text (おあそび) | ナノ


 今日は冷えるからきみも早めに帰寮するのだぞ、と教室内部に一声掛けてから出てきた清多夏さんへ、帰り道をゆきがてら確かなものの存在の是非について問うてみた。

「…ん、不勉強で申し訳ない、『ルバイヤート』は読んでいないな。ウマル・ハイヤーム、名前は知っているけれど生憎と詩については門外漢なんだ……」
「日本古来の概念で言うのであれば、"色即是空"。確かなものなんて無い、なんて考えたら少し怖くなってしまったの」
「――成程、否、僕は怖いとは思わないな」

 形のあるものがすべて空だというのであれば、物質としての形を持たずただそこにあるもの――たとえば愛などは、疑いようもなく確かなものだということではないか。

 超高校級の求道者、などが居たら顔を真っ赤にして殴りかかってきそうな突飛な解釈ではあったが、彼が真顔で繰り出してきたその言葉に、あたしは深く安堵したのだった。
 彼が確かだと信じているものなら、あたしもきっと心から信じよう。

 ところで何の話だね、と真剣な面持ちで首を傾げた清多夏さんには、青春のきらめきについて少しね、とアルカイック・スマイルを以てお返しした。



















 きみにとって、僕の愛はその実体を疑い得るものなのか。
 時の流れとともに色褪せてしまう、熱を冷ましてしまう、その程度のものだと高を括られているのか。
 ――ずいぶんと、甘く見られているようだ。

 僕にとっては、白雪、きみの存在が絶対的なものであるのと同じく、きみが僕の傍に居ることもまた決定事項なのだ。
 一過性のものでなく、それはこのさき何処までも変わらない事項。



 きみが何処まで離れていこうと、きみは僕のもので在り続けてくれる。
 白雪。きみが言い出してくれたことだろう?


 たとえきみがそれを疑い、本当は其処にないのだと断じたとしても、――もう、逃がせない。
 きみが望むと望まずと、もう、逃がしてやれない。


//ほんとはしっかり聞いていた石丸くん。基本的に[ Tg ]の風紀さんは素でヤンデレです表沙汰で問題になってないだけで