【急募】重たい佐野家と彼らから重たい愛情を向けられるモブを救うヒロイン




「ナマエさん!好きだ!結婚しよ!」
「わー、ありがとねー」

黒曜石みたいに真っ黒な、ハイライトのない眼差しで真っ直ぐ私を見つめる男の子。この子はうちの書道教室に通っていた近所の空手道場の子だ。私がおばあちゃんのお手伝いをしていた時に懐かれたみたいで、書道教室を閉めてからもよくうちに遊びに来ていた。

「いいってこと!?」
とあざとく首を傾げてくるので、かわいいなコイツと思いながら頭を撫でる。
「ちょっと無理かなー。大きくなったらまた聞かせてね」
「大きくなったらっていつ?」
「うーん、私より背が高くなったら?」
そう言うと男の子は力強い瞳を私に向けて
「わかった」
と大きく頷いた。
「オレ、大きくなってナマエさんを迎えにくるから!まってろ!」

どうやら7歳年下の男の子の初恋を奪ってしまったらしい。近所のお姉さんに憧れちゃっただけなのでもちろん真に受けちゃいないし、私は特にショタコンではないので付き合う気もなければそれをからかうような悪趣味もない。彼は私にとって可愛い弟で、今回のことはその弟の初恋奪っちゃった!くらいに軽く考えていた。

それが彼が10歳の時のこと。
男の子──佐野真一郎くんは、それからめきめき背が伸びて、たった3年で私の背を追い越した。それは別にいいんだけど、誤算だったのは彼が少々、いや相当しつこ、ゴホン。とっても一途な性格をしていたことだった。


「ナマエさん」
「あ、真一郎くん。こんにちは」
「ナマエさんの背、抜いたぜ」
「大きくなったね」
「オレと付き合って」
「ごめんなさい」
「なんで!?」
「今あなた13歳だよね?私は20。7歳も離れてるね」
「それが?」
「うん。何が問題なのかわかるようになってから出直してきてね」
「…わかった」

渋々と言った様子で帰って行った。まさかあの約束を覚えているとは思わなかったのでかなり驚いたのは覚えている。

でもさらに驚いたのは彼が不良街道を爆進し始め、近所の男の子改め暴走族・黒龍の総長さんになった頃。

「ナマエさん」
「真一郎くん、こんにちは」
「オレ、ナマエさんが年上とか気にしないから」
「え?なんの話?」
「この前ナマエさんが7歳離れてるっていうの何が問題なのかわかったらまた来てって言ってたから」
「あ、あー。うん。あれね」
「オレ、ナマエさんが年上でも全然気にしないから!」
「…私が気にするっていう選択肢はないのかね?」
「女の人の方が年上だと、自分はおばさんだからって年を気にして身を引くことが多いってツレが言ってたけど、オレはナマエさんだから好きなの。同い年でも年下でも好きになった自信ある。だからナマエさんも年気にすんな」
「…。言いたいことはたくさんあるけど、とりあえずそのおばさんだからって話をアンタに教えたヤツ、連れてきなさい」
「そいつイケメンだから会わせたくないんだけど…」
「そんなこと言うヤツ、イケメンであろうとなかろうと引っ叩くだけだからさっさと連れてこい」

結局「そいつがナマエさんのこと好きになると困るからやっぱりダメ」と一丁前に独占欲をむき出しにしてきたのでそれ以上何も言えなくなった。
待って…なんでこんな初恋を拗らせてるの?さっさと同世代の可愛い子好きになりな?


「ナマエさん」
「真一郎くん、こんにちは。今日はバイクで来たんだね」
「ん。前オレのバイクかっこいいって言ってたし」
「真一郎くんのって言うかバイク全ぱ…」
「カスタムして乗り心地も良くなったし、後ろ乗らねぇ?ナマエさん海好きだし連れてく」
「人の話聞こうね」
「海見ながら告白って良いよな」
「うーん。やめとこうかな」
「なんで?」
「無免許怖いし。それよりその傷でバイク運転するのやめなよ。危ないから」
「ナマエさん、手当てして?ナマエさんにやってもらったら早く治る気がすんだよな」
「手当てするのはいいけど…君のその不死鳥のように蘇る心と体の強さはしかるべきにとっておいて。そうすればこの世界安泰だから」

