トミオカさん、逃げて





※鬼滅の刃とのクロスオーバー。転生したらしのぶさんの見た目だった女の子のお話。


幾人もの男を袖にしてきた我が校のマドンナが急に男の名前を呟いたらどう思うだろうか。

もし今まで男の影などまるでない清楚という言葉の権化のような人なら。

もしその女が生涯ただ一人の女と決めていた人なら。

オレ?

オレはもちろん…



◇◇◇



いつものように淫行教師がオレの女(仮)を口説いている。ただいつもと違ったのは、彼女の様子だ。

「今日も可愛いね。いつ俺と結婚する?」

いつも素通りする彼女にしては珍しく、あのクソ野郎の前で立ち止まり、固まっている。様子が変だし、助けに入るかと駆け出した瞬間。

「とっととくたばれ糞野郎」

ん?
いつも佐野さん、と透き通った声でオレを呼ぶ蕾のような唇からいつもに増してものすごい言葉が聞こえてきた気がするが…
聞き間違いか?


そう思ったが、彼女の手刀がクソ野郎の急所に決まり、その場に崩れ落ちたのを見た時、聞き間違いでないことがわかった。

「今ここに刀がないのが残念です」

冷たい目で蔑む様に見下ろす様にゾクっとした。清楚な彼女にそんなところがあったのか、まだこんな一面も隠していたのか、と更にその先を暴きたい欲に駆られる。

だが、そんな気持ちもキョロキョロと周りを見渡す彼女の一言で凍った。

「冨岡さんはどこにいるんでしょうか」

トミオカ…?トミオカって誰だ?

男の勘でわかった。このトミオカとは男で、彼女にとって並々ならぬ存在であることを。

そして決意した。

ただそう決意したのはオレだけではなかった。周りの仲間たちもオレに顔を向けて頷いてくる。オレも頷き返した。

トミオカを彼女に会わせてはいけない。

「「しのぶより先にトミオカを見つけて抹殺する」」











立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花を地でいく彼女は入学した時から美人として有名だった。彼女の友人と共に校内の男子の人気を二人占めしていた。

彼女を一目見ただけで好きになり、話すと少し毒のあるところなんてモロ好みだった。

ただガードが固く、授業以外は部活のフェンシングか保健委員の当番をして過ごしていた。

まぁ手っ取り早くお近付きになるには…

「カナエせんせー!怪我したから見てくれ」
「またなの?これからは怪我しないように気をつけてね」
「おー」

彼女が当番の日の保健室に居座ることだ。しのぶの姉のカナエせんせーは保健医で、彼女は姉といたくて保健委員に立候補したようだった。

彼女はオレがカナエせんせーが好きで保健室に来ていると勘違いをしている。そんなところも可愛い。

「佐野さん。大した怪我もしてないのに姉さんの手を煩わせるのはやめてください」
「じゃ、しのぶでいいわ」
「治療するほどじゃないので、帰ってもらって大丈夫です」

オレの気持ちを知ってか知らずかカナエせんせーはいつも助け船を出してくれる。

「まあまあそんなこと言わずに。姉さんはしのぶの笑った顔が好きだなあ」
「…。怪我したのはどこですか?」

そう言ってなんだかんだ治療をしてくれる。治療のために彼女が近付き距離が縮まると彼女からいい匂いがして、いつもなんとも言えない気分になる。


しばらくしてオレが黒龍を立ち上げると、総長を骨抜きにするオンナはどんなやつだと見にくるようなり、そのうちオレの応援のためとか言い訳をして保健室に集まる様になった。
そうするとしのぶにオレが怒られて、そのあとワカがみんなを回収しにくる。



そんな悪くない毎日を過ごしていたある日のことだった。

彼女から「トミオカ」の名前が出たのは。


しのぶに男がいないのも、そんな仲になりそうな奴がいないのもリサーチ済み(というか、手を出そうとした奴はシメた)だったが、まさか急にそんな男が現れるとは思わなかった。

