text (だんろん部!) | ナノ







「さあ、節分の儀を執り行いましょうか」
「わーい! このごろ数年、お仕事が忙しくってお父さんと豆まきとかって出来てなかったんですよね…本気でまきますね!」
「舞園さん、豆まきに本気も何も無いと思うわよ」
「響子さん…」
「何? 白雪」
「まきますか? まきませんか?」
「…は? ……ま、きま…す?」
「ええ」
「待ちなさい今の何なのよ」
「はい、落花生」
「福豆って普通は炒り大豆ではないの? しっかりしなさいよあなた巫女なんだから」
「わーい! 今年の豆まきはオットセイですね!」
「まけるものならまいてみなさいよ、久々の部活でちょっとテンション上がりすぎでしょう舞園さん……」
「あら、限定的な地域なんかでは節分の豆まきに落花生をまくのが慣例的だったりするんでしてよ? 拾いやすいからっていう合理的な理由が目下ではあるみたいだけれど」
「中にふたつくらい入ってるから歳の数÷2で拾えばいいんですよね、雪肌精!」
「(どうしてPCで一発変換出来たのかしら雪肌精…)私はスキンケアなら雪肌精より肌美精派なのだけど」
「あ、響子さんそれ切実分かるわあ…あの拭き取りローション、さっぱりして良い感じなのよねえ」
「ちなみにわたしは雪肌精を出しておいて何なのですがスキンケアはオーキデ・アンペリアルです。どやです!」
「「はあ?! 最高級ブランド?!」」
「…恐れ入ったわ、これが国民的アイドルを形作る礎なのね……」
「あたし、いま使ってる肌美精、Tポイントで払ったわ」
「庶民的でいいじゃない……私だってnanacoのポイントが期限切れそうだったからそれで払ったもの」
「むー…わたし話についてけないです。っていうか違いますよぅ、ゲランはファンのかたからの贈り物ですもnいったぁ?!」
「――ゼロ距離よ、外さないわ」
「ふええ霧切さん酷いじゃないですかあ! 落花生構えながら恰好付けたって決まりませんってえ!」
「うふふ、美貌が憎いわあ」
「白雪ちゃんまで?! 嘘でしょう絶対思ってないですよね単純にわたしを鬼役に仕立て上げたいだけじゃないですかあぁ! ふわあああん!」
「嗚呼、舞園さん。これをあげるわ」
「うう…なんですか、霧切さん。これ」

「お面」

「わああああああん!! うわあああああん!!!」
「まあまあ」
「ううっ…(めそ)白雪ちゃあん……」
「顔には当てないから安心なさいな」
「アイエエエエエ?! 巫女?! 巫女ナンデ?!」
「アイドル滅すべし。慈悲は無い」
「おかしいですって! 霧切さんも白雪ちゃんも超高校級の美少女じゃないですかあ! 同じ穴にフェレットとタヌキですって! 同じ穴のラクーンですってえぇ!!」
「あらあら、あたしのラッカセイ・トウテキ・ジツから逃れられると思って頂いては困るわ? 沢山撃つと実際当たりやすいのよ」
「なっ……ななっっ……そ、其処まで言われてしまえばわたしにだって意地があります! ――女・舞園さやか! 真のアイドルはこんなところでへこたれたりしないんですっ、環境に文句を言う奴に晴れ舞台は一生来ませんから、キューソーは猫を噛んだら殺すんですからっ!」
「ふふ、そう来なくちゃ面白くないわ。今のうちに俳句を呼んでおかなくていいの? 介錯してあげるけれど」
「――そうですね、まあ勝つのはわたしでしょうけど折角ですから詠みましょうか。……ネズミは二度噛めばライオンをも殺す。すなわちアナフィキラシー・ショックなり」
「まあ、ポエット! 平安ハイクと近代医学を融合させた見事な比喩ね!」
「それでは尋常に勝負しましょうk「君たちッ!!!!!!!!!」」

