【悲報】目が覚めたら推しのめんどくさい彼女してるのが無理すぎて別れたい







「グルーシャくん!」
「あんたか…なに?」
「わたしとも写真撮ろ!」
「は?」
「写真!撮りたい!」
「ぼくが写真撮るの好きじゃないの知ってるよね」
「でも」

あの子とは撮ってたじゃん。しかもあんなかわいい感じのポーズで…。わたしとは一枚だって写真を撮ってくれたことないのに。わたしだってグルーシャくんと一緒に撮った写真の一枚や二枚、なんなら百枚くらいほしい。こんな隠し撮りみたいな(というかまごうことなく隠し撮り)の写真じゃなくてツーショットを待ち受けにしたい。

っていうかさっきの、あの子がグルーシャくんのファンかどうかは知らなけど、もしファンだったら死んじゃうくらいのサービスだった気がする。多分わたしだったら死んでた。彼女のわたしよりも挑戦者のトレーナーさんへのサービスがすごいって何?そんな冷たいとこも最高に好きだけど!!



でも…



「ぼくのこおりとかされた」って、なんだったんだろう…。

なんだか胸の奥がざわりとする。わたしが押しかけて付き合ったわけだから実質今だって片想いみたいなものなのはわかってるけど、でも恋人は恋人なわけだし、ここまでずっと一緒にいたんだから。だから大丈夫、だよね?

わたしが悶々と言いたいことを募らせているのに、グルーシャくんは上の空でさっきのバトルを思い出してるのかぶつぶつと呟いている。

なんか、わたしの知ってるグルーシャくんじゃないみたい。

「グルーシャくん」
「…最初のおいかぜが……」
「グルーシャくんってば」

不安が募ってグルーシャくんの名前をしつこく呼べば彼ははぁ、とため息をついた。

「……仕事中なのわかってるだろ?ぼくにはもうこれしかないんだから今はあんたに構ってられない」

そう言った後、冷たいアイスブルーの瞳がわたしを射抜いた。

「わかったらさっさと帰って。あとこれからしばらく忙しくなるから会えないよ」
「え…」


会えないって…。それにしばらくっていつまで?グルーシャくんが連絡くれるまで?でもグルーシャくんから連絡くれたことないじゃん。

なんか急にグルーシャくんが離れていっちゃうみたいな気がして、背を向けて歩き始めたグルーシャくんの後ろ姿を追いかけた。「待って!」って言うつもりだった。でも気がついたらわたしの視界は灰色の空でいっぱいで、あれ?って思った次の瞬間にはわたしは雪に埋もれてた。

どうやら足を滑らせたらしい。今日は散々だ。わたし、何か悪いことしたかな?雪のクッションが体の痛みを和らげてくれたはずなのになぜか頭が割れるように痛い。ひょっとしたらこのまま死ぬのかな、と思った。なぜかと言うと映像が瞼の裏に一気に、まるで早送りをしたDVDのように流れ込んできてそれがまるで死ぬ前に見ると聞く走馬灯みたいだったから。でもその映像はわたしの過去とは違う。それなのにどこか懐かしくて。



あ、れ……………?




これ、わたしだ。でも今のわたしじゃなくて、もっと昔の。多分前世ってやつ。そしてその記憶を紐解いていけば脳が一つの重大な結論を導きだした。


ここ、ポケモンの世界じゃん。


ここは『わたし』が大好きだったゲームの世界だった。ポケットモンスター、略してポケモン。それはゲームだけでなく、アニメ、漫画、カードゲーム、グッズ、カフェなど展開はとどまるところを知らず、世情に明るくない幼児や高齢者でも代表的なキャラクターのピカチュウは知っているくらいの日本が世界に誇るゲームだった。

どういう経緯なのかも、なんで現実を生きてきたわたしがゲームの世界にいるのかも全くわからないけど、どうやらそんなポケモンの世界にわたしは転生したらしい。まさかぁ。そう思って頬をつねってみたらめちゃくちゃ痛かった。っていうかさすがにこれだけの長い期間ポケモンのいる世界で生きてきた記憶があるんだから、それが全て嘘だなんて思えない。

もちろん混乱してるけど、ポケモンの世界に転生したこと自体はめちゃくちゃ嬉しかったりする。pixivでポケモンと生活というタグを日常的に見るくらいポケモンが現実に存在したら嬉しいなってずっと思ってたし。もしポケモンがいたらパートナーポケモンはだれがいいかな、なんてよく考えてた。だから他の人がばっさばっさ死んでいく漫画とかじゃなくてこのポケモンの世界に転生させてくれた神様には感謝しかない。

ないんだけど…。

ここ、パルデア地方なんだ。わたしの推しポケを捕まえにカロスかホウエンあたりにいかなきゃ。あ、そういえば時間軸ってどうなってるのかな。ガラルのドラゴンストームがいる時代ならSNS更新してるだろうしあとで検索してみよ。