前から喧嘩をよくする子だったけど、チームを立ち上げて以降生傷が絶えなくなり、それをそのままにしてボロボロの状態で会いにくるものだから見かねて仕方なく手当てをしたら、さらにうちに寄り付いてしまうという悪循環が生まれた。



「ナマエさん」
「うん…」
「彼氏できてねぇ?」
「まあ、うん。誰かさんのせいでね…」
「よかった。ナマエさんみたいな良い女普通の男ならほっとかないから心配なんだよな」
「ついに真一郎くんもお世辞が言えるようになったんだね。今何歳だっけ?15歳?」
「お世辞じゃねーって。いつになったらオレのになってくれんの?」
「そうだね。うちを救護室代わりに使うのやめたらかな?」
「それは当分無理かも。ばあちゃんがぜひ使ってって言うし」
「この人たらし!おばあちゃんから攻めるなんて汚いよ!」

真一郎くんの幼馴染である武臣くんも昔からちょくちょくうちにお菓子を食べにきていたけど、真一郎くんと一緒に彼が怪我の手当てをして欲しいと来て以降、それならと他の黒龍の仲間たちも手当てを受けにくるようになり、うちが黒龍の溜まり場になるのもそう時間はかからなかった。

ちなみに小さい頃両親を亡くした私は母方のおばあちゃんと二人だだっ広いお屋敷に住んでいる。静かな庭を見ながら紅茶片手に本を読むのが好きだったのに、今や庭にはバイクが並び、大広間ではちょっとした集まりが行われることもある。まぁみんな悪い人たちではない。男手のないうちの力仕事を手伝ってくれるし、おばあちゃんのことも大切にしてくれるから助かってはいるんだけど…。黒龍はこの辺りで有名なチームだから…。

真一郎くんが黒龍を創設してすぐの頃にそちらにのめり込んでうちにあまり来なくなった時があった。ようやく初恋を終えたのかと安堵したし、ちょうどいいタイミングで大学の男の子に告白されたので私も初彼氏ができた。

けれど付き合って一週間後に彼氏をうちに呼んだら、間の悪いことに真一郎くんがたまたまうちに遊びにきて、しかも「仲間紹介しようと思って」なんて厳つい黒龍の仲間を連れてきていたのだ。そのメンツで私を囲むものだから彼はすぐさま逃げ帰り、後日正式にフラれた。

…。いや、本当はわかってる。あれがたまたまでも何でもなかったことは。でも怖いからこれ以上は考えるのは止めることにする。

それ以降?黒龍が寄り付いている家に住む女はもちろん…モテません!解散!!


「ナマエさん」
「うん…」
「オレ、将来バイク屋やるのが夢なんだけど」
「夢があっていいね」
「ナマエさんはもうすぐ就職だけど、どうすんの?」
「私は看護婦さんになるからまあ病院勤めかな」
「ナース姿のナマエさんとか最高だよな。見るの楽しみにしてる。あ、そういえば前に車の免許取ろうか悩んでたけど、ナマエさんは免許取らなくていいから」
「うん、見せないけど。なんでそうなった?」
「嫁を職場に迎えに行くの夢だったんだよな」
「そう。夢があっていいね。でもそれは私以外の人にしてね。駅の近くにある病院にするから免許も送迎も必要ないの」
「えー」
「えーじゃない」
「ナマエさんにはオレにいっぱい甘えてもらって、オレがいないとダメになってほしい」
「…重い」

重たい。彼の愛情は、重たい。まだ15歳だと言うのになんでこんな風になっちゃったんだろう。

せっかく背はスラーっと伸びて気付けば180近いし、すっかり可愛らしさも抜けてかっこ良くなったし、声変わりしてなんか程よい低さの声がもはやエロい域だし、可愛い弟とめちゃくちゃ可愛い妹もいてポイント高いのに。この重さは本当にいただけない。


これまでに告白された回数のべ19回。なんで彼がこのモブにここまで初恋を拗らせてしまったのかは本当に謎である。

そう。私はモブなのだ。

なぜそんなことを言うかというと、私は東京卍リベンジャーズの世界の名もなき女に転生した転生者だからだ。前世、東京卍リベンジャーズという漫画が存在する世界で生きていたごく普通の看護師だった私は色々あって死んで、気付いたら東リベの世界に転生していた。そんなこと、あるんだなぁ。

