memo | ナノ



→[雑談] /できてしまった(真顔)


※たぶん最初で最後の進撃ゆめ







「フィオりん、お茶淹れて頂戴よ」
「……ん、了解」

 自宅に持ち帰ってまで仕事をこなすほどのワーカホリックぶりは「昔」譲りなのかと思ったこともあったけれど、お勤めの社内はそんなに逼迫した状況なのかと尋ねたところ呈された答えはまさかの「忙しく働いてる姿がカッコイイってフィオりん前に言ってくれたことあったじゃん」。前、というのは言わずもがな、数か月前とか数年前とかいう単位ではなく「前世」を指している。……お兄さまは平生から非常に頭の切れる鬼才人ではあるけれど、やはりどうして何とやらと紙一重であることは否めない。こういうときに猶更よく思う。
 とびきりの茶葉も、季節のお茶に似合いの砂糖菓子も、今は望めば何でも手に入る。すごい時代だ。開拓地のパイオニアを自ら標榜して生産量を倍加させたという自負のある――だってほんとだもん嘘じゃないもん――わたしも、この圧倒的な物量を前にしては何というか、不毛だとは重々承知でも、世の不条理というものを感じてしまう。それは、あの環境の中で日々過酷な現実と命の削り合いをしていたこのお兄さまや、もっと言うならそのお隣にお住まいのお人にとってはもっと、空虚な思いを感じているのではないかと思う。過ぎた世話なのだろうけれど、なんというのか……ええと、燃え尽き症候群? のようなものに陥ったりして、それがゆえ彼らを現在の仕事人間たらしめてしまっているのではないか、なんて。

「ン、いーい香り。新しいの買ったの?」
「シャルドネダージリン、初夏のお勧めなんだって。こないだお兄さまと二人でお茶したお店の、だったと思う」
「あー…はいはい、途中で珍客がカットインしてきたときの」
「仮にもかつての戦友のことを珍客呼ばわりは如何なものかな、と、フィオリーナは意見具申致します」
「いやいや戦友だからこそっしょ? あのときだって結局そのまま居座ったのは追い返さないであげたんだし」
「……お兄さまに追い返せるような相手ではないような気が。というか偶然でしたよねえ、でも確か"前"からお紅茶お好きでしたもんね」
「えっ何もしかしてフィオりん気付いてない系?」
「へ。なにがだろ、お兄さま。……あ、お菓子もあるよぅ。果物の砂糖漬けだね」
「あいよ、貰う。ちっさいおっさんも可哀想にねえ」
「? なんだろ」
「生憎と私は敵に塩を送るような慈善の心は持ち合わせていないので敢えて『なんでもないよ』とお答えするよ、フィオりん!」

 お兄さまは基本的にいつでも饒舌且つ流暢な喋り口でならしているけれど、何気にオン・オフの切り替えは存在していて、殊にこうして平和な時間を共にしてみるとそれがよく分かった。「前」は正直なところ、常に安住安息のときなどなかったとも言える状況だったしたとえ非番の折でもある程度の緊張の線は張り巡らせておく必要があったのだし。やっぱり少し口数が――というか、言ってしまえば科白量が?――平生より少ないように思えるお兄さまは今けっこうリラックスしているのだと思う。なまじいつでもハイテンションで通っている人なので、分かりにくいけれど。
 ソファで書類片手にノートパソコンとにらめっこしていたお兄さまの傍らへ当然のように腰を下ろすと、これまた当然のように抱き上げられた。20cmの身長差だけじゃない、今世においてこれといった体力増強に努めていたわけではないわたしと、幼少の砌から記憶を保持したまま現在のお隣さんと競い合うようにして文武を鍛えてきたお兄さまとの差は歴然としていた。……わたしももう一回格闘術仕込まれに行こっかなあ。せめて白兵だけでも。

 これも機会とばかり、気になったことを聞いてみる。

「お兄さまたちは、――……や、ストップ」
「んー?」
「……パソコンは熱気に弱いっぽいのでカップは離して置きましょー」
「でしたでした。……オッケ、続きどうぞ」
「…どうしてこんな時代に生まれてきたんだろ、って、思っておられない?」
「あーそれ知ってる知ってる、厨二病ってヤツでしょ」
「……ちがうのですが」
「何…だと……?! ――なんちゃって冗談なんだけどネ。否、……ごめんだけどさ、フィオりんが心配してくれてるほど私もアイツも然程シリアスな奴じゃ、ないよ?」
「お兄さまはそうかも、ですね、納得かも」
「いや待って少なくとも今世での開き直りっぷりはよっぽどあっちの方が……じゃ、なくて。まァちょっとだけ、微粒子レベルで真面目な話をするとさ、悔いたところで何が変わる訳でもないワケで。私らは私らなりに『あのとき』もベストを尽くしてたんだし。折角ワンチャン出来たってのに反省会だかお通夜だか分かんないムードで鬱々と生きてくのって非生産的にも程があるじゃない? 私は退屈って嫌いだしアイツも怠惰は削ぐべき対象だと思ってる。うんうん、人間生きてる限り歩みを止めちゃァならんよね、フィオりん」
「難しいお話っぽい」
「あはは、そんな事無いって。要は、『前』に出来なかったことを今世で全う出来ればいいんじゃね? という風に私とアイツの中では結論付いてるってだけの話さね」