なんてしばらく考えることを放棄してたけど、いつまでもそういうわけにもいかない。

「さっむ!!」

どれくらいそうしてたのかはわからない。小一時間雪の中にいたような気がしたけど、起き上がってみると先ほどまで話していた彼はまだすぐそこにいるから本当は一瞬の出来事だったらしい。

それでもナッペ山は寒い。めちゃくちゃ寒い。足の裏にホッカイロ入れたい。今までのわたしよく平気だったな。


……。


これも現実逃避。さっきまでのわたしだってもちろん平気じゃなかった。けど目の前に大好きな人がいたから我慢してたんだよね。


空を映したような水色の髪。クリーム色のフリース。そしてモンスターボールの飾りのついたマフラー。後ろ姿だけでもわかる。今わたしの目の前にいるのはナッペ山ジムリーダーのグルーシャくんに間違いない。

やっぱりわたしはポケモンの世界に転生して来てしまったらしくて、時間が経つにつれて状況が理解できてくると、色んな意味でわたしの体は震えた。

どうしよう。

どうしよう。

するとわたしに背を向けて遠ざかっていたグルーシャくんがこちらを振り返った。そりゃ急に「さっむ!!」なんて聞こえてきたら何事かとは思うよね…。しかも振り向いたらわたしが雪に埋もれてるんだもん。そりゃそのおきれいな顔を歪めますよね。そんな顔、前世のわたし(ゲームの主人公)は見たことなかったなぁ。

「は?」
「あ、あの」
「なにやってんの。風邪ひくからさっさと立って」

そう言って雪に埋もれるわたしの手を掴んでグイッと引き上げてくれた。

優しい!好き!!

「あ、ありがとう…。あの、グルーシャくん、だよね?」
「…頭おかしくなった?」

冷たい!好き!!


前世ではゲームクリア後会えるわけないのに何度もここを訪ねて「グルーシャくんと再戦できないかなー」なんてジム前の雪だるまのまわりをぐるぐると回ってたっけ。転生してもやっぱり好きなタイプは変わらないんだな…。もうお分かりいただけたと思うが、わたしは前世、グルーシャくんの夢女だった。

その夢女のわたしが?二次創作ではなんども彼女になったけど、現実でグルーシャくんの彼女で?しかも彼氏にうざがられるめんどくさい系彼女をやってるときた。

しかもさっきグルーシャくんと写真を撮ってたのはゲーム主人公で、グルーシャくんは主人公と出会って凍てついた心が溶けはじめて前に進み始めるのに。それを邪魔してたとか…。


現実逃避したくなるの、わかってほしい。


「もう早く帰りなよ」


ああ、推しに迷惑かけてる…。やばい。死にたい。自分が彼女なだけでも恐れ多いのに…。こういうのを解釈違いって言うんだ、よくわかった。

「あ、はい…」

わたしがその一言だけなんとか捻り出すとグルーシャくんは一瞬動きを止めた。

「また勝手に機嫌悪くなってるんだったらそういうとこ直した方がいいと思う」
「なおします」

グルーシャくんの言葉で自分がいかに酷い彼女かを再認識させられて、現実が辛すぎてもう目も開けていられない。眉間に皺を寄せながらギュッと目をつぶっているとグルーシャくんがわたしの眉間を人差し指でぐりぐりと押してきた。

「わっ」

押された勢いでわたしが後ろに一歩よろけるとグルーシャくんはまた怪訝な顔をする。

「なんか変」
「エっ」
「あんた気持ち悪い」
「きもちわるい………あの、本当に煩わせてすみませんでした。帰ります…」

これ以上迷惑をかけたくなくてとぼとぼと歩き始めるとグルーシャくんが一つ大きなため息をついてわたしの隣を歩き始めた。

「えっど、どうしました!?」
「負けた」
「え」
「今日のあんたおかしすぎてその辺で野垂れ死にしかねないから仕方なく送ってあげる」
「え」
「ほら、早く行くよ」

そう言ってグルーシャくんはわたしの手を引いて早足で歩き始めた。

わたし、めちゃくちゃグルーシャくんに迷惑かけてる死にたい。



◇◇◇



今世のわたしはチャンプルタウンで一般的なお父さんとお母さんの元、産声を上げた。街の規模の割に美味しい食べ物屋さんが多かったせいか小さい頃からわたしは食べることが大好きで順調におデブ街道まっしぐらだった。それでつけられたあだ名はヨクバリス。きのみをもぐもぐ食べるヨクバリスって可愛いし割と気に入ってたんだけど、アカデミーで人気の男の子が「ヨクバリスって太りすぎだよな」って裏で言っていたのを聞いて、ようやく自分のおかれた状況を理解した。そしてそれなりに年頃になっていたわたしはショックを受けて絶対に痩せてやる!と町から見える白い山へと向かった。スノボは痩せると何かの雑誌に書いてあったのを思い出したからだ。

