text(op) | ナノ




かわいいあの子を汚したいの


*非常にぬるいですが裏描写を含んでおります
*18歳未満のかたの閲覧はご遠慮くださいませ


















 
 何が起こっているのかまったく分からない。


 * * * 



 過ぎた酒量が判断を鈍らせているのに加え、目の前の状況があまりに突飛すぎるせいでついに俺は気を違えたかと己を疑ってしまう。薄暗い中に漂う空気は確かに自分の部屋のもので、つまり部屋を間違っている訳ではない。では、何故? 日頃の半分も回っていないであろう頭では真っ当な推測も出来そうになかった。
 その名を呼ぶことも出来ず立ち尽くす視界の中で、寝台を占領し眠りに落ちているアリスの姿だけがしっかりと形をもってそこにあった。甲板で話をしたのち「じゃあ、あたしは先に休ませていただきますね」と横付けしている自分の船へ戻った筈の彼女が此処で寝ているのは明らかにおかしいのだが、現にこうして居るのだから信じる外にない。

 柔らかい髪の中からきらりと光るもの。いま俺の左耳に嵌っているのと同じそれであることは、考えなくても分かる。こうして見ると、つくづく美しい娘だと思う。決して人目を引く華やかな容貌を持っている訳ではないにしろ、生来の暢気さが滲むような素朴な造形と、寝顔であっても健在な柔らかい表情は贔屓目を抜きにしても愛らしく(否、これを贔屓目と呼ぶのかも知れないが)時間という縛りが無かったならいつまでも眺め続けていたいと思える程だった。――もっとも、眺めるだけで足りるのかと聞かれれば、勿論足りないのだが。
 少し離れた処から寝台を見下ろしている今の俺は傍からどのように映るだろう。鏡を置いていないので分からないが、恐らくいつもと寸分変わらない無表情で佇んでいるのに違いなかった。感情が揺れていない、などという筈はない。ただ、表情を作ってみせるだけの余裕が無いだけだ。アリスが寝ている。それだけなのに。誰も訪ねてはこない深夜に、内側から鍵だって掛かる俺の私室の、寝台の上で。――あまりにお前を想って苦しい夜、俺がそこで何をしているのだか、きっと知る由もなく。夜目に慣れて見て取れるようになった、うっすらと開いた唇すら艶めかしく思えた。

 長く続く不毛な懸想の幾歳月、このようなことは一切なかった。戸惑うのも仕方がない、と言い聞かせて納得する。――長く続く不毛な懸想の幾歳月、このような好機は一切なかった。血迷うのも仕方がない、と言い聞かせて納得した。酒の所為にするつもりはないが、もう沸騰しきった頭ではこのまま引き返すことなど出来そうもない。
 少しだけ。それで目を覚ましたなら全てを晒そう。数刻前はあれだけ思わせぶりに煽ってくれたのだ、その後のこの展開であればアリスとて有耶無耶にする術は持たないだろう。片足だけ寝台に乗り上げる。重心が傾いたが、穏やかな呼吸は僅かも乱れることがなかった。シーツの上で毛布に包まり姿勢よく仰向けになっている彼女の、荒れのない頬を右手で覆う。手首の比でない滑るような柔らかさに思わず息を呑んだ。水分が足らないのか乾いている唇を押さえる様になぞっていた親指に、僅かに湿った感覚が届く。無意識であると分かっていても、食むように上唇と下唇だけで指先を甘噛みされてもう堪らなくなった。最高の誕生日プレゼントだ、などと余裕かましてニヤつく事すら出来そうにない。

