text (風紀巫女SS) | ナノ
UNPOSTED LETTER


「やべぇ……」
「どうしたんですか、桑田君」
「舞園ちゃん?! や、いやっ何でも…ヤ、なくもねえか、……コレさー」
「少年野球の雑誌ですね。あ、もしかして寄稿の依頼があったんですか」
「ソレよ。相変わらずスゲー勘な……マジで困ってんの、オレみてーな才能だけでヨロシクやってる奴に何語られてもガキどもが困るだろって話な」
「そんなことないですよ」
「優しいね舞園ちゃん…」
「いいえ、客観的事実です。クラスのみんなは桑田君のこと近くで見てるからいろいろ言いますけど、それでも桑田君は子供たちにとってはちゃんとした憧れなんですよ」
「……そ、っかなァ」
「ですです、子供たちにとっては!」
「うんオレそこ今敢えて聞かなかったていで行こうとしてたんで繰り返さねえでもらえますぅ舞園さん?!」
「――……知り合い、の」
「ヒェア?! ……ンだ、オメーかよ」
「戦刃さんじゃないですか! なんですかなんですか?」
「……ごめん、なさい。驚かせちゃって。あの、知り合いの息子さん、…あの、知り合いってその、"同業者"なんだけど、えっと、その息子さん、小学生なんだけど、」
「お、おう。別に急かしちゃねえからゆっくり喋っていーよ」
「その、息子さん。桑田君の……えっと、投げ方?の動画、すごく好きで何度も見てるって言ってた」
「わ! 凄いじゃないですか、桑田君って解説動画とかやってたんですね」
「ンな上等なモンじゃねーし……っつか戦刃の知り合いとやらはいつのヤツ観てンだそれクッソ恥ずかしい死ねる! マジでそんな説明?みてーのしてねェから、そもそもオレがそこまで考えて野球やってねーもんよ」
「それがいいんだ、って」
「はァ?」
「……小学生、だし」
「あ、確かにそうかもしれないですね。難しい理論的なことを言うよりも、感覚的に『腕をこう、ガッと』とか、『なんかフワーってなる感じだとあんましよくねえ』みたいな言い方のほうが、子供さんには呑み込みやすいのかも」
「ちょっと待って舞園ちゃん、なんでオレの科白まんま当ててンの……」
「? そうだったんですか? 当てずっぽうだったんですけど」
「エスパー怖い……」
「……アー…まあ、ガキンチョ向けなら、そうなァ。深く考えねーでオレなりに書けばいい、の、かな」
「ええ、きっとみんな喜ぶはずですよっ」
「あ、でもその知り合いの息子さん、舞園さんのフォトエッセーはもっと好きだって言ってた」
「きゃーほんとですか、嬉しいです! すっごく頑張って書きましたからっ」
「ねえそれ今のオレにとって必要な情報だった?! 戦刃的にそれ今どうしてもこのタイミングで言わなきゃいけねえことだった?!」