後から調べたらスノボはあんまり痩せないらしいからそれは誤情報だったんだけど、そこでわたしは運命の人に会ったから誤情報ありがとう!とか思ってた。


その人はレンタルしたボード板を抱えながら雪に足を取られているわたしのすぐ目の前で華麗なトリックを決めた。その日、ナッペ山は珍しいくらいに快晴で彼のあげた雪飛沫はその光を反射してキラキラと輝いていた。

きれい。

その一言に尽きた。雪山も氷の結晶もトリックも、そしてその人も。天国があったらこういうところなのかもしれないと思った。わたしは一瞬で心を奪われてしまって、しばらくその人をぽやっと見つめることしかできなかった。そんなんだから、その人がスノボを止めたあとゴーグルを外したその素顔がひどく不機嫌そうだったことに気が付かなかった。

「こんなとこでなにやってんの」
「…」
「ここはあんたみたいなド素人が来ていいとこじゃない。ぼくがあんたに気がついて避けたからよかったけどぶつかってたらあんたもぼくもタダじゃすまなかったよ」

ぼくのトリックに感謝してよね、なんて高飛車な言い方で怒っている声も、もっと言えば間違えてコースに入っていた自分の犯したミスも、やっぱり頭に入っていなくて、つまり、この時のわたしの頭はぱーんしていた。

「好きです」
「…は?」
「好きです!付き合ってください!」

この時の彼の顔ときたら。本当に嫌そうな顔をしてたから今思い出しても笑っちゃう。そりゃそうだよね、見ず知らずの可愛くもない女に告白されたらね。



彼がグルーシャという名前で、プロのスノーボーダーで、そしてその腕前がパルデアで肩を並べる人がいないほどだって知ったのは、それからすぐだった。わたしの告白を一蹴した後すぐにその場を去った彼がその翌日の夕方、たまたま見ていた『絶対零度トリック、三度目の優勝』という見出しのニュースに出てきたのだ。昨日猛烈に恋をしたその人がテレビに出ているのを見た時は運命かと思った。勘違いにも程がある。

テレビ越しに見る彼は自信に満ちあふれていて、優勝した満足感からか機嫌良さそうに笑っていた。でも本物の方がカッコよかった気がする。だよね?え、もう一度本物を見たいな。

そう思うと止まらなくて、キャスターの人が最後に報道した次に彼が出場する大会の名前をその場で検索して日時を控えた。


そして。


「グルーシャさん!」
「………ああ、あんた、この前の」

もちろんその大会で優勝した彼の勝利インタビューが終わった後、おそらく家に帰ろうとしているところに出くわしたわたしは大声で彼のことを呼び止めた。

「出待ちとかやめてほしいんだけど」
「偶然です!いや、本当は出待ちしてたんですけど、人が多すぎてグルーシャさんの影も形も見えないから別の場所から見えないかと思って歩き回ってたら会えました!」
「…で、なに?」
「わたしナマエと言います!」
「聞いてない」
「告白するなら名前くらい名乗った方がいいかと思って」
「…それがもう告白だって気付いてる?悪いけどそういうのは間に合ってるから」
「えっ、か、彼女さんいらっしゃいますか!?」
「じゃなくて今は女に構ってる時間ない」
「そうなんですね!」
「…何喜んでんの」
「彼女さんいないなら諦めなくていいなって」
「ぼくの話聞いてた?付き合うつもりないって言ってるんだけど」
「もとより長期戦覚悟なので!」
「……はぁ。じゃあ彼女いるって言ったら諦める?」
「どうでしょうか。その時になってみないと」
「じゃあいる」
「うーん…でも勝手に運命感じちゃってるのでまだ諦められそうにないです」
「あんた、よくそんなサムいこと言えるね」


グルーシャくんは呆れ顔で去って行ってしまった。こんなにも呆れられたと言うのに、結局その日自分の目で見た彼はかっこよくて、自信家で、冷たくて。そのどれもがやっぱり好きでその気持ちは抑えきれるものじゃなかった。

そしてわたしは猛アタックを開始した。


スノボの練習のためにナッペ山に通ってグルーシャくんに話しかける。グルーシャくんの出る大会をチェックして応援に行く。そんなわたしのことをグルーシャくんはいつもウザそうにしっしと手を払った。それでも諦められなくて、少しでもグルーシャくんの目に止まるようにダイエットとスノボとおしゃれを頑張った。大好きなマラサダもサンドイッチも、グルーシャくんの顔を思い浮かべると我慢できた。苦手な運動も彼といつか一緒に滑る日を想像したら練習だって死ぬほど頑張れた。それくらい好きだった。



グルーシャくんと話せるだけで幸せだったけど、かといって報われなくてもいいかと聞かれるとそういうわけじゃない。グルーシャくんと仲良くなりたいし、あわよくば彼女になりたい。だからグルーシャくんに敬語やめてって言われたときはものすごく距離が縮んだ気がして飛び上がるくらい嬉しかったっけ。

