もし人生やり直せるなら推しカプをくっつける




※平和軸。乾家火事なんてなかった。ココ赤前提。



「ナマエ!」
「大丈夫か!?」

大丈夫じゃない。なんだこれ。背中が焼きついたように痛い。息もしにくい。やばい。死ぬかもしれない。

あまりの痛みに動けずにその場でうめいていると、二人の男の子が私の顔を覗き込んできた。柔らかそうな色素の薄い金色のおぐしと射干玉の黒髪の二人組の美形はもしかして私をお迎えに来た…

「天使?」
「…。大丈夫じゃないけど、大丈夫そうだな…」
「いや、全然ダメだろ…」

…ん?

天使かと思ったけどよく見ると懐かしい顔。
「…ココ?イヌピー?」
「本当に大丈夫か?」
「オマエ階段から落ちたんだよ。覚えてるか?」

あー。なんか見慣れた天井だと思ったけど、ここ懐かしのココの家か。え?なんでこんなとこいるの?っていうか二人とも小学生くらいに縮んでるんですけど!

痛みを忘れて起き上がり、二人の顔をまじまじと見る。

「ど、どうしたの、二人とも!何があったの!?まさかAPT◯4869でも飲んじゃった!?」
「は?」
「やっぱり打ちどころが悪かったか…」





目が覚めたら自分の部屋にいた。小さい頃の幼馴染が出てくる変な夢を見たな。

…。

あれ?私事故に遭ったような気がするんだけど。あれも夢だったんだ。よかった…。安堵に浸っていると私の部屋に母さんが入ってきて起きた私を見て「バカ!」と怒った。お母さんはココの家でふざけて遊んでいて階段から落ちたあと気を失ったと教えてくれた。そして本当にバカと言いながら今度は心配そうに私を抱きしめるその横顔が普段のお母さんよりもずっとずっと若くなっていて、体も自分のよりも一回り以上大きい。いよいよ私は自分の血の気が引いていくのを感じた。

しばらくベッドに横になって考えた結果、自分含めみんな幼くなっているし、カレンダーも小学三年生のときの年号を示している。昔ココの家の階段から落ちた記憶もあるのでこれはその時まで時間が巻き戻ったのだと結論付けた。ちなみに巻き戻る前、私は車に轢かれて死んだ、と思う。これはもしかして二次元界隈で見かけるタイムリープというやつなの…?


私の名前はミョウジナマエ。なんてことない普通の両親から生まれた平凡な私には、平凡じゃない幼馴染が二人もいる。お姉さんによく似た美貌を持つ乾青宗ことイヌピーとすこーし目つき悪いけどイケメンで頭のいい九井一ことココという、そこらの男が束になっても敵わないイケメンコンビだ。二人がイケメンすぎて邪魔な幼馴染を排除しようとする女子が大量発生していたけれど、私は物心ついた時からココに片想いをしていたのでそんな女子たちに負けないようひたすら隣にいられるよう努力し続けた。けれどそんな努力もむなしく、ココが好きになったのは5歳年上のイヌピーの姉・赤音さんだった。

それを受け入れられなかった私は、小学校高学年からココの猛アタックが始まったのと同時にやらかし人生を開始した。赤音さんにココを取られてたまるかと二人にならないようにしたり、いい雰囲気にならないように空気読めないこと言ったり、いちいち二人の間に割って入ったり、とにかく邪魔をし続けた。あまりに空気を読まなさすぎて当のココからだけでなく、あのマイペースなもう一人の幼馴染からも「空気読め」と言われたのが懐かしい。

最大のやらかしはうちと九井家、乾家の三軒で牧場に遊びに行った時のことだ。ココと赤音さんが二人で馬を撫でながらいい感じに話していたので、それを邪魔しようと間に割って入った。牧場の人から馬は繊細だからビックリさせるなと言われていたのになんとか邪魔しようと大声を出した結果驚いた馬に蹴られ、一ヶ月の入院となった。

