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Introduction:Have a good time, have a funny games!

「はい、賢明なお前にはどうして自分が正座させられているのか分かりますね」
「……常にない敬語がとっても怖いのですが、マルコさん」
「質問には簡潔に答えるように」
「了解ですー」

「よし、考えられる罪状を述べてみろい」
「……あたしが通販でヘッドセットとウェブカメラを購入したからです」
「理由は?」
「えっ」
「PC用のヘッドホンなら持ってた筈だ。何だって新しくカメラまで」

「……ょう、を」
「あ? 聞こえねぇよい」
「げ、……ゲーム実況を、配信してみたかったんです」





 パソコンとインターネット回線さえあれば自由に動画を閲覧・投稿できるサイトというものがあって、その中でテレビゲームのプレイ動画を配信するのが若者の中でちょっとしたブームとなっているらしい。部下のエースから勧められて俺も一度だけ覗いたことがあったが、正直言って素人が遊んでいる場面の録画を観ることの何が楽しいのかが理解できなかった(エースに言わせれば「オッサンには若者文化の良さはわかんねえよ」との事だった。無論、シメた)。
 此方が吃驚するほど嘘や隠しごとの類が苦手なこのお嬢さんが、俺の帰宅に気付かず居間で大学の友人とやらと電話をしていたのはつい最近のこと。「そ、そんなに勧められるんでしたら…一本くらい、がんばってみます」という台詞だけではまだピンと来なかったが、その数日後に頼んだ覚えのない小包が届いたことですべてが露見したという訳だ。
 
 一緒に暮らしているとはいえ俺からの必要以上の援助を拒み、趣味費諸々は一貫して自分のバイト代で賄っている(此方としては、いっそバイトなど辞めてずっと家に居て貰いたいと思っている訳だが)以上、買い物自体には俺が口を出す権利はない。しかし、その目的が、名目はどうあれ「不特定多数に己の存在を示す」ことであるなら話は別だ。
 あのとき戯れ程度に覗いた動画も投稿者は女であったらしく、視聴者から寄せられていたコメントには多分に不快なものも多かった。どこまでが本気かは測りかねるが投稿者の声を性的対象とみている輩もいるようで、兎も角そのような場所にこいつを放す訳にはいかない。――とここまでが建前で、実のところは単純に、何処の誰とも知らん連中と繋がられては俺が個人的に不快だから、という真意も数割はある。十割とまでいかない、ほんの七〜八割だ。

「だめ、ですか」
「だめじゃない、と言ってもらえるとでも思ってたのかい」
「ふえええ」

 こいつにしては珍しく泣き落としなどという古典的な手段を用いようとしてくる。そこまでしてやりたい事なのだろうか。泣き慣れていないゆえ情けない歪み方をしている表情によからぬ感情を掻き立てられそうで、軽く咳払いをして誤魔化す。

「ったく、仕方ねえ」
「! それじゃあ、」


「そんなにゲームしながら喋りたいんなら、おれが付き合ってやる」
「へ?」
「横で見ててやるから好きなだけ喋りゃあいいよい」


 それカメラ買った意味ないじゃないですか、とか何とか不平を述べる声が聞こえる。知るか。


//20161121 Rewrite.


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