text (だんろん部!) | ナノ






「きょう天皇誕生日らしいですよ霧切さん! あんまり普段絡んでないですけど来年はたくさん絡めるといいですよねっ」
「取って付けたように乗っかっていくわね。写真をデコるのはやめなさい」
「あら、PPAP? それとも、えーっと……満満満足?」
「1ピコグラムも擦ってないわよ、ピコ太郎だけに。後者は何よそれ、もしかしてあの話題のアニメ映画かしら。チョコバー混じってるわよチョコバー……白雪も無理しなくていいのよ、今が2016年であることをアピールしたい気持ちは十分伝わっているわ。大丈夫よ、此処は広義の精神と時の部屋なのだから。3年弱ほど間隔が空いているような気はしなくもないけれど大丈夫、そもそも公式が3年制だか5年制だかすら未だ詳らかにしていない希望ヶ峰学園なのだから」
「霧切さんがフォローに回ってるのすうごい新鮮ですよね……」
「うふふ。まあまあ――……ところで、お二人とも本日の格好、とってもお似合いでいらっしゃるわね。あたし思わず見惚れてしまってよ」
「……そうかしら。あまり自分で選んで赤を着ることがないから、わりと新鮮な気持ちよ」
「ですですお似合いですよ! 霧切さん美白だから赤が映えるんですって! ちょっぴりスチームパンク風で辛口のサンタガール、江ノ島さんにお薦めの通販サイト聞いてまで仕入れた甲斐がありました〜! 聖夜のどやです!」
「喧しいわ、ヘラジカは黙っていなさい」
「トナカイですがー?! なんだってサンタさんに合わせてヘラジカ選んでこなきゃいけないんですか! トナカイですが!」
「うふふ、ニットワンピースが愛らしいわねえ。お耳も。その地デジカのお耳、ご自分でお造りになられたので?」
「敢えて主張し続けよう、これはトナカイであると! そうです、あみぐるみの要領でホイホイと。仕事の移動時間とかなにげに捗るんですよね、精神集中にも一役買ってくれて」
「まさか、白雪がこの集いに乗ってくるだけでも驚いたのに律儀に扮装までして来るとはそれこそ夢にも思わなかったわ」
「ですです。シスターさんっぽさもありつつのサンタさんドレス、ケープがほっこりしてて白いもふもふも白雪ちゃんに似合っててかわゆいゆいです! おうちの宗教的にだいじょぶかだけがちょこっと気になりますけど。わたしたちに合わせて無理しちゃってません?」
「とんでもない、寧ろ教団のほうがあたしなんぞよりよっぽど自由なのだから。各支部でも近所の子どもたちを呼んで料理やケーキを振る舞ったりしているし」
「地域に根ざした暴力団か何かなの?」
「もう、響子さんたら。……嗚呼、それにねえ。拙宗の教祖――というか父さまなんて、このシーズンは毎日チキンばかり召し上がっていてよ」
「チキン? あ、宗教上の理由で牛肉が食べれないとかそういう」
「あのねえ、なんならあたし昨日は清多夏さんとふたりでビーフシチュー食べたわよ……というかさやかさんも食べたでしょうに。違うわよ、信者各位の中には学生の皆さまも多くていらしてねえ」
「んう? 学生さんとチキンが何の関係が……あっ」
「この時期、アルバイト先でノルマを課される学生は多いらしいものね。なに、あなたのお父さんは信者のノルマ消化に協力しているの? 教祖なのに?」
「ええ、もう本当にたいへんなのだから。チキンだけじゃないわ、ケーキだとかピザ、変わり種だとお寿司とか仕出し料理なんかまで皆さん多種多様のアルバイトをなさっているのよねえ……支部のパーティーも捗る好循環よ」
「おかしくないかしら、寄付金というかお布施というか、そういうものを受け取る立場の人間が逆に出費かさんでいるって」
