text(op) | ナノ




04


Case 3:理系はパズルゲームが得意だというのは果たして本当なのか


「あれ、……んん?」
「だからな、適当に積むんじゃなくてそれを――取り敢えず地道に消してくことから考えたほうがいいんじゃねえかい」

 今日は予め俺の手にもコントローラーがある。どうしても、と頼んでくるのを無碍に出来ず、大して慣れの要らないパズルゲームなら、と承諾した流れだった。
 しかし、片手間程度で碌に考えてブロックを積んでもいない此方が余裕で快勝できるくらいには、アリスの勘は鈍いものだった。女は空間認知能力が低い、というのは根も葉もない出鱈目だと思っていたが、これは少々見解を改めるべきかもしれない。

「なんでそんなに画面きれいなんですかー」
「お前ンとこが汚すぎるだけだろい、ほら、でかい連鎖をいきなり作ろうとするからドツボに嵌んだ」
「あ゛……」

 9戦9勝。何か賭けときゃあ良かったかもな、と歳甲斐にもないことを考えるくらいには良すぎる勝率に、少々申し訳なさを覚える。隣で意気消沈しているのの頭をぽんぽんと撫でてやると、理系ずるい、と平時のアリスにあるまじき身も蓋もない言いがかりが飛び出してきた。理系だろうと授業でこんな下らん科目を扱う訳があるものか。
 しかしながら、顔こそ伏しているものの、ソファに両足を乗り上げてクッションを抱えた体勢のアリスは、決して機嫌が悪いというようでもなく、寧ろ少々楽しげにしているようにも見えた。そりゃあ本来ゲームは娯楽のためにあるものであって、楽しんでするのでなければ意味はないだろうけれど。負け続けて気分が良い訳でもあるまいに。

「……楽しいかい?」
「あ、……ごめんなさい、付き合って頂いちゃって。つまんない、ですよね」
「今はお前のことを聞いてんだが」
「え」

 仕事帰りに、休日に、こうして居間のソファで隣り合わせで画面を見つめることが、最近ではすっかり日常の一幕として定着していた。たとえ児戯に等しくとも、アリスと共につくる時間であるなら何であろうと俺にとっては至福のそれである。伝わっていないとは心外だ。
 対戦が終了し、「Continue?」とだけ表示された画面は一先ず放っておいて、きょとんとしているアリスの鼻を抓んでやる。

「な、なっなっなんですかっ!」
「ンな負け通しで、楽しいかい?」
「ちょっ……ご挨拶ですね、喧嘩でしたら買いますよ?!」
「違ぇよい、心配してやってんだ」

 全身の毛を逆立て威嚇してくる小型犬のように、大して怖くもない牙を剥き掛けていた表情が途端にもとのきょとんとしたそれに戻った。「心配、ですか?」と唇の動きだけで不思議がってみせたのち、ややあって「……あー、」と何をか納得したかのように、微笑む。不意打ちは卑怯だ。

「生憎ですけど、楽しんでやってます。マルコさんがこうして一緒に遊んでくださること、滅多にありませんから。とっても楽しいです」



 ……アリス。お前、今コンティニューすれば俺に勝てるかも知れねえぞ。こちとら、暫く思考が冷静に働きそうもないから。


//20161122 Rewrite.


[ 49/56 ]

[back]