text (だんろん部!) | ナノ







「じゃーん」
「あら、素敵ね」
「ええ」
「じゃーん!」
「有難うね、さやかさん。それで、これは何かしら」
「そうね、何かしら」
「む、むむー! じゃーん!(心持ちロゴがはっきり見えるように箱揺すりながら)」
「……?」
「何よ、舞園さん」
「ぐすっ…じゃーんって……ゆってるんですから…もっとふたりともワーとかキャーとかゆってくれたっていいじゃないですかああ」
「あ、ああ! そういう振りでいらしたのね?! 御免なさいねさやかさん、まだ中身も分からなかったからいたずらに歓声を挙げるのも如何なものかと思ってしまったのよ」
「というか短い付き合いでも無いのだから舞園さんもいい加減に私と白雪の人物像は把握できていると思っていたのだけど。平生からそんなにはしゃいだりしてないじゃない」
「で、でも! 今年のバレンタインはわたし奮発したんですからっ」
「バレンタインなら先週末に終わったわよ」
「きりぎりさん!!(絶叫) ってゆかこの日に三人でバレンタインしようねっていうのはもともと言い合わせてたことじゃないですかー。……というわけで、気を取り直してはいっ! ダロワイヨのオペラですよ!」
「あら! 名店の銘菓ねえ、お名前だけはお伺いしたことがあったのだけれど実物を頂くのは初めてよ」
「……綺麗、ね」
「残念ながらバレンタイン当日の予約はとれなかったんですけど、こうして約束にはちゃーんと間に合わせたんですから! どやです!」
「うふふ、お手間を取らせてしまって御免なさいね。どうも有難う、謹んで頂戴するわね」
「じゃあ私ももう出そうかしら」
「そうそうっ、霧切さんがどんなスイーツ選んでくるのかわたし楽しみにしてたんですよー」
「あらあら、さやかさんも響子さんもなんだか紙袋からして高級な薫りのものを持っておいでなのねえ」
「一応今日の名目はバレンタインだったみたいだし、舞園さんも白雪もチョコレートに準ずるものを持ってくるだろうと思ったの。それで、敢えてチョコレート以外のものにしてみたのだけれど、」
「……! ふ、ふぁあああああきりぎりさんそれ、それえ……!!」
「さやかさん、アイドルにあるまじき顔になっていらっしゃるわよ――……まあ、こちらもとっても素敵!」
「オンラインショップでは生菓子は頼めないということだったから少し間に合うか不安だったのだけれど、向こうに父が出張していたから丁度買い物を頼めて助かったわ。ミルフィーユ、……適当にインターネットで目に付いたものを求めて来ただけだから評判は分からないの。白雪、これは知っている?」
「響子さん、ご存知なかったの? ナポレオン・パイじゃない」
「ですよですよ! マキシム・ド・パリのナポレオン・パイっていったらすべての女の子の夢じゃないですかー! ふわーわたし幸せですー……!!」
「……ああ、これがそうだったのね。てっきりただのミルフィーユかと」
「うふふっ、まあご存知でなくとも探偵稼業には差し障りないものね。けれど、さやかさんやあたしとお喋りするのであれば覚えておいて頂いて損はないわねえ」
「ですよですよ! スイーツと、喫茶店と、かわいい雑貨屋さんと、ファーストフードと、他にもいろいろ、わたしたちと遊ぶ範囲の事に関してはしっかり把握してくださいねっ。勿論、カラオケのレパートリーも常に更新がマストです!」
「……ふっ、そうね。努力しなくてはね」
「じゃあ早速食べまs「舞園さんも、数学と物理に関してはしっかり勉強しなくちゃいけないと思うわよ」……い、いただきますの前にこころに深刻なダメージが刻まれましたよこれ……あああ」
「待って頂戴、響子さん。未だあたし、お菓子を出していなくってよ」
「うゅ? なーに言ってんですか白雪ちゃんたら、白雪ちゃんは石丸くんに渡すぶんだけ頑張ってくれたらいいんですよーってわたしも霧切さんも前から言っておいたじゃないですか」
「そうよ。いつも白雪からは色々貰っているのだし、今回くらいは一方的に受け取る立場で居なさいよ」
「そんな訳には参りませんもの、あたしとて矜持も催しごとに乗っておきたいミーハー心も持ち合わせているのだから。――とはいえ、申し訳ないのだけれどあたしが思い立ったときには既に大体のチョコレート・ショップはバレンタイン向け製品の販売を〆きってしまっていて。だから、これ」
「……随分大きな紙袋ね。って、…は?」
「わわわ、なんですかこれ、あとからあとからタッパーが! まさか白雪ちゃん、わざわざ作ったんですか?!」
「ええ、……生憎と調理には特別の才があるという訳でもないので、お二人みたく立派なものはご用意出来なかったのだけれど」
「御託はいいわ、早く寄越して頂戴」
「(文字の上だけだとこのうえなく傲慢に見えますけど今の霧切さん、すっごく目がきらきらしてるんですよ皆さん! タッパーすっごい勢いで注視してるんですから!)わー、わー、白雪ちゃん早く開けてください! はよ! はよです!」
「そんなご期待賜るほどのものでも――……はい、つまらないものですが召し上がって頂戴な」
「…ふわー……!」
「ッ…白雪、内輪の集まりに何をこんなに手間掛けて……」

