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希望ケ峰ソシャゲに風紀さんが斬り込むC


「いーい日向くん、今日こそ開発者チームに勝つんだから。前衛は任せたよ、しっかり頑張ってね」
「七海お前なあ……俺のこの初心者に毛が生えた程度のデッキで何ができると思ってるんだよ。無理だよ」
「大丈夫、GvG(ギルド対抗戦)は個人戦じゃない。みんなで力を合わせればなんだってできちゃうよ、ギルドメンバーは仲間なんだから。やればなんとかなるってやつだよ」
「いやならねえよ? お前の真性ゲーマー丸出しの高レア満載デッキと俺の未だにコモンカード抜けないビギナーデッキじゃできること違いすぎるよ?」
「序盤はとにかく前衛後衛をめまぐるしくチェンジしてステータスにバフ乗せ、わたしと御手洗くん、舞園さんたちで指揮はとるからとにかく日向くんは一生懸命『声援』のコンボを積んでね」
「お、おう。消費スタミナの小さいSR無印小泉の『シャッターチャンス』とか複数対象のSSR【夏休み】朝日奈の『お日さまプールサイド』とかでみんなにステータスを上乗せすればいいんだよな」
「うん。……むー、ほんとはあのレアリティ詐欺かっこガチャに実装されてない疑惑が立ってる的な意味でかっこ閉じ、なあのSSR巫女さんの『聖処女の祈り』があれば自分にバフ乗せつつ前衛に回復+バフで一番いいんだけど、流石のわたしも未だに引けてないんだよね、遺憾である」
「で、中盤から後半以降はモノクマアナウンスの種類に合わせて適宜攻撃、だったよな」
「御手洗くんが持ってる切り札のUR罪木さん『お注射グラマラス』とか舞園さんがなんとか育成間に合わせてたUR西園寺さんの『雅華乱舞』で相手の前衛をしっかり黙らせてリカバリする隙を与えない寸法だよ。わたしの切り札は最終盤のワンチャンに懸けるんだ〜」
「あー…UR【愛の手料理】舞園……」
「然様。指定時間にきちんとデバフを合わせて最後に『愛情ラー油ラプソディー』で特大ダメージを狙ってくよ。あの技のすごいとこは、発動時に必ず彼女のアビリティ『超絶どやです!』が発動するとこなんだ、なんとダメージ倍率が2倍」
「ぶっ壊れだな。詳しくない俺でも分かる」
「さっきのSSR巫女さんの覚醒URも一緒にあるともっといいんだけど、もしかしたら開発陣も地味に引けてないかもだからなんとかなる…と、いいな」
「スキルが変わるんだったか?」
「そうそう、アビリティが『風の精霊の駕籠』から『風の番人の寵愛』に変わるの、中増加が大増加になるってだけですごく有難いんだよね……はあ、引けないかなあ」
「……風の番人。はあ、"風"紀委員、か……」

「不二咲、準備はいいか……ってのっけから涙目じゃねェか! 頑張ろうぜ!」
「大丈夫ですぅ…ふえぇ、まさか御手洗先輩が向こうに味方しちゃうなんて」
「アタシ、写真撮っただけだしゲームってあんまりやらないのよねえ…千秋ちゃんすごいやる気だし、せめて情けない負け方しないように頑張らなきゃね」
「オメーまで弱気かよ小泉! 大丈夫だっての、オレらは人数少ない代わりに運営の特権ってことで全員デッキURで固めてんだからよ! デカい声じゃ言えねーが排出絞ってる【夏コレ】江ノ島やら【体育会】終里もがっつり育成済みだしよ、やっぱガチャ回し放題っつーのは運営の醍醐味だよなァ」
「ちょっと左右田、千秋ちゃん怒ってるから! ゲーマーの矜持を損ねちゃだめよ」
「(いろんな柔らかいものを投げて来てるけど飛距離が届いてないよぉ…ぜんぶ日向先輩が拾って回収してあげてる……)」
「……にしてもアレだな、あのカードだけは結局お前らも引けてねーんだっけ?」
「ダメだったわ。アタシはそもそも気が引けちゃってあんまりガチャ回してないし。それにしたってアンタたち2人あれだけ回して一枚も出なかったの?」
「そうなんですぅ。おかしいですよね、そんなに目立って排出絞った設定じゃないはずなのに。僕のクラスメイトが一人だけ引いてたんですけど」
「はァ?! マジでか! ちょっソイツ今から連れて来い、あのカードあればワンチャン捲って勝てる道が見えるかもしんねー!」
「不二咲のクラスにも居たもんね、"幸運"。助かるわ!」
「あ、違うんです。苗木君じゃなくて……」