生まれた時から前世の記憶はあったけど、近所に佐野道場を発見した時には、ここって実際のモデルあったんだー聖地じゃん!くらいにしか思ってなかったし、真一郎くんがおばあちゃんの書道教室に通い出した時も、佐野真一郎なんて漫画のキャラと同じ名前じゃん!顔似てるしすごい!と軽く流してたよね。だって漫画の世界に転生とかないでしょ、普通。

それを笑い飛ばせなくなったのは彼に佐野万次郎という名の弟が出来た時で、さすがにこれは…東リベの世界に転生したんだな…と認めざるを得なかった。

けれどそれがなんだ。私は誰かに成り代わったわけでも誰かの兄弟になったわけでもない。つまりはモブ。ならばモブらしく待ち望んでいた幸せ佐野家になるようにそっと手を貸して、そしてそっと見守ろう。そう思って、いた。


過去形なのはもちろん真一郎くんが私にしつこく告白をしてくるようになったからだ。最初こそ「このまま真一郎くんの20連敗私相手だったりして」なんて笑っていたけど、10回目辺りからはホントどうしたらいいのかマジで頭を悩ませ始めた。しかも前述の通り初恋を拗らせまくっていて私から離れる気配がないのだ。

ただのモブが物語の重要人物にこんな重たい愛をぶつけられていいんだろうか。いや良くない。解釈違い甚だしい。ていうか普通に重すぎて怖い。





私も23歳になり、近所の小さなクリニックで看護婦さんとして働き始めた。9時から17時までの診療で、木曜午後と日曜日は休診。特段いつも流行っているクリニックってわけでもないのでそこまで遅くならずに家に帰れるので大変ホワイトな職場である。

流石におばあちゃん一人の時に黒龍で押しかけるのも悪いと思ったのか、真一郎くんもうちに来る日は格段に減った。でも私のいる時を狙ってちゃんと来るんだなぁ、それが。


「あら、来てたのね、真ちゃん」
「おー、ばあちゃん。腰の調子どうだ?またさすってやろうか?」
「前たくさんしてくれたからそれから調子良くてね。真ちゃんのお友達もたまに来て色々手伝ってくれるからありがたいよ。あ、今お茶淹れるからね」
「ばあちゃんはもうオレのばあちゃんみたいなもんじゃん。そんな気使うなって」
「でも真ちゃんの友達もせっかくたくさん来てくれてるしねぇ」

私が一人脳内でこの長いのか短いのかわからない人生の歴史を思い出している間にまた人たらしがうちのおばあちゃんをたらし込んでいる。

「おばあちゃん、私がやるから座ってて」
「そう?ナマエは働き者のいい子だね。私が生きてる間に早く良い人と結婚してひ孫の顔を見せてね」
「オレが見せてやるから待ってろ」
「楽しみにしてるね、真ちゃんとの子なら可愛いだろうね」
「おい、このおばあちゃんたらし。昔から近所のおばあちゃん達に真ちゃん真ちゃん言われてモテまくってんの知ってんだからな。うちのおばあちゃんから落とすのホントやめて」

とりあえずおばあちゃんが黒龍の人たちにお茶を出そうとするので仕方なく私が台所に向かって人数分のお茶を淹れる。昔書道教室をやっていたおばあちゃんは根っからの世話好きでこうして家に若い子が集まるのを喜んでしまうからいけない。私はおばあちゃん子なのでついおばあちゃんが喜ぶからと黒龍の侵入を許しちゃったんだよね…。ホントやらかしたわ。

ため息を吐きながらお茶を蒸らしていると真一郎くんが台所に顔を出してきた。

「ナマエさん」
「何?」
「今日晩飯うち来ねぇ?ばあちゃん今日は老人会行くって言ってたし」
「そうなんだ。佐野のおじいちゃんも?」
「行くって。エマたちもナマエさんに会いたいって言ってるし、今日イザナもいるんだけど」
「行く」

彼の異母兄弟のエマちゃんは去年佐野家に引き取られた。佐野のおじいちゃんと仲のいいおばあちゃんが何かと大変だろうからとよくうちのご飯に誘うようになって仲良くなった。今では私のことをナマエ姉なんて呼んでくれていて、なんとも可愛い私の妹分だ。

