ずっと生きていることが嫌いだった
順風満帆?冗談じゃない、むしろ俺、冬槻零にとっては悪風満帆もいいとこだ
「あきたよ、まじ疲れた」
誰に聞かせるつもりもなく、彼は呟いた
そのままぼんやりと昼の空を見上げる
空の青さはいっそ清々しいレベルで、彼の気持ちを一層投げやりにさせる
もう、彼にとっては全てがどうでもよくて仕方なかった
彼はぼんやりと空を見つめ続ける
「あれ?」
その時、不意に彼の前から声が聞こえた
その声に引き戻されたように視線を落とした先に、人がいた

「あんた、いなくなっちゃうの?」
目の前で言われた言葉に目が点になる零。
自身の周りにだれかそんな危険な状態の人がいるのかとも思い周りを見渡してみたものの、自分以外の人は見当たらず彼はますます首をかしげて視線を目の前の青年、と呼ばれるほどの年齢に見える彼に戻す

だが目の前の青年はなぜか一人で納得すると笑って手を振って
「じゃぁ、あんたは来世だね(笑)また会おーなっ!」
そう言うだけ言って去っていってしまった

その姿が遠くなるのを見ながら、意味が分からなくてぽかんとした零は呟く
「なんだったんだ…?」

その時、零はまだ何も知らないままだった
ただ零は呆然とした表情のまま
(あいつ、結構綺麗な顔してたな…)
そんな気の抜けるような事を思っていたのだった

訳の分からない事を言って去っていった男に会ったその翌日
もう会うことはないと思っていた零はいつものように学校では優等生の仮面を被っていた
誰とも深く関わらない
それが自分が余分な期待をしなくていいことだと、零は今までの僅かな時間を生きてきた事で学んでいた
失うことは辛い、余分な期待は苦しいだけだ
だから、自分は自分というものを捨てたかった
必死になって自分を捨てようともがいて、やっと手に入れかけていた優等生という地位
そんな誰にも深く入ってこられない程度の地位だった
零は割りきっていた

その日、零は先生に珍しく捕まって話を聞かされていた
その結果、いつもの時間に帰る事が出来なかった
いつもより暗いなか、彼は家路を急ぐ

その途中、暗くなりかけの道すがらに喧騒がふと耳に入る
ほの暗くなった、昨日の公園
どこか聞き覚えのある声がすぐそばの空き地から聞こえた
視界の端に映ったのは昨日、同じ場所で笑って訳の分からない言葉を残して去って行った青年

「…いじめ、られてんじゃん」

分かりやすくからまれている青年を見て、零は呆れ気味に呟く
いつもなら聞かなかったふりをしていただろう

だが彼のけらけら笑う声

「此処、いっぱいいんのに…死んじゃうよっ??」
それかふと真顔に戻ったのだろうか、今度はまじめな声色で
「あーぁ、生きるって難しい。」
そう聞こえた言葉

その時も、「何言ってんだこいつ…」
そう思っていた零は手を出すつもりは更々なくその場を通り過ぎようと
そう思っていた、

はずだった

「あー、そこの人達ー…、ちょっとそいつ、放してやってくれないかなー」

そんな言葉が口をついて出るまでは

「あれ?昨日の…」
昨日よりも赤く腫れている頬を見て零はゆっくりと絡んでいたいかにも、という不良達に目を向ける
「はぁ!?てめー誰だよ!」
またいかにもな啖呵を聞き、零は苦笑いを浮かべる
「ちょっと昨日そいつに命を救われたやつですよ」
(まぁ、ということにしておこう、死ぬ気なんかさらさらなかったけどな)
そう胸の内に言い訳を残して
「あんた、まだ生きてたんだね」
嬉しそうに殴られて絡まれていた青年が笑む
俺達の会話に流石に苛立ってきた不良が動くのが視界の端にうつる
風をきるような音と共に喧嘩が始まった

-数分後-
「生きてるかー」
節々の痛む体にしかめっ面になりながらも零は隣で倒れこんでいる男に声をかける
「あんたは?」
「口がきけんなら生きてんだろーな」
痛みにうめきながら、眼前に広がる空を見上げる
もう時間は夜だ
あぁ、喧嘩の結果は見ての通り
散々だ
「あんた、何で手出さなかったんだよ?」
「はぁ?」
「身のこなし見てたら分かる。ほんとは、強いだろ?」

その言葉に零は僅かに笑うと口を開く
「お前だって、出さなかったじゃねーか。一緒だろ」
その言葉を聞いた男は困ったように微笑む
「なぁ、生きるって難しいな」
いきなりそう呟かれ、
「ん…知るか」
痛む体を無理やり起こすと隣で青年も制服のホコリをはらっておきあがる
そして、電灯の下でびっくりするぐらい良い笑顔を浮かべて
青年は笑って言った
「でも、俺あがいてもあがいても生きるの好きなんだ(笑)だから、あんたもさ。もうちょっと一緒に生きない?」
「あの、さ。俺死ぬ気はないぜ?」
零はその言葉に昨日からずっと言いたくて仕方なかった言葉で事実を告げる
しかし目の前の男は首を降る
「うーそ」
「何いっ、て…」
「あんたは死にたがってるよ。その事実に気づかないふりをしようとしてるだけ。そういう人が一番、怖い。」

会ったばかりの奴が何を根拠に

そう、反論したかった
そう、反論したつもりだった
でも実際に零の口から出たのはただの呼吸音だけで
「ねぇ、生きてよ。あんたは。生きて」
何かを言い返したくて、けれどまるで
声が出なくなったように、何も言えずに固まっていた
そんな俺を見て「変な顔」
そう青年は笑ってみせて
「今”なんで反論できねーんだ”とか考えてるでしょ(笑)でも見つかんないよ?だって、俺たち、まだ生きてんだもん」
そう言って微笑んで見せた
びっくりするぐらいその言葉に納得している自分が気味が悪かった
そして、そんな風に思っている間に気づけば視界の端からその男の影はなくなっていて
慌てて顔をあげるとその男の姿は遠くにあって
「また、!」
そう言って、その姿は暗闇に消えていった






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