あまりの痛みに一気に気持ちが冷めて、自分がココに抱いてた気持ちは恋情というよりは幼馴染に対する独占欲という方が近くて、ココが離れていくことが寂しかっただけだったと気付いた。けれど時すでに遅し。これがなんと中学校入学直前の出来事だったので、最初から一ヶ月間入院していない私の噂は、「人の恋路を邪魔しようとして馬に蹴られて入院したヤツ」としてなぜか広まってしまいみんなから後ろ指を刺されることとなった。中学の多感な時期にそんなふうに後ろ指を刺され、遠巻きにされるとどうなるか?友達とかいらないですけどなにか系の残念女子に早変わり。そもそも小学生の頃の私はココに固執してあんまり友達いなかったし。本当は女の子たちの輪に入りたかったけれど、もうグループもできていたし変な噂のある私に近付いてくる物好きもいなくて楽しそうに話す女子を指を咥えて見ているしかできなかった。

かくして小中の頃のことは黒歴史となり、知り合いが誰もいない高校に入学して人生をやり直そうとした結果出来た友人にショタ萌えオタクにされた。オタクを拗らせたまま大学生、そして社会人になり、子供を助けようとして事故に遭って死んだ、と。なんだこの人生。

なんでタイムリープしたのか全くわからないけど、もしかしたら最後子供を助けた私に神様がくれた蜘蛛の糸なのかもしれない。今回は二人の邪魔をする必要もないし、黒歴史を繰り返さずに楽しい中学ライフを送ろう。





「もう頭大丈夫か?」
「その聞き方はどうかと思うけど、大丈夫。痛かったの背中だし」

こうして久々に小学生の幼馴染に会ったわけだけど、二人とも天使すぎてやばい。ココはまだあどけなさが残るイケメンさんだし、イヌピーは生意気で赤音さんに似て女の子みたいな顔してて可愛すぎ。

二人を見てるだけで至福なのに自分から離れて欲しくないなんて無駄な独占欲発揮する過去の自分ホントアホ。幼馴染でいさせて頂いてありがとうございますだろ。しかも美形ショタのココが頑張って美人な友人の姉である赤音さんを振り向かせようとしてるなんて、私の大好物ショタおねじゃん。

大人になってココと赤音さんの結婚を祝福したあとだったっていうのもあるかもしれないけど、オタクになると180°見方が変わるらしい。私にこんなこと言えた義理はないかもしれないけど、二人には幸せになってほしい。なんなら予定より早く赤音さんに迫ってたくさんショタおねを拝ませて欲しい。

そう…最初はそう思っていた。


それなのに…


ココ赤ちっとも進まないんですけど。なんで…?

前は
「赤音さん、昨日この辺に変質者出たらしいから家まで送る」
「いいの?ありがと。一くんは紳士だね。あ、よかったらお礼にうちでお茶でもどうかな?」
「ウン」
そう言いながらそっと赤音さんの手を取る…

みたいな感じでアピールしてこっちの神経を逆撫でしてきていたのに。今じゃ目の前でココが赤音さんと手を繋ぎたくて手を伸ばしては恥ずかしくてグッと拳を握ってポケットに手を突っ込むというのを繰り返しているだけ。最初は「まぁ可愛い。頑張るショタ眼福」なんて思っていたけど、もうそれが二年も続いている。

それをずーっと後ろから見ているこちらはどう思うか?

…じれったい。
いつになったら私に至高のショタおねを拝ませてくれるんだ。ココ、男だろ!さっさと赤音さんの手を取って二人で放課後デートでもしてこい!

ココがそんなんだから先日も二人ではじめての図書館デートイベントがあるはずだったのに逃してたし。未来からここに戻ってきて三年、ココが赤音さんへの思いに気付いて二年。こんなふうにモタモタするココにイライラさせられっぱなしだ。目の前でアオハルに至らない少年のヤキモキを見せられると大人の私はじれったくてじれったくて…。

私のヤキモキに気付かず(当たり前だけど)、当のココは今まさに赤音さんの手を握ろうとして、そしてそのタイミングで赤音さんに話しかけられて手をスッと戻した。もうそれ何千回目よ。

まさか私が邪魔してないのがいけないのかな。そのせいで未来が変わる?それはまずい…。ショタおね見たいし、二人が幸せになるのを邪魔したくない。未来では結婚するはずだったし。