 * * * 


「ふぅ……もうこのダンベルはちゃんと挙げられるよぉ」
「不二咲、オメー最初の頃よかだいぶ強くなってきてんじゃねェか」
「え、ほんと?! ……お世辞じゃなくて?」
「バッカお前オレがそういうの得意じゃねーって一番知ってンだろが。あれよ、あー……やっぱアレが良かったんだろうな」
「あれ」
「兄弟が言ってたヤツだ。自分だけの目標を持てっつー…まァオレからすりゃいつものアイツの暑苦しい説教だけどよ。単にオレみてーになりてェっつっても、不二咲がなりてェのはまんまのオレじゃ無いっつう」
「石丸くんすごいよねえ、ああして言葉にしてもらうまで、実は僕もトレーニングにぴんときてなくって……」
「よ、っと……そんじゃ次から両側に一つ重りつけっか」
「頑張る。――彼……石丸くんは、勉強ばかりしてたときの自分が恥ずかしいーって時々言うけどさ、」
「おォ」
「こうして僕たちがもやもや抱えたままでいたことをちゃんとした言葉で、分かりやすく話してくれようとするでしょ。そういうとき、この人は本当に頭がいい人なんだなーって思うんだぁ」
「……確かにな。テストとか先公ウケばっか気にしてたんじゃアイツみてェにはならねーわ」
「よいしょ、っ……だから僕、石丸くん"も"すごく尊敬してるよ。もちろん、こうして僕の先生をしてくれる大和田くんのことも」
「あァ?! やめろっつのオレぁ別にテメーの先公になった心算はねェよ!」
「も、もう泣かないよ?! いいの、僕が感謝したいだけだから! 大和田くんや石丸くんと将来もちゃんと胸を張って並べるように、僕も僕なりの男らしさ、極めるんだ……っ」
「……チッ」
「こないだはね、一人でパソコンデスク運んでお部屋の模様替えができるようになったよ。今度は図書室の本棚を動かせるようになりたいなぁ」
「十神に手伝ってもらってたもんな」
「ホコリ避けでエプロンとマスクと三角巾する十神くんはなかなかレアだと思っ……ひゃ!」
「っと危ねェ! 不二咲オメーちゃんと重り固定してたかァ?」
「忘れちゃってたかも……だめだねぇ、まだまだ大和田くんにみててもらわなきゃ」
「コレ終わったら次はオメーがオレの先公だかんな。今度の古典の小テスト、追試喰らったら流石に兄弟が怖ェ」
「任せてよ。…僕もあんまり古典には自信ないけど、い、いざとなったら腐川さんとか有栖川さんにもお願いするから……」
「頼んだぜマジで。あれよ、ダチ同士キャッチアンドリリースってやつだ」
「(もしかして:ギブアンドテイク かなぁ……?)」

