text | ナノ







◎風紀さんが変態です
◎あ、注意書き要らないですかね? いつものことですもんね?
◎えろくないから年齢指定いいかなー…いやR15かなー……
◎でも論破原作自体の対象年齢を考えたらわざわざ指定いらないかなー……
◎と、微妙に悩むくらいのぬるさしかありません
◎でも変態です







 かくんと自然と前に傾ぐ首。柔らかな頬を人指し指でやや強めに圧すと、簡単に横を向く。緩く瞼を閉じた、無防備な寝顔が其処にある。僅かに開いたくちびるから、規則正しい呼気を感じ取ることができた。


 疑いようもなく、眠っている。


 つい十数分ほど前まで、ずっとこの体勢――寝台の上で、僕に背後から抱き込まれた状態で彼女はずいぶんと寛いでくれていたようだった。僕としては嬉しさ半分、少々の疾しさ半分という体であったのだが――で睦み合っていたところだった。
彼女と共に過ごす時間のうちに唐突に無言のときが降りてくることはそう稀でも無かったがゆえ、僕もただ軽く目を閉じ腿に伝わる愛しい温かさと柔らかさ、甘いような儚いような香りを味わうのみに徹していたのだが、よもや寝ていようとは。
 平生、おおよその他者に対して隙らしい隙を見せない彼女が、自分にだけ心を休めて居てくれる。その事実に、純粋な至福を感じた。それと同時に、抑えようも無いいとおしさが溢れてやまないことをもまた、認めざるを得なかった。なに、彼女が眠っているからといって特別に何をか施そうなどというわけではない。いつも通り、だ。

 就寝前の戯れに、とこの部屋を訪れていた彼女は時節柄に少々そぐわない薄手の――暑さ寒さを感じにくい体質であるとのことだ――桜色のワンピース一枚を纏っているのみで、僕に伝わってくる感触はほぼ布一枚のみを通した直接的なものである。
 禁欲的な膝下からこの手を忍ばせて少女らしいフリルとレースで飾られたその裾を捲り上げてしまうなら、そもそもこの体勢をとった時点で相当心許ないものとなり果てている――あるいはもっと前からか、もとよりそうであったか知れないが――僕の理性は最早無用の長物と化してしまうのだろう。そんなものは無かった、と言い切ってしまえるほどには未だに豪胆になりきれていない。

 どうにも最近彼女のほうでは「”そういう衝動”を通り越してなんだかとっても落ち着くようになってきたのよねえ」などと自己完結されている節があるのだが、此方としてはそうもいかない。僕から言わせれば、彼女は少々僕の愛を過小に見積もり過ぎているのだ。
 どれだけ長く焦がれ続けてきたと思っているのか。一度手中に収めてしまえば満たされてしまう程度の欲求でしかないと高を括られているのか。僕たちの年代であればそう珍しくも無い「肉欲が先行しているがゆえそれを愛であると錯覚しているケース」である――とまでは流石に考えないまでも、妙にこの関係の喪失を覚悟しているようにみられる(万に一つも在り得ない事態だ、と僕のほうからは断言できるがそれを分かって貰うには彼女にまた別種の覚悟を強いることになってしまう)僕の最愛は、聡明であるがゆえその仮説に可能性を見出す限りは思慮のうちから捨て去らないのだろうからして――そう侮られているからこそ、褪めるだとか鎮静化するだとか慣れるだとかと的外れなニュアンスが彼女から呈されるのであろうことは分かる。
 あまり見縊って貰いたくはない。これは、欲求ではなく希求。欲望ではなく渇望。一度手に入れたならば二度と手放し得るものではないと繰り返し確かめたくなるのが自然の道理であり、そもそもこの愛を彼女に余すことなく伝えしめ、受け入れて貰うのには幾度触れ合っても十全ではないのだというのに。

