抱かれたい男No.1の灰谷竜胆と運命の番だった件1




「ナマエちゃーん、次出番だよ!準備しておいてね」
「はい!よろしくお願いします!」

ミョウジナマエ17歳。地元でスカウトされ、去年から事務所に売り出してもらっている新人アイドルだ。黒髪のロングに首までしっかりとしめる襟付きの制服、黒のニーハイがお決まりのコーデだ。事務所のお陰で人気の歌い手さんにデビュー曲を作ってもらえたのと、ちょっとオタクに人気出そうな路線で売り出し始めたのが良かったのか、10代女子とオタク男子から人気を貰えて今は色々なところに引っ張りだこというありがたい状況。

ここ最近は新曲の売り出しのために歌番組やバラエティ番組の収録に呼んでもらっている。今日で連勤10日間で、流石に疲れが溜まってきた。これが終われば4日休みをもらえる予定だし、後一踏ん張り!と今日の歌番組Tステの歌唱を最上級の笑顔で終えた。
その後はTステ出演者の一部が集まって、MCの人たちとのトーク収録があった。私はまだド新人なのでMCさんから一番遠い端の席だ。ちなみに他の出演者はアイドルアニメの声優達が実際にユニットを作り歌手活動をしている9人組の女性声優さんたちと、アルバムを出せば限定版は即完売、ツアーをやればチケット難民続出という今飛ぶ鳥を落とす勢いの7人組の男性グループ。

わー!AQUAだ!みんな可愛い!

私の好きな声優さん達との共演に胸を躍らせるも、もう片方のグループを見てげんなりする。

わー、梵天だー…。

梵天は女性達の人気がすごくてうまく立ち回らないとメンバーに媚び売ってると叩かれるのでなるべく関わりたくないグループ。私の大切な女性ファンをなくしたくない。
それに苦手な理由はもう一つある。それは彼らが全員アルファで構成されていることだった。

この世の中には男、女のほかにもう一つ、第二の性がある。それは男女関係なく、絶対的支配階級のエリートα(アルファ)、一般のβ(ベータ)、そして最下層で冷遇されるΩ(オメガ)。
ベータが人口の大半を占めているが、この世の中は少数のエリートであるアルファを中心に動いている。そしてオメガは非常に希少であるにもかかわらず三ヶ月に一度のヒートという発情期が一週間ほどあり、その間はまともな生活を送ることができない。ヒートのせいでオメガは社会進出の難しいお荷物性と言われている。オメガはアルファにうなじを噛まれ、番となることで番以外にヒートしなくなり、他の人と同じ生活を送ることができるようになる。またアルファとオメガには魂同士で惹かれ合う運命の番というものがあり、たとえどんなに他に好きな人が居ようとも運命の人を好きになるという傍迷惑な設定があるらしい。そんな夢物語は信じていないけど。

私がオメガと診断されたのは、10歳の頃。ベータ同士の両親からオメガが生まれることは非常に稀だ。そのせいで母が不義を犯したのでは、と父が母を疑い、幸せだった我が家は暗い喧嘩の絶えない家になってしまった。

幸いなのは、私はオメガとしては中途半端な存在だったことだ。ヒートも二、三日で治るし、アルファのフェロモンの感知も鈍い。そのため周りの人にオメガとばれることなく生きてくることができた。それに最近はオメガの発情を抑制する有効な薬もできていて、ヒートが重いオメガだって人並みに生きられるようになってきている。
でも私を含め、オメガは自分の性がバレないようにビクビク生きているのは変わらない。性別が家庭を壊すことを知っている私は、いつか私たちが他の性と差別されることなく、堂々とオメガ性を名乗り生きていける社会をつくりたいと思うようになっていた。

一昨年地元の繁華街を歩いているとアイドルにならないかと誘ってくれた社長に、オメガでもアイドルになれますか、と正直に聞いた。社長は最初は驚いたが私の案に賛成してくれて、弱いオメガ性を利用して、性別を隠してアイドルになり、人気絶頂の時にオメガということを明かして、どんな性でも関係なく生きていけることを証明しよう、と提案してくれた。私は絶対に日本で1番のアイドルになる、と心に決めて私を止める母を置いて上京してきたのだ。