「うちはそもそも月々定額以上の寄付金は受け取らないもの。きちんと経理が計上して、余剰にお布施くださった信者のかたへは必ず返金しているわよ」
「白雪ちゃんとこの教団ほんと謎ですよね?! わたしこないだ見ました、希望ヶ峰にも信者さんいますもんね! 予備学科の子が青年部のひとから返金されてました」
「あらあら…活動熱心だこと」
「男の子すうごい抗議してましたよ、『巫女様がたのために必死でバイトしたのにぃ! ちょっとくらい受け取ってくれたっていいじゃないですかああ』って」
「……おかしいでしょう、普通は寧ろ教団側が寄進をむしり取る構図ではないの?」
「いけないわ、それでは彼らが豊かに暮らしてゆかれないでしょう。あたしたち、お金を稼ぐために宗教屋をやっているのではないもの」
「じゃあ何のためなんです?」
「そうねえ、父は常々『俺を数多の神に比肩し得るほどの超すごい存在だと崇めることで皆にパワー的なものが湧いてくるならなんかもうそんな感じでいいと思う。巫女のおまえも同じ同じ。食うなら農業で何とでもなるんだし別に金はいい、ただ褒めてほしい』って仰るわねえ」
「うん、道理で白雪ちゃんのご両親も信者の皆さんも石丸くんに対してなんも怒らないんだなって今すうごい納得しました。マジでマキシマムに納得しました」
「カルトの闇を一切感じない代わりに果てしない頭痛を覚える教義よね」
「んもう、お二人とも手厳しいわ。あなたがたのお友達が巫女さまを務めている宗教よ、意地悪を言ってはいや。まあとにかく、そういうことでクリスマスのお祝い事も自由に楽しんでまったく問題はないの。一日早いけれど、仕方ないわよね」
「さすがにイブと当日はさやかちゃんケツカッチンです。実はこう見えて国民的アイドルグループのセンターマイクですからね。別にお金はいいです、ただ褒めてほしい」
「謹んでお断りするわ。……まあ、つまりそういうことよね。白雪が問題ないならいいのよ。じゃあぼちぼち式次第を消化しましょうか」
「式次第」
「式次第はもう流れ次第ってことでよくないです?」
「誰がうまいこと言えと。私、クリスマスの催事なんて殆ど記憶にないわ。どういうことをすればいいのかしら」
「あら、響子さんご存知ないの? 習慣のないあたしでもおぼろげなりに心得はあるのに」
「……プレゼントと食べ物を用意すればよかったんでしょう、それは忘れてない」
「それだけあれば十分ですって〜! プレゼントはあとで交換しましょう。まずはごはんです!」
「あ、じゃああたしも出すわねえ。うふふ、あす清多夏さんに召しあがっていただくものの試食も兼ねてなのだけれど、お豆腐のサラダと冬野菜のミートラザニア、あとこちらは海鮮パエリアで――……」
「えっ」
「えっ」
「えっ……ゅ、ゆ?! ゆ?!」
「(あ、石丸くんしか平生拝むことを許されないろりろりしい白雪ちゃんだ)」
「ちょっと舞園さん、私が聞いた話と違うじゃない」
「わ、わたしだって想定外ですよう! 白雪ちゃんどうしてそんながんばっちゃったんですかっ」
「んに?!」
「あなたは石丸君に食べさせるぶんだけ頑張ればよかったのよ。当然こう言うからには私も舞園さんも微塵も頑張ってないわよ」
「霧切さん何持ってきました?」
「サラミとチーズ切ったやつ。嗚呼、燻し厚切りベーコンもあるわよ。あと生ハムも」
「んゅ……?!」
「舞園さんは?」
「じゃじゃーん! ホーリーナイトどやです!」
「「 ま さ か の 舟 盛 り 」」
「お頭付きですよ!」
「あ、あらまあ、三人持ち寄ればとっても豪勢ねえ……!」
「白雪、声が裏返っているわよ」
「ってゆか白雪ちゃんが腕によりをかけて作ってくれたお料理を主賓の石丸くんより先に頂いちゃう感じ、これバレたらわたしと霧切さんどうなっちゃうやつですかねこれ……」
