text(ゆり雑多) | ナノ

たいせつ



◎月光ヶ原(本物)×第七支部員


「はい、私が承ります。あとで此方から月光ヶ原さんにお伝えしておきますね」
「これが足りない備品のリストです。御足労お掛けして申し訳ないのですが、第七支部よりと添えて庶務のほうに届けていただいてもいいですか?」
「はい苗字――あっ、新規技術の進捗ですか? ええ、支部長でなく私のほうで担当しています。報告書の形式はpdfで大丈夫でしょうか」
「お帰りなさい、……もう、うちは後方支援なんだから無理しちゃだめだってみあ…月光ヶ原さんがいつも言ってるのに。大丈夫? 怪我が無かったならいいです、壊れた武器は十六夜さんにメンテナンスを頼んでくださいね。ちょっとの掠り傷でも大事になりますから、気になる人はすぐに第四支部に行ってきて」
「書類ね、お疲れさま。私がチェックして支部長に通します」

 これくらいできなくては、美彩ちゃんの右腕なんて務まらない。

 次々に舞い込む仕事を頭の中で優先度順に並べ替え、手数の少ないものから着実にこなしていく。自分ばかりで抱え込んで動くのではなく適度に部下に頼ることも大切(何故なら私自身、彼女に頼られたい自分で在りたいと思っているから)。ローヒールの歩きやすい靴を選んだのは、大好きな彼女のために躊躇なく第一歩を踏み出すためだ。
 未来機関において最重要な機密の一つ、絶望を癒し希望を育むための新たなプログラム。その頭脳の中枢である超高校級の"セラピスト"の存在は、機関の人間にとって指折りに価値のあるもの。ひいては、未だこの世界で絶望に陥っている多くのひとに光を与える救世主のようなもの。そして何より彼女――月光ヶ原美彩ちゃんは私にとって、その才能などに拠らない、何よりも大切な女の子。彼女が日々自分の仕事に打ち込めるような環境を作ることは、私にとって希望を培うとても重要な仕事であるとともに、そうすることができる立場に居られることは本当に幸せなことだ。

「苗字さん」
「はい、どうしました?」

 書類を提出しに来てくれていた機関の新人の男の子から呼び止められる。なにか相談事だろうかと思えば、「お疲れなんじゃないですか」と神妙そうな表情で尋ねられた。疲れが顔に出ていただろうかと恥じるも、そういったわけではなかったようで、彼から見た私があまりに仕事を抱え過ぎているように映ったのだということだった。

「うふふ、心配してくださって有難うございます」
「苗字さんに何かあったら俺たちも支部長も困ります。どうか無理しないでくださいね」
「大丈夫ですよ、こう見えても私、けっこう強いんです」

 美彩ちゃんのためなら、私はどれだけでも強くなれるのだから。
 「そんなに心配してくださるなら今の書類、ちょっとだけ色付けて再提出して貰っちゃいましょうかね」と茶目かしてみせれば、新人くんは驚異のスピードで引き揚げていってしまった。――あの脚力、うちの支部に置いておくのはもったいないのでは。逆蔵さんに諮ってみようかしら……。


 * * * 



「――ふう、」

 先程はああ言いはしたが、まったく疲労を覚えないなんて言えるほどに私は人間離れしていやしない。自室の扉をぱたんと閉めるなり軽い頭痛に見舞われて、そっと眉間を押さえる。眼精疲労も少し、来ているかもしれない。
 日がな一日モニターとにらめっこの美彩ちゃんにも注意を喚起しなくては。カーディガンを脱ぎかけながらそんなことを考えていたところで、テーブルの上に開きっぱなしにしていたモバイルが点滅しているのに気づく。メールを受信しているらしい。
 
「誰かしら……わ!」

 タイトルのない未開封メールを開くと、画面上にぴょこんとピンク・白ツートンカラーの馴染みあるウサギさんが飛び出してきた。それだけでこのメールの送り主が誰だか分かる。そしてこのメールが私にとってとても良いお知らせだということも、同時に。


『あちし、なんだかお疲れなんでちゅ。名前ちゃんとお茶したいでちゅー。今から5分以内に談話室へゴーちてくだちゃい、こんなお茶菓子を揃えて名前ちゃんのことワクワク待ってまちゅ。らーぶ、らーぶ……』


 「今から、5分以内」。私の帰室時間を丁度読んでいたというのかメールの受信時刻はまさに今だった。なんだか気持ちが連動しているようで、嬉しくなる。ウサギさんがそっと差し出してくれる画像は談話室のテーブルを写したもののようで、並べられたお菓子は私がお気に入りのものばかり。いつも、そしてずっと一緒に居る美彩ちゃんにしかできないチョイスだった。
 なんだかお疲れ、だなんて。彼女がそんな素振りを見せることなんてそうそうないのに。直ぐに分かる、これは美彩ちゃんが私を労わってくれようとしているのだと。私のためのお茶会なのだ。

「うふ、敵わないなあー……美彩ちゃんには」

 それなら私がすべきことは、すてきな上司であり大好きな親友でもある大切なあの子に、思い切り甘えることだろう。
 決めてからの私は、行動が早い。なにしろ、あと5分でお化粧を直して部屋を出て、倉庫に寄って紅茶の茶葉を調達しなくてはならないからだ。私と美彩ちゃん共通の、お気に入りのものを。


・たいせつ

//20160913


 閉まった扉の向こう側で、ほえほえと笑顔を絶やさないウサギがそっとハート形のメッセージカードを取り出してデスクトップに貼り付ける。

 「名前ちゃんいつもありがとう だーいすきでちゅ」
 
 落ち着きのある、冷たさを感じないながらの無表情といつもどおり甘やかして甘やかされて心行くまで癒された苗字が、ほくほく顔で帰室したのちにその不意打ちメッセージに二段構えでやられることになるのは時間の問題であった。



偶然(じゃないです作為的にお近づきになりにいきましたごめんなさい)にも某所で謁見する機会を得た狛枝夢の超絶大手さまの一角たる憧れサイト「棺桶」(三城さま宅)の未来篇ページから月光ヶ原さんと夢主嬢(星見ヶ丘秋歩さん)のおふたりをお借りしました。(狛枝さんのほうは畏れ多くて手が出せなかった)ファンですってお話したら寛大にも三次創作の許可をいただいてしまい、今後もお許しが出たらこっそりファンフィクションさせていただこうかなと思いお伺いの為の習作としてしたためさせていただきました。ど、どうしようリンク繋いだら怒られるかなやっぱり…向こうさまのファンのかたにフルボッコにされるんじゃねえのこれ……星見ヶ丘さんの「きれいなお姉さんは好きですか」を地でいくおっとりはんなり穏やかで透明感ある美人オーラと美彩ちゃん好き好き大好きな乙女ぶりとのギャップは本当にやばいです(語彙力の欠如)。ビジュアルも配色といい月光ヶ原さんとの対比と並んだときの幻想的な一対である取り合わせとかツボです。月星はいいぞ(こんな辺境の地でダイレクトマーケティングせずとも誰でも知ってる事実)。