text(2016誕生日) | ナノ



「お誕生日だっていうのにこんな普段着な献立で本当によかったのかしら」
「何を言うんだね、他でもないお誕生日様の僕が食べたいとお願いしたのだというのに。とても楽しみにしていたんだ、これまでにご馳走になったものや弁当に入っていたものから特別好きなものばかり頼んでいたのでな」
「はい、えびと貝柱のかに玉…混ぜて焼くだけの……」
「半休の日の昼食に作ってもらったものだな! むぅ、白雪はいつも斯様な言い方をするが、食べさせていただく側としては純粋に美味しいものは美味しいんだ。きみの手によるものだと思えば猶更」
「言っておきますけれど、あたしはこれでプレゼントを終いにする心算はありませんからね――かに玉にあわせてスープも中華風にしたの、担担麺ふう春雨スープ。豚ミンチのワンタンは恐縮ながら作り置きね」
「ああ、昨晩に揚げたものを頂いたな! あれか!」
「然様よ、あの響子さんが地味にハマっちゃってさやかさんから分けてもらっていたあれ」
「……そ、そして其方の小さな釜が、」
「うふふ! 巫女さま謹製とり釜飯〜」
「嗚呼、感無量だ……ッ! 嘗て弁当にと拵えてもらってから何としてもまた食べたいと思っていたんだ! ……あれは未だ白雪と斯様に近しく在ることが叶わなかった時分のことだったな」
「お焦げの部分もよそって差し上げるわね、――……懐かしいわねえ、確か模試の当日、早朝に偶然ここで行き合ったのだったわよね。清多夏さんたらご自分で用意していたお弁当、うっかり終里先輩に食べられてしまって」
「前日からおむすびを握って冷蔵庫にしまっていたのが災いしたんだ……思えば名前を書くのを失念していたので、あれは僕のミスだったのだけどな。それに今となっては寧ろこのうえない幸運だったと言える! 先輩のおかげで僕は白雪の手料理に与ることができたのだ! ――もう食べてもいいだろうか? よし、頂きますッ!」
「そんなに嬉しそうにしていただけると、本当に作り手冥利に尽きるわあ――……と、あら、珍しいお客さまがた」

