
「ウン、じゃあケッコンしよ」
「マイキー…」
「一生幸せにするって約束したろ?」
「うん!お願いします!」

手を繋ぐのが好きなのに何故かいつまで経っても照れるマイキーが、今日も手を伸ばしてくる。私はその手を取ってそのまま彼に抱きついた。

「ナマエの手ちっちゃい」
「そう?」
「女の子ってカンジ」
「もう女の子って歳じゃないよ
「オレにとったらいつでも一番可愛い女の子だし。なんかナマエと手繋ぐと調子出ねぇんだよな」
と私の手を握りながらへにゃりと笑った。

彼のこんな一面を私しか知らないんだと思うと嬉しくなる。

「よしよし。それじゃあ私がマイキーを幸せにしてあげるからね!」

私がそう言うと、マイキーの瞳がほんの少し濡れているような気がした。

「マイキー…?泣いてるの?」
「ん…幸せで泣けた」
「なにそれ?それじゃあこれからもっと泣いちゃうね?」

彼が私の手を握って走って彼のお兄さんのバイク屋さんの扉をドンドンと叩いた。二人のお兄さんからいい加減にしろと怒られても幸せそうに笑う彼があまりに輝いていて。どれだけ時間が経ってもやっぱりマイキーは世界で一番かっこよくて可愛い私の純情総長さんだ。






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