「あ」
「あら」
「あー」
「(白雪可愛い)」
「……ドーモ、石丸=サン」
「ドーモ、舞園=サン。オジャマシマス! ――じゃなくて! 何をしているのだね神聖なる部室でッ!」
「なにって、いやだわ清多夏さんたら。節分の豆まきに決まっているじゃない」
「いや決まっていないぞ、三人が適度に緊張感を孕み距離感を維持しながら両手に落花生を持ってじりじりと投擲体勢に移りつつあるこの光景を『節分の豆まき』などと牧歌的な表現で括るのは些か暴論だと僕は考える」
「――清多夏さん、」
「な、なんだね」
「今日は二月三日。二月三日に行われる年中行事といえば豆まき。若者が楽しく豆を持って集っている時点で此処で行われている催しごとは豆まき以外の何物でも在り得ない。宜しくて?」
「アッハイ」
「ん、物分かりが良くて結構。これあげるから寮に帰っていらして」
「恵方巻きね。白雪、わざわざ作っていたの?」
「(無駄に太くて長い…僕の口からこう言うのもなんだが、これは明らかにシチュエーションの選択ミスなのではないか? 僕の前で白雪が無防備にこれを咥えて僕が悶々とする、そんなショート・ショートを「風紀巫女っCHU!」のほうで展開すればアクセス数が稼げたのではないか? 僕が帰寮して一人でこれを本日の夕飯とする過程において誰が得をするというんだ? 僕か? 白雪の手料理が美味くない訳がないものな? ん? 僕がおかしいのか?)」
「あー白雪ちゃんの恵方巻き! いいなあ、残り物にフクスケって感じですねー」
「もう僕は突っ込まないぞ舞園くん……」
「わかってますよ、石丸くんが突っ込むのは白雪ちゃんにだけですもんね?」
「ニィイイイイーッ!」
「……よりによってどうして今その忍殺語を選択してきたの石丸くん…不意打ちは卑怯よ……」
「むー、別にそういう意味で言ったんじゃないのにー。聞きしにまさるムッツリですね、流石です」
「ところで、豆…未だにひとつしかまけてないけれど宜しいの?」
「私が舞園さんにぶつけたぶんだけだものね」
「適当にまいておきましょうか。あ、石丸くんもまいていきません? どうせ暇ですよね?」
「舞園くんは僕を何だと思っているんだね」
「白雪ちゃんの旦那さまですよね?」
「そうだとも!(*・▽・)**」
「(一気にご機嫌になったわね)…さあ、じゃあ各々部室のそこらここらに軽くまいておいて頂戴」
「(チョロいもんです。ベイビー・サブミッションですよ)はーい」
「あ、棚の下とかに入ってしまわないよう気を付けたほうが宜しくてよ。回収するときたいへんだものね」
「わ、わー、見てください白雪ちゃん! カーテンにひっつきましたよ!」
「あら…珍しいこともあったものね」
「鬼はー外、福はー内」
「むむー、それじゃ面白くないですよ。鬼も呼びましょう」
「節分の意義とは何なのだろうか」
「うるさいですよ石丸くん、あとで好きなだけ白雪ちゃんに恵方巻き頬張らせたらいいじゃないですか!」
「ついでにスキンケアもしてあげたらいいわ、肌美精よりローコストで良さそうな化粧水もあるでしょう。乳液かしら?」
「あらあら、さやかさんも響子さんも少々飛ばし過ぎでしてよ?」
「君たちッ! スゴイ・シツレイではないかッ、どう考えても君たちがこの文脈でそれを健全なニュアンスで口にしているとは思えないぞ!」
「そして白雪ちゃんとじっくり豆を回収しちゃってくださいよ、エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!」
「舞園くんは自分の立場と自分のポジションをもう少し慮りたまえ!」
「白雪と、…というか、白雪、”の”?」
「霧切くんに制止までは期待していないがせめて平生のように黙っておいて頂けないだろうか?!」
「あら、イヌの学名ってカニス・ルプス・ファミリアスっていうのね! うふふ、面白いわ」
「脈絡も何もないのはいつものことだと心得ているがせめてもう少し『実は照れ隠しなのだろう? まったく可愛らしいことだ』と僕が錯覚できる程度には思わせぶりな反応パターンが他に幾らでもあったのではないかね白雪……ッ!」



「……はい、拾っておいたからみんなで食べてね」
「あっ、苗木くん居たんですね!」
「ずっと居たよ…居たことを後悔するくらい最初のほうから居たよ……」
「有難う。きっと苗木君ならそうしてくれると信じていたのよ」
「すごい、ボク今初めて霧切さんの言葉の裏に潜む明らかな嘘に気付けてるよ」
「ねえ苗木さんご存知でいらした? モンドセレクションって絶対評価だから審査料を払って一定の基準を満たせば入賞できるらしいわよ」
「うん、有栖川さんはボクにどの方向からのリアクションを期待してるの?」
「苗木先生……」
「はいはい泣かないの石丸クン一緒に帰ろうねー」
「僕が今夜したかったことを全部暴露されてしまった…ここからどうやって白雪を部屋に誘えばいいというのだッ……」
「舞園さん霧切さん、石丸クンが鬼やってくれるって言ってるよー」


//20140203



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