 * * * 


「例のブツが直りましたぞ安広多恵子殿、こんなもので如何ですかな」
「……あら、存外に悪くありませんわね。そういえば貴方は平生フィギュアなどの立体造形なども趣味で手掛けているということでしたから、手先は器用だったのでしょう。わたくしのヘッドドレス、なかなか細工が込み入っているものだったので半ば諦めかけていたのですが……正直、少々見直しましたわ」
「ブヒィイイイ?! 唐突にデレから入るこのパターンは拙者と安広多恵子殿のこれまでを振り返ってもSSR級の稀によくあるパターンですぞ?! あっこれ知ってる、上げて落とすパターンでしょう?!」
「お花の刺繍もレースのリボンも、流石に新品同様とまではいきませんが見られなくはない程度に補修されています、……かなり時間を掛けましたのね」
「まぁー、そりゃァ女王様の私物とあらばひとたび汚そうものなら何をされるやら知れたものじゃありませんのでねェ……というのは措いておいて、モノに思い入れを持つ気持ちは僕とて重々分かっていますから」
「――別にそこまで高価なものでもありませんけれど。そもそも貴重品であるなら専門の職人に頼みますわよ、そこに財力は惜しみませんわ」
「而してどうでもいいものであればわざわざこの豚めに修理を頼んだりなどなさらないでしょうに。深いことは聞きませんがね、何にせよお褒めに与れたなら光栄ですぞ安広多恵子殿」
「わたくしに使われ、剰え評価されたことを誇ってよろしいですよ山田君――ええ、うふふ、ただの一点を除いては」
「キィエエエェアアアやっぱりィイイイ?!」
「テメェ山田ァアアさっきっから何ッ回わたくしの名を汚してくれてんだアァン?! 高貴で瀟洒で微かにゴシックの退廃感薫るわたくしの真名はセレスティア・ルーデンベルク! そもそも入学して自己紹介を経てからこの方わたくしが一度でもンな古臭い名前を自称したことがあったかよォオオオおらあああああ!!!」
「あひぃんお腹は! お腹はらめなのぉおお!」
「君たちッ! 放課後の教室で何を二人で乳繰り合っているのだ! 看過しがたいぞッ!」
「「お前が言うなやァアアアアア!!!!」」
「うはほぅ?! な、何故この流れで僕が怒鳴られているのだ……? それにしてもその連係、やはり君たちは仲が良いようで」
「よ・く・ね・え・ですわよ何処に目ェついてやがるんですのこの高性能チンパンジーさんは」
「ふえぇ……この外見真っ黒お腹も真っ黒なブラックツインドリルさんが僕を苛めるんですぞー……怖かったよぅきよくん……! うるうる」
「申し訳ないがその呼称は白雪のみからしか受け入れられないのでこの場を境に僕は安広くんの味方をさせてもらうとしよう」
「結構潔く器の狭いタイプ――――!!!!」
「賢明な判断ではありますがわたくしの名前はセレスティア・ルーデンベルクですの石丸君、即刻改めてくださいまし」
「と君は平生から嘯いているが、何故そこまで本名を忌避するのか分からない。皆、とてもいい名だと言っているぞ」
「み、皆って……たとえばどんな輩ですの? 言っておきますがそこらの有象無象の戯言にわざわざ耳を貸し心を動かせるほどわたくし、純ではありませんわよ。貴方の大切な有栖川さんなどとは違って」
「むぅ、そうだなたとえば……舞園くんとか」
「ハイ出ました超高校級の女子愛好家!!! 彼女の場合こちらをおちょくってくるでもなく単純に本心から発言しているように見えるのがどうにも食えませんの、いつか背後からどついてやりたいですわ」
「言っておられましたなァ、『"多くを恵まれる子"だなんてとっても幸せな名付けだと思うんです!』でしたかな」
「気持ち悪い裏声はおやめなさいな山田君」
「僕としては"多くの人に恵む子"という解釈もできると思った。それだけたくさんの解釈、というか願いが含まれている名前なのではないのかね」
「……こじつけでしょう」
「朝日奈葵殿や大神さくら殿も言っていましたぞ、『女子としてはやはり"子"がつく古風な名前に憧れる』と」
「古風なのが嫌なんですの」
「何故だね?! 古式ゆかしきことは何ら恥じることではない、静謐さや落着きを与えるたいへん意義深いものだ!」
「貴方がそう思うのならそうなのでしょう、貴方の中では」
「そういうことだ。つまり学友らの中においてはきみの名はたいへん好意的に受け入れられるべきものであるということだ」
「っべーわー、論破きちゃったわーマジやっべーわー! 石丸清多夏殿、これは明日から安広多恵子殿が舞園さやか殿らから"たえちゃん"呼ばわりされる素敵ングな場面が拝めちゃったりするのではないですかnゲフォア!」
「うっっっせーんだよ屁理屈こねてンじゃねェぞビチグソ共がァアアア!!!」
「イヤァアアアアア!」
「テメーもだ石丸コラァ! 日増しにそういうところが有栖川さんに似ていく感じがもう本当にブチ転がしたくなりますの! カップルバカ二人纏めてブチ転がしたくなりますの!」
「な……ッ?! いつブチ転がされても良いように常時きちんと白雪の傍に居てやらなくてはならないな! 護らなくては!」
「そういう処だよ爆ぜろやこの野郎ァアア!」

