text (ぎふと!) | ナノ

本日モ真ニ晴天ナリ。



・雨音さまより、素敵すぎるコラボ小説
・(大和田くん×)ヒロイン中善寺夏希嬢 + 拙宅(風紀)巫女
・名前変換は拙宅巫女のみ






希望ヶ峰学園に在籍する78期生の生徒たちが集う教室のとある一角。
昼休みという憩いの時間を思い思いにすごす中で、特に異質なオーラを放っている光景があった。
かたや亜麻色の髪の毛を―見た目を裏切らない、指通りのいい髪の毛―櫛で梳いてもらい穏やかな微笑を浮かべた、紫水晶の瞳を持った「清楚」という言葉をそのまま体現したかのような小柄な少女。
かたや原宿や池袋などでたむろしていそうな、いかにも「イマドキJK」と称されるような―かといって超高校級のギャル、江ノ島盾子のようなカリスマ的オーラはなく、本当に普通の「女子高生」といったような風体―見た目をした少女。
あまりにも正反対すぎるその組み合わせは、意外な事にこの教室の中では日常的な光景であった。 水蜜桃のような頬を緩ませている少女―超高校級の巫女、有栖川白雪は、よほど楽しいのか機嫌がいいのか鼻歌を歌い出しているほどだ。

―なんがそんな楽しいっちゃが……。

一方で白雪の髪の毛をすいている少女―超高校級の美容師、中善寺夏希はそっと嘆息した。
普段は表に出さないようにしている訛りも、心中でなら誰に何を言われることもない。
確かに自分は―自他共に認める超高校級の髪フェチでもあるから、白雪のような美髪をいじれるのは楽しいし、何より美容師である自分の特権だと自負もしている。
しかし白雪のほうは何が楽しいのか―某エスパーな超高校級のアイドルならば、おそらくわかったのだろうが生憎夏希にそんなスキルはない―夏希には推し量れなかった。

白雪があの髪型にしてほしいこの髪型にしてほしい、というのは唐突であり突然であるのはいつものことで。
それには夏希ももう慣れたものだが(何より役得だし)、他人に髪の毛をいじられる、という行為そのものにおいての楽しみのベクトルとしては―いじる側の―一方通行じゃないのだろうか。
特に、自分のような―いっそ病的といっても過言ではないほどの―髪フェチ相手では。
(そしてその度に某風紀委員の目線が毎回自分に突き刺さるのだが、あえて気づかない振りをするのが懸命だと最近になって学んだ。自ら好き好んで火の粉に飛び込むような冒険心はない)

「ところで、ねぇ、夏希さん」
「んあ…何、引っ張っちゃった?」
「いいえ、いつもどおり丁寧で気持ちの良い梳き方でしてよ?そうではなくてね」

白雪は言葉を止めて、一呼吸溜める。
待つ側の夏希は何を言われるのか、とほんの少し心の中で身構えた。

「最近…あまり夏希さんの方言を聞けなくて寂しいなぁ、と思ったの」
「……は」

唐突に何を、言い出すのだろうかこの巫女様は。
思わず間の抜けた声が出てしまった。
考えてみれば白雪のいうとおり―「こちら」に来たばかりのころよりは自分の地元特有の方言を出すことが少なくなった、と思う。
しかしそれは夏希にとっては良い傾向であったのだが―どうやら白雪にとってはそうではなかったようだ。

「あたし、結構好きでしたのよ?夏希さんの全力の方言」
「…っていわれてもなぁ」
「それに何も恥ずかしい、とか需要がないだなんて、思うことないのに。夏希さんらしくて、とても愛らしくてよ?」
「本当に何を言い出すかなこの巫女様は!!」

―おべっかでも世辞でもなく、心からの本音でこういったことをいうから心臓に悪い。
もちろん、自分にとって方言は生まれたときから慣れ親しんだものであるから、それを褒められて悪い気はしない。
しかしそれ以上に貴方の恋人である風紀委員からのプレッシャーが恐ろしいんです。
どうかお察しください白雪さん。