それは練習を重ねてようやくグルーシャくんがよくいる上級者用のコースにたどり着いた日のことだった。わたしがスノボを通してできた友達と話してた時、ちょうどグルーシャくんが通りかかって、わたしは例のごとくグルーシャくんに飛びついた。

「グルーシャさん!わたしついに上級者コースまでこれました!」
「…ふーん」
「これからはグルーシャさんと一緒のコース滑れます!!」
「それにしてはへたくそすぎて見ててイライラするんだけど」
「えへへ、すみません。頑張ります!」
「えへへ、じゃないよ。まずスタートのタイミングが悪いし、体幹も全然なってない」

その言葉にわたしはびっくりしてしまった。なにがって、グルーシャさんがアドバイスをくれるだなんて思ってなかったし、なによりもグルーシャさんがわたしの滑りを見てくれてたなんて思いもしなかったから。

「はい!」
「こんなことまできといてそんな初歩もできてないとか初心者からやり直せば?」
「はい!」
「…普通こんなこと言われてニコニコしてるやついないと思うけど」
「いやー、まさかグルーシャさんがわたしのこと見てくれてたなんて思いもしなくて。めちゃくちゃ嬉しいです!」
「ばっ、ちがっ、あんたほんと馬鹿だね…!自意識過剰なんじゃないの!?」
「えへへ、ありがとうございます!」
「…あんたと話してるとこっちまでバカになりそう」

グルーシャくんは呆れたように「もういいよ。仕方ないから少しだけ教えてあげる」といつものように大きなため息をついた。

「ええっ!いいんですか!?めちゃくちゃ嬉しいです!!今ならわたしどんなカーブも滑れそうです!!」
「その敬語」
「え?」
「同い年なんだからいつまでも敬語やめてくれない?なんかうっとおしいよ」

うっとおしいがこんなに嬉しい言葉だと思ったことはない。わたしは天にも登る気持ちで「はい!」と敬語で答えてグルーシャくんに「あんたってほんとさぁ」と特大のため息を頂いたのだった。



それからグルーシャくんは本当にたまにだけどアドバイスをくれるようになった。教え方もうまいしアドバイスも的確だからそのおかげでわたしのスノボの技術はぐーんと上がったと思う。そして師匠と弟子というおいしいポジションを生かしてわたしのぐいぐいはさらにエスカレートした。もともとの性格もあるけど懲りずに雑誌で読んだ「恋の秘訣は押してダメなら押してみろ!」を実践するためだった。




「グルーシャくん、好きです!」
「サムい」
「えっ大丈夫!?あったかいお茶でも淹れようか!?」
「あんたのこと言ってるんだけど」
「わたしは寒くないから大丈夫だよ。あ、グルーシャくん甘いの好きだよね!エネココアあるよ!!実はアローラから取り寄せしてね」
「…はぁ」




「グルーシャくん、好きです!」
「ぼくは好きじゃない」
「そっかぁ。じゃあ好きになってもらえるようにがんばるね」
「ならないよ」
「でも未来のことはわかんないし」
「わかる」
「どうして?」
「あんたぼくの好きなタイプじゃない」
「そっかぁ…じゃあタイプになるように努力するね!」
「……はぁ」



そろそろ気づけって思う。脈ないじゃん。それなのにわたしは押せ押せを続けて、その結果ついに。




「グルーシャくん、好きです!」
「……」
「どうしたの?」
「あんたぼくのこと好き好き言ってるけど、ぼくの彼女になりたいわけ?」
「え、な、なれるならなりたいです、けど…」
「けどなに」
「本当にグルーシャくんが彼氏になったら…嬉しくて死んじゃうかも」
「じゃあもう死んだら?」
「え?」
「もうあんたサムすぎて見てられないから付き合ってあげる」
「え、ええ!?ぐ、グルーシャくん!!!」
「何」
「押したもの勝ちって本当なんだね!!!」
「………はぁ。あんたの相手、疲れる」



グルーシャくんの根負けだった。それくらいわたしはしつこかった。でもグルーシャくんがわたしと付き合った本当の理由は女避けのためだったと思う。何度も彼女がいるからと告白を断ってるところを見たことがあるけど、グルーシャくんはいつでもクールで、彼からの愛情表現はほとんどなかったから使われてるんだろうなぁと前世を思い出す前のわたしですら勘付いてた。でもそんな冷たいところも好きだったし、それでもいいからときゃんきゃんとグルーシャくんのまわりをうろちょろし続けて、ごくまれな、それこそ年に一度あるかないかのグルーシャくんからのサービスで自信をつけて彼女面し続けたのである。

ちなみに年に一度のサービスはグルーシャくんがお酒に酔ってわたしのことを「かわいい」と言いながらキスしてくれたことと、グルーシャくんがわたしのおねだりに負けて誕生日に彼の家の合鍵をくれたこと。当時のわたしが死ぬほど喜んでいたのが昨日のことのように思い出される。