「知ったこっちゃないわ、返り討ちよ」
「と、兎に角みんなで戴きましょう! ね! うふふ、それじゃあ…えーと、」
「23日ってメリークリスマスでいいのかしらね」
「天皇陛下おめでとうにします?」
「それもどうなのかしらねえ」
「……いただきます」
「うふふ、そうね。いただきまあす」
「釈然としません! この際さやかちゃんに乾杯でいいですよ!」
「よくないしそもそも乾杯で思い出したけれど飲み物がないわね」
「あ、忘れてました。白雪ちゃーん、いま部室(ココ)の冷蔵庫なにか入ってます?」
「ちょっとお待ちになってねえ。どれどれ……あ、あるわよ」
「どうせなら乾杯に適した炭酸飲料なんていいわよね」
「コラコーラはこないだ苗木くんが遊びにきたときに振る舞っちゃいましたからありませんよってわたしまだ言い終えてもないのに殴るのどうかと思うんですよ霧切さん」
「白雪、何があるの」
「うふふ、あたしが手作りで作り置きしていた冷やし飴がスタンバイしていてよ! ……と、あとはトマトジュースとめんつゆね。響子さんどれにする?」
「実質1択の選択ね」
「(え、霧切さん的に冷やし飴とトマトジュースどっちがアリなんです……?! 食べ合わせ的にわりとどっちもどっちじゃ……)」
「あと舞園さんにはめんつゆでもくれてやって頂戴」
「この年末に敢えて問いたい、果たしてそれが超高校級の"アイドル"に対する仕打ちとして正しいものなのか否か。いま冬の大激論が幕を開ける」
「開けないから安心なさい。ああ白雪、それストレートのつゆだから水で薄めなくて大丈夫よ」
「うわああんいいですもん、この教室から自販機わりと近いですもん! わたしミルクティー買ってきちゃいますもん! ちょっくらひとっ走り行ってきますもん!」
「あ、じゃあ私ジンジャーエール」
「よろしいの? 有難いわあ、あたしホットの焙じ茶がいいわ」
「うわあああああんあとで120円ずつ徴収しますからねえええええええ」
「……あのアイドル帰ってくる前に大トロ全部食べちゃいましょうよ白雪」
「あらあら、もう」



「宴もたけなわではございますがっ」
「……パエリア、持って帰って明日の夕飯にしたいわ。タッパーあるかしら」
「あ、この部室タッパーは豊富にあるわよねえ」
「さやかちゃん、霧切さんと白雪ちゃんにお話聞いてほしいなっ><」
「それにしても白雪は大変ね、明日またこれと同じものを作るのでしょう。もういいじゃない、石丸君はあなたと食べるなら何でも喜ぶんだから適当に松屋とかでテイクアウトして来なさいよ」
「うふふ、そんなわけには。それにしてもさやかさんが用意してくださったお刺身、本当に美味しいわ。あたしもちょっとだけタッパー失礼して、あすのお昼はこれを味噌漬けにしてお茶漬けで軽く済ませちゃいましょう。まあ豪勢だこと」
「聞いてほしいなっ><」
「というか寧ろあなた"を"食べることが彼としてはメインイベントでありメインディッシュでしょう。なんといったかしら、性の六時間?」
「まあ、響子さんたらいけないわ。淑女が斯様なことを口にするものじゃなくてよ――こうしてみんなで色々と持ち寄ったものを少しずつ食べるの、なんだかお祭りごとみたいで楽しいわよねえ」
「というかお祭りごとなのよ。少なくとも日本じゃクリスマスは大抵こうよ」
「あ、あたしが申しているのはあのぅ、オールスター感謝祭の休憩時間みたいな」
「あれ2014年くらいからサンドイッチの配給だけになってちょっと寂しいんですよ……」
「唐突の暴露やめなさい舞園さん。で、話って何よ」
「えええええ霧切さん聞いててスルーしてたんですか?! アイドル滂沱です!」
「あらあら可哀想に……」
