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希望ケ峰ソシャゲに風紀さんが斬り込む@



「はァ?! 苗木お前それ舞園ちゃんの最高レアじゃね?! 【南の島】SSR、オレもくっそ欲しくて回してンのに全然出なくてよー……」
「あはは……1日1回の無料ガチャでうっかり引いちゃったんだよね」
「お前やっぱ幸運じゃねーかクソ! やっぱクエスト走んねえとダメなんかなー……」

「見て見てー! 覚醒さくらちゃん全パラメータMAX!」
「ファッ?! 並のSSRより強いじゃありませんか【雪祭り】SR大神さくら殿……これは拙者も縛りプレイばかりせず幅広い育成に取りかからねばなりませんかな」
「え? 私ギルドバトルはやってないからこのさくらちゃんしか育ててないよ? イヤーマフしてるさくらちゃん可愛くてさー!」
「これはある意味ゴリラを超えたゴリラですな……」
「ひどーい! 私ゴリラじゃないもん!」
「ああ、ネトゲでいうところのゴリラとは即ち圧倒的物理火力を以て相手プレイヤーを死体蹴りしまくることをいうのですよ、丁度あちらでオンラインバトルに興じている七海千秋殿らのように」

「……七海、もうちょっと手加減覚えような」
「甘いよ日向くん、ゲーマーたる者いかなる挑戦者にも全力で挑むのが礼儀なんだから。わたしは日向くんに敬意を表して、このガチデッキ(バックスキルデバフ特化)で迎え撃った心算、だよ」
「そもそも昨日お前に言われて始めた俺にはそのデバフって言葉の意味が分からないんだよ!」
「相手のパラメータを下げるって意味だよ。ほら、この【秋色】SR澪田さんのバックスキル『君にも届け!』とかがそれだね」

「アー……やべ、達成感がパネェわ」
「……うん、流石の僕もここ数日ニヤニヤが止まらないんです」
「ここまで喜んでもらえちゃうとねえ…写真家冥利に尽きるわ」
「左右田先輩、小泉先輩。僕なんか誘ってくれて本当に有難うございましたぁ……!」
「何言ってんだっつの不二咲、お前が主戦だったろうが」
「そうそう。お陰で面白いものができて良かったよ、――こら日寄子ちゃん! 負けたからって蜜柑ちゃんを苛めちゃだめでしょー?!」