「あら清多夏さん、早かったのね。ご用事、もう宜しいの?」
「急に不二咲くんから連絡があったと思ったら――何だったと思う、ここ最近きみたちが頻りに話題にしている件のゲームの話だったのだ! 斯様なことのために僕をわざわざ呼び出したのか彼は……などと、以前の僕であれば説教の一つはくれてやったところだ」
「まあ、お遊びのお誘いだったのね。うふふ、素敵じゃない……あ、そうねえ。お昼休み開始から20分後、ちょうどギルドバトルが始まる頃合いだもの」
「嗚呼、その誘いだと言われた。なんでも、僕が所持しているきみのカードはゲーム内でとても貴重なものだそうで、きみ一人で戦局をひっくり返すほどの力があるのだと」
「うふふ、そういえば斯様なこと言われていたわねえ。あ、いけない、お弁当。――はい、きょうは洋風なの。ベーコンときのこのピラフと重ねカツのデミグラスソース、玉子焼きはチーズ入りにしたわ」
「なんと! もう先の話はいい、この昼餉を楽しみにしていたのだ! ……もう食べてもいいだろうか?」
「枝豆と秋野菜のサラダはこちらのクリアボウルからどうぞ、いまお茶ご用意するわね――と、……本当によろしかったの?」
「戴きます。……むぅ、僕とて不二咲くんの頼みを無碍にしたいわけではないのだが、そもそもきみも知っての通り、僕は殆どあのゲームに手をつけていないからな」
「勿体ない」
「当然、カードもきみ一人のものしか所持していない。あれからきみに物語を朗読してもらって満足したので本当に、文字の上通りに、何もしていないんだ」
「育成もデッキ編成も、なんにもなさってらっしゃらないものね。――……ん、なあに? もう、……はい、あーんして頂戴」
「ん、……。有難う、やはりきみが作ったものは何だって美味だ。それで、ええと……何だっただろうか」
「もう、惚けておられるのだから。一度くらい彼らに混ざって遊んでいらっしゃいよ、今日なんていつもはお忙しくしておられるさやかさんまで意気揚々と食堂に出向いていらっしゃったはずよ」
「僕にとってはこうして屋上できみの手製の昼食に与るほうがよほど大切なのだ。放課後も勉学や委員会活動などでとても遊びにまで首が回らないのでな――……そもそもきみたちはあれを空き時間に遊べるものだと言っていたな。全然違うではないか」
「バトルだけはリアルタイムで行われるのが醍醐味なのよ。お昼の時間と夕方の早い時間、それから少し遅い夜。三つとも学園生活に支障の出ないような設定になっているわ、不二咲さんたちのご配慮の賜物よねえ」
「だとしても、ゲームなどの時間に縛られていては現実の生活リズムに不具合を来さずとも十分に問題だろう! やはり申し訳ないが僕にはとても――……む、いけないッ!」
「んぅ? 清多夏さん、まだなにかご用事がお有りなのかしら」
「折角のきみの料理、ゆっくり堪能したいのは山々なのだが何とも口惜しいことに時間は有限だ、――早く完食してきみに食後の膝枕を頼まなければ! 耳掃除もだ!」
「……んえ、え?」
「あれは僕にとってのルーティンなんだ。きみも知っているだろう、かの著名なアスリートの歴々にとっても日々決まった習慣を持つことは自分の調子を整えるためにたいへん意義深いことなのだ! よほどの用事がない限りは昼に必ず! きみも覚えておいてほしいッ」
「んにっ……?」





「あすの朝ごはんの仕込みは終わった、予復習も万全。あすも清多夏さんと穏やかに過ごせそうね――……うふふ、寝るには少し早いし、たまには一人でゆっくり塗り絵でも……」

\ピンポーン/

「あら! 折角『お姫さまと妖精のぬり絵ブック』をおろそうと思ったのに……なんちゃって――はあい、どなた?」
「僕だ」
「清多夏さん。ご機嫌好う、良い夜ね。如何なさったの?」
「否、火急の用などは特にない」
「あらあら、じゃあわざわざお話しに来てくださったの? 嬉しいわ、いまお茶をお淹れするわね」
「有難い。……ふぅ、本日の学習ノルマを少々重めに設定してしまってな、気付けば斯様な時間になってしまって慌てて此方まで赴いたのだ」
「えっ、やっぱり何かお急ぎでおいでかしら」
「僕自身の都合だ。就寝前に必ず一度はきみに顔を合わせないと寝付けないというだけで」
「……んんう?」
「きみにとっては生産性がないことかもしれない。僕としても恥ずかしいことではある――それでも、僕にとっては昼にきみの手製の昼食に与ることと、夜にきみとこうして就寝の挨拶をかわす時間、……嗚呼、放課後にふたりで帰寮する時間も含めて――決まった二人きりの時間を持つことは譲れない意義を持っているんだ」
「そ、そうなの……っきゃ」
「身体が冷えているな。もうこの時節にその薄手の寝間着では寒くていけない、きみが温まって眠りに就けるまで、僭越ながら一緒に居させていただくとしよう」


4.そして幻のカードの元ネタとなった巫女の少女は思った。曰く、「清多夏さん、あなたそのルーティン発想わりとGvG向きなのじゃないかしら」と。


//20161023-1123


なお、とても口に出しては言えないもよう。