「あら、あたしだけじゃなくてさやかさんも言っていたのよ?『メジャーじゃないからこそ、需要がどこかにあるかもしれないじゃないですか!!特に夏希ちゃんは見た目のイマドキっぽさとのギャップでいけると思います!!』―って」
「ギャップって何。さやかはあたしにどこに向かって欲しいの。寧ろどこに向かわせたいの」

しかも需要がどこかにあるかもしれないって、どれだけニッチな需要だ。
九州弁、と一口にまとめてしまえばそこそこ知名度はあるが、その中でも地方や県によって別れている。おそらく土佐弁なんかは坂本竜馬の影響もあり相当メジャーではあるが生憎と自分の出身は宮崎県だ。恐らくこの教室にいる人間の中で正確な位置を当てられるものは相当限られてくるだろう。(そもそも九州のどこにどの県があるのかすべてを把握している者自体そうそういないだろうが)

「どやです!」と得意げに―それも輝かしいまでの笑顔で―言い放つ舞園さやかの図が脳内にはっきりと映し出され(想像上とはいえ)その眩さに目眩がしそうになった。

―それに。
時折ふと、考えてしまうことがある。
自分は彼女たちと一緒にいるに足る人間なのだろうか、と。

白雪はいうまでもなく、超高校級の巫女、と言われるだけあり立ち振る舞いや言動、性格、容姿―外面的要素も内面的要素も、とにかく彼女を取り巻く全てのものが『巫女』と言われる所以だと納得させるだけのオーラや説得力がある。
舞園だって、超高校級のアイドル、というだけあって花があるし時折見せる―画面越しじゃなく、ここで見せる素の姿だって、同性である自分から見ても魅力的に感じる。
話題にはでなかったが、超高校級の探偵といわれる霧切響子も、知的な美人だ。普段は冷静極まった表情だが、その表情が時折緩む様こそ、舞園の言うところの魅力的なギャップではないだろうか。
しかし、自分はというと。
超高校級の美容師、とは言われても、実家は地元に根付いた小さな美容院だしましてやそこがアイドルや芸能人のお忍びのスポットになっているというわけでもない。
こちらに来るに当たって、それらしい制服の着方やメイクの仕方を自分なりに学び、こちらで「浮かない」外見を勉強はしたが、やはり「凡人」「普通」というオーラはぬぐい切れない。

3人がどう、というわけではない。
自分にはもったいないくらい魅力的で素敵な友人で、本当に自分は果報者だと思うくらいだ。

―しかし、コンプレックス、というものはどうしたって抱いてしまうもので。
たとえば4人で街を歩いていても、時折「何であの子が混ざってるんだろう」という視線を、空気を。
肌で感じとってしまう。
気にしなければいいだけの話だが、いかんせん、そこまで割り切れるほどの強さを未だ持ち合わせていない。

たとえば私がもっと可愛かったら。
たとえば私がもっと美人だったら。
たとえば私がもっと綺麗だったら。

―そう、考えずにはいられないのだが。

「結局は…ないものねだりだよなぁ」
「?どうかなさって?」
「ううん、ただの独り言」

自分にないからこそ人は欲しがる、とはよく言ったものだ。
そもそもそれだって、心から欲しいと思っているわけじゃなく。
ただ、周囲から糾弾されたり後ろ指を差されたりしない理由が欲しいだけなのだ。

それがわかっているから余計に自分の小ささを思い知って自己嫌悪に陥ってしまう。
まぁ、思春期特有の若者思考、ということでご容赦いただきたいところではあるが。

「ねぇ、夏希さん」
「はいはい今度は何でしょーか」

巫女様ご希望の髪形完成まであと一息、というところで。
鈴の鳴るような声で名前を呼ばれた。(その度に何となくむずがゆい気持ちになるのは内緒)

「あたし、ないものねだりって悪いことじゃないと思うの」
「………え」

何ということだろう。
この巫女様は自分の独り言をしっかりとそのお耳で拾っていたようだった。
思わず手が止まるが―あぁもう、後はシュシュで結べば終わりだというのに!―それに構う様子もなく白雪は言葉を続ける。

