その翌々日

「せーんぱいっ!」
やつは教室にまでその姿を表した

「慕われてんだな」周りのクラスメイトに言われて苦笑いを浮かべる
慕われているんじゃなく、勝手にまとわりついてくるだけだ、と
そう言ったら周りのクラスメイトはどんな反応をするだろうか

光祈のそばに近寄っていくと嬉しそうに笑いながら俺の腕をとる
「さっ、先輩サボるぞー!」
「バッカ!大声で言うんじゃねーよっ!(小声で)」

ん?
そう笑いながら首を傾げた光祈に何も言えずに苦笑すると
俺も同じく背筋を伸ばす

「さて、俺の知らない世界とやら。教えてもらおうか!」

ニヤリと笑って言うと、目の前で嬉しそうに笑いながら頷く光祈の姿

昨日の帰り道、適当に話を流していた俺はどうやらこの後輩に変な約束をしてしまっていたのに気付かず頷いてしまった、らしい
実際、これも目の前で鼻歌歌って楽しそうな後輩自身から聞いた話なので半信半疑ではあるが。

だが、数日僅かに共に過ごしただけでも後輩、光祈は俺とは違う世界の見方をしている事がよくわかった
その根本に何があるのかは知らないけれど
俺の知らないこいつの世界とやらを覗いてみるのも一興かと思い、話にのった


行く場所はすぐ傍だったり、あるいはいきなり
「デートスポットだろそこ…」と呆れたくなるような場所に連れていかれたり
とにかく様々で
けれど、今までの人生の中で人と行動を共にして、こんなに楽しいと思ったのも久しぶりで

まあ、さすがに男二人で某夢の国はどうかとも思ったが
はぁ?行ってないのかって?
行ったっつの!!あいつ、妙に無駄に押しが強いくせに変な所で遠慮してくるおかげで誘われた時に断ったら周りの視線が痛かったんだよ!!!周りの視線に負けたんだよ…!!!
もっとも、某夢の国でも男二人ってのはいささか…な…

それでも、共に行動をしているうちにだんだんくるくるとその表情を変える光祈が見ている世界が少しだけ見えた気がして
そして、俺も気づかないうちに光祈は身近にいるのが当たり前な存在になっていた

だが、そんな光祈にも一つだけどうしても踏み込ませてくれないところがあった
連れていかれた場所で必ず写真を撮る、帰り道に必ず言われる

「あと1か月、いっぱいいっぱい、楽しみたい」
「”あれ”が、起きるまで少しでも先輩と、もっともっといろんなことして遊びたい」

「なぁ、”あれ”って」
そう問おうとすれば、あいつの表情は少しだけ困ったように微笑みを浮かべて固まってしまって

「ごめん」
そう、言うことしか出来ないように俯いてしまう

「光祈」
そんな表情をして俯かせてしまうと、俺は普段は呼ばない彼の名前を呼ぶ
そして、その頭をなでる
それが一番安心すると、光祈自身が前に俺にされた時に伝えてきた
それ以来、俯いてしまった彼にそうする
それだけで、嬉しそうにまた笑ってくれるから

そして、俺たちが奇妙な日々を過ごして、仲良くなっていったそんなある日

「先輩、冬槻先輩いませんかっ…!!」
騒々しい音とともに扉を開けたのはどうやら後輩で、知り合いだったらしい一人のクラスメイトがそばによって焦っている後輩君に事情を問う
焦ったように話している、そんな中ぼんやりとしていた俺に先ほどまで後輩君と話していたクラスメイトの一人が慌てたように駆け寄ってきた
「おい、冬槻!!あの後輩君、なんか窓ガラスに正面衝突したって…!!!」
「……は?」
唐突に言われた訳の分からない日本語にぽかんとする俺にじれったそうに再び口を開いたクラスメイト

