トミオカさん、逃げて2




※鬼滅の刃とのクロスオーバー。転生したらしのぶさんだった女の子のお話。





「しのぶちゃん、地獄に落ちても一緒にいようね」
「一人で堕ちろ」

名前を口に出したくないあの鬼、もとい元淫行教師は実はまだ私を追っかけている。

そろそろ本当に滅したほうがいいんじゃないでしょうか。佐野さんたちもトミオカ狩りをやめてこの男を狩ればいいんです。そうしたら彼らの好感度も少しは上がるんですけど。

「あ、もしもし、警察ですか?今指名手配犯の男を見かけました。場所は…」

そう電話するとクズは逃げようとするので、触りたくもないですけど手を掴み、
「離しませんよ」
と言う。
「わぁ。熱烈だね。しのぶちゃんからそんなこと言ってくれるなんて、明日は祝言かな?」

熱の籠った蕩けた瞳で見つめられて嫌悪感からつい手が緩み、また逃げられてしまった。
早々に教師をクビになったクズは、その後詐欺師となり各地を転々としているようだが、こうして私の前に時折現れる。

警察は一体何をしているのでしょうか。



みなさんこんにちは。
25歳、中学校で保健室の先生をしております胡蝶しのぶと申します。こんな素敵な顔と名前を持っていますが、中身はモブのオタク(しかもしのぶさんの限界オタク)です。しのぶさんの体に私の魂が入り(本当に申し訳ないと思っています)、あの鬼殺隊で共に過ごした仲間たちとともにこの時代に転生したようなのです。幸か不幸か彼らはあの時のことを覚えていないようでして、私の中身がしのぶさんでないことはバレていません。

彼らとともにこの平和な世の中で楽しい生活を送るはずが、転生した結果、なぜか

特性:不良にものすごくモテる

を手に入れてしまったので、毎日不良に追っかけ回されることになってしまったのです。

転生した仲間たちの中に冨岡さんだけいなかったものですから、つい不用意にその名前を呟いたら不良たちがトミオカさんと私が会わないようにトミオカ狩りなるものをやるようになってしまいました。トミオカさん、本当に申し訳ありません…。

でもそのトミオカ狩りもついに終わりを迎える時が来ました。

なぜって?

それはもちろん、冨岡さんが私の前に現れたからです。


[chapter:続・彼女より先にトミオカを見つけて抹殺する]



「今日から臨時で体育を受け持ってもらう冨岡義勇先生です」

教頭先生に紹介されてどうもと軽く頭を下げる冨岡さん。

…ジャージ、ですか?初日の挨拶の時からジャージ…いくら体育教師でもそれはどうなんでしょうか?

冨岡さんは隊服にあの羽織を着ているところしかほとんど見たことないですけど、彼のセンスはきっと死んでいるんですね。

そう冷ややかに見つめていると目が一瞬合った。けれども少ししてすぐに逸らされたので、気にするのをやめた。

ついに冨岡さんが来てしまいましたけど、佐野さんはどうするつもりでしょうか。彼自身はケンカも強くないみたいですし、流石に冨岡さんには返り討ちにされる気がしますけど…それとももう会ったのでしょうか?

なんて職員会議が終わって保健室に向かっている最中に考えていると、廊下を走る生徒たちとぶつかってしまった。

元柱ともあろうものが考え事をしているからって人にぶつかるなんて…こんなんじゃまだまだ胡蝶しのぶと名乗るのは烏滸がましいですね。まあ名乗るのにふさわしくなる時なんてこないですけど。

「胡蝶先生、すみません」
と生徒が謝ろうとすると、職員室からものすごい勢いで青い影がこちらに向かってくる。

その青い影はもちろん冨岡さんで…

「廊下は走るな!!」
と言いながら生徒を殴った。

そして吹き飛んだ生徒にもう一度
「いいか!廊下は走るな!!」
と叫んだ。


えええー!?冨岡さん、何やってるんですか!?ジャージ姿の時点で嫌な予感はしてたけどやはりキメツ学園の…これは厄介なことに…

…いけませんね。すぐに素が出てしまいます。感情を制御できないのは未熟者です。それにしても冨岡さん、赴任初日からこんな問題を起こして大丈夫なんでしょうか?

