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Interval 2:発端の処遇について
深夜、勉学にバイトに遊びにとお疲れなアリスが早々と眠りについたのを見計らって居間に戻る。明かりは付けない。ダイニングテーブルの上でラップトップのPCを起動させ、ヘッドセットを接続すれば作業準備は万端。リモコンでの操作もすでに十数回とこなした身であれば手慣れたもので、日頃はアリスの視線の死角にあたる位置に設置しているそれ――ウェブカメラの電源を入れる。
『今日はですね、これ! 子ども向けのアクションですけど、あたしにはぴったりかな、なんて』
映像記録ソフトを立ち上げれば、画面に映し出されるのはつい数時間前に拝んだばかりの、恋人の愛しい笑顔。つられて唇が吊り上がっている今の自分は傍から見れば少々理性の飛んだ人間のように見えるのかも知れなかった。あながち否定し難いが。
『ここのステージ音楽、なんか耳について離れないんですよねえ。あったーかごはん、あったーかごはん……って、勝手に歌詞なんて付けてみたりして』
『ほら、いいから画面見てろい』
『だって折角、近くに居てくださるから。幾らでもお喋りして良いって言ってくださったの、マルコさんじゃないですか』
『あ』
『あ! ……さっきと同じ処で落ちちゃいました』
延々と、ゲーム画面などには目も暮れず、アリスの、くるくると変わる飽きの来ない表情だけを只管に映し続ける映像。
『次はちゃんと、突破しますよ! ……あったーかごはん、ほいっ、』
『もう集中切れてんじゃねぇか』
ソファに二人並んで、他愛のない遣り取りを絶えず続けながら寄り添う光景は、少なくとも俺にとっては、幸せそのものであるようにすら感じられた。
//20161123 Rewrite.
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