text | ナノ

いつもここには



「ちょっと失礼。この週末って貴方、ご予定は空いていて?「ああ空いているともッ! たとえ空いていなくとも他でもない白雪の為ならばなんとしても空けてみせy」――響子さん。」



「……あなたの彼、撃沈しているようだけれど。大丈夫なの、白雪?」
「うふふ、大丈夫か大丈夫でないかと言われればあまり芳しくない事態ではあるわ。あとが少ぅし恐ろしい、なーんて…それで、如何かしら? 週末」
「特に予定は入っていないわ」
「じゃーん、わたしもいますよっ。霧切さんが大丈夫なら最早ゴーサインですよね白雪ちゃん!」
「ええ、無論だわ。響子さん、今週の日曜はあたしとさやかさんと共に駅前のスイーツビュッフェに特攻して頂くわね」
「……どうして?」
「やだ、どうもこうも! 女子の三大欲求は恋愛欲・アイドル欲・スイーツ欲に決まってるじゃないですかっ」
「二番目の欲は恐らくこの学園じゅう探してもあなた一人しか持っていないと思うわよ舞園さん」
「そうねえ、正しくは鍛錬欲・知識欲・スイーツ欲となる筈だもの」
「明らかに最後が浮いているわよ白雪、さりげなく石丸くんに迎合するのやめて頂戴。……分かったわ、一先ずこれ といって理由が無いことは把握したけれど」
「そーんな事言っちゃって、霧切さんもきっと行ったら気に入るに決まってるんですから! 出来て暫く経ちますけど、すっごい人気で全然予約取れないトコなんですよ? わたしのコネでもなかなか通らないんですから」
「今、聞いてはいけない話が出てきた気がしたのだけれど気のせいかしら」
「――でもまさか白雪ちゃんが優待チケット貰えるなんて思わなかったです、しかもそれをわたしたち二人の為に! 彼氏さんではなく、わたしたちの為に! そう、石丸くんでなくわたし舞園と霧切さんとの友情デートの為に!  提供してくれるなんて…もうもうほんとに白雪ちゃんだーいすきですっ!」

「……アイドルとは怖いものなのだな、苗木先生」「よ、よしよし」「……撫でられるなら白雪でないと嫌だ」「もう慰めてあげない」

「入手経路に何か後ろ暗いものがあるのね、白雪」
「あのねえ響子さん、たかだか一介の飲食店といち女子高生との間にそうそう陰謀なんて巡ってるものですか、フィクションじゃあるまいし。何もないのよ、ただ件のお店の内装――名物にもなってるホワイトチョコ・ファウンテンなのだけど――のデザイン担当が、その、あたしのところの」
「成程、信者の方だったという訳」
「Exactly!――あ、勿論所謂"お布施"とかではないのよ。個人的に、くださったの」
「……寧ろ"個人的に"あなたにものを"くださった"ひとが存在したという事実に対して猛抗議を起こしそうな人物が若干一名居るような気がしないでもないのだけれど」

「あ、ですねー確かに。白雪ちゃん、このあとホワイトチョコ口移しするか首筋から胸元までチョコ塗って舐め取らせてあげるかくらいしてあげないと後ろのひとに赦してもらえn「ああ勿論あたしから今回このチケットで施しを受けたからといって"うち"から何かお二人に働きかけがあるとかそういうのは一切ありませんから安心なさってねうふふ何せ"うち "って皆さん知ってのとおり完全に"信仰は個人の自由"だものですから緩いのよ嗚呼そうそうそうだわ響子さんにお店 の詳細をご説明しておかなくてはねあのね此方のお店ってこのテのお店には珍しく完全時間無制限で一度入店したらすべてのスイーツとパスタやイタリア風惣菜など軽食各種やドリンクがすべてフリーになるのようふふ三人で協力し て全種類制覇しなくてはね腕が鳴るわうふふふふ!」いいい痛いですいたいたた痛いです白雪ちゃんごめんなさい完全にわたしの失言でした痛い痛いうわあああん!」