殴られた生徒は呆然としてその場に固まっている。

「あの、大丈夫ですか?よかったら手当てを…」
「す、すみませんでした!」

私の話を聞かずに走って行ってしまいました…

「冨岡先生、流石に生徒に暴力はいかがなものでしょうか?最近はPTAもうるさいですし、少し走った程度で殴るのは…」
「…」

無言でこちらをじっと見つめてくる。

「…授業はよろしいのですか?」
「まだない。校舎を回って道を覚えるところだ」
「そうですか…」

そう言ってまた見つめてくる。

出ましたね、この目。何かを訴えかけてくるこの目。せっかく転生したので転生特典として相手の心が読める(いつも読めるのは嫌ですけど)みたいなのがあってもいいと思うんですよね。不良にモテるってなんの得になるんでしょうか。

それでは、と冨岡さんに軽く頭を下げて保健室に向かう。するとなぜか後ろをついてくる。私が足を止めると彼もピタッと止まり、進むとまた付いてくる。

「…」
「……」

結局保健室の前までたどり着いてしまい、それでもまだこちらをじっと見てくる冨岡さんにまさかと思いさっと目を逸らすと
「胡蝶」
と呼ばれる。

「お前覚えてるな」
「…なんのことでしょうか?」

そう答えるのを許してください。だって私は本物のしのぶさんじゃないから。

「なぜ嘘をつく」
「嘘なんてついていませんよ。何を覚えているのかも忘れているのかも分からないのに嘘のつきようもありません」
「昔の話だ」
「昔、と言われても」
「…。大正になる前…」

これは話長くなるやつですね。嫌がらせでしょうか、と止めたいところですが、バレてしまいますし…

「…。中にどうぞ」

仕方なく保健室の中に案内しようとドアを開けると

「しのぶ!」
「しのぶセンセー!」

トーマンの不良たちが集会していた。



あ、まずいですね。

そう思った時には遅かった。私の背後にいた冨岡さんは一番近くにいた金髪に剃り込み、竜の刺青をした男の子に殴りかかる。

「髪を黒く染めろ!」
「!何だこいつ…」

そういって二人のケンカと言う名の生徒指導なのかそれともやっぱりただのケンカなのか、何かよくわからないものが始まる。

自分たちの副総長が倒せない教師なんているのかと驚き、傍観していたメンバーたちも立ち始めるが、佐野くんが手を出して彼らの動きを止める。

「…」

がっしゃーん

「……」

びりびり

「いい加減に…」

私は二人の間に入る。

「してください」
「!あっぶね」
「…」
「ここは保健室です。怪我人を出すことは許しませんよ」

私がそう言うと二人は拳を下ろした。

「佐野くん、もしこれからも保健室にいたいのならケンカの横入りじゃなくて殴り合いを止めてくださいね。龍宮寺くんも、いつも止める側の貴方がここで応戦してどうします。ここは保健室であって貴方たちの溜まり場ではないので、生徒指導されても文句は言えませんよ」