あとそれからもう一つ。それはグルーシャくんがナッペ山の大会で大怪我を負って選手生命を絶たれた時のことだ。

怪我をしたあとのグルーシャくんの様子はそれはひどいものだった。何に対しても無気力で、病院の外に広がる雪山をただぼんやりと見つめて、しばらくするとそんなの見たくないと目を背けて「カーテン閉めて」と言う。わたしは落ち込むグルーシャくんになんて言葉をかけたらいいのかわからなくてわかりやすく気を遣った言葉を言い続けてたような気がする。その中には「リハビリ頑張ればいつかは奇跡が起こるかもしれない」なんてグルーシャくんの気持ちを無視したものもあって、ひどく辛そうな顔をしたグルーシャくんを見てわたしはまたやっちゃった、と後悔してた。

それからしばらくして、辛いリハビリを終えて少しずつ元の生活に戻り始めた頃。彼の家に遊びにいったわたしをグルーシャくんはしばらく無表情で見つめていたあと、一言こぼした。

「あんたが好きになったのはスノーボーダーのぼくだろ。もう滑れもしないぼくに構ってどうするの」

フラれるんだなと空気の読めないわたしでもわかった。でもわたしは別れたくなくて必死ににっこりと笑って空気を和ませようとした。

「スノーボードしてるグルーシャくんも好きだけど、いつもの冷たくてたまに優しいグルーシャくんが好きだよ」
「口ではなんとでも言えるよ。実際ぼくが怪我をしたらみんな離れていった」
「でもわたしは離れないよ?じゃなかったら今ここにいないし」
「もう二度と滑れなくても?」
「もちろん!なるわけないじゃん!わたし何回グルーシャくんに告白したと思ってるの?」
「さぁ、忘れた」
「でしょ?それくらい好きなんだよ。今はまだ本調子じゃないけどグルーシャくんなら絶対またやりたいこと見つけられるよ。一緒に探そ?」


グルーシャくんは口をつぐんだ。わたしのその言葉が彼をキレさせたのは間違いなかった。先に断っておくとグルーシャくんはその日とても機嫌が悪かった。後から知ったけどグルーシャくんはその日ずっと彼を支えてくれていたスポンサーに契約を打ち切られたのだ。そして最後に言われた言葉が「君はまだ若いし見た目もいいんだからまたすぐに次にいけるよ」だったらしい。スポンサーの担当者さんと、そしてわたしが、まだ心の傷が癒えてない彼にとどめを刺してしまったのだ。

グルーシャくんは何かに耐えるような顔をしてわたしを睨んだ。

「グルーシャくん?」
「じゃあぼくが何しても嫌いにならないわけ?」
「え?」
「今ここであんたに酷くしても?」

心臓がどくりとした。グルーシャくんがいつもの冷めた目とは違う目でわたしを見ていた。

あ、抱かれるんだ。

そう思うと体が一気にかあっと熱くなった。酔った勢いの一度以外全くそういうことがなかったから(しかもあの時だってキスで終わったし)、こんな状況なのに喜んじゃっててほんとバカ以外のなにものでもない。

がっついてるって思われないように小さく頷くとグルーシャくんがそのままわたしをソファに押し倒した。ソファでするなんて足大丈夫なのかな。まだ完全に良くなってないのに。それに下着が上下揃ってないことを思い出してしまって、「あ!」と声が出た。続けて「あのね」って言い訳をしようとしたのにグルーシャくんは「黙って」と一言だけ言って噛み付くようにキスをした。


グルーシャくんはうざいわたしを突き放そうとしてた。でもなんだかんだ言って冷たくなりきれない彼は酷くすると言う割には優しくて、結局彼の思惑とは違ってこの日の出来事はわたしの忘れられない大切な思い出になってしまった。抱いてくれたのはもちろんだけど、グルーシャくんがこういうときにやつ当たりするのがわたしだったことが嬉しかったんだと思う。



それからしばらく鬱屈としていたグルーシャくんを外に連れ出したのは彼のアルクジラだった。アルクジラがいつも家から抜け出して外に行ってしまうからグルーシャくんは追いかけるように外に出るようになった。前みたいに自信家な一面は無くなったけど、そのままポケモンたちと一緒にいるうちにトレーナーとしての才能を開花させてグルーシャくんはジムリーダーの座を勝ち取った。

結局彼を慰めたのはわたしじゃなくてポケモンたちだった。それなのにわたしはあの時わたしに当たってしまったことを気に病むグルーシャくんにまとわりつき続けて、わたしと別れたかったグルーシャくんの彼女の座を誰にも渡さなかったのだ。



痛い。自分のやってきたことながら痛い。こんな風にグルーシャくんに負い目を感じさせて付き合わせ続けただけでも最低なのに、今度は後のチャンピオンと対戦してようやく前を向こうとしているところをまた邪魔してる。完全にめんどくさい系彼女を地で行き過ぎて死んで詫びたい。でもさすがに死ぬのは怖いし、多分グルーシャくんも死んでほしいとは思ってない、と思う。…たぶん。