まあそのお兄ちゃんの万次郎くんは私のことを呼び捨てにしてくるし、今の時点で余裕で真一郎くんより喧嘩が強い原作通り将来有望な問題児だけど。でも私の作るご飯をおいしいおいしいと言いながら完食してくれるなんだかんだ可愛い弟。


皆さんも気付いたと思うけど、私がモブとして生きるこの世界は幸せ佐野家軸だったようで(神様ありがとう)、真一郎くんがイザナくんに会いに行って少しした頃、万次郎くんやエマちゃんに会わせるために佐野家に招待して、それからイザナくんはよく遊びに来るようになった。

私も兄弟初対面に居合わせさせてもらったけど、感動して涙が止まらなかった。身内でも何でもない女が急に泣き出したのでイザナくんからはキモいと言われたけど、それもいい思い出だ。

最初は似たもの同士なのか万次郎くんとぶつかったイザナくんだけど、なんだかんだお互い認め合って今じゃ喧嘩するほど仲がいいってやつ。こんな世界、見たかった。この軸の真一郎くんが(この点に関しては)慧眼すぎて拍手を送りたい。

ちなみに転生者の知識を使って私が何かをしたのかと思うかもしれないけど、この件に関しては何も知らないうちに始まり何もする間も無くこの形に落ち着いていた。私が黒川イザナを助けるぞ!なんてモブらしくないことを思っていた時期もあったけど、本当に全く何の役にも立っていない。さすがモブ。でもそれでいい。幸せ佐野家が見られれば、それでいい。

イザナくんも私のことをナマエと呼び捨てにしてくるし、よく買い物に連れてけと言われて気付くと彼の服を買っているので、彼には都合のいい財布と思われているかもしれない。しかしそれが本望だったりする。

とにかく3人とも私の可愛い弟と妹みたいな存在だ。正直複雑なところもあるけど、その3人に言われれば行なのが当然。というか幸せ佐野家見たい!幸せ佐野家見たい!幸せ佐野家見たい!

「あいつら喜ぶわ。オレもナマエさんと一緒にいれて嬉しいし」
「…」

うん、そこが複雑だからいちいち言わないでほしいんだけどね。


歩いて数分のところにある佐野家に到着すると真一郎くんは着替えてくると離れに向かったので、私は一足先に母屋に足を踏み入れた。すると…

「おいマイキー!服自分の着ろ、ニィの着んな!」
「いーじゃん服ぐらい」
「オマエのこっち、さっさと脱げ」
「オレはこれ着る気分。イザナそれ着れば?」
「オマエの小さいから着れねぇんだよ」

という万次郎くんとイザナくんの騒がしい声が聞こえてきた。9歳と6歳の喧嘩とはとても思えない迫力だけど、その内容はとても可愛い。どうやらお風呂上がりの二人が服を巡って喧嘩しているんだけど、それが私が前に色違いで買ってあげたやつっていうね!ヤバかわ!つか一緒にお風呂入ってたんかい。最高か。

イザナくんが万次郎くんの服を引っ張るとそれをやめさせようと蹴りを入れる。イザナくんがそれを楽しそうに手で止めて
「こんな蹴りじゃ蝿も殺せねーよ」
と笑って蹴り返す。

うんうん、こんな世界、見たかった。

「障子に穴開くよー」
と二人に声をかけるエマちゃんをよそに喧嘩はヒートアップしていって、本当に障子にボコボコ穴が空いて無残な姿になっていく。この間佐野のおじいちゃんがなんとも言えない顔で直していたのを思い出したので次は手伝おうと思う。

「相変わらず喧嘩するほど仲がいいね」
「あ!ナマエ姉!」

私に気付いたエマちゃんがこちらに向かって走ってくる。

「エマちゃん、こんばんは!佐野のおじいちゃん今日いないって聞いたからご飯作りにきたよー」
「わーい!ナマエ姉のご飯好き!」
「頑張って作るね」


支部で漁った世界が目の前で繰り広げられて今日も今日とてテンション爆上がりなのでエプロンをつけて鼻歌を歌いながら冷蔵庫を覗いていたら後ろで何かが落ちた音がした。

「ん?」

振り返ると黒龍のトップクからラフな服に着替えた真一郎くんが呆然とした顔で立っていた。彼の足元にライターが落ちているのでそれが音の発生元だったようだ。

「ライター落としたよ?」
「…ナマエさんの新妻感ヤバくて死ぬかと思った」
「あ、そう…」

ホント気分台無しだよ、真一郎くん…。





「ナマエ。なんで万次郎の好物なんだよ」
「え?イザナくんオムライス嫌いだっけ?」

まだ先程の喧嘩を引きずっているのか万次郎くんにスプーンの先を向けて、
「嫌いじゃねぇけどコイツの好物なのが気に入らない」
と言ってそのスプーンでオムライスをすくってパクりと食べた。万次郎くんは我関せずで旗の刺さったオムライスを食べている。