佐野くんは拗ねた子供のようにプイッとあちらを向いてしまった。竜宮寺くんはバツの悪い顔をして立っている。

「冨岡先生も赴任早々指導に身が入りすぎです。口下手だからって話も聞かずに急に殴りかかるのはただの乱暴者ですよ」
「…」

とりあえず一通り言いたいことを言ったので、パンパンッと手を叩いた。

「それではこのぐしゃぐしゃになった保健室をみんなで片付けてくださいね。終わるまで帰しませんよ。あと龍宮寺くんはこちらに来てください」

そう言って冨岡さんからもらった拳で傷ついた頬を消毒する。

佐野くんはしのぶの命令じゃなかったら絶対聞かないのに、とブツブツ言いながらも片付けた後今日は帰ると言い、他の人たちもそれに倣って帰っていった。

音の割に壊れたものもほとんどなくて安心しました。

元通りになった保健室に頷いていると、
「俺が口下手だとなぜ知っている」
と後ろで呟く声がする。そちらを振り返ると冨岡さんがこちらをじっと見ている。

口が滑りましたね。やはりまだまだ未熟者です。

「なぜ覚えているのに嘘をつく」
「なんででしょうねぇ」








「冨岡さん、お元気にしてましたか?」
コクンと頷く。
「…お前は?」
「相変わらずそうで安心しました。私もご覧の通りです。今は姉たちとみんなで暮らしています。冨岡さんは他の鬼殺隊の方々には会われましたか?」
「昔の知り合いには会ったが、他は会っていない」
「そうですか。残念ながら私以外は昔の記憶がなさそうですが…でも皆さんお元気ですよ」
「そうか…」

相変わらず無口ですね。

「冨岡さんたちのおかげでこうして平和な世の中になったんですね。本当にありがとうございます」
「俺は何もしていない。やったのは炭治郎たちと、お前だ」
「…珠世さんの毒ですね。それを聞いて安心しました。私のやっていたことは無駄ではなかった、と」

冨岡さんの無表情な瞳が少し優しく見えて、本当にしのぶさんに感謝しているんだと分かった。

「それにしてもあの日々は前世ということになると思うのですが…冨岡さんの知り合いに記憶のある方はいらっしゃいますか?」
「いや…お前が初めてだ」
「そうですか。実は私も記憶があると言っていますが、どうも朧げで全てを覚えているわけではないんです。他の方も昔は覚えていたのにそうやって忘れていってしまったのかもしれないですね」
「…」

そうでも言わないとバレてしまいますしね。しかし…また冨岡さんが私の顔をじっと見ていますけど…

「そんなに見られると顔に穴が開きますよ」

そう言うと冨岡さんは私の手首をぐっと掴んだ。

「!?」
原作からはとても考えられない行動に固まる。
「あ、あの冨岡さん?」
「忘れるな」
「はい?」
「お前には忘れて欲しくない」
「…ふふっ努力します」






しばらく昔話なんてしてしまいましたけど、私の知らない話もそんなになかったので安心しました。


「そういえばここにくる前に佐野さ…不良に絡まれませんでしたか?」
「………絡まれてない」

今の間はなんでしょうか

「今朝、不良に絡まれませんでしたか?」
「………」
「まさかですけど、朝学校近くで不良に絡まれて、不良だ更生しろと話を聞かずに殴った結果、よくよく見たら学校の生徒ではなかったのでなかったことにしよう、なんて思っていないですよね?」
「…」
「ダメですよ、冨岡さん。だからちゃんと話を聞かないとと言っているんです。教育熱心なのはいいですけど…」

まあ私もつい少し前まで告白してくる不良に有無を言わさず手刀を決めていたので言えた義理ではないんですけどね。同担拒否とは恐ろしいものです。

冨岡さんがやられるとは思っていませんでしたけど、冨岡さんがこんな感じなのなら少しぐらい不良に絡まれても大丈夫でしょう。

「冨岡さんに折り入って頼みたいことがあるんですが…」
「なんだ?」

私はトミオカ狩りのこれまでの経緯を説明して、それをやめさせるのを手伝って欲しいとお願いした。

「らしくない不手際だな」
「返す言葉もありません」

実際あの頃の私はしのぶさんの“し”の字すら名乗るのが申し訳なるぐらいしのぶさんではなかった。彼女の人心掌握術があれば、こんなことにはならなかったでしょう。

「そんな奴ら性根を叩き直す」
「あ、そこは心配いりませんよ。ちゃんと考えていますので。不良は殴られ慣れてるので、殴ってもそんなに効かない気がしますし。冨岡さんももう少し頭を使って生徒の指導に当たった方がいいですよ」