「頭にガラス片刺さったんだって今っ…!!!」
その瞬間、俺はその場から慌てたように駈け出していた

たどり着いた先の光祈のいるクラスはすでに人だかりができていて
その人波をかき分けようとしたとき

「冬槻先輩、連れてきたっ!!!皆、あけろっ…!!!」
後ろから知らせに来てくれていた後輩君の声で一斉に人ごみが左右に分かれる

急に開けた視界の先に赤に染まる光祈の姿を見た瞬間

「…っ!!!」
思わず、悲鳴が上がりそうになった
フラッシュバックする過去、目の前に広がる赤

「…めてくれっ…っ…やめろっ…」

ふらふらとしながら光祈のそばに近寄っていく
支えられていた光祈が、不意にこちらを振り向く

「せん、ぱ、い…?」
「…っ…!!」
額を押さえている彼の手からは、赤、赤、ただ赤

手が震える
手を伸ばして、大丈夫かと言いたいのに、自分の体が言うことを聞いてくれない
過去の映像が頭から離れない

支えられていた彼が、そんな俺の様子に気づいたのだろうか
すぐ傍までやってきて空いている方の手でそっと俺のほほに触れた
「大、丈夫だよ。先輩。ここにいる、ね?」
そういってほほ笑む
「大丈夫、大丈夫だよ、先輩。」
頬に触れたいつもよりもわずかに低い光祈の体温に、やがて落ち着いた俺は慌てて彼に問う
「おい…!!大丈夫だのかよっ!!???」
「んー・・・あんまり大丈夫じゃないかもー…」

すぐ傍まで来ていた彼の体がかしぐ

「ちょっと…血液足りませーん…(笑)」
「バっ…!!」

慌てたように傾いた彼の体を支えると、ひとまず座らせて、自分にもたれかける
上から覗き込むように彼を見て、傷らしき箇所を押さえていた場所から手をどかさせる

だいぶ固まりかけてはいるものの血液で汚れていて肝心の傷本体が見えない
そばにいたやつにティッシュでもハンカチでもいいから、血液拭えるものを湿らせて持ってくるように言おうと顔をあげると
「いや、これは脱脂綿とかのがいいだろう」

不意に後ろから聞こえたクラスメイトの声に振り返ると、泣き出しそうな表情で俺を呼びに来てくれていた後輩の知り合いだったクラスメイトの一人がいた

すぐ後ろには同じクラスに在籍する彼の彼女もいて救急箱を手渡される
「助かる…!」
「いいえ〜」

そして、軽く消毒液で湿らせた脱脂綿を使って傷口がよく見えるようにふいていく

見えた傷跡の先にはぱっくりとわれた皮膚
無数の小さな傷痕

「……ガラスと、っつったよな…」
先ほど言われたことも思い出し手際よく消毒だけ行うと再び傷を丹念に調べていく

やがて
「冬槻、ささってる、っぽいよな…」
後ろから同じように手を貸してくれていたクラスメイトに言われて俺も困ったようにうなずく
これ以上先は、いくら専科で学んでいるとはいえ素人同然の高校生に手を出せる範囲じゃない
幸い、傷もそこまで広いわけでもないしそれさえ取り出してしまえばおそらく傷跡も残らずに完治するとは思う
現代医学はなかなかの代物だから

「病院、行った方がいいなこれは」
そう呟いた俺の判断に後ろで同じく医療専科クラスのクラスメイト二人もうなずく
「俺もそう思う」
「私も連れて行った方が彼のためになると思うわ」
二人からの同意をもらいながらも軽く消毒してから止血だけすると、二人に手伝ってもらって俺は彼を背負う
「先生には、報告任せるわ」
そう俺が申し訳なさそうに頼むとクラスメイトの二人は笑ってうなずいた

後ろでわずかに身じろぎした光祈に聞こえるようにそっと囁く
「今から病院行くな、大丈夫だからそのまま寝てろ」
「ん・・・ありがとう…」
やがて、後ろで眠るような呼吸音が聞こえてひとまず胸をなでおろすと
俺はそのまますぐ傍の病院に彼を連れて行った






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