 * * * 


「十神、コレありがとー!」
「構わん。……果たしてお前がこれを巧く使えたのか否かは知らんが」
「問題ない。我が監督していたゆえ」
「おー? 朝日奈っち、十神っちから何借りてたんだべ?」
「……もんだいしゅー」
「な、なななな何よ意味深な会話しちゃって……アンタが十神君とモノを貸し借りする仲になっちゃってたのかしらって…ああああたしを差し置いてそんな、って…心臓止まるかと思ったじゃないの」
「にしても珍しいべな、朝日奈っちがわざわざ問題集借りてまで勉強? 何かあったんだべ?」
「ううう私だっていっつも授業は私なりに真面目に聞いてる心算なんだよー! わかんないなりに頑張ってるもん! でもホラ、夏休み挟んでここ最近ちょっとさあ……出席日数が、ね……?」
「然様。朝日奈の名誉のために弁護させてもらうが、彼奴は決して勉学を投げ出していたわけではないのだ。地域の大会のみに及ばず、遠征などもこなしていれば無理からぬこと」
「追試の勉強してたってこと、ね……ふん、何よ…アンタ普段は真っ先にあたしに泣きついてくるってのに…も、もももうあたしなんかお呼びじゃないってことなの…そうなのね……?!」
「えっ違うよ腐川ちゃん! 日程的に数学と生物のほうが先だから理系をまず頭に詰め込みたいだけなんだってば。現文はいつも通りあとから腐川ちゃんに頼る心算でさ……えへへへ」
「他力本願もここまで爽やかだと最早怒れねーべ!」
「貴様がそれを言うか、葉隠」
「はぁあ?! ななななにいきなり、っていうか当然のように頼ってくる心算なのよアンタ……! と、突然当日に言いだされたってこま、困るんだからね……あたしだって仕事とか、あるし……前日の夕方までに絶ッ対頭下げに来なさいよね……ふふ、あ、あああたしなんかに、嫌でしょうけどっ……」
「ドーナツいーっぱい持ってくから!」
「アンタ原稿用紙に砂糖やら油やら散らすから駄目! ドーナツごと出禁喰らわすわよッ!!」
「――時に、十神よ」
「どうした」
「朝日奈に貸し出していたこの問題集だが、なかなかに有意義なものであったな」
「そういえばオーガもそこそこ勉強できるんだったべな」
「だよー! 国語が得意で英語はちょっぴり苦手、ってすっごいカワイイんだから!」
「アンタの成績もなかなか可愛いわよ……っふふ、数字が小さくってね……!」
「むー、ひどーい腐川ちゃん! その数字を可愛くなくするのが腐川ちゃんの使命なんだかんね!」
「いいいい嫌よ勝手に背負わせないでよねッ……?!」
「――その言い方から察するに、成程。そいつは少々梃子摺ったと見える」
「正確には一進一退の攻防、とでも呼ぶが正しかろう。而して解説が充実しており類題も豊富、初手で躓いては弱音を上げていた朝日奈も自主的に取り組むうちに七、八割の正答を叩きだせるようになっていた」
「へェー! やるなァ朝日奈っち!」
「ふふん、どやです! なんちゃって舞園ちゃん風!」
「朝日奈の平生の学力を、十神――お主がどれほど正確に測っているのかは知れぬが、此奴の頼みから殆ど時間をとらぬままに適切な問題集を手配し貸し与えるその手腕、見事であった」
「な、なななによそれくらいっ……十神君なら朝飯前に決まってるじゃないッ……!」
「ん? 俺は新たに問題集を手配したわけではないぞ」
「何ッ……?!」
「……え? 十神、私のために丁度良さそうなレベルの探してくれたんじゃないのお?! だってだってピッタリだったよ?!」
「(あ、十神っちがキョトンとしてるべ。こーゆー顔してるときの十神っちは何だかんだでわりと単純にキョトンとしてんだって)」
「否、俺はただ、

 ――自分の手持ちで一番初歩のレベルの問題集はどれだったかと当たってみた結果、過去にさわりだけ扱って簡単過ぎると判じたものを適当にくれてやったまでだ」
「「えっ」」
「(オーガの「えっ」は貴重だべ皆! 今の録画gif1500円でどうだべ?)」
「……ち、ちなみにとg…白夜様、その"過去"って一体、白夜様がおいくつくらいの御年にあらせられた時なんですかぁ……?」
「小学6年だな」