すると冨岡さんは例の「心外!」という顔をしたので、つい笑ってしまいました。

「それでお願いしたいのは、何があっても私の横でただ頷いている事なんですけと」
「…」
「まぁ冨岡さんはいつも通り無言で立っててください」
「…」

俺も何かできるぞと言う目で見つめてくる。

「…そうですね。まあもし私の説得がうまくいかなかったら殴ってもいいです」
「わかった」
「…本当にわかっているんでしょうか?」







校門でしのぶを待っていると、ダサいジャージ姿の男と一緒に歩いて出てきた。

「あ!真一郎くん、アイツですよ今朝現れた裏門の青い濁流」

元黒龍のしのぶ親衛隊のコイツらが裏門でトミオカを待っていたらこの男が現れ、トミオカか確認しようと話しかけたら気付いたら地面にのされていたらしい。一瞬のことで、まるで濁流に飲まれたようだったという証言から今朝からこう呼んでいるが…

青い濁流ってなんだそりゃ…

そう思っていると二人がオレの前で立ち止まる。
「佐野さん」
「しのぶから話しかけてくるなんて珍しいな」
「言わなくていけないことがありまして」

まさか…ダサジャージと付き合うとかじゃないよな?確かに顔だけはイケメンに見えるが…

「実は」
「認めない!」
「まだ何も言ってませんけど」
「そんなダサいジャージを着た青い濁流なんかと付き合うなんて認めないからな!」

と言うオレにしのぶは
「あおい…だくりゅう?」
と繰り返して固まっている。

「そうなんです!しのぶさん、コイツ…」
と今朝トミオカにやられた一人が説明をする。

「ぷっんん゛っ」
としのぶは笑い出す。
「青い濁流ですか?これはまた残念な二つ名ですね。冨岡さんにお似合いじゃないですか?」
「!!」
トミオカは心外!!とでも言うような顔をする。

「佐野さん、お察しの通り、この人が私の言っていた冨岡義勇さんです。ですが、小学生の時以来会っていないので、別に何かあるとかではありません。あの時名前が出てきたのは、私に悪い奴は拳で更生させろという冨岡さんの言葉を思い出したからです。あの変態にこれ以上絡まれるのが嫌だと思った時に思い出して実行したんです」

悪い奴は拳で更生させろ?いつの時代の教師だ。

しかし、今朝のコイツらの話を聞くと確かにそんなやつに思える。

「それで懐かしくなってついどこにいるのかとつぶやいただけだったんですけど…」

しのぶはこちらをじっと見てくる。

「私もそれをうまく伝えられなくていけなかったとは思います…。でも何もないと言っているのに勝手にトミオカ狩りなんて始めて、今まで無関係のトミオカさんをどれだけいじめたのか…。無実の罪で咎められてかわいそうじゃないですか?」
「…」
「それに私まで怖がられて…どんな気持ちだったと思います?」
「…悪かった…」
「悪かったで済んだら警察はいりませんね」
「すまん…」
「返事ははい、ですよ」
「はい…」
「わかって頂けたのなら今後トミオカさんだけでなく、むやみに人を脅したり傷付けるようなことはしないと約束してくださいね」

惚れた弱みもあるが、その通りなので言い返す言葉もない。それに美人は怒ると凄みが増すと言うけど、しのぶのそれは他の人とは一線を画している。

「はい…」
「それでは約束しましたよ」
と小指を顔の前で立てる。

普段あんなに大人びて見えるのに、たまのこういう子供っぽいところがまた可愛いんだよな。
そうつい見惚れているとどこから取り出したのか紙の束が目の前に差し出される。

「はい、これをどうぞ」
「これは?」
「貴方たちが狩ったトミオカさんのリストです。このリストに載った人たちに誠心誠意謝って許してもらえるまでは貴方たちとはお話しませんから」
「…どうやってこんなリストを…」
「ご想像にお任せします」

