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06


Case 5:ひとりでロールプレイングゲーム遊べて偉いね。


「わ、ワンターンキルです! 凄い、あたし、やれば出来る子ですね!」
「そうだな、偉い偉い」

 城に巣食う魔物を手際よく討伐できた、とコントローラーを投げ出し無邪気に喜ぶ姿はとても二十歳越えのそれとは思えない輝きを放っており――まあ、なんだ、俺に言わせればアリスはいつでも可愛いけれども――、此方としてもつい本気で褒めてしまったとて仕方のないことである訳だ。ここ一週間はこのファンタジーRPGとやらがご贔屓らしく、現在はこいつの名のついた勇者と、俺の名の付いた戦士が二人パーティで冒険を続けている。

「……ううん、これ、錬金のやり方が難しいですよ」
「システムが悪ぃんだ、もっと簡単にしてくれりゃいいのにな」

 武器や防具の強化はもっと容易く出来るようにすべきだ。アリスが手間を掛けずとも済むように。地図は全方位をきちんと明記して、どの部屋に何があるのかきちんと把握できるようにすべきだ。アリスが初見でも迷わないように。小動物系のモンスターは経験値だけ置いてとっとと逃げるべきだ。可愛らしい外見をしていると、心優しいアリスが倒すのを躊躇ってしまうから。
 別に、二人きりの旅という羨ましいシチュエーションについ肩入れをしてしまっているとか、そういう訳ではない。

「あ、れ? なんか、地図に書いてる目的地と外れてきてる……?」
「道"が"迷ったんだ。アリスが悪いんじゃねえよい」

 さっきから同じ処をぐるぐる巡っていると思ったら、よもや地図が間違えていたとは。しっかりしやがれゲーム会社、うちのアリスが困ってるじゃねぇか。ちなみに付記しておくと、現在俺には少々のアルコールが入っている。少々、では言い訳にもならないだろうが。
 つい最近ようやくクリアしたアクションゲームのように隣で延々とダメ出しをし続けのも楽しかったけれど、こうして楽しそうなところを心底甘やかしながら見守るというのもまた違った悦びがあった。

「ううう待って、ちょっと、……なかったことにさせてください」
「――おお、今日は森からのスタートかい? 最近のゲームは映像が綺麗で見応えがあるなァ」

 ちなみに今のは今日このゲームを起動した際の俺の第一声である。アリスは記憶のリセットをお望みなのだから、それに応えてやらない手はない。進んだ先の宝箱が既に空いていたが、おおかた別の冒険者らが獲って行ってしまったのだろう。かくして、「初見」ながらこの難しいダンジョンを見事に突破したアリスを俺は力いっぱい褒めてやった。

「わ、やったあ! マルコさん、新しい仲間ですよ」
「……そうだ、な」
「えっとお名前は、……そうだなあ、あたしのゼミの先生に似ているので、『サー』とさせて頂きましょう」

 別に、落ち込んでなどいない。たかがゲームだ、それに本気で立腹できるほど俺は若くない。が、取り敢えず最後尾でニヤニヤ笑っている(ように俺には見える)黒魔導師は一刻も早くくたばれ。


//20161123 Rewrite.


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