最近の歌番組ではよく梵天と一緒になる。同日にシングルを発売したから仕方がないが、私としては勘弁してほしい事態だった。
いくら私の性が弱くても予定では明後日からヒートなのだ。念のため薬を飲んできたので大丈夫だとは思うが、触らぬ梵天に祟りなし。今はまだオメガということが知られるわけにはいかない。最低限の接触で、そう思っていたら、私と梵天の間にAQUAが座ってくれてので一安心だ。
可愛い上に助けてくれるなんて、女神!隣に座る私の推し声優さんにカメラが回っていない時にこっそりファンです、と話しかけながら、和やかに収録は進んでいた。

「ではミョウジナマエちゃん!」
「はい!」
「今回で2回目の出演ですが、前回と比べてどうですか?」
「前回は緊張しすぎちゃって何も覚えてないんです。後からオンエア見たら顔が引き攣ってて恥ずかしかったです」
「今回はどう?」
「まだまだ緊張してますが、大好きなAQUAの皆さんとご一緒できてるのでテンションマックスです!」
「そうなんですね!誰推しなの?」

なんてMCの方に話題を振ってもらい、最後に新曲の聞きどころなんかを紹介して私の番は終わった。前回よりはちゃんとできたかな、と大きく息を吸って緊張を鎮めようとした。
その時。
ふわり、といい匂いが私の鼻腔をくすぐった。何か花の匂いだろうか。こんないい香り嗅いだことない。
こっちからかな?と思って匂いの元へと視線を向ける。すると半円状になった出演者席の自分と真反対側に座る男の人と目が合った。あれは確か梵天の…。
何故だか目が逸らせなくて、じっと見つめてしまう。相手も同じようで、私たちの視線は絡み合ったままだ。なんだか体が熱くなってきたような気がして、もしかしてヒートか、と焦る。
その時、MCの人が、
「それでは続いての歌に参りましょう」
と進行し始め、ようやく我に返り視線を逸らした。
私たちの出番は終わり、全員で捌ける。その時に一瞬またあの男の人からの視線を感じた気がしたが、今度はそちらを向かないようにした。

あの男の人は確か。
梵天で不動の人気を誇るマイキーの次と言っても過言でない灰谷兄弟、の弟。灰谷竜胆。確か今年のアンケートで抱かれたい男No.1になったというのをどこかで見た気がする。

そんな男の人が何故自分を見ていたのか。何故花の香りが彼からしたのか。まだ頭にこべりつく香りに首を振り、楽屋に戻ってもう一度薬を飲んだ。





今日からようやくお休み。明日からヒートに入る予定なので色々準備をしておこうと朝早くに起きた。
「よしやるぞ!」
まずは掃除から。一人で上京してきてまだ駆け出しの頃から住んでいるアパート。オメガなので念のため少しセキュリティのいいところにしたので家賃は高め。1DKで広くないけど、住めば都!可愛い我が家を綺麗にしようと掃除機を持ち出した。するとそのタイミングでスマホに連絡が入る。マネージャーの森田さんだ。

「ナマエちゃん?よかった繋がって」
「森田さん、おはようございます。どうしました?」
「今日の収録だけど、大丈夫?まだ事務所にきてなかったから念のため連絡したんだけど。あと2時間後にAスタジオなんだけど間に合う?」
「ええ!?今日収録入ってましたっけ!?今日からおやすみにしてほしいって前々から社長に頼んであったんですけど。」
「社長は明日からって言ってたと思うけど。でもこの仕事は信用が第一だから急に穴を開けるのは印象が悪くて。どうしても無理なら事務所の子に代役をお願いするけど…どうする?」
しゃ、社長ーー!!前からちょっと抜けてるところあるって思ってたけど…。森田さんは私がオメガだと知らないので事情が言えない。だから社長頼みだったのに。
でも私も確認不足だったし、今更言っても仕方ない。昨日はなんだかおかしなことがあったけど、今のところまだヒートがきそうな気配もない。二時間後からスタートなら今日の夕方には戻って来れるはずだ。
「わかりました。急いで事務所に向かいます!」
「ナマエちゃんの家からの方がスタジオ近いし、僕が迎えに行くからいいよ!」
「ありがとうございます!」

ここはご好意に甘えて、森田さんが来る前に身だしなみを整えてできる限りの準備をしておく。そして抑制剤を飲み、念のためヒートになった時に抑えてくれる強めの薬を鞄に入れる。ちょうど準備が終わったところで森田さんが来た。