「さくらちゃん、GO!」
「なッ、朝日奈お前何を考えている、やめろ!」
「いてっ! ……イヤ何で俺なんだべ?!」

 * * * 


「急いでくださいみんな! なくなっちゃいます!」
「わ、……っわ、廊下すごい人……!」
「何しろ花村先輩と安藤先輩の共同作品でしょう、皆して賞味してみたいと考えるのは何ら可笑しいことではないわねえ」
「ふむ……糖分を用いない調味料を駆使した菓子と、デコレーションスイーツの技法を取り入れた全く新しい日本食……確かに先輩双方のお力がなければ成立しないコラボレーションだな」
「わたし蜂蜜とみりんのクレームブリュレ絶対食べたいんです! んもー霧切さん何してるんですかっ置いてっちゃいますよー!」
「……って言いながらも待ってあげてるんだね、舞園さん」
「当たり前です。だって!」
「友達だから?」
「いやいやお一人様一個だからに決まってんじゃん?」
「江ノ島さん! プリン行かなくていいの?」
「あーいいのいいのアタシは、優しいお姉ちゃんにお願いしてるし」
「……一人一個のプリンを、だよね」
「とーぜん。あとあとぉ、私様には超絶かっこよくて流行りのダルデレでツンデレでスパダリ?な彼ぴっぴもいるし? お願いはしてないけど貰って来てくれるっしょ」

「ひぇえええん転んでしまいましたぁあ……!」
「もー、罪木! そこ何もないじゃん何してんのバカ! 生フルーツのゼリー食べたいっつってたのあんただろうが!」
「ふぇ、ぐすっ……ごめんなさいぃ」
「ハイハイ大丈夫だから、アタシがちゃんと花村には話付けてるから! 77期特権! ほら蜜柑ちゃん、お財布の中身は日寄子ちゃんが拾ってくれたから泣かないで起きて起きて」


「んむー、わたしはそんなんじゃないですもん! 霧切さんが食べたいお料理あるって言うから!」
「言ったわ、確かに。まぐろの炙りは私のものよ」
「霧切、アンタこの何年かで変わったくね……?」
「お言葉そのままお返しするわよ、江ノ島さん」
「ボクからすれば二人ともずいぶんとこう…江ノ島さんは元からかもだけど……なんていうか、明るく、なったよ……」

「鯖の味噌煮はわたしがいただいた」
「おーっ千秋ちゃんなかなか渋いチョイスっすね! でもでも唯吹的には王道のハンバーグも捨てがたいっす……お一人さま一品限りなのが悔やまれるぅう……!」
「オッサン急ぐぞ! あ――――そこに七海と澪田も居んじゃねーか! 一緒に背負えるよな弐大!」
「任せんかいィ! ――無ッ、其処に風紀委員がおるぞな、止むを得ん……暫し徐行運転じゃい!」
「あっ……自分で走らなくていいとなると、とても…ねむいね……」
「いやん千秋ちゃん寝ちゃだめっすー!」


「まァアタシの場合はなんつーか、その前にデカい失恋的なのやらかしたから吹っ切ったって感じなんだけど」
「えっ江ノ島さん松田先輩の前に彼氏さんいらっしゃったんですか?!」
「いんや、アタシこれでも身持ち固いし? ダァ一筋に決まってんじゃん」
「? 君たち、何の話をしているのだね」
「いーのいーの。飽きることに飽きたし今はその日その日それなりに楽しいかもね」
「成程、分からん!」
「江ノ島さん、コイバナならわたしいつでも付き合っちゃいます! どんとこいです!」
「え、舞園は誰との話聞かせてくれるわけ? 霧切? セレス? 有栖川?」
「生憎だが白雪は僕の恋人なのでn「入ってこないでください石丸くん! 分かってますって流石に白雪ちゃんには手出しできませんから!」……ふむ、分かっているならいいのだ!」