よし。一回だけ。一回だけココの背中を押そう。それ以降は手を出さずに遠くからショタおねを満喫する。

そう言い聞かせて私は隣を歩くイヌピーの手を取る。

「…何?」
「今日駅のクレープ屋さん半額デーなの忘れてた!行こ!」
「えー」
眠そうにするイヌピーを無理やり引っ張る。
「行くの!ココも赤音さん連れてきてね!遅かったペアの奢りだよ!」
そう言ってイヌピーを連れて走り出すと、ココの
「オイ!」
という声が聞こえてきた。

走りながら後ろを見るとこちらに走り出そうとする二人の姿が見えた。

ココー!今だ手を取れー!

そう思った瞬間、イヌピーに
「ナマエ!前!」
と手を引っ張られた。急なことに驚いて足首があらぬ方向にグキッと曲がりそのまま崩れ落ちそうになるところをイヌピーが支えてくれた。
前を見ると道路の側溝の蓋が一つ外れていたのでそのまま足を踏み出していたら大怪我していたに違いない。

「あ、ありがと…」
「ちゃんと前見ろよ。後ろ見ながら走るとかバカすぎ」
「ごめんなさい」

「ナマエちゃん大丈夫!?」
「オマエホントそそっかしいな…」

遅れて二人も私のところに来て声をかけてくれた。

結局足を捻挫してクレープは食べに行けずイヌピーに肩を貸してもらいながら家に帰った。ここぞとばかりにココが「危ないから」と言って赤音さんの手を握っていたのを私は見逃していない。これは成功したと言っても過言ではないだろう。家に着くとまたお母さんに鬼のように怒られたけど怪我した甲斐あった…。

しかもそのあと赤音さんが「これお見舞いだよ。早く治してね」なんてクレープを買ってきてくれた。あがね゛さん゛ーーー!顔だけじゃなくて心も美しいなんて推せる。





痛い。そこら中が。

結局その後も二人の行く末が気になってついつい手を出してしまった。でもその結果毎回私の怪我につながるのはなんで?そんなにどんくさかったかな…。その度にイヌピーに迷惑をかけていたせいで最近よく彼に怒られる。可愛い天使は怒っても可愛いのでついニヤニヤしてしまうので反省しろとまた怒られるのが最近の日課だ。

今日は赤音さんが男の人にナンパされるのをココが助けるイベントの日だった。なんで覚えてるのかって?昔の私はその日起きたことを日記に書いていつ何があったかを記憶していたからだ。無駄に頭がいいのをこんなところに使って我ながらキモい。
で、ココは今日赤音さんの用事に付き合って××公園に行くはずだったのに何故か「今日イヌピーん家でゲームしようぜ」なんてバカなことを言い出すので、二人を引っ張って×公園に行った。赤音さんに何かあっても困るし。確か噴水の近くだったはずとそちらに向かうともう赤音さんが男の人に腕を掴まれていた。それを見たココが「赤音さん!」と助けに入る。私も赤音さんが心配で一緒に走り出したら公園の遊具につまずいて右膝が血だらけになった。

「痛った」
「ナマエ…ホントドンくさい」

ここ最近お世話になりっぱなしのイヌピーの台詞が胸に刺さる。ホント申し訳ない…

「ごめんなさい…」
「あの二人のことはもう放っておけよ」

気付かれてた。

「だってさぁ、イヌピー」
「…何?」
「あの二人、じれったすぎない?見ててこう…もやもやーってするんだよね。つい体が動いちゃって気付くと怪我をしてて…」
「ナマエって昔ココのこと好きだったのになんでそんな応援してんの?」
「あれは…若気の至り的な?私、幼馴染コンプレックスなんだと思う」
「なにそれ」
「まぁ今は赤音さんに推し変したし、ショタおねたぎるしココ赤応援したい。早くイチャイチャしてるとこ見たい」
「…何言ってるか全くわかんねぇ」