学校のトミオカをシメ、他校のトミオカをシメ、そして渋谷のトミオカをシメた。

そう、その日からオレたち黒龍のトミオカ狩りが始まったのだ。

狩った後は、今後間違っても彼女に近付かないように脅した。

「胡蝶しのぶに近付いたら殺す」
と。




◇◇◇



唐突に思い出した。そう、目の前で私に愛を囁くこの男は死ぬほど憎い仇であると。


私はどこにでもいる普通のオタクだった。ある日友人がハマっていると言う漫画を借りて彼女に堕ちる日までは。


胡蝶しのぶ


美しい薔薇には棘がある、ならぬ美しい蝶には毒がある。彼女の毒にやられ、すっかり夢中になってしまった私は彼女のATMになり、家はしのぶさんグッズで溢れかえり、気付けば同担拒否強火担の限界オタクと化していた。

そのマンガが絵と景色のクオリティが非常に高いアニメ制作会社によるアニメ化が決定して、彼女の声帯にあの透き通るボイスが採用された時は
「は?推せる…」と解釈の一致で感涙したものだ。


大人気キャラとなった彼女のグッズにファンが群がり高騰する様を見て、これだから新参は…なんて古参ぶる鬱陶しいファンだったのは認める。

そしてその人気のまま映画化し、彼女の一言を聞くために映画館に通い詰めたのも今となっては懐かしい思い出だ。そして記念すべき20回目の乗車の帰りに事故に…



あれ、私はなんでここにいるんだっけ?



朝の学校。

登校中の校庭のど真ん中で、私は今日もあの淫行教師こと美術の教師…名前を口に出したくもないあの男に声をかけられた。

「しのぶちゃん、今日も可愛いね。いつ俺と結婚する?」

は?なんでこいつがいるの?私の可愛い推しと推しの愛する姉を殺したこの男が…
しかもしのぶって…

手のひらを見ると自分の手のひらよりも一回り小さく見えた。

顔まわりの髪を見るとふわふわとした藍色で、頭の後ろに蝶のような飾りがついているのが触ってわかった。

そして今朝顔を洗った時にみた自分の顔を思い出すと………




え!?私がしのぶさん!?ついに愛が深すぎてこんな妄想まで!?

いや違う。私はこれまで胡蝶しのぶとして生きてきた記憶がある。つまり…

…私、転生してる!?しかも愛するしのぶさんに!やったー!しのぶさんになれるなんて!夢のよう!


だが少しして冷静になるとその考えも変わる。

どうせなるならしのぶさんを見守るモブがよかった。自分の顔じゃずっと見ていられないし。

それかしのぶさんの隣を歩いて、手を繋いで、それから…なんてできるしのぶさんに釣り合うイケメン。…いねぇなそんな男。



目の前にいる糞に目を向ける。きっとこの男への嫌悪感で前世のことを思い出したに違いない。
しかし転生とかよく二次創作で見てはいたけど、本当にあるんだ…なんで他人事のように考えているけれども、さっさとこの羽虫を私、いや、しのぶさんの前から消さなくては。

「とっととくたばれ糞野郎」

そう言ってフェンシングで鍛え上げた突きを喉仏に叩き込む。
「グハッ」
「今ここに刀がないのが残念です」

見事急所に決まり、ゴミクズはその場に倒れ込んだ。

いい気味。
ここ最近ずっと付き纏われていて迷惑していたけど、まさかあの鬼が私の周りをうろちょろしていたなんて。今すぐ毒を取ってきたいところだけど、それをしたら現世では殺人…。仕方がないので今はこれで我慢。

そういえばこの男は初めは去年までこの学校に保険医としていた姉を狙っていた。だがある日突然私に狙いを変えたのだ。

原作ともども本当にクズな男…今後何をしでかすかわからないし、本当にこの世から抹消した方がためになるというもの。

そう思って冷たい目でこの男を見つめていると、周りがざわざわしだす。私が思い出す前でもあのしのぶさんの毒舌でぶった斬ってはいたものの、こうして手を出したのは初めてなので、流石に周りもこちらを見ている。

この美しい人はこの学校の男性陣の心を微笑みひとつで掌握してしまったのだ。こうして注目を浴びるのは仕方がない。

一緒に登校していた桃色と緑色のグラデーションの髪を持つ友人が心配そうにこちらを見ている。

ギャラリーのできてしまった自分の周りをキョロキョロと見回すと、他にも見慣れた顔がちらほらいる。思い返せば親戚であったり、学校関係者だったり、大体のキャラが自分の周りにいたことを思い出す。