でも今更心を入れ替えました!とか、どの面案件。



つまり今のわたしにできることってグルーシャくんと別れて、彼を解放することだけじゃん。




◇◇◇




これからわたしがすること。

その1、会社に異動願いを出すこと。幸いわたしが働く会社は各地方に支社があって人事交流が盛んだから希望すれば割と早めに異動させてもらえると思う。別に異動までしなくていいじゃんと思うかもしれないけど、わたし、思った以上にグルーシャくんのことが好きみたいで、気がつくとグルーシャくんのことを考えてて、気がつくとグルーシャくんに連絡しようとしてて、気がつくとグルーシャくんに会いに行こうとしてる。こわい。前世を思い出したところでグルーシャくんのことが好きなのは変わらないらしい。

それにグルーシャくんがこれからもっと主人公と仲良くなって気を許していくのかと思うと胸が張り裂けそうになる。こんなに迷惑をかけておいてむしのいい話だけど、こればっかりは仕方がない。まあきっとグルーシャくんもわたしの顔なんて見たくないだろうし、お互いにとって物理的に距離を取るのが一番いいんだと思う。ちなみに異動先はガラルを希望する予定だ。わたしの推しポケいるし、SNSでドラゴンストームがバズってたから、せっかくだしダンデvsキバナ戦生で見たい。それにグルーシャくんが現れるまではキバナの女だったわけだし、なにか熱中するものがあればきっとグルーシャくんのことを早く忘れられると思うし。

その2、グルーシャくんの家に置かせてもらってたものを回収しに行くこと。別れた後わたしのものを捨てるという行為をさせるのも申し訳ないから合鍵を持ってる今のうちに。そんなに物も置いてないからきっとグルーシャくんは気がつかないだろうな。

そして最後がグルーシャくんからの連絡を待つこと。一般的に連絡が三ヶ月途切れたらそれは自然消滅だと言っていいらしい。グルーシャくんのことを思うと早く別れた方がいいと思うけど、わたしから別れを告げようとすると泣いてまためんどくさい女になりそうだし。それでひょっとしてなんだかんだ優しいグルーシャくんがわたしへの罪悪感から付き合い続けてくれるってなったら死にたくなるくらい申し訳ないし。多分グルーシャくんから連絡が来ることはないからこのまま自然消滅を狙う。

よし。この流れで行こう。


ちなみにこの流れを考えるのに四日くらいかかった。その間もちろんグルーシャくんから連絡はなかったけど、代わりに新しいチャンピオンが誕生したと言うニュースがパルデア中を沸かせていた。

もうグルーシャくんに会えないと思うと心が破れるくらい辛いけど、同時に少しだけ安堵があった。思い出す前のわたしもやっぱりグルーシャくんに申し訳ないと思ってたんだと思う。その気持ちが前世を思い出させて別れる決意をさせたのかも、なんてのは考え過ぎかもしれないけど、なんにせよ実行は早い方がいい。

まずは異動願い。ありがたいことにローテンションな上司から考え直すように言ってもらえたけど、わたしが頑なに首を振れば最後は「そうですか」と受け取ってもらえた。早くて一ヶ月で異動になるらしい。これで後戻りはできないから、少しでも頭からグルーシャくんをなくすように待受をグルーシャくんからSNSで仕入れたフライゴンとドラゴンストームのツーショットに変えてみた。過去の推しなだけあって顔がいい。さすが顔面600族と言われてただけある。

そしてその足でグルーシャくんの家に。使うのが最後になる合鍵をガチャリと回せばそこは見慣れた部屋が広がっている。数少ない私物を一つ一つ鞄の中に入れるたびに思い出が出てきたじわりと涙が浮かぶ。

何でわたしが泣いてるの!泣きたいのはグルーシャくんでしょうが!そう思うたびにキバナの待ち受けを見て自分を奮い立たせた。「オレ様に会いたいだろ?」とか脳内で勝手にキバナの声で再生させてなんとか最後の一つまでたどり着いた。

おそろいのカップ。無理やりわたしが押し付けたけど、わたしがここにきた時はブツブツ言いながらも使ってくれた。おそろいのカップをグルーシャくんの分だけ置いていくのかいかないのか。それをわたしは相当悩んでしまった。何で持って帰らなかったんだろう。後悔しても遅いよね。



◆◆◆





男って意外と単純なんだよね。会うたびに綺麗になっていく女に好きだと言われ続けたらそれなりに絆されるし、自暴自棄になったときに自分を受け入れてくれた女がいればそいつのこと手放したくないくらい好きになる。

初めて会った時は正直引いてた。ぼくに言い寄ってくる女はたくさんいたけど、さすがに初対面の第一声で告白してくるとか正気の沙汰じゃない。しかも毎日のようにあらわれるし、こっちがサムくなるような台詞を平気で吐くし。