今日は4時間の音楽特番の収録で、沢山のアーティストが出る。私の出番は中盤辺りで、最近注目のアイドルコーナーのトリらしい。注目なんて言ってもらえるなんてありがたい。なんとか来れてよかった。

私が出番をステージの脇で待っていると、私の次のグループが来た。
「あ、よろしくお願いします」
と相手を見ずに挨拶をすると、
「よろしく」
と中性的な声が帰ってきた。そちらの方を見ると、梵天のリーダー、佐野万次郎ことマイキーだった。

私の後梵天?やだなぁ。最近何かと接点がある人気グループに少し嫌な顔をしてしまった。それを見た佐野さんが
「思ってること顔に出過ぎ」
と笑ってきた。なんと返したら良いのか分からず、ははっと愛想笑いをしておいた。
もうすぐ私の出番だと集中し始めた時、梵天の他のメンバーが佐野さんの周りに集まり始めた。すると昨日嗅いだあの花の香り。

お腹の奥がどくんっとした。

まずい。ヒートかもしれない。そう思った時、
「ミョウジさん、出番です」
と促された。今ならまだ、この香りから遠ざかれば、まだ、いける。
そう思い、急いでステージに出た。

いつもよりもステージに無理やり集中して、新曲を歌い上げる。なんとか無事終えることができた。

入りとは別の方に捌けるので、梵天の人たちとは会わずにすみそうでよかった。やっぱりあの人たちは強いアルファなんだ。ヒート前とはいえ私みたいな弱いオメガも反応させるなんて。あの花の香りがどこか引っかかりながらも今は彼らに近寄るのはやめよう、と胸に誓う。
楽屋に戻る前にトイレに行き、気持ちを落ち着ける。
「よし!大丈夫!」
さっさと楽屋に戻って抑制剤をもう一度飲んで帰ろう。トイレを出て自分の楽屋へ戻ると、楽屋のドアの前に人がもたれかかっていた。ピンク色で襟足の長い髪型。
梵天の、確か三途春千夜。

「あの、すみません。そこ、私の楽屋で…」
梵天に近寄りたくないけど、早く帰りたいので仕方なく話しかける。三途さんはこちらを見て、
「お前、オメガだな」
と言ってきた。周りをさっと確認すると、近くには人がいなさそう。よかった。
「何のことですか。違いますけど」
と否定するも、さっき私のフェロモンを嗅ぎ取られていればアルファには言い訳のしようもない。
「お前のフェロモンがダダ漏れてんだよ。アルファに媚び売る匂いがな」
高圧的で失礼な物言いにムッとするも、強いアルファの三途さんに私は気圧される。
私の態度に間違いないと踏んだのか三途さんは私に近寄り手を掴もうとしたとき、私の背後からまたあの花の香りがしてきた。

その瞬間、私は身体中が熱くなり、汗が流れ出した。呼吸が浅くなり、はっはっ、と私の呼吸音が聞こえだす。私の体からこれまでにないくらいの尋常じゃないフェロモンが溢れ出す。三途さんの目が獲物を狙う狼のそれに変わり、私の左手を強く掴んだ。

目の前の狼が怖い、でもそれよりもその花の香りの正体がどうしても知りたくて後ろを向く。
すると紫色に輝く髪が見えた。昨日目があった彼は私の方を見たあと、私の手を掴む三途さんの腕を掴み、
「離せ」
と言った。

三途さんは面白くなさそうに灰谷さんを睨み、
「オレが先に見つけたんだけど」
と言うと、
「こいつをヒートさせたのはオレだ」
とさらに強く三途さんの腕を掴む。その痛みに耐えかねて三途さんにようやく手を離される。
私はこれ以上この花の匂いを嗅ぐとおかしくなると思い、残った理性で浅い呼吸を止め、その場が過ぎるのをただ待っていた。薬飲んでるのに何で。怖い。

「せっかく見つけた希少なオメガをお前にやるか。スクラップにするぞ」
と三途さんがドスの効いた低い声で灰谷さんを睨みつける。
「あのことを公表されたくなかったら引け、三途」
「…。ここでオレが引き下がっても他の奴らにこいつがオメガだとバレるのも時間の問題だと思うけどなぁ」
と笑い出す。
「少なくともマイキーは気付いてるぜ」