「白雪ちゃんはそもそも聞いてなかった感じですよねそれ! ふにー! ……もう、いいですもん。こうなったら不肖・舞園さやかが身を挺して式次第を進めていく覚悟ですとも」
「成程、食事は粗方終わったものね」
「楽しい時間だったわあ、来年もこうして皆で過ごせるといいわねえ」
「ですよですよ! ということで、いよいよプレゼント交換ですっ! じゃーん!」
「事前の共通理解は@値の張らないものA誰に渡っても支障のないものB万一白雪に渡ったものが石丸君の検閲を受けても後々面倒な事態を招かないようなもの……だったかしら」
「え、そんな取り決めがなされていたの?! あたし最初の二つしか存じ上げなくてよ」
「霧切さんのペーパーバッグ、クリスマスカラーなのに大人っぽくてお洒落です! なにが入ってるんだろ…大きさ的にやっぱりアクセサリー? 小物系なのかな」
「さあ、どうかしらね。白雪のはそこそこ大きいわね、なにかタオルやハンカチのようなリネンの類? 娯楽品かしら」
「うふふ、敢えて包装では分かりづらくしたわ。ちょっと言うとこの時期百貨店に並んでいるお歳暮ギフトのようでしょう? さやかさんのは本当にザ・プレゼントといった感じの包装ねえ、ひいらぎのチャームが愛らしいわ」
「じゃあ回していきますか! ぇと、……は! 音楽なんにも用意してないですね」
「歌いなさいよ、ここで歌わずして何がアイドルよ」
「わたしプレゼント交換でお役立ちするために下積みやってきたわけじゃないですからね?! よーし、じゃあ2016年のトレンドに乗っかってあのEDダンスで話題になったアレでも。茂は歳だが役に立つ。農夫を超えてゆけ〜♪」
「そこは持ち歌ではないのね?!」
「タイムリーよね、ちょっと前に皆で踊ったんだったかしら。石丸君が意外にキレたセンスしていて不覚にも噴いたわ、絶対に安住アナウンサー枠だと思っていたのに」
「もしくはPERFECT IDOLやります。みんなでコールしてくださいね、\SA!YA!KA! SAYAKA!/って」
「一人で踊ってちょうだい」
「んもう、響子さんたら。というかそもそも明日に生放送での音楽番組収録を控えたさやかさんの大切な喉をそうそう酷使させられないわ、ちょっと待っていて頂戴、いまクリスマスらしい音源をモバイルで探してみるから」
「(白雪ちゃんまだガラケーだ……)」
「(石丸君ですらそこそこスマホ使いこなしてるのに……)」
「さあ、じゃあキリのいいところでストップしましょうね」

♪〜

「待ちなさい白雪どうしてよりによって稲垣潤一なのよ」
「でも不覚にも歌詞がそこそこプレゼント交換っぽいなって思うと笑えてくるやつですよこれ……と、1番サビ終わりましたしここでストップ、ですかね?」
「開封前に一つだけ確認させなさい。白雪、ちなみに他に候補はなかったの」
「そうねえ、サイレント・イヴかWinter Fallかしら。あ、TRFの『寒い夜だから』もいいわねえ」
「チョイスに年季を感じるうえに突然のラルクに理解が追いつかないわ、白雪」
「旧支配者たちのキャロルでもよかったと思うんですけど」
「流石に食傷気味じゃなくて? 昨今ではずいぶんと市民権を得てきたことですしねえ」
「何の話をしているのあなたたちは……」
「と! いうことで! わーい、わたしは霧切さんのが当たりましたよっ。むむ、大きさのわりに重量がありますねえ……」
「私のこれは…白雪のだったわね。大きさ通りの体積ね、リネンの類ではなさそうかしら」
「さやかさんのプレゼントを戴いたわあ、中身は何かしら。なんだかふかふかしているの、ぬいぐるみさんだったりしても嬉しいわねえ」
「(いま白雪ちゃん、ぬいぐるみ「さん」って言いましたよ)」