にっこりと笑って、
「自分たちの罪、きちんと償ってくださいね」
と言ってしのぶは去って行った。

が、青い濁流改め冨岡義勇は何故か去らない。何かと見ていると、

バキッ

とオレの近くにいたしのぶ親衛隊の一人を殴り、ソイツの体が宙を舞った。

「何すんだ!」
とまた別の親衛隊員が騒ぐので、オレはやめろと止めた。
「殴るならオレを殴れ」

「…反省してるようだな」
冨岡はオレの方を見て、そして校舎の方へ戻っていった。

「真一郎くん…」
「しのぶに言われたんだろ。オレ達が反省してるか確認してほしいって」
「真一郎くん…」
「オレ達も似たようなことしてきたわけだしな」
「そうじゃなくて…」
「ん?どうした?」
「コイツ…気を失ってます」

見ると殴られた親衛隊員は気絶していた。

確認に気絶する勢いで殴るとかアイツ鬼か!!

まあ、とにかく。
恋は盲目というけれど、しのぶにトミオカを近づけないためとは言え流石に関係ない人を脅すのはやりすぎたな…

早速最初の犠牲者(同じ中学の後輩だったやつ)に謝りに行くと、そこでとんでもない事実を知った。






[newpage]





ここ最近佐野さんが己の行いを悔い改めるための修行に出ているので、放課後絡まれることがなくなって早く家に帰れるようになりました。

今日は怪我人もいなくて本当に早く帰れたので、あの子たちのお迎えにいきましょう。

姉たちに
「今日の保育園のお迎えは私が行きますね」
と連絡をする。


「すみ、きよ、なほ、帰りますよ」

保育園に行くと、3人が砂場で遊んでいるのを見つけ声をかける。
「しのぶ姉さん」
と3人がこちらに駆け寄ってくると、一緒に遊んでいた女の子もこちらに駆け寄ってきて私に
「美人
と抱きつく。

「あらあら」

どこの子でしょう。本当のことを言って偉いですね。

おだんご頭を撫でていると、
「マナ!」
と声がした。制服にカーディガンを合わせた銀髪の男の子が走ってこちらに向かっている。

「すみません、うちの妹が」
「…三ツ谷くんでしたよね?」
「はい。覚えててもらってよかったです、しのぶ先生」

確か特攻服を作ってる女子力溢れるトーマンの隊長の一人、でしたよね。彼は確か一度佐野くんを迎えに来たことがあるだけだったはず。それだけでも彼の常識人ぶりが伺えます。

「こらマナ。離れろ」
「ヤダ」
「あらあら」
「すみません、うちの妹美人が好きで…」
「ふふっいいんですよ。うちの子達とも仲良くしてくれてるみたいで」

そう言ってすみたちの方を見ると、
「マナちゃん同じ組!」
「いつも一緒に遊んでるよ」
「4人で仲良し」
と笑っている。

「しのぶ先生の妹さんですか?似てますけど三つ子…?」

彼はそう言って3人の頭を優しく撫でてくれる。すると

「私たち三つ子じゃないよ。みんな別々だよ」
ときよが言う。
「…すみません。不用意に聞かない方が良かったっすね」
と三ツ谷くんが謝る。

そのタイミングで、私たちもう少し遊ぶ!と四人で砂場に行ってしまったので三ツ谷くんに、
「あの3人は孤児なんです」
と話し始めた。

「ボランティアに行っている孤児院にたまたま同じ日に引き取られた子達で、人が多すぎて引き取りが難しいという話だったので、それならと引き取ったんです」
「すごいですね」
「すごい?」
「そうしたいって思っても生半可な気持ちで引き取れるもんじゃないですから」
「そうですね…」
「?」

孤児院ですみたちを見つけた時、私は引き取らねばならないと思って姉さんに話した。姉さんも前にカナヲとアオイを引き取っていて、私の提案を快く引き受けてくれた。

すみたちを引き取ったのはもちろん、私が彼女たちのことを知っているからだ。でも、それじゃあ選ばれなかった他の孤児たちはどうなのだろう。鱗滝さんの孤児院はとてもいい孤児院なので心配いらないけれど、悪い環境の孤児院はある。そういう子供たちを引き取ったほうがよかったのでは…でもそんなことを考えるのは3人に対して不誠実な気がして…