「ごめんごめん。だってオムライスすぐできるし。お腹すいて喧嘩してたんでしょ?早くできた方がいいかなーって」
「違ぇ」
「じゃあ次はイザナくんの好きなの作るね」
「ん。あとまた買い物行きてぇんだけど」
「うん、いいよ!いつにする?万次郎くんとエマちゃんも行かない?ボーナス出たからお姉ちゃんがなんでも買ってあげる」
「わーい、行きたい!」
「オレ、どら焼き100個」
「食べ切れる量にしてね、万次郎くん」
「余裕」

甘くなりがちなのは許して欲しい。だってちっちゃい3人死ぬほど可愛いんだもん!

「…ナマエさんと買い物か。オレもついてくわ」

ずっと視線は感じていたけど、あえて無視をしていた真一郎くんがついに会話に入ってきた。まあ誘って欲しかったんだろうけどね…。

「「真一郎(シンイチロー)は来なくていい」」
「なっ!兄貴に対して冷てぇな!ほら、荷物持ちとかいるだろ?それに皐月さんナンパされるかもしれねぇし」
「オレがいるから大丈夫だよな?」

イザナくんが9歳にして流し目で私に同意を求める姿、ヤバい。つい前世の推しなのできゅんきゅんして見惚れていると、

「ナマエさん」
と真一郎くんに呼ばれる。声のする方を向くと、急に彼の手が私の頬に触れる。バイクをさわるのが趣味なだけあって指の腹が少しカサカサしていてくすぐったい。無意識にその手を振り払おうとすると少し強く顎を掴まれる。

「ちょっとやめて」
と制止しようとする私の声に彼のいつもより低音の声がかぶさってくる。

「オレ以外の男に見惚れんの禁止」
「オレ以外の男って…弟でしょうが」
「可愛がるのはいいけど、その顔見せんのはオレだけにして」

甘く溶けた声を耳元に叩き込まれ、彼の黒い瞳に吸い込まれて目が離せなくなる。16歳のくせに!なんなのこの魔性の男は…!

必死に顔を背けて
「…君だけには見せません!」
とそっぽを向くと、顔を赤くしたエマちゃんと目が合う。

「ナマエ姉、真兄のお嫁さんだもんね?仲良しでいいなぁ、うちも早く恋したいー」
「…エ?」

恋に夢見る乙女のエマちゃんだが、まさかそんなことを言い出すとは思わなかった。馬鹿なことを可愛いエマちゃんに吹き込んだ犯人を見るとさも当然という顔をしている。

「可愛い妹になに嘘言ってんの?」
「え?いつかそうなるなら嘘じゃねぇから良いかなって」
「いや、ならないから」
「ナマエさんもそろそろ諦めてうち来いよ。ばあちゃんもうちならいいって言ってくれてるし」

なにそれ初耳。私のいないとこで何おばあちゃんに許しもらってんの。

「ないから!」

もうこの話は終わりにしようとオムライスを口に運ぶと、万次郎くんが、
「なー二人って48手どこまでやった?」
と興味津々に聞いてきて思わず手からスプーンが落ちる。

「んー?どこまでだろうな?」
笑いながらそう返す真一郎くんの頭をゲンコツで殴った。

「いてっ」
「何もないわ!幼い弟になんてこと教えるの!」
「男なんてエロい事考えて成長すんだしこれくらい普通だろ?」
「え!?」
「オレだって万次郎ぐらいの歳にはフツーにエロ本読んでたし」

そうなの…?うちの書道教室に通ってた可愛い真一郎くんがあの時からもうそんな汚れてたなんて…ショック…
男兄弟がいたことないので男の生態がわからずグッと黙ると、イザナくんが頬杖をついて笑う。

「そうやって簡単に騙されるところがいいよな、おねーちゃん」
「あ、コラ。ホントのことゆーな」

あ、おねーちゃんて呼ばれた

じゃなくて!