「(何度でも言うけれど白雪の素があの幼さだとするならあれに常習的に手を付けている石丸君は相当の変態だと思うわ)」
「じゃあ、わたしから開封しちゃお! じゃーん! ……おああ!」
「文字上で何ら伝わっていないわよ舞園さん、しっかり報告しなさいよ」
「(だ、誰に……?!)」
「ふふー、とーってもすてきなスケジュール手帳です! てんてれてーん! マンスリーの頁と別にデイリーの頁がありますね、1日1ページあるのはすうごい便利なんですってば」
「カバーも素敵ねえ、ニットの模様なのかしら。ワッペンやアップリケがついていてほっこりするわ」
「舞園さんに渡ったのであれば…どうせあなたのことだから仕事用の手帳は既に来年分を購入しているのでしょうし、学校ででも使うといいわ」
「ぜひぜひそうします! 作詞するのに使えそうないいフレーズがひらめいたときとか、小テストの範囲とかを書き込んだり、切り抜きを張り付けてスクラップ帳の代わりにもできちゃいますね。霧切さん、有難うございますっ」
「別にあなたに宛てて選んだわけじゃないわ」
「でもわたしが貰いましたもんー!」
「……そう、ね。じゃあ次は私が開けようかしら、どれどれ――……ってちょっと待ちなさい白雪」
「うん? 如何なさったかしら」
「何よこれ」
「わ! 霧切さんいいな〜、ロイズのチョコレートじゃないですか」
「……ただのチョコレートじゃないでしょう、よく見なさい舞園さん」
「うふふ、斯様なものを選ぶ折には"自分がもらってうれしい"が鉄則なのでしょう?」
「まあ、確かに私なら自分で買わないものだし、斬新ではあるけれど……白雪や舞園さんであれば絵面も映えるでしょうね、ただ私がこれを一人で組み立てているさまって自分で言うのもなんだけれどまあまあシュールだと思うのよ」
「いいじゃないですか、チョコレートのお家! これ、接着もチョコペンでやるからお家まるごとぜーんぶ食べられるんですよ! ロイズさんの本気です!」
「デコレーションセットもお付けしたわ。ホイップやパウダーシュガー、飾り付けの小さなお菓子にドライフルーツとか」
「一人で遊べと?」
「あら、響子さんにはすてきなお父君がおいでじゃない」
「冗談じゃないわ」
「霧切さんにはすてきなお友達もいるじゃないですか、舞園さやかちゃんとか」
「一人で遊ぶわね」
「かなしみ」
「……まあ、たまには童心に帰るのも悪くないかもしれないわね、冬休みだし。有り難う、白雪」
「うふふふ、受け取っていただけなかったら困ってしまうところだったわあ」
「箱の説明書きを読むにかなりの大きさのものが完成しそうなのだけれど、さすがに食べるのは手伝ってもらうからね」
「わーい! そのときは苗木くんとか先輩がたもお呼びしましょうよ」
「あたしも彼にご助力お願いしてみるわねえ」
「(そこまで大がかりに人を呼ばれると今度は私が趣味でお菓子の家を作る女だと誤解を生みそうな気がする……)最後は白雪のぶんよ」
「先回りしてどやですしておきますねっ」
「まあ、楽しみだこと。えーと、……あら、これは大きな、ええと、クッションかしら? あ、とっても肌触りがいいわ! 蕩けるみたい、ふわふわで滑らかで」
「バーバリーチェック柄。舞園さん、あなたらしくないシンプルな選定じゃない」
「ふっふっふー。聞いて驚け、なんとそのクッションはカバーなのです! 白雪ちゃん、中身を引っ張り出してみてください」
「あら、中に何か入っているのね? んしょ、――同じ柄の、これは、……なにかしら、ガウン? にしては肩幅が広いわねえ、謎の功夫ダンスが踊れそうなくらい」
「ボディーガードもできそうね。……本当に肩幅が広いわね、白雪と私が2人掛かりで広げられるくらいだもの。余裕で2人で着られそうだわ」