しかもダイエットでスノーボード始めるとか…舐めてんのって思った。別にスポーツやる理由なんて人それぞれなんだから普通なら気にしないけど、ぼくに告白してくるならそれなりであってほしいっていうよくわからないぼくのわがままだった。それで「練習で忙しいからあんたのこと構ってる時間ない。もし話して欲しかったらぼくのいるコースにでも上がってきたら?」なんて意地悪を言った。どうせそんな根性なんてないだろうって思ってた。実際女に構ってる時間なんてなかったし、彼女なんてめんどくさいだけだし。

それなのに「わかりました!頑張りますね!!」と笑ってそれからぼくに会いに来ることなく練習し続けた。次に見たのはナッペ山の中腹でそれなりに上手くなった姿だった。でもぼくからすればまだまだで、心の中で「へっぴり腰」だなんだと文句をつけてあんたを無意識に目で追う自分を誤魔化した。

それから一ヶ月後のことだった。ぼくが三日後に控えた大会の調整のために軽く流していると少し離れたところで話し声が聞こえてきた。もしかしてと思って近づいてみればぼくに気がついて手をぶんぶんと振ってくるあんたがいた。

「あ!グルーシャさん!わたしついに上級者コースまでこれました!」

なんかむかついた。何にむかついたかって言うと、その時隣に男がいたこと。それからへっぴり腰が少し直ってて、フォームがその男のに似てたこと。それからぼくが見惚れるくらい綺麗になってたこと。

「あんたへたくそすぎて見ててイライラするんだけど」

気がついたらそんな憎まれ口が溢れてた。それから直した方がいいと思うところが口から次々に出てきたけど、結局そのどれもその男につけられた癖だった。その男は相手がパルデア王者だと気がついて部が悪いと察したのかさっさとどこかに行った。

ぼくのやつあたりにも気が付かずにニコニコとしながら「いやー、まさかグルーシャさんがわたしのこと見てくれてたなんて思いもしなくて。めちゃくちゃ嬉しいです!」って言われてドキッとした。

ぼくが見てたなんて思われたくなくて酷いことを言ったのにあんたは「えへへ、ありがとうございます!」とまた花みたいにふわりと笑う。

このときは気がついてなかったけどこの時敬語をやめるように言ったのは、あの男に気軽に話すのを見て知らないうちに嫉妬してたからだと思う。

でもまだぼくはそれを自覚してなかったから、しばらくして付き合うようになったのは好きだとか言う気持ちよりも根負けしたって言う方が近い。まあ女避けになるしいいかとも思ったし。

自覚したのはぼくがフリッジタウンに行く用事があったときにあんたが付いてきた日のことだった。用事が終わった後「このお店でご飯食べよ!」と引っ張られて入ったお店で店員に勧められるがまま酒を飲んだ。初めて飲んだけど全然酔わないからこれって本当に酒?って思ったら、目の前でいつもよりもだらしない顔で笑ってたからぼくは酒に酔わないタチだとわかった。

「わたし実はお酒飲むの初めてだった!お酒って美味しいね」
遅くなったから空飛ぶタクシーで帰ることになってそれを待ってると、そうぼくの顔を覗き込んできた。

「ああ。ぼくも初めて」
「え?そうなの?グルーシャくんの初めてもらえて嬉しいな!」

酔ってるからかいつもより頬が紅潮して機嫌良くぼくを見上げてきたその顔を見てたら自然と「かわいい」って言葉が口からついて出た。それが聞こえたらしくて一瞬きょとんとした顔でぼくを見て、そのあとボンッ音が出るくらい一気に顔が赤くなった。

「なっなっえ、どうしたの!?あ、アルクジラのこと!?最高に可愛いよね!」
「いや、あんたのこと」
「へっ!?」
「かわいいよ」

普段言わない言葉が口から出るくらいには酔ってたのかもしれない。でもその言葉を口にすればぼくはすっかりあんたに絆されててもう引き返せないくらいには好きになってることに気がついた。それを聞いた当の本人は真っ赤な顔をしたままずるずるとその場に座り込んで顔を抑えた。

「顔見えないんだけど」
「ごめん、今無理…!」
「悪いけどこっちも無理だから」

そう言って座り込んだあんたの唇を奪った。はじめてのキスは雪の中だったから冷たくて、でも漏れる吐息があたたかくて。あんまり人との接触が好きじゃなかったのにもっとしたいと思ったし、このまま帰したくないとも思った。

それなのにあんたは「限界…!」と呟いてその場で目を回して倒れた。

「ちょっと、大丈夫?」
「だめ…」

雪の中にずっといたせいかそれとも知恵熱かわからないけど、それから三日間高熱でうなされたらしい。ほんと思い通りにいかない女だけど、そういうところもかわいいし、これからいつだってできるんだからぼくたちはぼくたちのペースでゆっくり進めていけばいいと思ってた。


