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希望ケ峰ソシャゲに風紀さんが斬り込むA




 ** おしおきがしゅうりょうしました **


「ぐすっ」

「きみがいけないんだ、反省はできたかね」
「ぅ、……もうきよくんにいじわるされたくない」
「反省は?」
「……したもん(ぐすぐす)」
「ならば良し。きみの特性に限ってよもや失念したなどという言い訳が通るらくも無し、何事かと思えば…まさか単純に僕が興味のない話題だと決めつけていたとは露も思わず」
「(すんすん)」
「肝に銘じておいてくれ、殊きみが関わる事案について僕が興味を持たないことなど一切ない」
「わかった(めそ)……ぇと、それで、続きは」
「先の罰の続きだろうか?」
「ゲームの!」

「なんだ、其方か。……ううん、やはりどうにも食指が伸びないようだ。きみのカードを手に入れることが叶った今、これ以上何かしようとは思えないな」
「機能がいろいろあるの。たとえば先刻さやかさんが響子さんに仰っていた"推し"設定とか」
「推し、というと。舞園くんが使っている以上はアイドル業界の用語かね、……嗚呼、集団の中でいっとう好いているという意味か」
「その通りよ。このゲーム、お気に入りのカードを一枚選んで常にTOP画面に表示させることができるの。待ち受け画面のようなものよね」
「――……ふむ、つまり、もしきみのカードを誰ぞが引いた場合は四六時中きみの愛らしい写真を待機画面に設定することができるということだな、それが僕以外の誰であっても」
「あっ(アカン)」
「明日が休みで幸いだったな、きみから訊かなくてはならない内実が増える一方で大変だ」
「。゚(゚´ω`゚)゚。」

「而して、ふむ。成程、そういった機能があるのだな」
「(響子さんに温湿布の差し入れ頼まなくちゃ……)そう、なの」
「だがやはり僕にはそこまで魅力的に思えないな」
「どうして?」
「確かにきみのこの写真は貴重なものなのだろうが、此れとて画像を保存してしまえばいつでも閲覧することは可能だろう。わざわざゲームを起動するまでもない」
「で、でも」
「それに、僕は今の自分の待機画面を気に入っているのでな」
「時計とカレンダーではないの? ――って、」

「これは昨年のものだろうか、きみと二人で駅前の文具店まで行ったときの写真だな! 今となっては実に懐かしい、このときは未だ手を握ること一つとっても緊張を伴う初々しい間柄だったと記憶している。路地裏にうち捨てられた石造りの階段を見つけて幼子のようにはしゃぐきみはたいへん愛らしかった! これはなかなかのベストショットだと自負しているぞ」
「(幼子も幼子、完全に幼女よこのアホみたいに無邪気な表情……)」
「それからこれは長期休みの折に僕の実家へきみを連れて行ったときのものだ。先程の写真と数日おきにローテーションで設定しているんだ。勝手知ったる居間だというのに、台所からきみが料理を両手に携えて出てくる、たったそれだけのことでなんとも新鮮な、幸せな感慨を覚えたものだ。今でもこの写真を見るたびにあの日の感動が蘇ってくるようだよ」
「(お父さま、お顔半分トリミングされてらっしゃる……)」
「嗚呼而してこれも捨てがたい! 夏の河原で冷たい水と戯れる無垢なきみ。我ながらシャッターチャンスをうまく捉えた素晴らしい写真が撮れたと思っている、とはいえ被写体がきみでなければ意味のない写真ではあるが! 清楚で可憐な白いワンピースに澄んだ川の流れ、それらすべてにぴったりと誂えたかのように映える繊細で美しいきみ、まさしく僕の幸いに他ならない! この写真が僕の手元にあるということ以上に、あの日あの場所でこんなにも愛らしいきみをファインダーに収めるという光栄を得られたのが僕であったという事実が喜ばしいのだ!」
「……あの」
「そしてこれが先日きみの教団の分社へお邪魔した折に撮らせてもらったものだな! 神事用の衣装は夏でも生地がしっかりしているうえ幾重にもなっているから暑いのではないかと僕はいつも心配なのだが、どうしてだかきみが着ていると涼しげに爽やかに見えるのだから不思議だ。幅広の裾から覗く小さい手がたいへん愛らしい。信者の皆さんも口々にきみを褒めていた、まあ当然のことではあるのだろうが……而してこの日きみの何が一番可愛らしかったかといえばこの装束の下に着用していた丈の長いスリップ状の…あれは何というのだったか、キャミソールドレスか? そういったものだった。少女らしい繊細な刺繍ときみの可憐さを引き立てるフリルのあしらわれ方がえも言われず素晴らしかった、写真に収める機会がなかったのが悔やまれてならない、この夏にでも是非寝間着として採用してみてほしいのだが如何だろうか」
「(ふるふるふる)」
「これは僕の秘蔵中の秘蔵なんだ、霧切くんに頭を下げて漸く譲り受けた一枚! 中学時代のきみだ! 今となっては平生において僅かしか拝む機会が得られないきみの幼気な一面がきっとこのときはきみの素そのものだったのだろう、この蕩けるような笑顔! ――っは、否、勿論僕にとっては今のきみが最も愛しいのだということは分かっていてくれたまえよ、而してそうであってもやはり当時のきみも麗しいことは言うまでもない、この時分にきみと近しく居ることが叶った霧切くんを僕は羨ましく恨めしく思わざるを得ない……ッ! 女学院で本当によかった、きみに不遜な目を向ける輩は一人でも少ないに越したことはないのだしな! ところで当時の制服はやはりご実家にあるのだろうか、もし可能であれば一度でいいから僕の前でも着て見せてもらいたいのだが」
「 」
「それと、これは桑田君の誘いでクラス一同揃ってプロ野球観戦に赴いた際のきみだ! 野球のユニホームは男性的なものだとばかり思っていたがまっこと自分の頭は固いと思わされたよ……、大きめのユニホームを羽織ってメガホンを手にしたきみは溌溂としながら可憐で幼げでもあり非常に愛らしかった! 世の男児がデートの場に野球観戦を選ぶ意味が僕にも漸く分かった! しかしながら今考えてみれば両刃の剣でもあったな…応援中とはいえきみが余所の男の名を気軽に呼び捨てたりニックネームで叫んだりするなど……しかも基本的に試合中はきみと目が合う機会がない。やはり次回以降はテレビ観戦が好ましいと僕は思った。――写真はまだあるぞ、此方はその日の夜にきみが僕の部屋に泊まりに来てくれた折にシャワールームから出て来t「んにぃ! わかった! わかったからもうその【僕の天使】フォルダしまってよぅ! 流石に分かるよぅ貴方の推しはあたしだって! わかったからあ!」
「む、まだ紹介したいものの十分の一ほども見せていないのだが……」


2.そのフォルダの中腹あたりに「初夜が明けて」と題された自分のセミヌード写真が保護済みで鎮座ましましていることを彼女は幸運にも知らずに済んだのであった。


//20160808-0911


 もっと言うならこのフォルダ、ナンバリング的には堂々のVol.5である。