「――……皆して何をしているのだね、各々のモバイルに視線を落として。放課後にカフェテリアで学友と語らうことは有意義なことだとは思うが、而して向かい合っているのに会話相手を見ないなど…いけない、最近の若者のテンプレートではないか」
「あらあら、清多夏さんたら昭和ドラマのお父さんみたいなこと仰るのだから」
「とか何とか言いながら前みたいに『不健全だぞッ!』って大きな声出さない石丸くん、ほんと成長しましたよね」
「舞園くん。……ああ、霧切くんも」
「私たちはただお茶を飲みに来ただけよ。あなたたち二人もそうなのでしょう」
「ええ。……うふふ、それにしても本当に凄い盛況ぶりねえ」
「ですです。あとでわたしも七海先輩にお手合わせお願いしちゃおうっと」
「舞園くんも彼らと同じことをしているのか。一体あれは何なのだね」
「えっ……あれ、教えてあげてないんですか?」
「あたし? ――……あー、そう、ねえ。ご興味お有りな話題だとも思えなかったし」
「なんだね、きみも関係しているのか?」
「そこの彼女だけでなく舞園さんもだけれど。オンラインゲームよ。オンラインといっても希望ケ峰の中だけのことだけれど。不二咲くんが77期の先輩がたとプロジェクトチームを組んで作っているみたい、"試験"の一環ね」
「何でも、希望ケ峰に在籍する女の子のカードでデッキを組んで対戦ができるのですって。カードに使ったお写真は"写真家"であらせられる小泉先輩が今回のために撮りおろしてくださったものなのよ」
「普通の制服姿のカードの他に、わたしだったら【きらめきステージ】とか【お忍びデート】、ソニア先輩なら【王女の休日】みたいなコンセプトカードもあるんです! 撮影楽しかったですっ」
「……ほう? ということはきみもその"撮影"とやらを行ったのだな。僕に一言の断りも無く」
「(巫女、そっと目を逸らし)」
「最高レアリティのSSRは何人かのぶんしかないんですけど、そっちには山田くんが書き下ろした特別なエピソードがついてるんです。ゲットしたら読めるようになってるんですって!」
「ふむ――……個人的なことに関してはあとで詳しく聞かせていただくとしよう。(じと)つまり、実際の僕たちの学友をキャラクターとして扱っているゲームだということだな」
「その通りよ石丸くん、あなたの恋人も然りだけれど。折角だしあなたも遊んでみたらいいわ、77期と78期の学生なら誰でも遊べるようになっているの」
「つまり誰でも彼女のカードを手に入れられる状態であるということかね」
「顔怖いです石丸くん、隅っこでぴるぴるしてる可哀想な子をいじめないであげてください。だいじょぶです、教団の方から写真にオッケーが出たのが2枚だけだったので最高レアしかカードありませんから。よっぽどガチャ回さないと出てこないようになってます」
「誰もそこまで必死になって遊んでいない筈だから大丈夫よ、現に私も不二咲くんに感想を伝えるに充分なくらいにしか手をつけていないし」
「そんなこと言って霧切さん、しっかりわたし使ってくれてるんですよ! 覚醒済み【きらめきステージ】UR舞園さやか! 勿論育成カンスト! 愛を感じざるを得ません!」
「調子に乗らないで頂戴、単にこのカードが一番総ステータスが高いと聞いたから使っているだけよ」
「でも"推し"設定してくださってるじゃないですか。トップ画面わたしです」
「煩いわ、別に誰だっていいでしょう――……ほら石丸くん、これがゲーム画面」
「むぅ……折角の誘いだが、僕はこういったものは」
「不二咲くんの課題に協力してあげなきゃですよ!」
「だが、どうせ彼女のカードが手に入らないのなら僕にとって時間を割くに足る意味は」
「メーンの動機ぜったいそっちでしょう石丸くん」
「さっき苗木くんがノーマルのガチャで舞園さん出したって言っていたし、ものは試しよ。一度引いてみたらいいわ」
「……まあいい、何が出ようとこの先ゲームを続けるわけでもないのだしな」






「あっ」
「えっ」
「…嘘」

「……あたしだわ」

「――……予備学科生が揃ってガチャの沼に沈んでいってなお獲得報告が開発者のもとへ上がってこなかったと噂のSSR【超高校級の巫女】……本当に実装されていたのね、驚きよ」
「わー…石丸くん今日から"幸運"名乗っていいと思いますよこれ」
「……」
「石丸くん?」

「式典用のものとも室内着とも外出着とも違うッ! この巫女服は今撮影のために特別に誂えたものか! ああぁ何と愛らしい……!」

「そこですか?!」
「どうして彼女の平時の装束ラインナップを網羅しているのか、というところから小一時間問い詰めたいのだけれど」
「御名答よ清多夏さん、折角だからおニューにしちゃったの。うふふっ、この時期に合う軽めの生地と少女らしいブルージュレースがポイントなの」
「実によく似合っている! 常にないおさげ髪のきみもとても素敵だ、運よく最初にきみを手に入れることが叶って本当によかった!」
「(いあ運良過ぎですからね実際)」
「幸先良くてよかったじゃない、優秀なカードだし彼女を起点にカードを集めればきっと強いデッキが作れるはずよ」

「否、僕には彼女ひとり居ればいいのでこれで打ち止めにするよ」
「言うと思いましたよ! ぜーったい勿体ないですってばー、他にも色々機能があるのにっ」
「何ならそこの彼女から教えてもらうといいわ、私や舞園さんが説明するよりあなたにとっては有意義な時間になるでしょうから」
「まあその話はあとだ。それより今の僕にとって大切なことは、」


 ――なぜこのような写真が出回ることをきみが良しとしたのか。そして何故それを剰えこの僕に伏せたのか。それをじっくり伺うことだ。勿論、僕の部屋で。


 あまりに平生通りに穏やか且つ快活な笑顔とともに呈されたその審判は、どう好意的に解釈しようと声に一切の温度が感じられない平坦なものだった。


1.「可愛い女の子をモチーフにするのは基本だよ」と言い出したのは不二咲くんだったそうな


//20160808-0911


 とてもじゃないけど言えない、覚醒させるとねこみみメイドになるだなんて。