でもそんな日常はあっという間に壊れた。ナッペ山の大会で、ぼくは雪の闇に飲まれた。一瞬のことで何が起こったのか理解できなくて最初は夢かと思ったけど、足の痛みだけが異常にリアルでこれは現実なんだとわかった。

そしてそのままぼくのスノーボーダーとしての命は失われた。

それからは無気力で、でもいつも何かにイライラしてた。うまく動かせない足。目が痛いくらいに眩しい雪山。ぼくを治してくれない医者。それからやたらと励ましてくるあんた。

励まされるたびに惨めな気持ちになった。もうあんたの好きなぼくはいないんだから他のやつみたいにいなくなってくれればいいのに。それなのにぼくが何を言っても離れていかない。だからぼくのことを嫌いにさせようとした。キスだけで目を回すんだからああ言えば嫌いになるだろって思った。なのにぼくの言葉に潤んだ瞳をぼくに向けて小さく頷く姿を見て身体がかっと熱くなるのを感じた。

ああ、もう。ほんと思い通りにならない女。





目が覚めると横に温もりがあった。顔に涙の跡一つでもあれば別れられたのになぜかむにゃむにゃと寝言を言っていて、良く聞けばそれは「マラサダ、たべる」。思わず「は?」って声が出た。しかも寝相も良くなくて何度もその腕がぼくに当たった。四度目はふりまわした腕がぼくの鼻に当たってお返しに鼻を摘んでやればようやく「むぐっ」と起きた。するとさっきまでのはなんだったのか恥ずかしそうに布団を抱きしめながら「お、おはよ。体大丈夫?」なんて言ってきて。その後ぼくは久しぶりに込み上げてきた笑いを堪えるのに必死だった。

もうほんとさ、なんなの?こんなの好きになるし、手放せないよ。


あんたが好きだったぼくはもういないかもしれないけど、また好きになってもらえるように前に進むしかない。それでようやく手にしたジムリーダーの座。最強の名を守り続けるためにやらなきゃいけないことは多いけど、あんたのためだと思えばやれた。

さっきの挑戦者とのバトルはよかった。あそこまできれいに負けると逆にずっと自分に足りないと思ってたものが見えた気がした。ここから這い上がってもっと強くなったら、ようやくあんたの隣に立てるぼくになるになる。たくさん待たせた自覚はある。でも、あと少しだから。



それなのに。



ポケモンリーグに呼びつけられてしばらくテーブルシティに滞在していたら、最終日にあんたの上司に会った。相変わらずトップにこき使われてるらしくてくたびれてたから労いの言葉をかければ首をふるふると振った。

「本当に毎日嫌になります。これで彼女までガラルに転属してしまったらと思うと頭が痛くなります。自分は残業はしたくない派なんですけどね」
「は?」
「知りませんか?おかしいですね。あなたはもう知ってると言ってましたけど」

転属?そんなの聞いてない。しかもガラルって何?

それで問いただそうと急いで帰ればあんたはぼくとおそろいのマグカップをカバンにしまおうとしてる。

ぼくの姿を見て慌てて、そのあと気まずそうに視線を逸らして、それで「別れよ」なんて。ぼくから変わったあんたのスマホの待ち受け画面の男のとこいくわけ?ほんと冗談じゃないよ。あんただけはぼくから離れていかないんじゃなかったの?

さっさと出て行こうとするあんたのマフラーを掴めば首がぐっとしまったのかカエルが潰れたみたいな声を出した。そこでようやくぼくを見て、ぼくがどんな顔をしてるのか知ったらしくて動きを止めた。

「ひっ!ぐ、グルーシャくん、おこってる…?」
「怒ってるように見えるならそうなんじゃない?」

なんでわからないのかわかんないんだけど。ムカついてマフラーを掴む力を少し強くすればあんたは「ごめんなさい!」と頭を下げた。

「死んで詫びたいところなんですがこれだとグルーシャくんが殺人で捕まっちゃうから!わたしナッペ最高峰から身を投げるのでそれで許してもらえませんか!?」

この時のぼくは人生で一番不機嫌な顔をしてたと思う。ぼくと死ぬほど別れたいってこと?

「ぼくのことあんな好き好き言ってたのにそんなこと言うんだ」
「で、でも」
「悪いけど別れないよ」
「…え!?な、なんで!?」
「あんたが好きだからに決まってるでしょ」

そう言うと信じられないという顔をした。

へぇ。ぼくの気持ちずっと疑ってたんだ。「冷たいグルーシャくんが好き」だなんて言い続けるから嫉妬心もどろどろに甘やかしてぼくしか見れないようにしたい気持ちも全部隠してきたのに。それで解らなかったんだったら意味ないよね。でもだからってぼくのこと好きにさせるだけさせてはい、さよならなんて絶対に許さない。

「あんたにぼくの気持ちわからせてやるまでは別れてやんない」

もちろんわからせた後だって別れてやらないけど。






もどる












人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -