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Case 6:育成ゲームの醍醐味と、俺の一家言


「かしこさ重視で、空いた時間はお作法とお稽古ごとの時間にあてます」
「遊ばせてやらねぇのかい?」
「それは後々することがなくなってから選んだらいいんです」
「……ふぅん」

 それ、自分の子どもに対しても同じように出来るか?

 近年ではゲーム上で何でも育てられるようになり、子ども受けするモンスターや戦士に始まり、妖精やお姫様、果ては人面魚まで対象にされているらしい。海外では女の生首を育てるなどという常軌を逸したモノまで出ているという。需要というのは何処にもあるものなんだな。
 ということで、今アリスが熱心に教育しているのは、一応こいつの"娘"という設定となっている子ども。先ほど挙げたようなものに比べれば、まだ俺の理解が及ぶジャンルではある。

「あたし、こういう教育ものって、どうしても知力を高めに設定しとかないと落ち着かなくて」
「所詮ゲームだろうが。ちったあ冒険してみりゃあいいのに」
「とは、思うんですけど。……ふふ、どうしても傾向が出ちゃうんですよね」

 気が付けばいつも同じような結果を出してしまうのだと一人ごちて、やはりお堅い選択肢ばかりを選んでゆく。それでアリスが楽しいのなら、別に此方としては構いはしないのだが。

「現実にはなかなか誰かを思い通りにするって上手くいきませんけど――あ、なんかこういう言い方だととんでもない発言に聞こえますか」
「ん?」
「上げようと思えば幾らでもパラメータを上げることが可能なんですよ。持って生まれた要素じゃあどうしようもない魅力や美しさなんかも簡単に伸ばせますし」

 少なくともこのゲームにおいてはその楽しみ方は王道ではない気がする。アリスの娘だということは俺の娘な訳で(異論などあろう筈がない、だろう)、子どもの教育というのはもっとこう、ゆくゆくの人格形成なんてものも考えて行われなければいけないのではなかろうかと危惧してしまう。……所詮ゲームだろうが、なんて言っていたのはどの口だ。
 そんなに不服そうな顔をしていただろうか、隣でご満悦だった恋人は唇を尖らせてしまう。ややあって、弁解になりきらない弁解が飛んでくる。

「やっぱり少々後ろ暗い願望なのかも知れませんね、少なくともゲーム上であれば、この子はあたしの思う通りの子になってくれるんです。育成ゲームの醍醐味ってそういうところにあるんだとあたしは思うんですが」



 ――成程。



「まっこと実感を以て同意できるな、それには」
「?」



 服装は露出を控えた地味なものに。必要以上のアルバイトはせずに家にいること。異性の知り合いについては逐一俺に連絡し、外泊時は常に携帯電話の繋がる環境にしておくこと。貞淑で純粋で、それでいて夜は――ああ、コレに関してはまだ「教育」が足りていないかも知れない。



「確かに、楽しいかもな」



 自分好みに恋人を染めてゆく楽しみについてであれば、俺も知っている。


//20161125 Rewrite.


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