結局いつも、しのぶさんならもっといい方法で、たくさんの子供を救えたのではないだろうか、と卑屈になってしまう。

私の暗い顔に気付いたのか、三ツ谷くんはこちらを見ずに話し始める。

「うち母ちゃんと下の妹二人の四人暮らしなんですけど、すげぇビンボーで満足に好きなおもちゃも買ってやれなくて。でもそんな家でもアイツらにはいつも笑っててほしいし、うちに生まれてよかったって思えるようにしてやりたくて」
「若いのに偉いですね」
「そんなことないですよ。アイツらほっぽりだして家出したこととかありますし」
「三ツ谷くんにもそんな反抗期があったんですね」
「恥ずいっすね。でも、こどもってふとした時に出る表情で幸せかわかるんですよね。3人はオレから見るとすごく幸せそうに見えます」
「…」
「3人はしのぶ先生のとこに行けてよかったっすね」

三ツ谷くんの言う通りですね。3人の幸せが一番なのに、なんで自分のことを考えいるんでしょうか。本当にまだまだ未熟で、恥ずかしいです。

「ありがとうございます。少しふっきれました」
「?それならよかったっす」

少し明るくなった心とは裏腹に、日は少し落ち始めている。
「そろそろ帰らないといけませんね。すみ、きよ、なほ。アオイがご飯を作ってくれてるから帰りますよ」

3人が嬉しそうに笑ってこちらに走ってくる姿を見てまた心が暖かくなった。

するとマナさんが、
「私も一緒に行く!」
と言い出す。
「こらマナ!」

ふふっ可愛いですね。

「今日はもう遅いのでおうちに帰りましょうね。また別の日に遊びに来てくださいね」
「明日行く!」
「明日は土曜日ですし三ツ谷くんがよろしければ大丈夫ですよ」
「え!?」





そういうわけで今日は三ツ谷くんとマナさんとそれから二人の間のきょうだいルナさんが遊びに来ることになりました。

「楽しみ!」
と3人がウキウキしているのでよかったです。

ピンポーン
「あ!きた!」
とすみが一番に玄関に向かう。

私も玄関に向かい、扉を開ける。
「すみません、しのぶ先生。本当にお邪魔しちゃって。ほら。お前たちも」
そう言うと、可愛らしい二人の女の子が
「美人、スキ
「スキ
と私に抱きついてくる。

素直な可愛い子は大好きです。

「お邪魔しますだろ」
「ふふっどうぞ、中に。今日姉たちは出かけているで、気にせずに遊んでいってくださいね」

わーい、と中に駆けていく子供たち。ルナちゃんも年下の妹と普段から遊んでいるようで、すみたちとも遊んでくれている。5人がリビングで遊んでいるのが見えるダイニングに三ツ谷くんを案内する。

「三ツ谷くん、コーヒーで大丈夫ですか?」
「すみません。手伝います」
「お客様なんですから。座っててくださいね」

三ツ谷くんと話をしていたら、気が付けばいい時間になってしまいました。三人が来たのは昼前だったので、そろそろお昼ご飯の時間ですが…

そんな私の考えに気付いたのか、
「結構いい時間っすね。そろそろ帰ります」

と三ツ谷くんが二人を呼ぶ。すると二人はやだー、まだ遊ぶ!と駄々をこねる。

「よかったらお昼食べていってください。といっても何もないので、何かデリバリーでも…」
「迷惑じゃなければオレ作りましょうか?」
「…すみません。私料理できなくて」
「意外っすね」
「毒とか薬を作るのは得意なんですけどねぇ」
「ははっそれができるなら料理もすぐですよ。オレでよかったら教えますし」

さすが女子力高い隊長ですね。裁縫だけでなく料理も得意とは…前世ではオタク活動に勤しんで料理なんてしてなかったですし、今世でも正直アオイに任せっきりにしてしまっているので、せっかくですしお言葉に甘えてこれを機に料理を始めてみるのもいいかもしれませんね。