「ハァイ、マドモワゼル……なんてね、今日のぼくのターゲットは旦那サマのほうなんだけど」
「な……ッ、花村先輩?!」
「ご機嫌よう、先輩。なにやら美味しそうな匂いがしますわねえ」
「う、先輩って有栖川さん……イヤ、今はそっか。そうそう、先輩が"料理人"の腕をふるってバースデーディナーを献上しようと思ってね!」
「恐れ多いです! というか、確かに今日は僕の誕生日ではあるのですが、花村先輩はどこからそれをご存知に?」
「桑田クンだよ。彼とはエロエロと、もといイロイロと……見識を広げるための書物であるとか映像媒体であるとかをアレやコレや貸し借りして闊達な意見交換をはかる間柄でね」
「なんと…そうだったのか、やはり彼にもきちんと礼を言わねばなるまいな。……先輩、わざわざ申し訳ありませんでした。而して、とても嬉しく思います。有難うございます」
「(おーっとツッコミ役不在かい? この二人相手にあんまりふざけると後が怖いから程々にしなくちゃかなァ……)いやいや。77期のクラスメートの誕生日にも何かと作ってるからさ、今回は特別拡大版ってコトで。アーバンなシェフ特製のローストビーフさ、石丸くんは見るからにお醤油顔男子だしソースは和風。グレービーにおろしにんにくとポン酢を隠し味で仕立ててみたんだ、別添えにしてあるからお好みの濃さでイっちゃってよ!」
「まあ素敵! すっかり食卓がご馳走のムードに様変わりしてしまって」
「有栖川さんが用意してたの、とり釜飯だったんだねぇ。チキンと迷ってたからセーフだったよ――ウン、後から優しーい先輩達がもっといろいろ持ってきてくれるらしいから取り敢えず食事始めちゃいなよ」
「まだ何か、僕に? 何事なのだろうか……一先ず、いただきます」
「あたしも一口頂いちゃっていいかしら、花村先輩のお料理に与れる機会ってほんと、レアなのだもの……んん、おいひい」
「可愛い」
「ぼくが有栖川さんに何か言う前に石丸くんが言っちゃうからコッチは真面目になるしかできないっていうジレンマ! ああん!」
「而して、本当に美味だ。平生、上等なものを食べつけているわけではない僕にとて分かる。成程、一流のシェフとは如何なる相手にも美味しいと感じられる料理を作る才を持っているのだな……!」
「ねえ、本当! 見た目も美しくて華やかで、それでいてあたしたち若輩にもはっきり美味しいって分かる味付け、しかもお上品で」
「……うん、石丸くんと有栖川さんホント本心から褒めてくれてるの分かって嬉しいんだけどぼくとしてはこんなにフツーに先輩しちゃうのキャラ的にどうなのかなって今わりと真剣に考え始めてるよね?!」
「でもでもー、言うて輝々ちゃんはいっつもお料理にはマジメの子っす。赤音ちゃんとかペコちゃんたちの朝ごはん、ちゃんと早起きして作っててくれるんすー!」
「なんだと……ッ! 早朝から部活動に精を出す学友を美味しい食事で労おうというその尊い心映え……! やはり花村先輩は僕ら78期が見習うべき仁徳の持ち主であるということなのだな!」
「澪田さァんいきなり現れて恥ずかしいコト言うのやめようね?! 動揺のあまり今ボクぼくのキャラとして絶対反応しなきゃいけなかった"精を出す"も思いっきりスルーしちゃったじゃんかァ!」
「――ケケッ、良い奴バレしてやがんの。よォ石丸、誕生日おめでとーな」
「左右田先輩! お疲れさまです、……と、有難うございます。わざわざ僕のためにいらしてくださったのでしょうか」
「おーよ。流石にウチ総出で来ンのも大袈裟だと思ってよ、野郎連中から色々取りまとめて持ってきてやったんだ」
「あっ忘れてたっす! 唯吹も風紀ちゃんにってお祝い預かってきたよ! 77期のおねーさまたちにとくと感謝するといいっす!」
「斬新な呼び方すンのな」
「なのですよ和一ちゃん! 基本的に唯吹ってみんなのコトをファーストネームでお呼びしてるんすけど、風紀ちゃんにはご丁寧にお断りされちゃったんすー」
「先輩がたから覚え好く受け入れていただけていることは僕とて光栄の一途ではあるのですが、やはり、僕を名前で呼んでくれる異性は彼女――白雪ひとりに限っていたいのです。僕の我儘、で、申し訳ないのですが」
「まあ! そんな事情だったの、申し訳ありません澪田先輩……」
「ノンノン! 白雪ちゃんに先輩ってゆわれると唯吹なんとはなしにおセンチになっちゃうっすよ……唯吹ちゃんって! 唯吹ちゃん、って! コールミー唯吹ちゃん!」
「うふふ、まあまあ」
「っつか石丸ふつうに怖ェわその思考回路……」
「差し当たっては田中先輩にも、僕の白雪を『静と動の女神の駕籠を受けし紫水晶の巫女』などと呼び称するのは控えていただけるよう厳に、厳にお願い申し上げたいのですが」
「オメーそれ自分で言えよ?! オレあの野郎に伝言すんのヤだかんな?!」
「強いて言うなら――ふむ、『秩序の番人に寵愛されし悠久の清き乙女』とでも改めていただきたい」
「うっきゃー風紀ちゃんすげーっすー! 眼蛇夢ちゃんにも余裕で張り合えるボキャ充っすね! でもでもー、唯吹って根が常識人だからそーゆーのはちょっと、朝になってふと我に返ったときキャーって! キャーってなるやつかなーって心配にもなっちゃうよ! キャーって!」

「花村おにぃ、お腹空いたぁー!」
「あっ、西園寺さん。小泉さんもお疲れさま」
「悪いわね花村、今日はアタシ忙しくって碌に何も食べられなかったの」
「オッケーオッケーちょっとそこ座って待っててよ! ナイスタイミングだね、ちょうど今はそちらのお誕生日サマに超絶美味しいローストビーフを振る舞ってたところさ」
「そうだったわね。石丸、アタシのぶんは唯吹ちゃんに託してあるから。おめでとうね」
「あッ、有難うございます……わざわざ申し訳ありません。わざわざいち後輩にまで斯様な心遣い、77期の先輩がたは皆さんたいへん心が温かくていらっしゃるのですね」
「そうねえー……ま、そんな感じでいいわ。白雪ちゃんが居るしね」
「おにぃ早く! 小泉おねぇ今日マックロワッサン1個しか食べてないんだから! 可哀想!」
「今日は西園寺さんのリクエストの鯖味噌と小泉さんリクエストのタケノコのお吸い物、九頭龍くんと辺古山さんが武道場におにぎり届けてほしいって言うからご飯は炊き込みご飯にしてみたんだ」
「おなかすいた―――!!!!」
「実山椒のいい匂い。じゃあ日寄子ちゃん、向こうで食べよっか」
「オッケー、窓際だね。前菜から持っていくから取り敢えずお茶でも飲んでて! ――じゃあ左右田くんと澪田さんにこの場はお任せするね。暫しアデュー!」