「っちょ、あいた……っ痛た! ひなたく……たすけ……!」
「うあヤベっ、日向ー! 狛枝が人ごみに流されて変わってゆく私をォー!」
「落ち着け左右田! 訳が分からん! なんでそこでユーミンだ!」
「す、すばらしいよ……ボクが…超高校級の皆の踏みだ、……物理的にすごい踏まれてる! これ相当の幸運が来ないと収拾つかないけど大丈夫かな?! ボクはこれから来る幸運に耐えられるのかな? あははは……!」
「……ほら狛枝手ェ貸してみろ! 悪い九頭龍、ちょっと俺の財布持っててくれるか」
「おう」
「――……はあっ、助かった……もー遅いよ予備学科〜」
「もっぺん行ってくるかあの行列の中に」
「オイ狛枝早く謝れ日向はマジでやっから! ――……あのハムスターちゃんは何処行きやがったンですかねえ」
「あっちで溺れそうになってンの、そうじゃねェか?」
「見つけてたならもっと早く報告しような坊ちゃん?! 日向、GO!」
「俺は超高校級のライフセーバーか何かか? ん?」


「――よくよく考えりゃ、まあまあ飽きねーし」

「? 何か言いました?」
「なーんも? あーほら苗木、ちょっくら舞園ちゃんのために保険でプリン一個ゲットしといで、ほれ走った走った」
「っわ、ボクも食べたいのに……!」
「それなら心配は無用だぞ苗木君、僕は白雪のぶんをひと口もらえればいいから一人分余る。僕のぶんを君が食べるといい」
「絶望的に気持ち悪いですね石丸クン」
「毎回やってますしね、この流れ」
「ボクはそれで毎回助かってるから有難いんだけど、さ……うん、行ってくるよ!」
「アタシも折角だし直々に参戦してやっか……生徒会役員のパンチラとか撮れたら高く売れないかしらん」
「――皆さんとっても楽しそう、誰かが何か作ったっていうと毎度これだもの。とはいえ、皆してこうして賑やかにできるのも、希望ケ峰が平和だからこそ……かしらねえ――きゃあ!」
「白雪、僕たちも急ぐとしよう! 無論、廊下は走らずにだ」

「みんな行っちゃいました。……石丸くん、当然のように白雪ちゃん抱えて…いいなぁお姫様抱っこ。霧切さn「しないわよ」……えー。ってゆか急いでくださいよぅ霧切さん! はよ! はよです!」
「相当数用意してあるでしょう、常識的な範囲で。別段ああして焦る必要もないと思うのだけれど」
「さっきから呑気にロッカー整頓してますけどそれ今やんなきゃですか?!」
「やると決めたときにやらないと長く放置してしまうから」
「んむー、確かにあるあるですけども! わたしたちには江ノ島さんみたいに彼氏さんとかいないんですから希望は常に自分の手で掴まないといけないんですよ!」
「……あら、何かしらこれ」
「もしプリン間に合わなかったら霧切さんのせいですからー! ……あ、イン・ビトロ・ローズですね」
「入れた覚え、ないのだけど」
「でも霧切さんのロッカーですよ、そうそう誰も開けないですって。それにしてもレアじゃないです? それ」
「? 何故かしら」
「ふつう赤いバラなのに、それ、青じゃないですか。わたし、初めて見ました。多分すうごい珍しいですって、大事にしたほうがいいですよ霧切さん」
「――……そう、ね」
「それはそうと! もういいですよね霧切さん、全力ダッシュですよ! はよです!」
「……プリンはともかく、まぐろは大丈夫よ。どうせ皆スイーツ目当てでしょう」
「わたしが!プリン!食べたいんです!」
「大丈夫よ、きっと」
「霧切さんらしくないじゃないですか、なにを根拠にー! うううこれで明日筋肉痛とかやらかしたらマネさん激おこですよこれ、もー」
「当てがあるわ。恐らく花村先輩たちから直々に作品の献上を受けた存在が」
「んん?」


「――学園長(とうさん)がいるもの。譲ってくれるわ、きっと」


・UNPOSTED LETTER


//20160910


――花言葉は「夢叶う」「不可能なことを成し遂げる」
いつかの私が受け取ったかもしれない"手紙"に代えて、一輪の希望を。


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