 紅茶は音を立てて啜るものではないと思う。突っ込むタイミングを失ったので指摘は延期にするけれど。
 かつては数多の実験ないし実践につく名状し難い万物に塗れていたお兄さまの手、今は文明の利器を軽やかに使いこなしてもみせるその長くて細い――而して節のしっかりした歴たる男性の――手指が、何の気なしにぺたりとお腹に触れてくる。いつものことなので真意を量るまでもない。これが『今』したいことなのだろうか、とは問うてみたいけれど。

「いやーこの時代は実にいいよ、退屈しないもの! 会社に出れば示し合わせたのかなってくらい『あのとき』の面子が勢ぞろいで…っぷ、スーツなんか着ちゃってて超笑えるし、新しいモノ弄って遊ぶのも楽しいしねえ。大学ン時にも兵長どのを連れ回して一通り遊んでみたとばっかり思ってたんだけどまだまだ見てないものも多いんだよねー……あーあー、なんで部活とかバイトは掛け持ち出来るのに仕事は幾つも出来ないんだろ」
「……お兄さまは今以上にお仕事増やしたら死んでしまいます、と思います」
「えー? でも最近クッソ似合わねーことに隣のちっさいおっさんなんて投資とか始めちゃったらしいしなんか悔しくね? いっくら財力なんて即物的なもんで私のフィオりんは陥落するようなコじゃないとはいえさあ「ん?」あーイヤイヤ此方の話なんでスルーして大丈夫。仕事以外でもさ、ちょっと長期の休みを仕立てていろいろ行ってみたいトコあるんだよね」
「ふふー」
「おや、何故にそこでお嬢さんがご機嫌なんだい」
「お兄さまはお兄さまがしたいことをするのがいいと思う、よ」

 ※生き急がない程度にね。

 いつサラリと死んでしまうかも分からないような、そんな危うさは影を潜めて。今のお兄さまには何処までも自由な精神だけが健在だった。
 うん、いいね、いいと思います。

「ホントにー? お兄さん本気にしちゃいますけどオッケ?」
「ん。楽しそうで何よりだとフィオリーナは思います、です」


「よっしゃ、じゃあフィオりんは今すぐ荷物纏めてウチにおいでね」


「 ふ ぇ 」
「別に問題無いよね? あー、仲人とかコッチで手配するしそこは心配要らないからね。取り敢えず今日は夕飯摂りながら式の日取りでもふわっと話しあおっか」
「待って、待ってお兄さま。いあ分隊長、取り急ぎすぎです」
「えっなにその返し斬新だねえ」

 自由の翼が羽ばたきすぎていやしないですかね。
 確かにわたしはお兄さまにしたいことをすればいいとは申したけれど、どうしてそれにわたしが関わってくるのだろうか。

 謎の疾走感溢れる顛末に突っ込みの文句を考えているところ、抱きかかえられていた状態から片手で顎を攫われて不意に上を向かされた。
 知的でスマートな意匠の眼鏡越しにいつも面白げに笑んでいるお兄さまの目が、……笑ってなかった。近年稀に見るマジ顔という奴ではなかろうか。どうして急に。え。


「――私はきみの具申通り、自分のしたいことを遂行せんとしているだけだよ? フィオリーナ」


 お邪魔虫に削がれる前に、ちゃんときみのことをものにしておかなくてはね。

 ――このひとが本気になったときには、もう止められないから諦めたほうがいい。って、そういえば昔、副隊長さんから教わったことがあったなあ。
 いつになく深く響くお兄さまの声を聴きながら、わたしに出来ることはせめて少しでもみっともなくない顔でくちづけを受け止めることだけだった。



 ***



疲れたし現パロだから誰てめ感しかなくて空しくなってきたので唐突に終わります

ちなみにほんとどうでもいい話ですがマンションに 夢主│分隊長│兵長 のお隣さんお隣さん関係で暮らしています
もしこれを本気で書こうとするならエレミカとユミクリ大前提(そしてオルペトを大々的に推していきたい)の誰得仕様になるんじゃないかなあって



06/05 (00:02)


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