ただ一人をのぞいて。

「冨岡さんはどこにいるんでしょうか」




◇◇◇



「しのぶセンセー」
「…また怪我ですか?佐野くん」
「ウン。手当てして」

私がこの学校に保険医として赴任して三ヶ月。この不良の男の子は毎日のように保健室にやってくる。

「どこですか?」
「ココ」

そう言って差し出してくるのは手の甲。少し擦りむけている程度で治療の必要は無さそうだ。でも問題はそこではなくて…

「いつも言っていますが治療が必要なのは君ではなくて殴られた相手ではないでしょうか」
「でもオレもヒリヒリして痛いからしのぶに手当てしてもらいたい」
「先生を付けない子には出ていってもらいますよ」
「…センセー」

どうやっても出ていかない駄々っ子なので、仕方なく消毒をして絆創膏を貼る。

「はい、おしまいです」

そう言って私は机に座り、書類を片付け始める。なぜか私がこの保健医になってから怪我人が続出していて、治療道具が足りない。その補充のための書類を急いで書かねばならない。それなのにまだ居座るこの生徒はあろうことか私の机の上にだらん、と上半身を乗せて邪魔をしてくる。

「ねー、しのぶセンセー」
「…怪我のない人はさっさと教室に戻ってくださいね」
「まだ痛いところある」
「…」

またこれだ。毎日毎日このやりとりが続くので、どこですか?と聞くのが正直面倒になってきた。

「…どこか聞いてくれないの?」
「茶番に付き合っている時間はないんです。佐野くんがいつも怪我をしてくるから薬の在庫がなくなるんですよ」
「オレのためにやってくれてるなら今はやらなくていいよ」
「…」

ああいえばこう言う。
「どこですか、痛いところは」
「ココ」

佐野くんはニッコリと笑って心臓のあたりを指さす。

「…そこは専門外です。大きい病院に行ってくださいね」
「センセーが万次郎って呼んでくれたら治ると思う」
「佐野くん。いい加減にしないと保健室出入り禁止にしますよ」

ようやくわかってくれたのか、体を退けて今度は椅子の背もたれにぐったりともたれかかる。

これで書類が書けます。

ここから出て行く気のなさそうな佐野くんはもう放置してさっさと書類を書き上げる。



終わった頃にはもう日も沈み始めていて、帰る時間だ。

先ほどから無視をしていた佐野くんを探すと、もう座っていた椅子にはいなくてベッドでゴロゴロしていた。

「健康な人が寝る場所ではないですよ。もう閉めるので帰ってください」

佐野くんはこちらを無感情の瞳で見つめてきたかと思えば、ニコッと笑って、
「一緒に寝よ」
と手を引っ張ってこようとした。

前世鬼殺隊の中でも1番のスピードを誇る私はその手をさっと避けて、
「その手には乗りませんよ」
と白衣を翻してベッドから離れる。

ちぇッと舌打ちをしてベッドに寝転んでふて寝してしまった佐野くんにため息をつく。

こうなったら、とケータイを取り出して連絡をする。しばらくして走ってやってきたのは龍宮寺くん。

「しのぶセンセ。悪りぃな」
「いいえ。でも帰れないので早く回収してくださいね」

龍宮寺くんが佐野くんを背負って保健室から出て行った。

いつの世にも、どの組織にも常識のある人が一人はいるものですね。

この保健室は佐野くんだけでなく、トーマンの男の子たちが学校が違うのになぜか入り浸る溜まり場になってしまったのだ。黒龍が入り浸る姉の保健室を思い出してため息を吐いた。











胡蝶しのぶとして生を受けて25年。前世を思い出して10年。今は2005年。

え?2020年に死んだ私がなぜ2005年にいるのか?知りません。転生させた神様に聞いてください。

どうやら私以外に大正時代のことを覚えている人もいなさそうで寂しいけれど、私はしのぶさんではないので色々なところでボロが出なくて良かったという気持ちもある。


それでも推しに恥ずかしくないように生きようと必死で努力してきた。
まあ15年間しのぶさんがしのぶさんとして生きていたのでしのぶさんの土台が出来上がっていたけど(もう何を言っているのかよくわからないですね)。