「ではよろしくお願いします、先生」
「ははっなんか照れますね。せっかくなんでしのぶ先生が作りたい料理にしますか?」

生姜の佃煮…は今お願いするようなものではないですね。家族の好物もアオイが作ってくれますし…
「そうですね。それでは…」

三ツ谷先生は素晴らしい手際で作ってしまいました。教え方もわかりやすくて、そしてもちろん味も…




「とっても美味しいです」

七人で食卓を囲む。うちには男性がいないので、なんだか不思議な感じです。

「隆お兄ちゃんのご飯、アオイ姉さんのご飯と同じくらい美味しい!」
「うん!」
「また食べたい!」

無邪気に喜ぶ三人に顔を綻ばせていると、
「嬉しいこと言ってくれるな。ありがとな」
と三ツ谷くんが三人の頭を撫でる。

「お兄ちゃんがうちのお兄ちゃんになってくれたらいいのに」
となほが言い出す。
「お兄ちゃんが姉さんたちの誰かと結婚してくれるといいな」
「ははっしのぶ先生とならよろこんで」
「…年上を揶揄うのはやめましょうね、三ツ谷くん」

三ツ谷くんはイタズラっぽく笑っているけど、私を見つめる瞳には少し熱を感じた。


三ツ谷くんはとてもいい子ですね。家事もできるし、男前ですし。こんな子ならしのぶさんを任せてもいいのかもしれないと少し思ってしまいました。でも残念ながら10歳も年下ですからね。





[newpage]


知らない間に
「トミオカ狩り被害者の会改め胡蝶様見守り隊」
という非公認のしのぶのファンクラブができていた。

活動内容は

@しのぶを影から見守る
A彼女のボランティア活動を支援する
B不良達からは守れないけど、一般の変なやつからは守る
C抜け駆けはしない

らしい。

そういえばしのぶがストーカーの被害によく遭っていたのに最近聞かないな…(もちろんストーカーしてた奴はオレらが捕まえていたけど)

そういえばしのぶが最近は孤児院のボランティアに人が増えてきてるって喜んでいたな…(手伝おうと思ったけど不良は怖がられるからって断られた)

そういえば昔は不良以外からも告白されていたしのぶが告白されなくなったな…(オレらの牽制のおかげだと思っていた)

なるほど、ファンクラブの活動の成果だったのか。

オレらみたいなバカな狩りをするよりこっちの方がよほど役に立つな…

ちなみにオレらが近付くなと言ったのに結局ファンになったのは…


「トミオカさん」
「え?こ、胡蝶先輩…?」
「あ、逃げないでください。大丈夫です、ちゃんと彼らがいないことは確かめていますから」
「…なんですか?」
「この度のこと、本当にすみませんでした。私のせいで怖い思いをさせてしまって…これ、お詫びと言ってはなんですが、よかったらもらってください」
「?」
「カステラです。お嫌いですか?」
「い、いえ。でも別に胡蝶先輩が悪いわけでは」
「いえ、私がうまく対処できなかったので悪いんです。本当に申し訳ありません」
「じゃあせっかくなので」
「あら、手を怪我されてますね。まさか佐野さんたちに?」
「これはさっき自分で切っちゃって」
「傷が残ったら大変です。よかったら手当をさせてください。保健室に行きませんか?」
「は、はい…!」


そして後日
「トミオカさん、お久しぶりです。手の怪我の具合はいかがですか?」
「もうすっかり大丈夫です」
「それならよかったです。あ、でもなんだか顔色が悪いですね。睡眠不足ですか?」
「いえ…」
「悩み事ですか?私でよければ聞きますよ」
「…実は…」