 布団を剥いだって目を覚ましやしない。端のほうを掴んでいたから危ないと思ったのだが、意外にも殆ど抵抗なく指は外された。胸元に降りたアリスの両手には当然力は籠っておらず、当面俺の意のままに出来るようだった。短いふくふくとした幼い指は掌を重ねると反射的に軽く力が加わり、さながら抵抗を受けているように感じられる。が、今更その程度で歯止めが掛けられる状態ではなく、僅かに(しかし本当に僅かだ)罪悪感を覚えつつ、此方の邪魔にならないよう頭の辺りにまで持ち上げた。無防備な格好になったところへ覆い被さるようにして跨る。やはり一度自船に戻って着替えをしてきているようで、常の装束でないやや胸元のあいた寝巻姿のアリスはあまりに新鮮で、一瞬目が眩んだ。――末期だな、こりゃ。
 左手をアリスのそれと重ね、空いている側で華奢な肩に触れる。思いのほか薄い布からは直接裸の肩に触れているような感覚を受け取る事が出来た。首元まで滑らせるようにして肩のラインを辿って、紐状の引っ掛かりが無いことに気付く。数多の女と同じように、彼女も就寝時には下着を付けないようにしているらしかった。最早好都合なのか不都合なのかも考え難いほどアリスを汚すにお誂え向きな状況にどうしていいか分からなくなる。とか何とか頭では勿体ぶりつつも身体のほうはそうではなく、衝動に突き動かされるまま身を屈めていた。睫が触れるぎりぎりの距離でもなお、瞼ひとつ揺らさない。余程深く眠っているのか、もしや誰某かに図られて眠らされているのか(もっと早くこの仮定に行き着くべきだったのだろうけれど、今となっては真相を突き止める気も起きない)分からないが、どの道、アリスには申し訳ないことにわざわざ起こして「これから気の済むまで触らせて貰う」と断りを入れる気など俺には毛頭なかった。
 唇に唇で触れた。彼女が目を覚ますことが危ぶまれて深入り出来ないことは承知でも、色香を振り撒く女のそれと違いあまりに危機感のない唇の柔らかさに、薄皮を通して知るアリスの温かさに、もっと奥のほうまで押し入ってしまいたい欲求は否定し難かった。一旦退いて、角度を変えもう一度重ねる。直前に細く吹き返された呼吸は弱く、一層愛おしくなった。首元を支えていた右手で項の辺りのふわふわとした髪の生え際を撫でると流石に違和感を感じてか、ひくりとも動かなかった眉根が一度きゅっと寄り、「――ん、」と鼻にかかった声が上がる。それすら官能的に聞こえるのだから本当に今の俺はどうかしているのだろう。否、どうかしていると言えばもう大分前からの事になるか。
 結局先ほどの挙動以降はすっかり平生に戻ってしまったこれ以上ない据え膳を前に、彼女の寝巻の釦に掛かる手を止めるものも・者も・理性も思考もなにも一つだって存在していやしなかった。歳を取っても海賊の性分ってのは治るもんじゃない。本能には忠実に、などと頭の中では合掌しかねない勢いだ。曰く、いただきます、と。

 純白のネグリジェは薄闇の中でも一際鮮やかに映る。この場において俺にとっては邪魔なものでしかない其れを一先ず鳩尾の辺りまで開いてやったところで、肌寒さゆえかアリスが一度身を捩った。その拍子に、此方から捲ってやる用もなく釦の外れた合わせ目は大きく肌蹴る。随分前から熱を主張してやまない劣情が尚更強く脈打つようで、眼前に晒された裸の上体から目が離せなくなった。俺のアリスは、何処まで綺麗であれば・俺を魅了すれば気が済むのだろう。
 幾度も夢に・脳内に見た、想い人のあられもない姿がそこにあった。これまで勝手に描いていたどんなアリスよりもクるものがある、というのは当然のこととして、お世辞にも豊満とは言い難い――俺に言わせれば謙虚で好ましい――胸が、惜しみなく、俺だけに晒されている。

 常日頃その起伏の乏しさを懇意の隊長陣某共から揶揄されてはいるものの、その膨らみは僅かではあるが確かに丘を象って脈打っている。暗さに慣れた視界に浮かぶ白いそれが、鼓動とともに微かに震えているのは可愛らしくもあった。”成長途中”という形容が相応しいような芯の残る感触を掌で感じた時には、もう右手が膨らみの片方を捕らえてしまっていた。ちょうど手の中に収まる程度のそれは、程良い弾力と共に指先ひとつで自在に形を変える。呼吸が・鼓動が早まるのを、解放を訴える熱が高まるのを抑えながら、夢中になって幼い膨らみを揉みしだき続ける。空いた片側に接吻を交わした時より近くまで顔を寄せるが、絶え間ない刺激に固く凝った先端の色づきの妙まではここで判別することは出来そうもない。乳房の白と相俟って、あくまで淡いそれであろうことは分かるけれど。
 堪らず、目の前の白い膨らみを食む。凝りの周りを一周するように舌を這わせれば、掌で感じたそれより深い官能を受けた。不快からか快からか三たび身動ぎをするアリスに構うことなく、左胸に這わせていた指でその突起を捩り上げるのと同じくしてもう片方に吸い付く。天辺の凝りだけと言わず、こぢんまりとした丘一帯の大部分を唾液で汚すように舐めまわしながら、右手親指と人差し指で抓んだ反対側の突起を弾いたり細かく突いたりとその感触を楽しむ。誰の手垢にも塗れていなかった清らかな躰を、触れたいと思い続けて十年越しになるその躰を、今や一つの遠慮もなしに他でもない俺がべたべたにしているのだと思うとこの上なく興奮した。左右を違えて、再び顔を埋める(埋まるほどのボリュームは無いが)。既に唾液塗れになって夜目にもてらてらと艶めくのが分かるほどになっている右胸は指先の滑りも良く、指の腹でこね回す凝りの頼りなさを直に感じて否応なしに昂った。
 最早迷うことなどないとばかり吐息を熱くしていた俺の頭は完全に沸騰しきっていた。絶えず双丘に口付けを施しながら片手は形のいい愛らしい臍をくるりと辿ったあと、下腹部へ。湿った感触を得られでもした日には俺の箍は恐らく完全に外れてしまうだろう。――それは、あたかもこの不健全な寝台を監視している何物かが終了の笛を吹いたような、唐突ながら実に間を捉えた瞬間だった。