いけないつい心の声が漏れてしまった。あまりに周りにオタ話できる人がいなくて溜まってた。

「つまり二人にうまく行って欲しくてさ…。放っておいても大丈夫だとは思うんだけど…」

前の時と違いすぎてうまくいかないかもって不安になるんだよね。私が前と違う行動をしてるせいで未来が変わっちゃったらどうしようってさ…。

はぁ、とイヌピーにため息を吐かれてしまい肩身が狭くなる。ホント迷惑かけ続けているので頭が上がらない…

「正直ナマエがやってることあんまり二人の役に立ってねぇから怪我損」
「グッ」

キツい。キツすぎる。血を吐くかと思った。

「でも」
「…え?」
「話くらいなら聞くから。怪我気をつけろ」

そう言いながらポケットからハンカチを取り出して私の足の血を拭いてくれた。

「え?ええ!?」

うちのショタ馴染のツンデレかわいすぎない!?

「イヌピー!!好きぃぃぃ!天使ー!」
「ウザい」





最近はよく乾家で今後のココ赤について語っている。イヌピーは半分も聞いてないけど一応協力してくれていて、よく四人で遊びに行っては二人きりにさせる作戦を実行している。ちなみにココ赤を拝みたい私は二人を尾行するんだけど、途中でイヌピーに「二人にさせよ」と言われて最後まで見れない。まぁでも確かに全部見るのは申し訳ないしね。

今日も今日とて乾家にお邪魔してイヌピーの部屋でぬいぐるみを抱きしめながらココ赤の尊さについて語っていたら、
「オマエら最近仲良すぎねぇ?」
と言いながらココが入ってきた。
「あ、ココ。今日二人約束してた?なら帰るけど」
「別にしてない」
「イヌピーに貸してた本取りにきただけ」

そういいながらもココがドサっとイヌピーのベッドに座る。そういえばさっき赤音さん帰ってきたし…

赤音さんに貸す約束をしていた映画のDVDを荷物から取り出して机の上に置いた。
「ねぇ、二人とも。DVD見ない?赤音さんも呼んでさ」

二人も、そして呼びに行った赤音さんも頷いてくれたので四人で映画観賞会をすることになった。

さりげなく二人を近くに配置して映画を見始めると眠たくなってきた。最近夜ココ赤妄想しすぎてあんまり寝てな…


……。


「んっ」
顔に何かがサワサワと触れてくすぐったい。いつのまにか寝てしまったようで、目を覚ますと誰かの肩にもたれかかっていた。なんか気持ちよくてそのまま眠ってしまいそうになるのを首を振って起きる。私の頬をくすぐっていた元凶は色素の薄い柔らかそうな天使もといイヌピーの髪の毛。スースーと寝息を立てているショタなイヌピー略してショタピーが鼻血ものの可愛さで、つい髪に手を伸ばす。思った通りの手触りに笑っていると、
「何笑ってんの?」
と少し不機嫌そうに眠そうな目でこちらを見てくる。
「ごめん、起こしちゃった。イヌピーの髪の毛って気持ちいいね
そう言いながらもう一度触るとやっぱり気持ちいい。
「普通だろ」
「うん。なんかポメラニアンみたい」
「犬扱いやめろ」
そう言いながら私の髪をさらさらと撫でてくるのがくすぐったくて身を引く。
「くすぐったいなぁ」
「お返し。オレもくすぐったかったし」

そう言って照れたように顔を背けるショタピーが可愛いすぎる。まぁ最近身長伸びてきちゃったけど。まだなんとかショタだな。

「そういえば二人は?」

先ほどまで一緒にDVDを見ていた残りの二人はもうこの部屋にいない。

「ココが腹減ったから赤音がなんか作るって言ってた」
「おお!いいね!はからずも手料理イベント発生」

覗きに行きたいけど邪魔しちゃうしなーと頭を抱えていると、
「今は二人なんだから向こうのことはほっとけよ」
とイヌピーに注意されてしまった。
「はーい…私って結構寝てた?」

映画はすでにエンドロールが流れている。なんか冒頭しか記憶にないんだけど。

「ほぼ寝てた。自分が見たいって言ったくせに」
「…恥ずかしい」
「オレも寝たフリしてたし。赤音とココも二人で映画見て楽しそうだったから問題ないだろ」
「そっかぁ。それならよかった」

って寝たフリしてたの?…まさか私ずっとイヌピーにもたれかかってたせいで動けなかったからか?