と言うことらしい。その後も次々と謝りに行くと、みんな口を揃えてしのぶが謝りに来て、結果彼女のファンになったと言う。

しのぶは何も悪くないのに謝りに行って、オレらにバレないように相談に乗ってやるとか女神か?うん、女神だな、知ってた。オレもそれされたら惚れるわ。もう惚れてるけど。

これからはオレも心を入れ替えて、他のやつを排除するんじゃなくて自分を見てもらえるよう努力しよう。十年目にしてようやくスタートラインか…オレは馬鹿か…

二ヶ月かけて被害者への謝罪を終え、ついにしのぶに謝罪するために学校へと赴いた。

昼休みの時間はたいてい保健室にいるのに、その日は居らず、辺りをこっそり探すとなぜか校舎裏の階段の近くにいるところを見つけた。

しのぶ!
と、冨岡…あいつらこんなとこで何を…

しのぶが階段で一人もぐもぐとパンを齧るトミオカに話しかける。

「冨岡さん、鮭大根作りすぎたんですけどいりませんか?」
「!!…いる」


!!??

なんだと!?鮭大根!?

…ぶり大根じゃなくて?

つーか、仏頂面の冨岡があんな眩しいくらいのいい顔してんじゃねーか!!あいつ絶対しのぶのこと好きだろ!!それに…

「まだしのぶの手料理食べたことないのに!!冨岡に先越された!!」

膝から崩れ落ちてその場で泣いていると、目の前に人の気配を感じた。

「あらあら、佐野さん、修行は終わりましたか?」

修行?と思ったけど、おそらく謝罪のことだろう。頷き、
「今日終わった」
と言う。

「思いの外早かったですね。煩悩を払い落として私のこと諦める気になりましたか?」
「それはねぇ」
「そうですか。それは残念です。でもよくがんばりましたね。なので今日佐野さんの都合が合えば例のアクアリウム、行きませんか?」
「え?」
「明後日までなので」
「行く!」

チャイムが鳴り、彼女はそれでは、と保健室に帰ろうとする。その彼女を呼び止めた。

「ずっと…悪かった。オレ達のせいでお前に苦労かけてたんだな」
「本当に。でもその謝意は私じゃなくてトミオカさんたちに向けてください。この件は私のせいでもあるので」
「オマエは何も悪くないだろ」
「…。アクアリウム楽しみにしてますね」

そう言ってしのぶは去っていった。追いかけてその細い手を取ってもう一度謝りたい。けど彼女はそれを受け取らないのだろう。彼女の言う通り、これからはこんなバカなことをしでかさないように自制しようとまた心に決めたのだった。



ちなみに放課後ワクワクしながらしのぶを迎えに行ったらなぜかワカと千咒がいた。

「は?なんで二人がいんの?」
「しのぶに誘われた」
「佐野さん、チケット四人分持ってたので」
「は?」
「一枚で二人入れるんですよ。知らなかったんですか?」
「…」

アクアリウムでは千咒がずっとしのぶを独り占めしていたので、まったくデートではなかったと言っておく。

「ジブンしのぶのこと好きだ」
「あらあら。私も千咒さんのこと大好きですよ」
なんて同性と分かっていながらもイチャつく千咒にイラッとしていると、

「真ちゃん、心の狭い男は嫌われるよ」
とワカに言われ、さらにイラッとした。



[newpage]

読まなくてもいい設定


胡蝶しのぶ(中身はしのぶさんの限界オタク)

本人は不良にモテると思っているが、実は万人からモテている。真一郎たちだけでなく、勝手にできていたファンクラブによって出会いがなくなっていたと言う悲しい運命。なお、天然なので無自覚にファンを増やしているため、ファンクラブの存在に気付いていない。
黒龍も東卍も迷惑な不良という認識だけど、みんな顔がいいのは認めている。ワカとドラケンに関しては常識人という認識。ただし、もしこの世界が不良マンガの中だったとしたら、推しは千冬だな、と思っている。カワイイ。でも毛の生えた動物が苦手なので、ネコや動物好きの場地や千冬には近寄らない。

しのぶさんのように美しく、聡明な女性を目指すべく、フェンシングと毒薬物の研究と孤児院のボランティアに日々勤しんでいる。孤児院では保健師として心のケアや簡単な治療、他にも本の読み聞かせなどをしていて、こどもたちからも大人気の綺麗なお姉さん。





え、冨岡さんについてですか?そうですね。今はノーコメントでお願いします。




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