「だって、それって『もっと素敵な自分になりたい』っていう気持ちの表れでもあるでしょう?」
「……そん、な、綺麗なもんじゃないと思うけど」
「あら、そうかしら?少なくとも夏希さんの『ないものねだり』はそういうものだとあたしは思っていたのだけれど」
「…どんだけポジティブな受け取り方しちょるん」

世界広しといえど「ないものねだり」という言葉の意味をここまでプラス方向に解釈しえるのは恐らく彼女だけだろう。
それはもう、方言隠しすら忘れてしまうほどの衝撃だった。

「ふふ。どうか誤解のないように聞いて頂戴ね。あたし、そうやってコンプレックスを抱いて悩んで苦悩してる夏希さんの姿は、とっても魅力的で可愛らしいと思ってよ?」
「……白雪、あたしはもう何か何だがさっぱりわからんっちゃが」
「あら、だって等身大の『女の子』って感じがするんだもの。それだけじゃないわ。触れたら柔らかそうな健康的な体つきをなさっているし、時折八重歯を覗かせる笑顔もとっても愛らしいわ。それから」
「だあああああああああ!!なん!?白雪はあたしを恥ずか死にさせるつもりっちゃが!?そんげもどかしなんな!!わやくいやんな!!」
「あらあら、からかっているつもりも冗談を言っているつもりもなくてよ?」

だからこそ余計に性質が悪いのだ。
だからこそ余計に性質が悪いのである。
大切なことなので2度言わせてもらった。
何だったらもう一度くらい言わせてもらいたいくらいだ。
ほめ殺し、というもので人が本当に殺せるのなら、白雪は今頃犯罪者となっている。
(我ながら意味のわからないことを考えているのは重々承知の上だ)

そんな夏希の心情を知ってか知らずか―いや、恐らくわかっているのかもしれない―白雪は言葉を止めない。
それどころか―悪気も悪意もなく畳み掛けてくる。

「そんなあなただからこそ、そんな夏希さんだからこそ―『彼』もあなたを好いているのではなくて?」

もうやめて!!夏希ちゃんのライフは0です!と―。
今この場に舞園がいたらそう叫んでいたかもしれないが、生憎彼女は現在席をはずしている。
普段はストッパーの役割を果たしている夏希だが、現在「羞恥」が彼女の中の臨界点をとっくに超えてしまっているため普段発揮している突っ込みスキルを発動させることさえままならない状態だ。

―それどころか。

「も、も、紋土は関係ねーっちゃがあああああああああ!!」

と―。
自ら墓穴を掘る結果となってしまったのだった。

そしてこの後、夏希とおそろいの髪型にシュシュ―夏希のものは黒猫のチャームがついているが白雪のは白猫のチャーム―をつけている白雪を見た舞園が「私も!私もおそろいしたいです!!」と騒ぎ出し、遠くから見ていた霧切が実にさりげなくその輪の中に混ざり始め、便乗するのも―。

希望ヶ峰学園78期生たちの間では日常茶飯事の出来事なのである。



本日モ真ニ晴天ナリ。
(青春に待ったなんてない)(だったら今を思う存分楽しんで突っ走ろうじゃないか!)





夏希さん抱き締めたい(まがお)

うわあああ雨音さまほんとうにありがとうございました新年早々とんでもないお年玉頂いてしまった今年分の幸運使い果たしたなこれ

うちの巫女ほんとに対おんなのこだとイキイキするよなあ…と実感。それにしたって夏希さん抱き締めたいリアルJK抱き締めたい
確実にこの話の有栖川サンドは夏希さんかわいいトークで盛り上がっているはず こんなかわいい美容師が超高校級じゃないはずがない
寧ろサンドのほうが大和田くんからガン付けられてそうだ…はっ、そのさまを書いてお礼として捧げさせていただけばいいのか! 俺得!

雨音さま有難うございました……! うちの巫女はしあわせものです!



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