[ 薄暮に錯綜 ] | ナノ



風紀と巫女と絵師と幸運とクトゥルフと(1)


「ということで、今からしっかりセッションに向けて備えていくわよ。いあー!」
「い、いあー……?(一応ノってみる) 無邪気なきみも非常に愛らしい、が、……白雪、それは何だね」

「あら、もちろん資料よ? 1920年代アメリカの。時代考証もなしに雰囲気だけでキャラメイクする訳にいかないもの」
「しかし、確か狛枝先輩も秋月先輩もルールブックは持っていないのではなかったのかね」
「買って来たわ、ちゃんと」
「なんと! 用意周到なきみも素敵だ、――って……」
「あら、なあに?」
「白雪……」
「あたしに限ってよもやルールブックと間違ってサプリメントを買ってきてしまうだなんてありえないわ?」
「ああ、確かにこれは紛う事なきクトゥルフ神話TRPGのルールブックだな。……ただ、






 『比叡山炎上』を使ってどうやってジャズエイジのアメリカを舞台にしようというんだねッ!」

「あら、どうにもならないのかしら?」
「なるものか!」
「……でも、先にキャラクターシートだけ用意しておけばいいのではなくて? どうしても6090円のほうのルルブが必要なのならあとで密林にでも行くわ」
「そこで敢えて戦国時代を舞台にしない白雪の潔さに惚れ直す思いだぞ僕は…」
「だって戦国武将な狛枝さんを想像するだに乾いた笑いしか出てこなかったのだもの。……ううん、やっぱり臨機応変に改変するのではいけなくて? 興味本位でサプリメントも『クトゥルフと帝国』を買ってしまったのよね」
「もうそれは日本を舞台にして良いのではないかね?!」
「大正卓は少し考えているわ。あの時代ならあのお二人にもあたしたちにもぴったり合いそうだし。でもやっぱり先ずはアメリカよ。禁酒法時代のアーカムでカーチェイスよ、ダイナーよ、ロードハウスよ!」
「(なでなで)」
「ひゃ、……如何なさったの?」
「否。無邪気に目をきらきらさせている白雪の破壊力に今更ながら驚かされただけだ――うん、僕も付き合おう。こういうものは多少羽目を外したほうが楽しいのだと兄弟も言っていたような気がする」

(いやオレの所為にすんなっつーの、オレぁTRPGなんつーアタマ使うアソビに興味も何も無ェよ)
(どうしたのぉ大和田くん、いきなり)

「と、いう事で。遂に始まってしまうのだな」
「今回はガチでダイス振って出たとこ勝負。但しどこかとどこかの数値交換はあり。振り直しは個々のパラメータごとでなく全体をいっぺんに振り直すのなら、という条件付きで二度まで許容。で、いいかしら」
「ふむ」
「それから、今回は予め職業を決めてからダイスを振って頂くわ。でないとこの時代、INTはともかくとしてEDUが低いとみんなギャングかマフィアになってしまうもの」
「それでは知能系の能力値に乏しい教授や医者が出てきてしまうことになりはしないかね?」
「んんー…今回の面子にそのあたりの職を選んで来られるかたがいらっしゃるかしら。まあ、そのあたりは数値交換なり振り直しなりで対応して頂きたいところね。で、大丈夫かしら?」
「僕としては異存はないが。そのあたりは向こうのお二人にも教えなくてはならないだろうな」
「じゃああたしからまりんさんにお電話するわね。……はい、突然失礼致します、有栖川です」
『はーい、もしもし』
「セッションのお誘いよ、卓の名前は"神話生物も恐れおののくヤンデレたちの'20sクトゥルフ"でいいかしら」
「白雪、おかしいおかしい」
『んんう……卓名、絶妙に的を射てるねえ。その一角を占めてるわたしが言っちゃいけないだろうけど。キャラメイクに制限はある?』
「かくかくしかじか」
『いあいあくとぅるふ』
「――ということで、宜しくお願い致しますわね」
『了解だよー。じゃあ凪兎ちゃんにも伝えておくねっ』
「はい、これで大丈夫ね」
「何なのだね先刻の冒涜的なツーカーは……」
「使ってくださってよろしくてよ? ――さて、漸く準備が整ったわね。そろそろあたしたちも本格的に振っていきますか! ……ところで、清多夏さん」
「何だね」


「これからあたしたちダイス振ってキャラクターシートを書かなくちゃいけないの。宜しかったら拘束は解いて頂いてもいいかしら?」
「いやだ(ぎゅー)」


 * * *


比叡山炎上しか売ってなかったんだもん……(´;ω;)
本家ルルブも密林でポチったのでそのうち届くと思いますです


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