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希望ケ峰ソシャゲに風紀さんが斬り込むB




「はい、作り置きで恐縮だけれど」
「――おお、風呂上がりに丁度いいな……! わざわざ僕のために用意していてくれたのかね、有難う」
「桃のアイスティーね。白桃のペーストを解凍して混ぜているの、完熟させたうえに凍らせているから溶かしやすいのよね」
「甘くて美味しい。快くて爽やかで優しい、まるできみのようだ」
「もう……而して、ホームフリージングって便利なのよねえ。お休みの日なんかにお料理を多めに作っておけば、忙しい平日もお献立が楽になるから」
「小分けにして何日も食べられるのは素晴らしいな! このあいだ作ってくれた海老のビスクは本当に美味しかった……!」
「喜んでいただけるのが何より嬉しいわ、と――……ねえ清多夏さん、携帯貸して頂戴な」
「む、僕の不貞でも疑っているのかね? 安心したまえ、何も後ろ暗いところなどないぞ、いつでも確認してくれて構わない。ほら」
「うふふ、そういうのじゃないわ…えーっと、……スマートフォンは扱いが難しいわねえ……?」
「きみもそろそろ機種変更を検討するといい、僕や大神くんでさえ此方を使っているんだぞ――…と、……むぅ、またそのゲームかね」
「折角あたしを当ててくださったんでしょ、もっと遊んで頂戴ったら」
「だから何度も言っているが、僕にとっては生身のきみ以上に手元に置きたいものなど存在しないんだ」
「まだキャラクタークエストも開放してらっしゃらないでしょう」
「くえすと……? 嗚呼、先刻何やら言っていたあれか、山田君が最高レアリティのカードについて個別のエピソードを書き下ろしているのだということだったな」
「ええ、だからガチャの引きがよくないと長いこと拝めないのよねえ。桑田さん、未だ一枚もさやかさん当てられてないって仰っていらしたし……」
「……うぅ」
「清多夏さん?」
「いやだ、見たくない……僕以外の人間が目の前にいると仮定して作られたのであろうきみの物語など絶対に、断じて受け入れられない……ッ! 山田君の創作者としての才能は実にすばらしいと思う、それは分かっている! 而して、否、だからこそ猶更それを単なる虚構であると笑えなくなってしまいそうで僕は、僕は……ッ!」
「だ、大丈夫よ、相手が誰だとか思わせるような書き方にはなっていない筈だから」
「むぅ……」
「読み手側がどのような人間なのかは極力限定しないような書き方にしてあるって山田さん仰せだったわ――……それに、殊あたしに関しては寧ろ、どう書いてもプレイヤー側があなたにしか思えないようになってしまって困るって頭を抱えていらしたくらいだもの……」
「ハッハッハッ当然だ! 如何なる想定のうえにおかれようともきみの相手は未来永劫この僕を措いて他にあるまい!」
「それってあなた以外の読み手の方にとっては不都合なのよ」
「うん? 何故きみとの物語において僕以外の相手を想定する必要があるのだ」
「(んにぃ目が笑ってないぃ……!)――……あ、ほら。入手後の1stエピソードが読めるみたいよ、どうやら教室が舞台みたい」
「ん? 実際に撮影したものではないのか。紙芝居のようだな」
「あたしも詳しくないのだけれど、確かギャルゲー形式? というのですって」

『あら! 御機嫌よう、あなたも放課後お暇でいらっしゃるの?』

「おかしいぞ、僕はいつもきみと一緒にいるのにどうして放課後に改めて挨拶するんだ」
「(あなたじゃないからよ……)」
「声も聞こえないではないか」
「(あなた学生の自主制作にどこまでのクオリティを求めておいでなの……)よくよく考えてごらんなさいよ、さやかさんやソニア先輩たちのような有名人にそこまで助力いただこうと思ったらギャランティーがえらいことになるでしょう」
「否、僕はきみの声があればそれでいいんだ。……そうだ、今ここで読み上げてくれたらいい! ほら」
「ええ……? ご、御機嫌よう、あなたも放課後お暇でいらっしゃる、の……」
「ああ、お揃いは嬉しいな! ふたりでいつものように課題に勤しんだのちは僕の部屋でゆっくりしよう!」
「おはなし、つづき、よんで」
「……すまない。よし、押したぞ。続きだ」
「――……あ、まだあたし読まなくちゃだめ? えっと、『よろしかったらあたしと一緒に過ごしてくださらない?』」
「ほらやっぱりそうじゃないか! きみが僕と共に過ごさないだなんて有り得ないのだからな! ……と、……ん?」

『どうする?
 >>カフェテリアに行く
 >>娯楽室に行く
 >>断る』

「僕はきみといつものようにどちらかの部屋で二人きりで居たいのだが」
「あのね、プレイヤーとカードの女の子たちは恋愛関係に無いという想定なのよ」
「何故だ?! 僕ときみだろう?!」
「あなたじゃないのよ、再三申しているけれども。交際関係にない男女がお互いの個室で二人きり、なんてシチュエーション流石の山田さんも書いたりなさらないわ、剰え今回は77期、78期の女の子たち。皆なにかしら顔見知りだったり親しい友人だったりするのだから」
「むぅ……」
「ちなみにさやかさんも『EXエピソードで霧切さんがデレました、この世界の霧切さんはわたしに対してとっても優しい……! 神ゲーです!』って完全に自己投影して楽しんでおられたわ」
「僕は舞園くんと並べられるくらいに途方の無いことを言っていたかね?! ……ううん、仕方ないな。カフェテリアに行くとするか。あ、微笑んだぞ! なんと愛らしい」
「便利ねえスマートフォン、パソコンみたいにスクリーンショットが撮れるのね」
「早く読んでほしいのだが」
「ま、まだやるの……『甘いものが食べたい気分だわ。半分こしましょ』」
「きみは僕以外の男と食べ物を分け合ったりしないッ! ということはやはりこれは僕だ、そうに違いない。はあ成程な合点がいったぞ、つまりこれは僕ときみの交際前の時間軸の物語なのだ。そうだろうそうだろう!」
「(ちがう……)ぇと、甘いのを選んだらいいのよね。じゃあポテトでもカレー煎餅でもなく、シュークリーム」
「そうだな。――……ふ、それにしても気分がいい」
「あら、急にご機嫌」

「何せ、この物語を本物のきみの声を伴って楽しむことができるのは僕だけだ。そもそも僕であれば、望めばこれを現実にできるのだからな」

「うふふ、そうね」
「ああほら、新しい科白が出ている。早く読んでくれたまえ」
「もう、――……」


3.最後まで重ねたEXクエストで、ねこみみメイドが「はいっご主人さま、あーんしてほしいにゃ☆」とプレイヤーに迫るシチュエーションが用意されていることを残念ながらこのときの巫女は把握していない。


//20160912-1022


「クエスト解放報酬とやらでチケットが貰えたぞ、ガチャを回してみよう――ッは! なんと! またきみではないか! これはまたとない僥倖……!」
「(また新しいクエスト読まなきゃいけないの……?)」