「花村先輩、大忙しねえ。いつもご多忙の合間を縫ってあたしたちにお料理教えてくださるの、本当に有難いことなのだわ」
「ときどき食堂でさやかちゃんたちと居るのは輝々ちゃんのお料理教室だったんすか! こないだトースト講座やってたのは正直混ざりたかったっす」
「アー……有栖川と舞園さんと辺古山に何故か狛枝が加わってたアレか」
「パン派であらせられるって仰せでいらしたから。追いバターの技術を教わってずいぶんとご機嫌でいらっしゃったみたい」
「アイツ入学当初に比べて日常エンジョイし過ぎな?!」
「僕は和食派だが白雪の手製とあらば洋風の朝食もまた良しと考える。白雪、あすの朝に――……否、昼にでも是非」
「あら、あすの朝食? 宜しくてよ」
「昼でいい」
「? どうしたことかしら。構わないけれど」
「(白雪ちゃんはもっとそこ突っ込んで聞くべきっす……!)あのあのー、そろそろ先輩がたからのプレゼント贈呈の儀に移ってもいいっすか?」
「ッは、失礼致しました! 僕などに畏れ多い……ええと、宜しくお願いします」
「和一ちゃん先でいいっすよー。ダンスィは連名が幾つかあったみたいっすし」
「了解。そんじゃ先ずこれが日向からな。あの、こないだ勉強会でアイツが話してたらオメーが便利そうでいいなーっつってた奴だ。あいつ後輩に何かしてやるの初めてみてーだったから嬉しそうだったぜ、ケケッ」
「おお……僕の童心の部分が擽られる興味深い文具だ!」
「円筒型の……何かしら、鉛筆削り機?」
「まァ大まかに言やァな。ただ何がスゲーってコレ、短くなった鉛筆を繋いで新しい鉛筆が作れンだわ」
「それ面白いっすね! 創ちゃん流石のセンスっすー」
「ンでまあ文具繋がりっつーことでこっちがオレらから。具体的にゃオレと狛枝と田中な。オメーが欲しいつってた」
「あら、これはあたしにも分かるわあ。ハンディスキャナーね」
「何すか何すかソレ、未来の道具っぽくてイカしてるっすね」
「アナログの文書…アー、例えば手書きのノートやら参考書のページやらを読み取ってpdf化するんだわ。こいつがありゃ重たい紙類あちこちに持ち歩かなくてよくなる」
「外出先でも自学自習に励める優れものなのだ! なんと意義深い!」
「むむ? 風紀ちゃんお出かけ先でもお勉強するんすか? てかてか、お話聞く限りもしかして和一ちゃんも?? 唯吹はいま、意識高い波状攻撃に晒されている……ッ!」
「楽譜を取り込んでスマートフォンから確認することもできるみたいですわ、澪田先輩」
「あっそれは超絶便利っすね! リサイクルショップで探してみるっす!」
「そんでこっちが九頭龍の坊っちゃんから」
「あら、お洒落……! あの御方、前々から思ってはいたのだけれどとても上品なセンスをお持ちなのですよねえ」
「あーっそれは唯吹も分かる! メタルブックレスト、ってヤツっすね! ふふん! バンドスコアとか本が開いて立てられるんす」
「有り難いッ! 書をたしなむ際に手本を傍らに置くにも重宝するし、複数の参考書を同時に比較検討したいときにもきっと役立ってくれるだろう」
「あの坊っちゃんはマジでハイセンスだと思うぜ、持ち物一つとってもなんつーか確実にイイトコのなんだろうなーって思うっつーか……おー悪ィな花村、やったもん整理してくれてンのな」
「エッ? 生理??」
「そんな今更取って付けたかのような下ネタ要素要らねェよ…無理があるぜ……お前アレな、基本優しい奴なんだよな」
「やめてェ−?! これ以上ぼくのキャラをレイポゥするのホント勘弁して! ぼく今ただプレゼント包み直してるだけだから! お母ちゃんが整頓の鬼だっただけだから!」
「たっはー気づけばどえらい量になってたみたいっす! ウチのクラスはみんなフリーダムっすよね、真昼ちゃんがあれだけみんなに『石丸が困るだろうから各々プレゼントは小さめのものを準備すること!』ってお触れ出してたのに」
「ソニアさんに至っては確か当日は持ちきれないだろうから後日配達させるとか仰有ってたしな……」
「な、何が僕の部屋にやってくるというんだ……」
「……ハイ、引き続きプレゼント渡してもらってオッケーだよ。石丸クン、これまでのは此処に纏めといたから」
「有り難うございますわ先輩、ここ以降はあたしのほうで引き継がせていただきますから」

「ねえねえ有栖川おねぇー」
「西園寺先輩。お夕食、美味しいものを戴いているみたいで羨ましいわ」
「きょう、そこのクソマジメ男って誕生日なの?」
「清多夏さん? ええ、然様で。うふふ、覚えていていただけてあたしも嬉しいわあ」
「……むー、そうなんだぁ。……ふーん」
「日寄子ちゃんたら、アタシも蜜柑ちゃんも何度も教えたのに」
「もぐもぐ」
「誤魔化すんだから。ほら、ほっぺにご飯粒ついてるよ」

