text(5☆) | ナノ

 ハルマキがキッチンを爆発させた。

 ……いや、ウソじゃねえっつーの。マジもマジ、大マジ。物理的に爆発させたの。――あ? なんの話してんだって? バカヤロー、わざわざ人様のバレンタインの話しやがれっつったのはテメーだろうが! そうだ、バレンタインの話だ。バレンタインにハルマキがキッチン爆発させたんだよ。

 っつうのもよ、まあなんつーか……まあ、一応ほら、オレとあいつ……あー…そういうアレだしよ。オレからたかったわけじゃねえんだが、あいつも何だかんだで義理堅ぇっつうか情が深いつうか、まあ自然と何かしら作ってくれるような流れになってたんだわ――……そこで思い出してほしいんだけどよ、基本的にあいつ料理って普段しねーんだよ。生まれが孤児院で肩書きもああだ、ガキどもに作ってやってたんだろうってよく思われてるみてえなんだが、基本的にメシ関係は調理師の人がやってたんだと。だからあいつ、それこそガッコの調理実習やなんか以外じゃエプロンすら着けたことねえのな。そのわりにメシはしっかり食いたがるのがなんつーかガキかよオメーって時々思っちまうとこだわな、そこがハルマキの可愛いトコでもあんだけどよ!
 んで、何だったっけか……そうそう、それで当日の昼、東条は夢野やら茶柱やらに頼られまくってて珍しく手一杯だったみてえでよ、ハルマキは早速孤立無援のピンチだったんだと。ん? 赤松はどうしたって? 言わせんなよなオメー、とっくに終一と二人してどっかに消えてたから困ったっつう話なんだっつの! 何ならもう直接オレに声かけてくれりゃ二人で台所に並ぶっつうのも面白かったかもしれねえのにな。アストロケーキのチョコレートソース掛けとかちょっと美味そうじゃねーか? ってまあそれは措いて、だな。

 ……まあ、さっきああ言った手前、フォローみてえな感じにはなるんだけどよ。あんま料理はしねえつってたハルマキも、とはいえ全く、少しも、これっぽっちもしてこなかったってわけじゃねえんだ。最近オレも人手が足りねえやらガキが遊びたがってるやらでよくハルマキに引っ張られてあいつんとこの孤児院に行くんだけどよ、マジでときどーーーきってレベルなんだが、あいつやっぱり時々おやつくらいは作ってやってるっぽいんだわ。一番よく絡んでくる小2のボウズから訊いた。
 風邪っぴきのガキに擦り林檎作ってやりゃあ大量の皮が混ざるわパンケーキに動物柄の焼き目をつけてやろうとすりゃあ年少組が揃って泣くわで腕前のほうはカワイイもんだって言ってやがったけどな、それでも素朴で美味えんだと。なんか想像すると和むわな。料理するときはあのフレンチクルーラー外して後ろでクッソ適当に髪纏めんだと。ちょっと見てみてえよな…オレも見たことねえの。は?! 赤松オメー抜け駆けってどういう事だなんッでオレより先に見てんだよ! あ? 続き話せって? ったくよお……なんだったかな、それで目下ガキどもの中で人気ナンバーワンはくるみ炒ってきなこと絡めたやつなんだと。まあ間違いねえよな、美味えしなんとなく和風系の菓子ってハルマキのイメージっぽいしな。あいつバレンタイン云々とか言う前に先ず普段からそういうのオレにくれよって感じだわな。蹴りとか手刀よかそっちのがよっぽどクる。まあ別にいいんだけどよ――……そんで、まあ前置きは長くなっちまったんだが、そんなこんなでハルマキがオレに何作ろうかっつうのは其処に端を発したんだと。春川容疑者は取り調べに対して「私はただ日付にちなんで応用してみただけだ」とモノクマ署で供述してた。

 そう、バレンタインなんだわ。作り慣れた菓子をチョコ使ってアレンジする方向なら失敗しないんじゃね?ってハルマキは思ったらしい。この発想に思い至るまであいつ、幾つか試しに色んなもん作って玉砕してやがったらしいんだよな……あ、こういうのは全部「事件」が起こってから明らかになったんだがよ。水くせーっつうのな、その過程でオレを呼べっての。あいつ最近オレと…その、むにゃむにゃ……なったからって忘れてやがんじゃねーだろうな、今でもオレはボスであいつは助手なんだかんな。助けが要るなら呼びゃいいだろうがって……乙女心ぉお? ハルマキに? 乙女心ぉおおお? あんのかねー本当に。いや、だとしてもやっぱりオレを呼べよな! なーんも口出ししなきゃいいんだろうがよ、失敗作だろうが何だろうが食えりゃ栄養だっつの。っつか何が腹立つってオレは一回も鉢合えなかったのによりにもよって終一がいっぺん試食させられたっつうのが納得いかねー。あ? 食えるもんしか入ってねえはずなのに4階の廊下みたいな模様になってた? ……………………、やっぱ持つべきもんはよくできた助手だぜ終一、オレはオメーを信じてた。オレの代わりに働いてくれたんだな、オメーはオレの誇りだぜ!
 ……で、まあ、結論から言うとあいつが今回作ろうとしてくれてたのが何だったかっつうとまあ、きな粉をチョコレートソースに置き換えたやつだったんだわ。しかも――ハルマキちゃんはなあ、どーにもオレとの先日のそのー、最初の……あー、デート的なその、あれがいたく思い出深かったみてーでな、――映画だったんだけどよ、飲みもんは別々に買ったんだけどポップコーンだけはでけーの一つ買って二人で一緒に食ったんだわ。オレは別に普通のことだと思ってたんだがあいつにとっちゃあ、うん、……そういうわけでな、あいつ、くるみじゃなくてポップコーンにチョコレートソース絡めようって思ったんだと。……ああ、うん、オメーらに言われずともオレも思う。可愛いよな、あいつな、そゆとこ。ただな、