 裸の首筋に顔を寄せる。僕を訪ねて来る前にシャワーを浴びたのであろうことが知れる清冽で清浄な石鹸の香りと、彼女が元来纏っている甘い紅茶めいた薫りが鼻孔を擽った。細く、薄く、華奢という形容すらその儚さを言い表すのに足りないように感じられる体躯。而して僕はこの小柄な貌が、彼女がその紫水晶の瞳を煌めかせている間には確固たる存在感を、生命力を思わせるものであることを知っている。だからこそ、心から安息してこの幸いを愛でることが叶うのだ。
 両腕を細い腰へ・薄い腹へ回して抱き込んでいた体勢から、片腕を外すと支えを失った彼女の身体が少々横方向へ傾ぐ。自分の上体へ凭れさせるよう調整しながら、僕にすべてを委ねてくれているこの時間に堪らない悦びを覚えていることを自認した。嗜虐趣味、などと非生産的な嗜好は生憎持ち合わせないものの、この愛しいひとがもし、仮に僕だけの所有し得るところのものとなってくれることがあるのならば…などと詮無き夢想に耽ったことであれば――正直に白状しよう、幾度となくある。

 就寝前の彼女は、予想通り下着を着用していなかった。寝間着越しに触れたそこは緩やかな、ごく緩やかな稜線を描き誂えたように僕の掌に収まる慎ましさ。穏やかな鼓動までを感じそうな密着感に酔い痴れ、左胸を愛でる。ふに、と抵抗なく沈む柔らかさの中に、彼女の少女らしさをいっとう引き立てる硬い芯を感じた。
 なぜ彼女は平生からバストサイズを気にしているのだろうか。僕は常々そのような些事は気にしない、と告げているのに。周囲の女性陣が恵まれた体格であることにコンプレックスを感じているらしいことはなんとなく知れるものの、当の僕が良いと言っているのだから気に病む必要など皆無なのだ。
 それとも、豊満な体躯を好みとする男に何をか気を惹く必要でもあるのだろうか。だとすれば、今後そのような発言があった際には少々咎めてでも翻意させる必要があるだろう。もう、僕のものだ。今更手放すなどと、戯言というにも愚かしさが過ぎよう。

 彼女が完全に僕の上体に凭れる形で体勢が安定したのをいいことに、もう一方の手が裾を割る。滑らかで傷一つない大腿を撫で回す頃には、もう夢中になってしまっていた。掌を当てたまま、指先で少し圧して柔らかさを楽しむのみに留めておく心算であった左胸も、揉みしだく動きになっている。本能の為せる業ということか。
 背徳感なり罪悪感なりが多少も伴わない、などという訳はない。正真正銘己の恋人であるところの彼女に対して、過ぎた行為をはたらいているような気もする。而して、それを自覚していたところで止められるのであれば世話は無いのだ。

 およそこの最愛にして幸いであるところの彼女について、僕は自分の内にある感情を制御し得る術を持たない。
 彼女ただひとりが僕にとっての超法規的存在であり、其処には平生の主義思想も、肩書の持つ強制力を以てすらも、干渉するに遠く至らない。


 希求が止まらない。
 渇望が止まらない。
 いとおしさが、止まらない。


 堪らずその小さな耳に吹き込んだ愛しい名前が、夢の中までもきみを束縛し得る呪詛になりはしないかと期待する。もしくは次善として、時を待たずきみがこのまま目覚めて、既に愛し合わずには居れないほどに昂ぶった僕を受け入れてくれるか。どちらでも良かった。
 究極、このまま目を覚まさないとしても。僕はこの思慕を微塵も冷めさせやしないと断言できる。日々募ってゆくばかりのその懸想が、一体何を以て「落ち着く」というのだろう。

 震える亜麻色の睫毛に、覚醒のときが近いのを感じた。


 ――ああ、きみと居るとこんなにも安らぐ。
 ――ああ、きみと居るとこんなにも落ち着かない。


//20140119-0130






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