「うわー何だべあれ、有栖川サンドがなんか豪華なパーティーしてるべ」
「舞園ちゃんとか霧切が持ってんのってあれ有名店のヤツだよな? いーなー絶対うめーじゃん」
「有栖川っちのは手作りっぽいべ」
「マジで?! うっわ色々あんじゃん…トリュフに生チョコにブラウニー、あとカップケーキと向こうのはあれか、シフォンケーキ的な?」
「あっちのタッパーにはガトーショコラとフォンダンショコラだね。有栖川さん、昨日ずいぶん長く厨房に居たから何してたのかと思ったら…」
「お、苗木っち。お前さんも苦労してんべなァ」
「べっ別にそんなっ、気にしてないよ?! 他のサイトだったら普通は舞園さんと霧切さんによるボクを巡っての鞘当てが繰り広げられる筈なのになあとか全然そんな気にしてないから!」
「……恵んでやるよ苗木、ほれ。チロル」
「桑田クン…(めそ)」

「どうしたんですかこんなに沢山っ! わー、チョコがけのドライフルーツまである……!」
「うふふ、ちょっとね」
「ちょっとね、で拵えられる量では無いでしょう。説明なさい、白雪」
「本当に何でもなくってよ? ただ、超高校級のアイドルのかたと超高校級の探偵のかたにご満足いただけるバレンタインのギフトって如何様なものかしら、と考えていたら――その、何がお好みかも分からなくて。どれか当たれば御の字、と思って一先ず思いつく限りすべて作ってきてしまったの」
「……」
「……」
「御免なさいね、よくよく考えれば食べきれない量をお渡しするほうがご迷惑だったのよね。どうぞ、お好きなものだけ召し上がって頂ける?」

「舞園さん」
「はい、霧切さん」
「――死んでも食べきるわよ」
「――ふふっ、当然です。というか本望です」

「舞園くん霧切くんッ、何なら僕に分けてくれても構わn「「は?」」――……失敬、申し訳無かった」

「わー! わー! ナポレオン・パイはやっぱり本家マキシムに決まりです。さくさくのパイにカスタードクリームがふあふあでたまりません……!」
「有名なものにはやはりそれだけの理由があるのね。オペラ、美味しいじゃない」
「うふふ、一度に極上のスイーツがふたつも楽しめるだなんて、バレンタインデーって素敵だわあ」
「……でも、」
「そうね、やっぱり」
「? 如何なさったの、お二人とも」



「白雪が私たちの為に作ってきてくれたものが、一番美味しいと思うわ」
「ですよですよ! 美味しいですし、…嬉しいですっ!」

「きゃあ! ……うふふ、有難うね。響子さん、さやかさん」


//20140219

(おい、おかしくねーか)
(なんだべ桑田っち、今更。苗木っちが貰えてない時点で有栖川っちたちにとってのバレンタインっていうのはああいうもんだったんだべ)
(納得いかねー……っつかイインチョ的にはアレって許せるワケ?)
(む? 普通に微笑ましい光景だと思うが。まあ舞園くんには出来ればあと数秒ほどで白雪に抱き着くのを止めて貰いたいが)
(いやいやいやそっちじゃなくてよー)
(まったく問題は無いぞ。僕は僕で今年は既に楽しませて貰ったからな)
(……)
(だから言わんこっちゃないべ、大方あの菓子ひっくるめたもんより甘いイチャつきかたしてたんだべきっと……)
(桑田クン、チロルあげるから元気出してよ)
(バカ苗木、それさっきオレがオメーにやった奴だろうが……)

 ***

バレンタインにはあさかさま宅「Sakusou」のまりんさんと一緒にそれぞれの旦那さまのためにチョコ作りなどしておりました。
余ったものを霧舞に、と思ったらそれを見越した風紀さんが貰ったぶん全部食べちゃったので余らなかった→新しく作り直した という背景があります。オペラとナポレオン・パイは蕗のご贔屓です皆さんぜひ食べるように! 食べるように!!


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