「光祈」
そう呼べば、ベッドに横たわった状態で、後輩は微笑む
泣いていたのだろうか
月明かりに照らされて見える彼の瞳がわずかに腫れている気がした

「お帰りなさい、先輩」

そういった後輩に俺は言葉を紡ごうとして、口を開く
「………なぁ。」
「先輩。言わないで」

「え?」

けれど俺が言葉を紡ぐよりも先に目の前の後輩は少しだけ悲しそうに、けれどそれでも笑って言う

「何も、今は聞きたくない。わがままで、ごめんなさい」

その瞳に揺れた感情に俺は何も言えずに口を閉じる
そして閉じた口の代わりに俺はゆっくりと彼のそばに寄っていった

「先輩…」
近寄っていけばいくほど、彼の瞳に映る惑いが強くなっていく気がした

”だから、そんな風に…苦しそうに呼ぶな”

「先輩、ごめんなさい」

”何も謝ることはしていないのに謝らないでくれ
やめてくれ、やめてくれよ”

「俺は、あと少ししたら死ぬんだから。ダメ、だよ」

「やめてくれよ…っ!!!!!!!!」

その言葉にまるで悲鳴のようにその言葉が口をついて出た

目の前で消えていかれる恐怖がよみがえり、足が震える

「頼むから、そんなこと言うなよ。俺が、俺たちが、お前の事を”助けたい”って頑張ってるやつらが、いるんだから」
ポケットから引っ張り出したケータイの掲示板のページを示す

「だから、”あきらめないでくれよ”」
そう言えば、彼は苦しそうにけれど、それでもまた笑おうとしたから

「もう、俺の前では無理して笑わなくていい。こっから先お前の”助けて”全部聞くんだから、もう無理しなくていい。」
そう言って、問答無用で手にしたケータイをベッドの上に放り投げて後輩の体を抱きしめる

「せんぱ…」
「…今、見てねーから。俺しかここにいないから。だから。言えよ」

やがて、カタカタと震えだした後輩の体の振動が俺の体にも伝わる

「痛いな、怖いよな。こんな世界に嫌気がさすよな。ごめん、守れなくてごめん。」

”お前が痛い前に見つけてやれなくて、ごめん”
そう言えば、そこでカタカタと震えるだけだった体からそろりと手がのばされて思いっきり服をつかまれる

「怖い、よ。」

たった一言その言葉を漏らした瞬間、何かが決壊したのだろうか

俺の腕の中でまるで子供のように後輩は泣きじゃくった
泣きじゃくりながらも
それでも決して「この世界が嫌いだ」と言わずに
「俺は、この世界が好きなんだ…っ壊したくないんだよ…っでも、まだ死にたくないのに…っ、怖い、自分が死んでしまうことが怖いんだ…っ」
ただそう涙交じりで叫び続ける

まだ、高校生だ。
高校に入っていくら時間が過ぎたって、ついこの間まで義務教育を受けていた子供に
こんな風に世界の改変をその命で代行しろだなんてひどい役目を押し付けて

何も言わずにその背をさすってただその言葉にうなずいていた
本当は、初めからこうして叫ばせてやればよかったんだ
だけど俺には、まだ覚悟も何もかも足りていなくて
けれど、これ以上目の前の馬鹿正直な後輩が痛みをこらえて、見ないふりをして、笑おうとするから

「お前、ほんっとに、ばかだよ」
そう呟いた声は、自分でも驚くほどやさしい声色で
驚いたように後輩の涙と鼻水まみれの顔が上がる

「せ、んぱ…い?」
「そんな風に世界が敵に回ってもそれでも、”この世界が好きなんだ、守りたいんだ”なんて泣ける優しい奴、いないよ。ほんっとに、お前は、ばかだよ」

キョトンとしたまま見上げてる後輩を見つめる
その瞳を見つめて、俺の中で何か不安定だったものがしっかりと定まった気がした

その言葉はするりと口から出ていた
何も考えずに、ただ、今泣いている目の前のこいつのために
世界が好きだと、壊したくないとなく、優しい目の前の後輩のために
「だから、守るよ。”この世界”から、お前を、俺が守るから」

その言葉に目の前の後輩は不思議そうな表情を浮かべた後やがて嬉しそうに微笑む
「先輩…”ゼロ”みたい…だ、ね…」
どうやら泣き疲れてしまったらしい、俺にもたれて眠ってしまった彼の言葉に苦笑しながら、彼をベッドに横たえた

暫く後輩の言葉と、さっき聞いた相沢先生の言葉を脳内で反復させる
頭の中がぐちゃぐちゃで、けれど、とにかくつたえなくちゃいけないと思った
俺だけじゃ見つけられない何かを、見つけてくれるかもしれないと、一縷の願いを託して

「…言わなくちゃ…」

そう呟くと、眠る光祈の表情を見つめたのちに部屋を出た
そして俺は彼らに報告するために、屋上に上がったのだった握りしめたケータイ
画面越しでも”幻想”と”後輩君と幸せになれよ”と、本気で言って、
”助けるよ、俺たちが味方でいる”と言ってくれた彼らに
全てを伝えて再び本気で今度こそ助けを乞うために





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