姉さんの影響もあって私も保健師となり、学校の保健室の先生を仕事にした。



しのぶさんはもちろんモテる。でも25年生きてきて、まだ彼氏はできたことがない。なぜかというとまだ同担拒否の私がしのぶさんが誰かとくっつくという事実が受け入れられなくて寄ってくる男を常に一刀両断してきたからだ。

異性との付き合いは、高校の頃に趣味の怪談で仲良くなった友人とたまに出かけるくらいなので、心配した姉にもそろそろ彼氏の一人くらい見つけて幸せになってね、と言われた手前、少しは考え始めている。

まぁ告白してきた男に手刀をきめない程度には。



ただ。なぜか知らないけれど…


この世界のしのぶさんは不良に激モテなのだ…!

同じクラスに不良がいれば
「好きです!」
通学路で利用するコンビニに不良がたむろしていれば
「好きです!」
果ては就職した学校の生徒(不良)やその仲間たちから
「好きです!」

なんで?なんで不良ホイホイになっちゃったの、しのぶさん?
友達の蜜璃ちゃんはあんなに正統派なイケメンにモテているのに…あ。でも無事伊黒さんと出会って今は付き合ってます。本当によかった…

そろそろ私も、なんて思っても、周りが不良ばかりなのだ。私の大切なしのぶさんを不良には任せられない!いくら!イケメンだらけでも!!



あと私が彼氏ができないもう一つの理由。

それは中学の同級生佐野真一郎。

はじめは姉狙いだと思って姉に近づかない様に牽制していたが、姉のいない私の当番の日にも保健室に現れるようになり、おかしいと思い始めていたら告白されるようになった。そして前世を思い出してすぐに始まったのがトミオカ狩りだ。








しつこい佐野くんを龍宮寺くんのおかげでようやく撒けたので校門に向かうと、見慣れた、でももう二度と見なくてもいいと思っている単車が止められていた。

そのバイクの持ち主が、
「しのぶ」
と話しかけてくる。

「…佐野さん…」
「なんでここで働いてるって言わないんだよ」
拗ねたようにこちらをなじってくるので、
「聞かれてないですし、言う必要も特に感じなかったので」
といつものように答える。

前の学校の時にこうしてバイクで迎えに来られていたのが嫌で、今回はバレないように気をつけていたんですけど…

「なんでここがわかったんですか?」
「オレの弟が保健のせんせーがいい女って言ってたからもしかしてと思って」
「…あなたの弟さんでしたか。どうりで彼もしつこいと思いました」

ハハッと佐野さんは笑う。

笑うところではないですよ。しつこくて迷惑してるからさっさと諦めろと言ってるんです。

中学の頃から何度も袖にしているのに、この男は全くへこたれないようで、いつまで経ってもこうして私の前に現れる。

「兄弟だけあって女の趣味似てるな」
「そんな迷惑な趣味はさっさと変えてくださいね」
「まぁマンジローにオマエはやらないけどな」
「…」

私が誰のものになるかを決めるのは貴方ではないんですけどね。

軽くため息をついて迷惑な兄弟に頭を抱える。

「で、トミオカには会えたのか?」
「またその話ですか…」
「オマエが言ったんだろ?トミオカに会いたいって」

頭の中で変換しすぎです。そんなこと一ミリも言ってません。



そう、彼は私が不用意に発言した

「冨岡さんはどこにいるんでしょうか」

を聞いて、私が冨岡さんを好きだと勘違いして私の周りの冨岡さんを根絶やしにし始めてしまった。

それに狩りの最後に毎回私の名前を出すものだから、胡蝶しのぶは手を出したらやばい女となり、私に声をかけてくる男の人は元々不良が多かったけれど、一般の人からの告白はほぼ皆無になってしまった。



「その時そんなことを言ったのかも覚えていませんけど、別にトミオカなんて知り合いはいませんよ」
「…そうやってかばうのが怪しいんだよな」
「かばう?」
「しのぶが嘘ついてるのくらいわかるから」