 ポップコーンは市販のを使うべきだったんじゃねえかなって。



 変なとこ、変なとこあいつ完璧主義で……! なんで自分がさして料理得意じゃねえって自覚まではできてて敢えてちゃんと粒からポップコーン作ろうと思っちゃったんだよあいつ……! しかも粒の状態だと分量とかどれくらいって分かんねえだろ、それで――ああそうだ終一、ちょうどすべてが終わった後にキッチンに駆け付けたオレたちの顔色もそんくらい蒼白だったぜ……
 夏休みに孫が遊びに来たじーちゃんばーちゃんかよってくらいによ、とにかく量がありゃオレが喜ぶって思ったんだろうよ、純粋でただただオレを好きでいてくれる可愛い可愛いうちのハルマキはな……業務用のえぐい量の爆裂種をぜんぶフライパンに流し込んでくれちゃってだな――……おさまらねえなら被せるくらいで大丈夫だろって手前勝手な判断でうっすい軽いフタをその上に……うん、……赤松、耳塞がねえで大丈夫だぜ。ちなみにそのときオレらには耳を塞ぐ猶予なんざ与えられなかった。

 オレはあの日初めてハルマキが物理で誰かに後れを取る姿を見た。瞬く間に東条に正座固めされてSEKKYOU受けてた。あいつあんな殊勝な表情できたんだなって思った。居合わせた星やら白銀やら真宮寺やらが片づけさせられてた。
 当のオレは食堂のほうで天海とジェンガしてたんだけどよ、校舎崩れんじゃねえかってレベルの爆音が厨房からするもんだからもービビっちまって天海のターンだったのにオレがジェンガ崩しちまってな……。珍しく自分発のハプニングじゃなかったもんだから王馬も若干ビビってっし夢野は聞かれてもねーのに「チビっとらんわ!!」って必死だしキーボは物理的ショックで一瞬バグりかけるしで食堂もひっちゃかめっちゃかでな……ピーチクパーチク騒ぐちっちゃいものクラブをまとめて天海が面倒見てくれるっていうんで厨房に行けたのは大地獄が地獄くれえにまで落ち着いてからだったんだわ。いやー面白かったぜ、ちょうど爆心地に居合わせたせいでチョコまみれになってる星、いつも王馬にやってるアレを完コピしてハルマキに対応してる東条、(´・ω・)みてーな顔になってるハルマキ、両手いっぱいポップコーンの真宮寺と白銀。面白かったけどもうオレが入ってきた瞬間そいつらみんなオレのこと見るんだわ。だってもうさ、目がさ、モーレツに訴えかけてくんだぜ。「ちゃんと監督してろよテメーの領分だろうが!!!」って。特に東条マジ怖え。

 そんでさ、なんかもう(´・ω・)通り越して(´;ω;)になりつつあるハルマキに遅ればせながら「おー、みんなしていい匂いさせてんじゃねえか」って声掛けたんだわオレ。ヤ、だってもう茶化すしかねーじゃねえか! やっちまったことは仕方がねえ、言うてそんなに誰かに被害があったわけでもねえなら、オレが言えるのってそんくらいっつーか、な! でもよ、……そしたらあいつ、ハルマキ、オレに何て言ったと思う?



「百田ごめん、あんたにあげるのだったのに、だめになっちゃった」って。
 涙目で。んなときばっかり素直によ……!



 もう! な! 許すだろ! っつかオレはそもそも怒ってねえ! 誰かになんか作ってやろうだなんてあいつが思えただけでもオレは嬉しいし、その幸せ野郎がオレだっつうならますます光栄っつうもんだ。そんだけでもオレは全然よかったのによ、……よっぽど真剣にやろうとしてくれてたんだろうなってさ、もうオレ感動しちまって……。できの悪い妹持つアニキの気持ち、……まあレジェンドオブアニキの天海ほどにゃ分かってねーとは思うけど、なんかこういう感じなんだろうなってもう、ホロリときちまってよ。
 もう堪らずハグ。んな別にやらしいアレじゃねーっつの、いつもやってんだろーが! よく頑張ったなハルマキ泣かなくていいぞーってな、もう代わりにオレが涙目よ。あいつさあ、あんな風に他人を思いやられるようになったんだなってよ……。

 ――ん? おう! 気が付いたら星に踏まれて真宮寺から縛られてハルマキの隣で東条からSEKKYOU・真打を拝領してたぜ! 白銀から「春川さんと百田くんがキッチンを爆発させたんだね……」って言われたけどオレは実行犯じゃねえっつーの! ったく!


・胸騒ぎを頼むよ(after Valentine 2017)

//20170215


 ほんっとに予想がつかねえヤツでな、困ったもんよ。世話が焼けるっつーか頭が痛えっつーか……。
 でもよ、やっぱ……んなことぜーんぶどうでもよくなっちまうくらい、可愛いヤツなんだわ、あいつ。