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01


Case 1:取り敢えずアクションゲームから


「そ、そーい……ひぇえええ!」
「驚くほど学習能力のない落ち方だな、却って感嘆に値するよい」

 本当にこの腕前で動画撮影などしようと考えていたのだろうか。無邪気にゲームに興じられる年齢でもない俺ですら、こいつの下手さ加減は十分分かる。日頃、炊事だの洗濯だのを手際よくこなしているのとは別人かと疑うほどにコントローラーを握る手は不器用の極みを見せてくれる。

「だってこれ、普通のジャンプじゃ届かないですよ」
「否、届くね」
「無理ですよー、マルコさんはご自分で操作なさってないからそんな事言っ」
「……そこの飛んでる敵を踏んで、もう一度ジャンプするんだろい」

「嘘! そんな小手先のテクニックで――あ、ほんとだ、行けた」

 以降は上機嫌でコントローラーを操りながら、礼を言う事も謝る事もしない。普段は低すぎるほどに低い腰が、こうして完全なプライベートになるとそうでもなくなるのは、俺にとって少々新鮮だった。いつもこれくらい遠慮がなくて構わないのに、いつまで経ってもこいつは居候のような振舞いをするから。

 距離を取るためだったのか挟まれていたクッションを取り上げていたずらに間を詰めると、途端に身を固くしてコントローラーを取り落とした。とうに成人しているというのにこの初心さは如何なものなのだろう。おかげでそう易々と手が出せない。その話はまあ、措いておくとして。

「きゅ、急になんですか、あたし、いま、必死なのに」
「ああ分かってる。そんなら、おれの事はお構いなく」
「いあ、お構いなくって、そんな――」

 もう耳について離れないほどに繰り返されているゲームオーバーのBGMを、些かボリューム不足の胸元に顔を埋めながら聴いた。


//20161121 Rewrite.


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