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※大正パロ。続きが思いつかなかった。

「そういえば昨日見合いだったよな?婚約者どんな子だった?」
「さぁ、知らない」

そう冷たい言葉を吐き捨てられたのを聞いてしまった。軍人でありながらも軍属である印の緑色の軍服は黒の外套で隠れていて、さらに世にも珍しい銀色に輝く髪色を持つ人は私の婚約者以外にはいないはずだ。なので彼が知らないと言ったのはどうやら私のことらしい。昨日会ったばかりなのだから知らないはずがないのに。

望まれていない婚約であることは昨日の彼の態度で百も承知だったけれど、一生を共にするのだから少しでも良い関係が気付けたらと思っていた。でもそれもこの調子では難しいのかもしれない。昨日彼がうちの屋敷にやってきたときに忘れたものを届けに来たのだけれど、これではとても直接渡せる気にはならない。どうしたらいいのか分からずにその場に立ちすくんでいると続きの会話が耳に入ってしまった。

「ハハッ相変わらずだな」
「何人目って感じだし。さっさと親に泣きついて婚約解消すればいいのに」
「そしたら次のやつが来るだけだろ?今牛家は名門だから引くて数多だしなぁ」
「オレなんて親から見放されたハズレ株なんだけどね」
「まぁオレらははぐれもんの集まりだからな!んじゃそろそろ行くか」
「ん」

タバコを吸っていた私の婚約者とあと一人、黒髪で長身の男性が私がいる方と反対方向に歩き出す。それでもその場に立ち尽くしていた私に気づいていたのか婚約者はユラリとこちらに振り向いた。何も言わず、何の感情も抱かない目で私に一瞥をくれて、そして外套を翻して去って行った。

彼の目には私に「さっさと親に泣きつけ」と書いてあったような気がした。私がいるのを知って今の話をしたんだ。ひょっとしたら今の話を私に聞かせるためにわざわざ忘れ物をして行ったのかも知らない。噂通りなんて性格の悪い人。でも私は親に泣きつかないし、この縁談を絶対に成就させるつもりでいる。だからはしたないと思われるかもしれないけれど彼のところまで小走りで寄って、そして彼の手を掴んだ。
まさか私がこんなことをするなんて思わなかったのだろう。彼の端正な顔は少しだけ驚いた表情に変わった。

「若狭様」
「…何」
「お忘れ物を届けにまいりました」






今牛若狭。

今年16歳になる私の元に舞い込んできたお見合い相手の名だ。
彼は軍人の名門「今牛家」の長男であり、戦闘となると百戦負けなしの類稀なる戦の才能の持ち主で、軍としては手放すことができない存在。けれども気に入らない人間がいれば殴る蹴るは当たり前。とにかく気性の荒い獣のような男であり、銀色に輝く髪と紫色の瞳、その戦いぶりから「白豹」と呼ばれ恐れられているそうだ。それゆえに軍上層部は扱いに困っているというのは、事前に父から聞かされていた話。

その前からわたしが彼のことを知っていたのは、彼のその誰もが振り返るような美貌に憧れを抱く女性が数多くいることと、彼が4度も縁談を破談にしているという噂がわたしの通う女学校にも流れてきていたからだった。特にお見合い件は、相手が飛ぶ鳥を落とす勢いの商家の娘から名のある華族の令嬢まで幅広く、どこも繋がりを持ちたがる力のある家ばかりだったから、一体どの家柄であれば彼を射止めることができるのかと友人たちの間でも何度か話題に上がったことがあった。

そして前回の縁談が破断になって二ヶ月。次は一体誰が婚約者になるのかと私の通っていた女学校でも盛り上がってはいたけれどまさか自分だとは思いもしなかった。

私の家は由緒ある子爵家ではあったものの、お人好しの両親が友人に騙されその家禄のほとんどを失ってしまった。つまり、名ばかりの子爵家。とても今までの娘たちのような利用価値はないように思えたけれど、華族であることには変わらない。今牛家の格を上げるためだけの政略結婚。

正直今牛家にとってはうちは5番目の候補だったのだから、解消すれば6番目に移るだけなのだ。でもうちは違う。この婚姻にかけている。だから私が断れば代わりに私の妹がここに嫁がされるだけなのだ。妹は気の優しい姉思いの子。今回も私が代わりに嫁ぐと言ってくれたのだけど、身体の弱いあの子に気苦労が多いと聞く軍人の妻にさせるわけにはいかない。ましてあんな性悪な男の妻になんて。

だから私はこの関係を解消するつもりはない。

私は今一度あの男の妻になることを心に決め、軍の受付に忘れ物を預けて家に帰った。

「お父様」
「千絵、忘れ物は届けられたか」
「本人にはお会いできませんでしたが、お渡しできるよう手配をお願いしました」
「そうか」
「お父様、此度のお話、私の方で受けさせて頂きますので心配なされませんよう」
「すまない。お前には夢を諦めさせることになるな」
「女が医学の道なんて無理な話であることは百も承知でした。ここまでお父様に大切な資金を使わせてしまったこと申し訳なく思っております。ですが今牛家からの資金は小夜の治療に使うことをお約束ください」
「それは必ず」
「それであれば私からは何もありません。いつでもここを出て行く心持ちです」
「…小夜が寂しがるな」
「いつでも会えますから」

父にはそう強がったけれど、小夜に会えなくなって辛いのは私の方かもしれない。




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