「真一郎!人を揶揄うのもいい加減にしなさい!」

コイツはもう一発殴らないとダメだ!そう思って拳を振り上げると何故か真一郎くんが私を見てニタニタ笑ってくるので気持ち悪くて手を止めてしまった。

「…何?」
「真一郎って呼ばれるの、いいな。もう一回呼んでくれねぇ?」

ダメだこりゃ。

「…。あのね、ずっと思ってたんだけど…」
「何?」
「私の中では真一郎くんは出会った時から弟みたいなものなんだよ。真一郎くんは長男だしお姉ちゃんに憧れるのもわかるんだけど、そろそろ姉離れした方がいいんじゃないかな?イケメンがもったいないぞ?」

よし、よく言った私。

「オレ、ナマエさんを姉なんて思ったことねぇけど」
「エッ!?」
「そんなにオレがナマエさんのこと好きになるのおかしいか?はじめてナマエさんを見た時、一生ナマエさんより綺麗な人は現れないと思ったし、実際会ったことない。そんな綺麗なのにばあちゃん思いで、大事なきょうだいを本物の家族みたいに大切にしてくれて、親が死んでから甘えられる人がいなかったオレを甘やかしてくれた。そんな人いたら普通好きになるし、結婚したいって思うだろ?」
「真一郎くん…」

なんだろう。めちゃくちゃ美化されてる気がするけど…そんな風に思ってたんだ…

「自分だって親が小さい時に亡くなって寂しいだろうに。だからオレを甘やかしてくれた分、今度はオレがナマエさんを甘やかしたいし、寂しい思いしないようにそばにいたいって思ってる」

何これ…どうしよう。

恥ずかしいのかなんなのかわからないけど顔が熱くなってきて真一郎くんが直視できないでいると、
「ナマエさん、こっち見て?」
と促され、仕方なく手で口元を隠しながら視線だけ真一郎くんに向けるといつもとは違う真剣なまなざしが私を射抜く。

「絶対に幸せにする。だからオレの嫁になって欲しい」
「あ…」



「それで他の男見ないように仕事やめてずっとうちにいて?ナマエさんが苦労しないようにオレが稼ぐから。つか帰ったらナマエさんが笑顔でオレを迎えるとか想像しただけでヤベェな。そんなん一瞬で襲うわ。あ、子供は野球チームできるくらい欲しい。一緒にバイク乗りてぇから男の子欲しいけど、ママと結婚するとか言い出したらキレるかも。でもナマエさん似の女の子だったら、ぜってぇ他の男に渡せねぇんだけど、どうすればいい?」


………。
100年の恋も覚める未来予想図をどうもありがとう。

「お断りします」
「でもちょっと悩んだろ?次の告白待ってろよ?」

シシッといたずらっ子のように笑う彼に顔が引き攣る。

そんな私たちを見ていた万次郎くんがポンっと手を叩いて、
「あ、これが嫌よ嫌よも好きのうちってやつ」
とドヤ顔してくる。
「違う」

「オマエにしてはちゃんとしたこと言うな。ま、でも真一郎が誰かのになるの嫌だけど、ナマエなら許しても良いかもな。メシうまいし」
「オレもこのオムライスなら毎日食べれる」
「だよな。オレもナマエさんのメシ一生食べて生きていきたい」

「私は飯炊き女か!」

男3人の勝手な言い分にため息をつくとエマちゃんと目が合う。私を労るように見ている気がして(※相手は5歳)ついすがるように彼女を見つめ返す。

「みんなナマエ姉のことが大好きなんだよ。早くうちの本物のお姉ちゃんになってね!」
「…」

とんだ裏切り者のエマちゃんにもう私のキャパが限界を迎えて返事を返す元気がない。

なんかめちゃくちゃ疲れた…明日仕事なのに…


またちょっとしたことで喧嘩を始めたイザナくんと万次郎くんが居間に移動してドタバタしていて、それを見てエマちゃんと真一郎くんが笑っている。


こんな佐野家見たかった。見たかったけど…やっぱりモブの私に真一郎くんと付き合うのは荷が重い…つか愛が重たくて窒息する。21回目の告白される前に誰か助けて…



【急募】重たい佐野家と彼らから重たい愛情を向けられるモブを救うヒロイン






もどる











「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -