「きゃあ、さやかさんとっても素敵。サラブレッドの子馬をイメージしたブラウンの天鵞絨のお衣装、本当によくお似合いなんだから…」 「きみにも似合いそうだぞ。――否、あのように襟の開いた装いをきみに許すわけには…ぅうむ、悩ましい」 「わ、この曲すきよ。――♪♪♪」 「(歌っているきみも最高にかわいい、絶妙にリズムが外れているところが堪らなくかわいい)」 「……そうねえ、確かにあたしの貧相な身体では似合わないのかもしれないわ。さやかさんにバストアップの秘訣をご教授願おうかしら…」 「きみは今のサイズが理想的だ。慎ましくいたいけで禁欲的な、まるできみ自身のような造形を僕は愛しているぞ」 「はあ。禁欲的、ねえ。何方かさまがなにかにつけ揉みしだいたり吸い付いてきたりなさるせいで自分ではついぞ思い至らなかったフレーズだわ」 「むぅ、…仕方がないではないか、きみの身体なのだぞ。何処もかしこもくまなく愛でたい、と思うのは恋せし男として正常な発想だ、と僕は強く主張したいッ」 「うっふふふふふ、ねえ清多夏さん除夜の鐘は聴こえておいで?」 「生憎とこれは煩悩などではないッ、僕は何時如何なる時でもきみひとりを純粋に求めてやまないのだ」 「あら、じゃあ消えないのねえ」 「微塵も消える気配は無いな。寧ろ増す一方だ」 「もう。――……あら! そうだわ、いけない。あたしとしたことがうっかり失念してしまっていて」 ぴ、と背筋を伸ばして身体を此方へ向け、三つ指をついて一礼。 「――…明けまして、おめでとうございます。昨年は公私に渡り多大なご愛顧を賜りまして誠に有難うございました」 「あ……明けましておめでとう。不覚だ、言い忘れていたとは」 「今年も、宜しく慈しんで下さいましね。あたしの、こと」 「ッ勿論、だ! ……今年も、一緒に居て欲しい。勿論この日に限らずだぞ、毎日だ」 「はい、あたしなどでよろしいなら喜んで」 「きみ以外では僕が嫌なのだ。……むぅ、それにしても年始の挨拶を忘れていたなんて、今年が初めてだ」 「あらあら。だって清多夏さん、いきなり接吻けていらっしゃるのだもの。年の切り替わる瞬間にまあ、なんと甘やかなこと」 「……幸せだった」 「あら、過去形になさるの?」 「否。――幸せ、だ!」 「きゃあ、……もう、またこの体勢なの? あたし、そろそろ明日実家に持ってゆくものの支度をしたいのだけど。煮卵と、八幡巻き」 「もう仕込みは済ませていただろう。切って味を見るだけならば明日でいい筈だ」 「備えあれば、だわ」 「ぅ、……うー…」 「やん…痛いわ、もう。何だって新年早々そんなに甘えっこさんなのかしら? 清多夏さんったら」 「――……したく、なった」 「まあ! いけないわ未だお風呂にも入っていないのに…それにあたし、お風呂上がりに食べようと思ってイチゴも洗って冷やしてあるのよ?」 「苺よりもきみの果実を口に含みたいッ!」 「莫迦仰有い! 貴方お日頃のキャラクタまで擲って新年早々飛ばしすぎなのではなくて?」 「僕のキャラクタ……? ふむ、きみを愛してやまないただの男だが」 「およしになって! これ以上このサイトに閑古鳥を呼ぶような原作レイプは受け入れられなくってよ! 貴方は風紀委員! 風紀委員ですの!」 「強姦などと人道に外れた行いは確かに風紀委員としては看過しがたいな、断固禁じさせていただく。その点において僕は何も問題ではないな、何せ心からきみを愛しているのだから」 「幾らなんでもこの流れでのその言い回しに感激できるほどあたし惚けてはおりませんことよ? ……っん、待って、駄目よ引っ張っちゃ」 「先ずは入浴からだ。この間兄弟から借り受けたキャットドッグプレスに載っていたあれがやりたい。洗いっこ」 「あら、早速公式資料集の表記を裏切ってゆかれるの? いけないわ、あんなご本をお読みになっては」 「あの風呂椅子には心惹かれるものがあった。何処かで手に入らないものか」 「しかもそんな細部まで読み込んでいらっしゃるだなんてもう……品名はどうか仰らないでね、あたし泣いてしまうから」 「とにかく風呂だ! そしてあわよくば姫始めに持ち込みたいッ!」 「言ってしまうのね? 目論見をターゲットに先行公開してしまう斬新な手法で攻めていらっしゃるのね?」 「僕が先に入っているのがいいかね? それともきみはあとから入ってくるのは気恥ずかしいだろうか」 「あらあら、既にご一緒することは規定事項なのね?」 「ならば僕が後からお邪魔するとしよう。明かりは付けたままで居てくれたまえよ」 「……ぅう」 「なに、気にすることはない! 既に互いの身体など知るところではないか。何より僕はしっかり今年初のきみの一糸纏わぬ姿をこの目に焼き付けたいのだ――む、何か言ったかね」 「…ぅ……や、だ。消さなきゃ耐えれないもん」 「済まない、もう寝台に行こう。きみが愛らしいのが悪いんだ」 「なんで! きよくん今日絶対おかしいよぅ!」 「こ、これが天使か……ッ! いつも思うが、きみはスイッチを切った途端にひどく幼くなるのだよな。今年はそちらももっと拝見したい」 「すきで切ってるわけじゃないもん…そんな事ゆっといてそちらはスイッチ入れた途端押せ押せで……あたし身が持たない。しんじゃう」 「きみが何らかの要因で精神を退行させてしまってもいっこうに問題ではないッ、僕が終生に渡るまで介護すると誓おう! 寧ろ望むところだ!」 「望まないでね?!」 一瞬緩んだ腕からすり抜けるように身を離してバスルームに逃げ込んだ僕の天使は、今年も早々から僕を捕らえて離さない。 元日くらいは少し透かしてもよかろうとばかり彼女に覗かせた僕の本心は、どこまで真剣に取り合って貰えているのだろうか。 今年も僕は、どうあってもきみを離しはしない。 それをきみが、どうか幸せだと感じていてくれますように。初詣に祈願することは、そのひとつに限っている。 //20140101 新年明けましておめでとうございます。 「Twilight gloom」に足をお運びくださるみなさまのご多幸をお祈り致しております。 本年も一層のご贔屓を、何卒お願い申し上げます! 蕗 拝 |