そう言って三途さんは去っていった。





目を閉じて震える私の腕を灰谷さんが掴み、無理やり私の楽屋の中に連れていった。花の香りがさらに強くなると私の体はもっと熱くなり、お腹の奥からどろっとしたものが下着に垂れてきて気持ち悪い。

「さっさと抑制剤飲め。流石にオレも辛い」
そう言われて私はノロノロとカバンの中から強い抑制剤を取り出して飲み込んだ。

少しして薬が効いてくると、あの花の香りは薄まり、息もゆっくりとできるようになる。ここまで薬が効くならまだヒートじゃなかったんだ。
「あ、あの、ありがとうございました」
助けてくれた灰谷さんにお礼をした私に、灰谷さんはため息をつきながら
「こんなバカがオレの運命とはな」
と言ってきた。
運命?この人はなにを言ってるのか。
「お前、ヒート近いだろ。なにのこのこアルファのいる現場きてんだよ?昨日ヒートしかけてたくせに、懲りずによく今日も来たな」
そして今度はため息つきながらバカが、と言われる。
初めて話した人にこんなにバカって言われるなんて。でもその通りなので何も言えない。
「オレが来なかったら今頃三途の下で哭いてるところだったな」
これもその通りだ。本当に反省をしないと。でもその前に気になることがあって、おずおずと聞いてみる。
「あの、運命って」
「運命の番だよ。知ってるだろ?」
「え、でも…そんなの夢物語の話ですよね?」
「現にお前はオレのフェロモンにだけ反応した。三途が居てもお前は何の反応もしなかっただろ。気付いてなかったかもしれないけど、あの時あいつはアルファのフェロモンをお前にぶつけてたんだぜ」
「え!?」

私がいくら鈍くても私に向けられたフェロモンに気付かないなんてあるんだろうか。アルファとまともに接したことがないのでわからない。もともとアルファのフェロモンを感じにくい体質なのかとは思っていたけど…さっきの三途さんには威圧感は感じたけど、フェロモンみたいなものは感じなかった。

「お前は非感受性オメガなんだろ」
「非感受性?」
「アルファのフェロモンを感じ取れないオメガのことだよ。自分は感じ取れないが、お前のフェロモンは普通に他のアルファを誘うから気をつけろよ」
「なにそれ?そんなオメガいるんだ…」
自分のことなのになにも知らなかった。でもじゃぁあの花の香りは?灰谷さんの方を見ると、
「お前がオレに反応したのはオレがお前の運命だからだ。非感受性でも流石に運命の番のフェロモンは感知できるらしいな」
「私、花の香りがして、その香りを嗅いだら体が熱くなってきて」
「昨日も嗅いだだろ?その香り。お前と目が合った時、俺はすぐに運命だってわかったけどな。お前が目を逸らすから勘違いだったかと思ったけど、今日すれ違って間違いないってわかった」
「そんな、急に言われても」
「急に出会うもんなんだから仕方ねーだろ」
「でも、今まで何度もすれ違ったことありますよね?何で今更」
「オレもお前も抑制剤飲んでるからかもな。昨日はお前がヒート近くてフェロモンが漏れたんだよ。昨日のレベルじゃオレしか感知出来なかったみたいだけどな」
「じゃぁ本当に…」
「だからそうだって言ってんだろ」
こんなところで運命の番に出会うなんて神様は意地悪なんだ。
「じゃぁ行くぞ」
「え?どこに?」
「お前のうち」
「え、何で」
「何でって、番うためだろ。あと竜胆でいい」
「はい?何で番うんですか!」
「運命だからに決まってんだろ。オレはオメガに擦り寄られるのが好きじゃないからささっと相手を作りたいし、運命の番が他の男に横取りされるのも嫌だ」
「運命だからって番わなきゃいけないわけじゃないですよね!?私にはやらなきゃいけないことがあるんです」
「別に番ってからやればいいだろ」
私にはオメガの地位を向上させると言う目的がある。番ってから成功しても意味がないし、大人気の灰谷さんが相手ならもはや人気アイドルになることも難しい。
「無理です!私は番わずに大人気アイドルを目指すんです。こんなところでオメガだってバレるわけにはいかないんです。」
「は?」
灰谷さんの機嫌が急降下する。アルファの初めての強いフェロモンに息がし辛くなる。
「じゃぁお前はどうすんの?もうオメガだって三途にはバレてるし、あいつが言うにはマイキーにもバレてる。オメガは希少だから狙われんぞ」
オレの運命を横取りされるなんて冗談じゃない、と灰谷さんはまた威圧感を増す。普段ならすぐに屈してしまいそうだが、強い薬を飲んだという事実と私の人生を賭けた目標を前になんとか言い返す。
「私は自由恋愛派です!運命じゃなくて、ちゃんとその人を好きになって、やりたいこと全て終わってから結婚したいんです!だから今灰谷さんと番えません。」
「わがままか」
「わがままです。でも私はオメガでもアイドルになれるって証明したいんです」
まだ威圧感のある灰谷さんに向かって何とか睨み返す。しばらく見つめ合うと灰谷さんが、
「…わかった。じゃぁお前のやりたいことが終わるまで待ってやる。それまでお前に他のアルファが近づかないように守ってやるからオレを好きになれ」
「…好きになれって言われても」
「お前がオメガだってこともバレないように手を回してやる。だから、オレと付き合え。今はこれで許してやる」
「なっ」
「悪い条件じゃないだろ?」
たしかに。
「…でも好きにならなかったら全部終わっても番いませんよ?付き合うのはいらなくないですか?」
「いますぐ噛むぞ」
「わかりました、付き合います」
「まぁ運命だからお前もすぐにオレを好きになるしな。そしたらぜってーお前から噛んでくださいって言わせる」
「そんなの絶対言いません!」
そう私が言うと、灰谷さんは私の顎に手をかけた。私があっけに取られている間に唇に軽くキスをして、抱かれたい男No.1の色気でニヤリと笑う。しばらくして状況をようやく理解した私は真っ赤になりながら、
「絶対に好きになりません!」
と怒ると、灰谷さんは
「はいはい。あと竜胆って呼べよ」
と笑った。