「なんだあいつ、何も持ってきてねェのか――そんじゃ続きな。コレはあれだ、御手洗と……あの、あいつから」
「嗚呼、もうお一方おいでだったな。僕は碌にご挨拶も差し上げていないというのにこんな結構なものを頂いてしまっていいのだろうか」
「あら、ルームスリッパねえ。これからの時季、室内といえどもやっぱり斯様なものがあったほうがリラックスしやすいものね」
「びゃく…じゃないっすね、えーっとうーんとあのあの、日寄子ちゃんが言うトコでいう豚足ちゃん曰く、亮太ちゃんがお仕事のときに愛用してるのと同じブランドのらしいっすよー! 中が畳なんだって!」
「おお本当だ、い草の香りがするな! こちらの大き目の青いものが僕のぶん、小さ目の紫色のほうが白雪のものだろう」
「清多夏さんの御趣味に合わせて和柄なのかしら。流石のセンスでいらっしゃるわあ御手洗先輩……それにしてもわざわざあたしの分まで用意していただいちゃって申し訳ないのだけれど」
「ケケッ、そんだけお前と石丸がセットだっつー認識がオレらの間でも強いっつーことだろ。何かって言やァ図書館だの中庭だので四六時中イチャついてやがるしよ」
「むぅ、左右田先輩……而して僕たちはあくまで学生の身。決して先輩方及び衆目のある場所では恥ずべき行為など一切してはいません」
「なお:衆目のない場所では」
「プライベートに関する事項については解答できかねます、澪田先輩」
「(コイツも大概イイ性格してやがるよなァ……)部屋のカギだけは毎度ちゃんと施錠確かめといたほうがいいぜ――……っと、コイツがオレが預かってきたぶんじゃ最後だな。弐大と終里からだ」
「風紀ちゃんと猫丸ちゃんとゆーと……チーム軍世の絆っすね! またの名をチーム白ブリーフ」
「澪田やめろ、今度こそ花村が汚名挽回のために走ってくっから」
「和一ちゃん日本語間違っ……てないっすね、輝々ちゃんが猛烈に下ネタキャラの面目躍如を狙ってるってのを考えると……面目躍如なんて唯吹なかなかのボキャ充じゃないっすか?! ね! ……んっ、猫丸ちゃんと赤音ちゃんはお薬のプレゼントかなー?」
「察するにサプリメントの類かしら。 お二方とも一流のアスリートの界隈においでの御方だから、きっとお薦めのものを紹介してくださったのだわ」
「おー、なんかそんな感じだったと思うぜ。弐大からのがそっちのプラスチックのやつだ」
「ふむ、イチョウ葉エキス配合。血液の循環をよくして頭の働きを助け、集中力を高める――と。たいへん有難いな、早朝の自主学習の折などに適宜摂取することでより効率がよくなるだろう」
「それではこちらのガラス瓶のほうが終里先輩のご推薦なのかしら」
「レモンライム? へー、唯吹サプリメントって粉薬みたいなものだと思ってたんすけど、これって甘いやつなんすねえ」
「タンパク質と同時に糖分を摂ることで体組成の回復を早めるんです。翌日に疲れも残りにくくなりますね――僕が日々鍛錬に打ち込んでいることもご存知でおられるとは、やはり先輩がたの情報網は並大抵でないということか」
「あら、チーム軍世の絆なのではなくて?」
「有栖川もやめろォ! ――ふう、取り敢えずヤロー側は以上。……何メモってんだ石丸」
「どなたに何を戴いたかです。後日きちんとお礼とご挨拶に赴かねばなりませんので」
「お前なんだかんだでアレな、基本的にクソマジメなとこ全然ブレねえよな」
「うふふ、そこが清多夏さんの素敵なところですもの」
「白雪……ッ! 僕もきみの美しい心映えや淑女たるを体現した立ち振る舞い、且つ素のままの幼気な愛らしさまですべてを素敵だと感じていr「石丸テメー書くならとっとと書いちまえナチュラルに二人の世界創ってんじゃねーぞバーカバーカ!」
「(つい数分前の宣言が完全にフラグになってるっすよ風紀ちゃん……!)えとえと、じゃあ次は唯吹が女の子たちから預かってきたプレゼントを渡すっすよー!」


//下篇に続く

あまりに文字数がアレだったので流石に一旦切ります。ごめんなさいー
77期が風紀巫女に対して好意的なのはTgのゆるふわ世界観であることの他にも理由がありますがそのあたりはまた別の機会にお話させていただくことになりそうです。




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