「青宗様。お肩お邪魔しました。よろしければ肩をお揉みします」
「そんなヤワじゃねぇから別にいい」

そのあと料理できたよと赤音さんが私たちも呼んでくれた。今日は怪我もなく二人のお手伝いができただけでなく推しの手料理を頂くことができて最高な一日だった。





とうとうやってきた。あの牧場に行く日が。私は今日は何もしない。私は今日は何もしない!私は今日は何もしない!!今回の人生は二人の邪魔をしていないのでもし馬に蹴られてもあんな風に後ろ指を刺されることはないと思うけど、流石に中学最初の一ヶ月を病院で過ごすのはごめん被りたいし。イヌピーとも今日は大人しくすると約束して二人で牧場散策をすることにした。牧場のふれあいコーナーでうさぎを抱っこしたりヤギに餌をあげたり。

この牧場ってこんなに楽しかったんだ。前の時は邪魔することしか考えてなかったから。なんてもったいない人生送ってたんだろ。

乗馬体験できるところに向かうと、そこにはココと赤音さんがいた。私たちに気付いた赤音さんがこちらに向かって手を振っているので振り返して二人の元に近寄ろうとすると、ヒヒーンと馬のいななく声が響き渡る。

「赤音さん危ない!」
気付けば走り出していた。





一頭の馬が何かに興奮して赤音さんに向かって突進していたので、赤音さんを突き飛ばしてそのまま私も転がった。その結果右腕を骨折した。実際のところ赤音さんはちゃんとココが守ろうと手を引いていたので私が何もしなくても大丈夫だったんだけどね。またやらかしたけど、馬に蹴られなくてよかった。今回は恋路邪魔してないからね。馬も空気を読んでくれたわ。

けどその後、今回は大人しくするって言ってたのはどの口?とイヌピーに怒られ、女なんだから少しは考えろとココに怒られ、赤音さんにも危ないことしないでと泣きながら怒られた。抱きしめてくる赤音さんからいい匂いがしてちょっと百合に目覚めそうだったけど、そのあと泣く赤音さんを気遣って背中をさするココが素敵すぎてやっぱりココ赤最強って結論に至った。新しい性癖開かなくてよかった。

今回は幼馴染の美人のお姉さんを守って負った名誉の負傷なので手を骨折しての中学入学も特に問題なかった。むしろ骨折した私を助けてくれる優しい子たちと友達になれたので、怪我の功名というやつ。今回は中学時代が黒歴史にならなかったので本当に本当によかった。

うん。それはよかったんだけど、やはりいつもの問題が襲ってきた。

そう。進展しないココ赤だ。

前の人生では二人はココが中二になった時に告白して付き合い始めた。で、今はいつか?気付けばもう中三です。おかしい。背中をさする仲なのに。

あれからも頑張って四人で出掛けては二人っきりにしているけど、付き合う気配はない。ココに聞いても、「まぁおいおいな」なんて腑抜けた返事が返ってくるし。ココ、なんでそんな奥手になったのよ。もう両思いなんだからさっさといけ。もうショタおねの期限切れちゃうから…マジで。



今日も今日とて乾家のリビングのソファに居座らせていただいている。次の出かける予定を立てるためだ。

「ねぇ、青宗。今度は京都でも行かない?」
「また四人?」
「行きたいな。四人で。ダメ?」
「…」

青宗は私の隣に座り、そのままぽすっと可愛い音を立てて私の膝に頭を乗せてきた。小学生の頃と違って背もすっかり私より大きくなって、ふわふわの髪も伸びた。前の人生と同じく不良の道を驀進中だけど、毎日楽しそうなのでなんだか私も嬉しい。彼の頭を撫でると、お返しとばかり私の頬に手を伸ばしてくる。

「じゃあオレの行きたいとこ代わりに付き合って」
「いいよ。どこ?」
「靴屋」
「この間も靴買ってなかったっけ?」
「今回はピンヒール」
「へー。そんなの贈る年上の彼女いたの?」
「そんなんいねーし。オレが履く」
「今日日の不良はピンヒール履くのね。知らなかった…」
「おばさんみたいなこと言うな」