話も終わったし、さぁ帰ろうと帰り支度をし始めるが、灰谷さんは帰らない。
「あの。着替えたいんですけど」
「着替えれば?」
「いや、あの、ご自分の楽屋に帰ってもらえませんか?」
「彼氏なんだから別にいいだろ」
彼氏!そっか、一応彼氏ということになるのか。
オメガに生まれたため、これまで彼氏なんてものはいなくて彼氏への憧れはどんどん膨らんでいたので、そう言われると少し嬉しくなる。何も答えない私に灰谷さんは私が納得したと思ったのか、楽屋のソファでケータイをいじり始めた。いや、そういう問題じゃないので帰ってください。そう言おうとしたら、更なる問題発言が飛び出る。
「さっさと着替えてお前の家行くぞ」
「はい?」
「?お前もうヒートになるだろ?今までは一人だったかもしれないけど、これからはオレがいるから問題ないな」
「さっきと何も変わってないです!結構です。一人で何とかなるので」
「お前な。番うって言ってるわけじゃねーだろ。今時中学生でも付き合えばやってるだろ。小学生か」
「高校生です!そうじゃなくて、なんか、違います。」
「今回はオレのフェロモン浴びてるし、多分ヒート辛いぞ。大体今のままじゃいつまで経っても一番人気のアイドルなんて無理だろ」
「な!それは難しいのはわかってますけど」
それとこれとは、とゴニョゴニョ言っていると
「色気が足りねぇんだよ。そこはオレが何とかしてやるから」
と言われる。私が絶句していると、灰谷さんは
「でも今日は割と見れるレベルだったぜ」
と急に褒めてくれた。
「本当ですか?無心で頑張った甲斐が」
「お前がオレに欲情してヒートしてたからだろ。まぁ放送楽しみにしてろよ。お前のファン増えるから」

その言葉で私が怒り散らし、その日はなんとか帰ってもらった。灰谷さんの言った通り今回のヒートはいつもより重くて、対外的な仕事もなかったので社長にお願いして休みを少し長くしてもらった。

後日、あの日収録した音楽番組が放送され、SNSで私の表情がエロいと話題になり、若い男の子のファンが増えた。なんだか釈然としない。
灰谷さんからドヤメールが来てイラッとしたので、しばらくはまだ灰谷さんと呼ぶことにする。





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