「――ん、ふあっ……!」



 気が堰いて、乏しい谷間に半ば埋める様にしていた顔の向きを急に変えたのが災いしたか。確かに何かが何かに掠った気はした。抵抗のない状況で張り詰めさせられた左胸の突起を、外す気が起きず付けたままにしていたピアスが強く弾いたのだ。初めてはっきりと耳にしたアリスの甘やかな嬌声に一瞬なけなしの理性ごと全て持って行かれそうになるも、そこで漸くこの奇跡にも等しい時間が終わるのだということを本能的に悟る。未だ本懐は遂げられていないが、(十割俺の所為ながら、昂りきったこの熱をどうしてくれよう、というやり場のない悔しさもある)この状況でアリスに目を覚まされでもしたら明日からどのような目で見られたものか分かったもんじゃない。

 つい数瞬前までであれば、そうだとしても無理矢理最後まで汚しきってやっただろうと断言できたが、今になってそうするには惜しくなってしまった。またこのような機会があるのではないかと、今日のような僥倖がまた起こるのではないかと、後ろ暗い期待をしてしまうから。今、ついこの時まで俺が彼女に所謂夜這いを掛けていたなどという事実は、なかったことにしてしまわなくてはならなかった。
 一つの掛け違えもなく釦を留め直してやり、乱れさせてしまった髪を整えてやり、僅かによれたシーツは如何ともし難いので元通り毛布を被せることで誤魔化すことにする。柔らかく閉じられた瞼が開くまでにはもうそこまで間がないだろう。だというのにどうしてもこの十数分のあいだ自分のものであった唇が恋しくなってしまい、抗いがたく最後に一度だけ口付けを落とした。

 逃げるようにして足早に部屋を後にし、廊下の角を曲がって座りこんでから気付く。莫迦野郎、自分の部屋から逃げるなんざそれこそ何かあったと疑えって言ってるようなもんじゃねェか。しかも散々人の躰弄り回しておいて旗色悪くなったら退散、っておれはどんだけ下衆なんだ。だが、何だ、こんな日にあんな訳分からん処で寝てるアリスもアリスだ、それにしても気持ち良かった――嗚呼、ンな事考えてるようじゃ次があっても間違いなく同じ事、するな。それ以上だって有り得る。何考えてんだ俺、今必要なのは反芻じゃなく反省だというのに!
 深くため息を吐いたのは上記の後悔によるものが半分と、未だ先の妄想めいた時間の残滓が拭えず熱を持ち続けている下半身をどのように処理したもんかというある種まあ幸せな悩みによるものが半分、といったところだった。

 明くる日、幸いにも昨夜のことを何も覚えていなかったらしいアリスに「……あたしいい歳して人様のベッドでお漏らしなんて恥ずかしいこと、してないですよね」などと羞恥の極みのような表情にて囁かれた折には色々な意味で歓喜に震えたものである。


・かわいいあの子を汚したいの


//20101006-7(1005 Happy birthday to Marco! after)20161005 Rewrite


 お漏らしで胸元がべたべたになるなんて聞いたことないですよ。やれやれ、その辺りの始末まできちんとしてくださらないと、次回以降はもっと早めに起きなきゃいけなくなっちゃいますね。


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