「ひどい超高校級のノンブレスを見たわ。…否、寧ろ超高校級の口封じ? 強制シャットダウンと言うべき?」
「ぅー、アイドルのほっぺをこんなに惜しげもなく引っ張るなんて…めそめそです、もうっ」
「白雪が通常操業に戻る前に、聞いておきたいことがあるのだけど」
「どうしました? 霧切さん」
「あなた、さっき"お店はなかなか予約が取れない"と言っていたわよね。つまり超人気店であり、連日満員だということで相違ないかしら」
「? そう、ですよ?」
「……大丈夫なの?」
「え? 何がですか?」
「あなたよ。まさかあなたに限ってここまで言っても分からないだなんて冗談でも言わせないわ」
「あ、あー分かりましたよ! 霧切さんに心配して貰えるだなんて感激です、ふふっ大丈夫ですよーちょっと一日だけケーキいっぱい食べたくらいで崩れるようなプロポーション管理はしてませんから!」
「違う、そっちじゃなくて」
「そっちじゃないなら猶更大丈夫です。
 ――ふふっ、ごめんなさい。分かってましたよ。だーいじょうぶです。確かにわたしはアイドルですし、白雪ちゃんもそれなりにメディアに露出のある立場ですけど…わたしたちには文明の利器がありますからっ!」
「髪色とヘアスタイルを変えて、瞳の色まで変えてしまえば殆どパッと見では誰だか分からなくなってしまうものだものね。印象をがらりと変えてしまうのが変装の初歩、――これって、響子さんがあたしに教えてくだすったのよね」
「あっあっお帰りなさい白雪ちゃん! …って、ことですよ霧切さんっ! どやです!」
「…まあ、確かに理屈だけれど」
「ふふー、わたし髪色と瞳の色、霧切さんとお揃いにしちゃおっと。双子みたいに見えますかねー? それで高い位置でツインテールにしてリボン付けまs「待ちなさい、許可しないわよ」…むー」
「あら、さやかさんたら狡いわ。あたしも響子さんとお揃いにしたかったのに……ふふっ、あたしはどうしようかしら」
「……其処までする必要があるの?」
「あらあら、響子さんらしくもない愚問だわ。あたしたち、響子さんと遊びに行くためなら既に手段は選ばぬ境地で居てよ?」
「ですよ! どやです!」
「どうして」
「どうして、って。…どうしてでも、ですよね? 白雪ちゃん」
「ええ、無論よ」
「解せないわ。この週末に何があるというの? チケットの入手経路にもおかしなところはない、ビュッフェ自体も至って普通のチェーン店のようだし。だというのに、あなたたちは三人目の同伴者が私であることに強く拘っているのね。わざわざ変装の算段まで立てて」
「それは勿論、」「ねえ?」

「だって、お友達と遊びたいと思う気持ちに理由なんて要らないじゃない。如何かしら、違っていて?」
「ふふふー、霧切さん知らないんでしょう。あのですね、友達って何にもなくても一緒に居るのが「普通」なんですよ!」

「……、」
「ちなみにスイーツビュッフェのあとは普通にショッピングモールを冷やかしてカラオケに行き、最後にプリクラを撮って終わるという王道おともだちデートコースですよ、どやです!」
「うん、やっぱりあたしもお二人に合わせて霧切響子的カラーリングにしたいわ! ショートカットにウィッグを整形すればなんだか浮世離れした三つ子の姉妹に見えて…あらいけない、人目を引いてしまってどうするの」
「有難う、」
「え? 白雪ちゃんは当然黒髪に赤の瞳で石丸くんぽくなる流れでしょう。当日は白いジャケットに編み上げブーツでお願いしますねっ」
「うふふっ、あたしがそのカラーリングに挑戦するなら寧ろミス・ルーデンベルクのほうに近くなりそうなものだけれど――あら響子さん、何か仰って?」



「私――あなたたちと友人になれて、良かったわ」



「――……お、おう」
「せやな…って言っておく流れですっけ? あれ?」
「……言いたいことはそれだけよ。ちなみに私も白雪が変装するのであれば黒髪赤目はマストだと思うわ」
「はいはい、考えておくわね。さあ、段々とあたしの背中にちくちくと灼熱の針が刺さり始めて悶える程だからさくさくと日程時間詰めてしまいましょう! はい各々手帳を出して――」


 ねえ、白雪、舞園さん。
 もし私が、こんなこと初めてなのよ、って打ち明けたとして、あなたたちは笑うかしら。
 それとも、笑ってくれるのかしら。

 "探偵"として自分を立てることを求められ、自分でもそう在ることに疑いなく過ごしてきた私にも。
 当然のように近くで笑ってくれる、友人が出来たのだと。そう自惚れてみてもいいのかしら。


「えーっと、じゃあ十一時半に、改札前でっ」
「日曜日が今から楽しみよ。――はい、はい! 清多夏さんにはなにかお土産を探してくるから、そんなに哀しそうな顔なさらないで?」
「…あれ? ふふっ、霧切さんったらせっかちさんです。日付にマルするなら今日じゃなくて日曜日でしょう?」
「――そう、ね。迂闊だったみたい」


・いつもここには

20131129

 私の居場所が、在る。