text (おあそび) | ナノ



マジカルアイドルさやかちゃん!!


「きりぎりさん!!!」
「がっ……やってくれたじゃない、覚悟はいいかしら」
「あらあら響子さんたら、じゃれて飛びついていらしただけじゃない。いつも通り」
「覚悟ですか?! いつでもどうぞです!」
「さやかさんが乗り気でおられるなら問題はないかしらねえ」
「良い度胸ね、今日こそ息の根を止めてあげるわ」
「そんな終わり方も有りっちゃ有りですね! ……っと、いけない」
「……、」
「完全にヒいちゃってるじゃないですか、そこのひと。えへへ、ごめんなさい。ついいつもの気で」
「石丸さん、大丈夫?」
「はっ……否、失礼、大丈夫…だ、問題ない」
「驚くのも無理ないわよね、唐突に色々な意味で目に痛い装束を纏った女が目の前で住人に突撃するのだもの。呆れてものも言えなくなるのは当然よ」
「霧切さんひどくないですか?! 痛くないですもん、お父さんだって可愛いねって言ってくれますっ」
「ええと…石丸さん、彼女も町の子よ。舞園さやかさん。お仕事は、」
「マジカルアイドルです! どやです!」
「ッ?!」
「……冗談よ、ごめんなさいね。彼女のおうちは町の皆が毎日集まるお風呂屋さん。石丸さん、お住まいのおうちにも勿論お風呂はついているのだけれど、もう少しここでの生活に慣れたら是非そちらまで足を延ばしてみて頂戴ね。広いし、いつも誰かしらが集ってお喋りしているからとても楽しいわ」
「はあ……(魔法少女……?)」
「むー、マジカルアイドルさやかちゃんですもん」
「しつこいわよ舞園さん。……とはいえ、半分は当たらずとも遠からず、なのかしらね」
「! でしょ?! えへへ、町一番の照明魔法の使い手ですからっ」
「そっちじゃないわ。白雪、不本意だけれどついでだし彼女についてもう一つ紹介してあげて頂戴。私は面倒だからパス」
「もう、少しはさやかさんに優しくして差し上げて頂戴よ。――石丸さん、やっぱりさやかさんのこともよくお分かりでない? どこかで見た覚えは?」
「え? え? ……済まない、まったく分からない」
「とくにダメージなしです! 女の子に言われてたらショックですけど!」
「私も生憎とそこの顔に覚えはないわ。お揃いね石丸君」
「霧切さんが見え透いた嘘を言います! ショックでアイドル三日ほど寝込みそうです!」
「うふふ、おふたりともじゃれ合いはもう少しだけ待っていてくださるかしら? ――あのね石丸さん、さやかさんはこの町出身の高名なパフォーマーでもあらせられるの」
「…ふむ。というと、歌ったり踊ったりということかね」
「ええ。国じゅうからお呼びが掛かるし、実はこの町にもしょっちゅう取材の方がいらっしゃるわ、大抵お写真を撮ってインタビューをしたあとはお風呂に入って海の家で日向さんにお魚を分けていただいたあとに食堂で定食にしてもらったものを召し上がって帰られるけれど」
「(楽しい取材旅行だな……?)は、はあ。成程、アイドルの肩書に偽りはないのですね」
「そうなの。さきほどご本人が仰せだったけれど町の住人の方々の中でも稀有な魔力持ちでおられるし、実のところマジカルアイドルであることは確かなのよ」
「なのです! ふふー!」
「そのドヤ顔をやめなさい。……白雪、今日の此処の出荷高って貴方でなく石丸君に渡せばいいのかしら」
「ええ、今日からは彼のほうへお願い」
「じゃあ、これ」
「?! きのこ一株でこの額を戴けるのですか?!」
「この土地、何の加護を受けているのやら知れないけれど土壌が異様に肥沃なのよ。おおかた白雪が説明しているとは思うけど、何か採れたら取り敢えず入れておくといいわ」
「ですです。農産物も酪農品も、鉱石なんかもこの町で採れたものは高く買ってもらえちゃうんですよ」
「、ということなの。とはいえ当座その額だけでも、今から花村さんの食堂でお夕飯をいただいて、田中さんのところで明日の朝食のためのミルクと卵を調達するには十分ね」
「嗚呼、石丸君のことならさっき父が町長と話して町に便宜を図るよう言っているわ。まあ頼まずとも皆その気だったようだけど」
「?!」
「…何? ああ、私の父が町内会の代表なのよ。雑貨屋だしあとで寄れば会えるわ」
「そ、そうではなく」
「お金のことです? 正直あんまりこの町では必要ないんですよね、食べるのには困らないですし何だかんだでみんなお世話好きですから。海の家の日向さんなんて最近また新しい居候さんを受け入れてました。静養しに行った先の村が不運にもモンスターに壊滅させられちゃったーって人らしくて」
「はあ?!」
「よくある話です。だいじょぶです、この町の人たちは強いですからねっ」
「(どこから突っ込めばいいんだ…)」
「石丸くん記憶喪失なんでしたっけ、あんまり深く考えないでまったり暮らしてみてくださいね。おすすめはツッコミより先に農耕のスキルを磨くことです」
「なッ?! え、あ、なぜ僕が今考えていたことを」
「マジカルアイドルですから」
「石丸君、私たちにも堅苦しくなくていいわよ。そこの風呂屋に畏まる必要なんてないわ」
「遺憾の意です! なーんて。でもほんと、楽にしちゃってください。石丸くんと同年代の男の子も町にはいますし、きっとお友だちになれますよ」
「……そ、うだろうか」
「そういえば苗木さんが楽しみにしておられたわ。彼も赴任していらしたばかりだものねえ」
「白雪、石丸君の着替えは誰から手配したの?」
「苗木さんのでもよかったのだけれど少々手狭かと思って…宗方さんにお願いしたわ」
「あー、宿屋さんによくいる学者さんですか」
「――まあ、そういうことだから。私たちとも今後宜しく、石丸君」
「ですです、仲良くしてくださいねっ」
「はい……ではないな、ええと、――……此方こそ宜しくお願いする。霧切くん、舞園くん」


//20161029

「白雪さん、これから挨拶周りをする折にこの衣服を貸してくださった方も礼を言えるだろうか」
「ええ、宿屋にも忘れず参りましょうね」
「(あれ、なんで白雪ちゃんだけナチュラルに名前呼びです?)」
「(深く考えなくていいわよ舞園さん、大方そういう事でしょうよ)」

すでにフラグどころかルートが決まっているもよう