当たらずとも遠からず。

「何足か持ってるけど。履いてるとこ見たことない?」
「ないかも。見たいな。あ、その時は黒龍のトップクもちゃんと着てね。待ち受けにするから」
「いいけど。そういえば前ナマエがオレのトップク着た時の写真待ち受けにしてる」

そう言って私に自分のケータイの待受画面を見せてくる。私がトップク気になると言ったら貸してくれた時のもので、ブカブカでいかにも着られてますって感じが残念すぎる。

「えー、やめてよ。しかもメイクもなんもしてないし」

そう言って青宗のケータイを取り上げて待受を変えようとすると、
「なー」
と隣のソファに座って京都行きのツアーのパンフを黙って見ていたココが急に話しだす。
「何?」
いいツアーでもあったのかと青宗の頭を退けてココの見ているパンフを覗こうとすると、青宗もそれを見ようと私の背後から顔を出して私の頭に顔を乗せてきた。重たい。この幼馴染は本当によくこうして頭を乗せてくる。けどつい可愛くて許してしまうんだよな。はぁうちの幼馴染かわいすぎ。

「あ、これ良くない?」
と一つのツアーを指さすと興味なさげな返事が返ってくる。
「ナマエの好きなのでいい」
「…」

どうせ私たち二人で回ることになるんだからちゃんと見て欲しいのにと咎める気持ちで青宗のほっぺたを摘むと、ココがいきなりそのパンフレットを机に叩きつけた。

え、何。この人コワッ。なんで怒ってんの?


「オマエらじれったいからさっさとくっつけ!」


え、じれったいのは君でしょ?何言ってんの。さっさとくっつけ。






設定

ミョウジナマエ

ココのお隣さん。幼馴染を年上のお姉さんに取られそうになってヤキモチをやく。実際のところ恋愛感情があったのかは微妙。黒歴史となった小、中の思い出はさておき高校で仲良くなった友達の影響でオタクに転身。タイムリープしたので黒歴史をつくらずに少し離れたところから美形ショタ×美人お姉さんを楽しむはずだったのに、ついお節介をしてしまうおばさん(といえど享年24歳)。怪我ばっかりするのはただただ鈍臭いから。頭はいいけど恋愛経験皆無なのでお節介もそこまで役に立っていない模様。
イヌピーは唯一自分をちゃんと叱ってくれる相手で、前の人生ではオタクになっても引かずに仲良くしてくれた貴重な男友達。タイムリープ後ではココ赤を一緒に推進する仲間で、唯一本音を言える相手。たまにドキドキするのはあれよあれ。ショタした勝たんってやつ。
170cm越えの男はショタではない。


九井一

とっくの昔に赤音さんに告白している。答えは「青宗とナマエちゃんが付き合ってからにしよ」。幼馴染二人はだいぶ前からいい感じなのですぐ付き合うと思っていたのに、鈍感力を発揮するナマエについにキれた。

「オマエらが付き合わないとこっちが付き合えねぇんだよ!いい加減にしろこの鈍感!」


乾青宗

平和軸でも真一郎に憧れて不良になる。でも平和軸なので年少に入るほど悪いことはしない。
ナマエのことが好きだけどもう一人の幼馴染のことが好きだと思っているのでずっとクソデカ感情は隠していた。社会人になっても彼氏ができない皐月にそろそろ「オマエに付き合えるのオレくらいだから」と押して付き合う予定だったのにナマエは死亡。ちなみにナマエに彼氏ができないのは彼が裏から工作していたことを彼女は知らない。
タイムリープ後はココのことが好きじゃないと分かったので、ゆっくりアピールする予定。今までのはあくまで無自覚にイチャイチャしているだけ。





後日ナマエとピンヒールを買いに行くと初代黒龍組に偶然出会って、
「おー、青宗。久しぶりだな。一緒にいるのは嫁か?」
「もうすぐなると思う」
「真ちゃん、先越されるんじゃない?」
というやりとりが繰り広げられる。

「…ヨメ?」

ナマエは宇宙を背負う。




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