「ふたりで着るものですもん!」
「え?」
「これは昨今トレンドの『着る毛布』ですよ! しかもカップルサイズです! 白雪ちゃんが当たったなら運命的です、石丸くんと2人で仲良くあったかく使ってくださいねっ」
「……私に当たっていたらどうするつもりだったのよ」
「そのときは当然のように相方ヅラしてわたしが隣に収まるつもりでいましt「白雪、いいものを引き当てたわねおめでとう、そして本当に、本当に有り難う」遺憾の意です!」
「なるほど、片手ずつ使うのね。もう片方は毛布の中」
「中でお手々つないでたらいいですよ。ますますぬくぬくです」
「(確実にいかがわしい展開に持ち込まれそうな気がしてならないのだけれど)」
「(メイン短編で使わせさえしなきゃ大丈夫ですって)」
「(流石にメタが過ぎやしないかしら舞園さん)」
「うふふ、さやかさん本当に有り難う。勿論、仲良く使わせていただくわねえ。ご本を読んだり映画を見たり、この冬はふたりで温かく過ごせそう。あなたのお陰よ」
「……はっ、鎮まりたまえ荒ぶるアイドルの野性」
「いきなりどうしたの」
「ふとわれに返りそうになった自分を抑えていたところです。クリスマス、恋人なし、にもかかわらず恋人持ち向けのプレゼントを物色する常軌を逸した奇行、わたしの目の前で恋人との幸せな冬の夜に思いをはせる友人、しかし忘れてはならない、どうあってもわたしが過ごす冬の夜に恋人の姿はないのであった」
「やめなさい、やめなさい舞園さんやめなさい、その攻撃は私に効くから」
「あすの夜から明けがたに掛けての6時間をわたしはどんな思いでイキキったらいいんですか。イキキレナイですよ」
「翌日も仕事でしょうが普通に寝ていなさいよアイドル」
「(おろおろ)」
「ほら、白雪が困っているから」
「あとは『こうして3人でほのぼのと明かす聖夜の一幕は、いつものようにゆるくまったりと続いていき――』みたいなモノローグでそれっぽくシメればよかったんじゃないのか、って言いたげなお顔ですね! でもそうはいかないんですよ! なにせ気付いてしまいました、ぼっちマスですよぼっちマス! というか78期の男子勢の中で最大のリア充が石丸くんって絶対なんかおかしいでしょう?!」
「そ、そこから仰るの?! もう如何ともし難いのではないのかしら」
「うううかくなるうえは白雪ちゃん、今すぐその着る毛布の中に入ってください! 一緒にわたしが入ります!」
「んに?!」
「白雪ちゃんの着る毛布処女はわたしが奪ってやる!」

「はあ……――舞園さん」

「むーむーむー、なんですか霧切さん」
「これ。白雪からもらったチョコレートハウスだけど、……折角だし明後日にでも組み立てるわ。25日の仕事がおわったらどんなに疲れていようが食堂に来なさい」
「!」
「拒否権はないわよ、手伝わせてあげる」
「!!!! All I Want For Christmas Isゆ「言わせないし図に乗りすぎよ」んむー」
「(゜ω゜*)」
「舞園さん、落ち着いたらそろそろ力尽くで着る毛布に詰め込まれて呆然としている白雪を収穫してちょうだい」
「はあい。白雪ちゃーん、ごめんなさいでした。もうだいじょぶです」
「にぃ……クリスマスこわいよぅ……きよくんたすけて……(めそめそ)」
「クリスマスは寧ろ石丸くんが怖いんじゃないかしらね」
「ですです、なんてったって六時間」
「んにぃいいい」

 こうして3人でぐだぐだと明かす聖夜の前の日の一幕は、いつものように収拾が付かないまま緩慢と続いていき――


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