そう言ってタバコを取り出そうとする佐野さん。

タバコ…嫌いなんですけどね。

そう思っているのが伝わったのか
「あぁ、タバコ嫌いだったな。悪い」
とポケットにタバコをしまった。


「とにかく。トミオカなんて知り合いはいないし、嘘もついてません。この辺りのトミオカ狩りはそろそろやめてもらえませんか?」
「…知ってたか」
「それはもちろん。あなたたちが私の名前を出して片っ端からトミオカさんに危害を加えていたら私の耳にも入りますよ」
「ハハットミオカとしのぶを会わせて後悔したくないしな」
「そんな実のないことはやめて、新しい人を見つけてくださって結構ですよ」
「そりゃ無理だ」

昔から人の話を聞いているようで聞いていないこの同級生は、やはり言ってもトミオカ狩りをやめないようだ。

でも今回は何とかしてトミオカ狩りだけはやめてもらわないと。

見間違えでなければ来週冨岡さんが臨時の体育教師としてこの学校に赴任が決まったみたいなんですけど。きっと彼も昔のことは覚えていないだろうに、私のせいで赴任早々不良にシメられて胡蝶しのぶに近付くなと言われるんでしょうか。



彼がシメられるなんて想像つかないですけど…



…まぁ冨岡さんならなんとかしますね。




一瞬心配したものの無用だなと思い直す。

佐野さんとしても冨岡さんの話は終わったらしく、そういえば、と言いながらポケットから紙を取り出して私に渡してくる。

「なぁ、これ行かない?」
「?なんですか?」

チケットを渡されて見てみると、アートアクアリウムと書いてある。

これは…気になっていた金魚の展示会のチケット…

「金魚、好きだろ?」
「…」


この人なりに頑張ろうとしているのかもしれませんね。不良だからと頭ごなしに否定するのは良くないです。最近では自分の店も持って頑張っているのを認めないのも失礼ですし。

決してこの金魚の展示がすごく行きたかったのにチケットがすぐに完売して取れなかったからそれに釣られたというわけではありませんよ。


「いいですよ」
「!!マジか!!」

私が了承すると思わなかったのか、ガッツポーズをして喜ぶ佐野さん。

そしてヘルメットを渡してくる。
「?なんですか?」
「何って…行くんだろ?乗れよ」
とバイクの後ろを指さされる。
「今から行くなんて一言も言ってませんけど」
「…え?」
「私、今日用事あるんです」
そう言って私の代わりにヘルメットをバイクに乗せる。



ちょうどそのタイミングで派手なバイクが横に停まる。

「しのぶ」
そのバイクに似合う金と紫に交互に染めた髪を軽く束ねた派手な人は、私の名前を呼ぶとヘルメットを投げてきた。

「待たせたか?」
「いえ、今来たところです」
「じゃ、行くか」
「はい」

佐野さんは
「わ、ワカぁ!?なんでここに」
と驚いている。

「これから今牛さんと稲○淳二の怖い話を聞きに行くんです」
「そーゆーこと」
「まてまて、なんで二人で怪談聞きに行くんだよ」
「私たちの共通の趣味ですよ。佐野さん知りませんでした?」

ヘルメットを被り、バイクに乗る準備が済むと、
「じゃーな、真ちゃん」
と今牛さんが佐野さんに別れの挨拶をするので、私も挨拶をする。

「それでは佐野さん。アクアリウムはまた後日行きましょうね」
「…!また連絡する!」




今牛さんのバイクに乗って会場に向かっている最中、今牛さんに話しかけられる。

「さっき真ちゃんと話してたの何?」
「金魚の展示です。行きたかったのにチケットがなくて困っていたんですけど、佐野さんが誘ってくれて」
「ふぅん。いいけど、あんまオレ以外のやつの後ろ乗んなよ」

別に佐野さんのバイクに乗るつもりはないですけど…

「なんでですか?」
「そいつに嫉妬するから」
「…そんなこと、今まで一度も言ったことないじゃないですか」
「初めて言ったからな」

と友人だと思っていた男は笑った。

彼は不良でも常識があるし、怪談が趣味なところも気が合うし、顔もいいし、まあしのぶさんの相手としては悪くはないですね。派手すぎるところは減点ですけど。








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