「嘘だろ…」
愕然としたその呟き
戻ってきた俺の立てたスレにも悲痛な叫びが目にみえて、
思わず、その混乱したままで俺は再び自分のスレに文字を打ち込む




372 幻想先輩

なぁ、他の命と引き換えってどういうことだよ
なんで、あいつの命でほかの人間が救われんだよ
おかしーだろ
いみわかんねぇ

373 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

幻想…

374 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

信じたく、ないよな

375 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

生きててほしいよな

376 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

当たり前だよな、動揺するの
でもな、幻想
あそこの本気っぷりからして、たぶんほんとだ

377 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

幻想
お前、ほんとに何でそういうもんばっかりに出会っちまうんだろうな




「どうしようもないのかよ…」
皆の呟きが同情へと変わっていく
その時、また画面がスクロールされた






388 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

なぁ、なんでお前らあきらめてんの?

389 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

だって、俺たちの命と引き換えって

390 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

俺たちは…

391 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

よく見ろよ
近くにいない奴らなら関わらなくていいってことだろう?
だったら、そのリミットになってる1週間以内に何とかできるんじゃねーのかよ

392 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

何でそう簡単にあきらめてんだよ
お前ら、今まで幻想先輩さんがどんだけきつい中で生きてきたと思ってる
こいつは、最初から助けてほしいって前提でこのスレ立ち上げてんじゃねーか
なのに、なんでお前らがあきらめてんだよ

393 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

俺たちは、今までなんのためにあちこちのスレを覗いては何か情報ないか探してきたんだよ
いつかの幻想先輩の『助けて』に「わかった!」って返せるようにだろう!!!!



まるで怒鳴るように書き込まれたその言葉に息をのむ
世界や自分の命がかかっている、しかもかなりの信憑性があるところでそう言われて
それでも、俺たちのために”あきらめる”ことをしないでいてくれると
涙が出そうになる
泣くな
必死に自分をいさめながら再び画面に視線を戻す





394 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

・・・そう、だよな

395 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

俺たちがあきらめたら、そこで幻想はどうしようもなくなるんだよな…

396 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

あいつらが情報集めてんなら、その中にもしかしたらほころびあるかもしんねーじゃん
俺たちだって今まで何するわけでもなくここにきてあいつらの話聞いてたわけじゃねーだろ

397 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

・・・そう、だよな
俺たちにだって世界を救う手助けができるかもしれねーんだよな

398 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

俺たちは世界なんて救えなくても、幻想を少しでも手助けしてやらなきゃいけねーだろ?
じゃなきゃ、あいつがここにいる意味がない

399 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

なぁ、俺たちは今まで何を聞いてきた
俺たちは、今まで幻想の世界を、見てきただろう?
その世界を、そんな簡単にほかの奴らの言葉にビビッて、壊しちまってもいいのかよ
お前らは、それで、いいのかよ

400 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

青臭いよな?
わかるよ、俺もすっげーそう思ってる
けど、今俺たちはこのスレにいるんだ
幻想からじかにどういう状況なのかを全部知れる状況にいる
だったら、もしかしたらその情報突き詰めていけば何とかなるかもしれねーんだよ
前回ってことは、ある程度の頻度で俺たちが生きるために誰かの命を犠牲にしてるんだろ?
だったら今後その対象になる命が俺たちの子供や、孫や、嫁になる可能性だってないわけじゃないだろ

401 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

あーすっげ、あおくっせー理屈
けどさ、俺もおもうよ
青臭くたって、それでも、一回幸せになってほしいって、報われてほしいって、思っちまったんだよ
だからな、幻想

個人情報特定になるかもしれねぇ、
そういう大事になるかもしれねぇ
けど、俺はお前たちの側につくって決めた
話せ、全部




息をのんだ
世界を捨ててでも
俺たちの側につくと言ってくれたことに本気で嗚咽をこらえる羽目になる
泣くな、まだ泣くんじゃない





402 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

皆さん、熱血多いですね、超ドン引きです
けど…
僕も熱血なんて大嫌いですけど
せっかく、この世界にも悪いところだけじゃないって知った彼をこのまままた世界のどん底に落とすのは嫌です
…僕、実はこれでも昔は少し名の知れた情報屋でした
引退してからでも気軽に来てくれる仲間もいます
少し、久しぶりに仕事をしましょう
けれど、それは世界を壊すためじゃないです、後輩君を助けるためでもないです、もちろん見捨てるためでも

全部まとめてハッピーエンドに持っていくための仕事を、します

403 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

あっちに政界に知り合いがいるってならこっちだってあちこちにネット浮遊中の友達がいるだろう?
俺たちにだって、ハッピーエンドを作る手助けはできるはずだ

404 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

全部をハッピーエンドにはできないかもしれない
けれどせめて、どちらも守り切れるならば

俺たちだって少しは自分のことを誇りに思えるかもしれない

405 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

俺たちは、幻想

お前の味方でいるよ
きっと、ここにまだ残ってくれてるやつはそういう気持ちになったと思う
だから、こっからはがちな話だ
俺はさっきの情報屋みたく特別な能力はないが、さっきのオカ版に入り浸っている奴に一人幼馴染がいる
そいつひっ捕まえて全部はかせる
だから、お前も情報を集めろ
後輩君を口説き落としてなんとか話させろ
何もない状況じゃ俺たちはほころびを見つけることはできない


406 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

そうだな、幻想
俺もネ友当たる
とにかく、今は可能な限りでいい
何か起きてからじゃなくてもいいから、俺たちの反応なんか見れなくてもいいから
後輩といるときは逐一状況報告しろ
後輩から何か聞けたらすぐにここで開示しろ
俺たちは何が何でも世界もお前たちも両方ハッピーエンドに持っていく方法を探し出すから




あぁ、いますぐ、病院に戻って、このスレ見せてやりたい
ばか野郎、てめぇ一人で抱えてんじゃねーよ
両方ハッピーエンドにするって、俺たちのためにもしかしたら世界なんて訳わかんねーもん敵に回しても助けようとしてくれてるやつらがいるんだって

くっそ、ばか野郎
なんで、なんて言ってられねぇ、俺もできることをしないと
彼の指は再びリズムよく文章を組み立て始めた







407 幻想先輩

ありがとう
本気で、ありがとう
だからこっから先は戯言だと思って聞き流してくれていい

408 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

なんだ?
幻想、言ってみろ

409 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

聞くよ

410 名無しに代わりまして名無しがお送りしちゃいます

お前の話、聞く

411 幻想先輩

俺はあいつを助けたい
今はとにかくそれしか頭にない
けど、本当に世界が巻き込まれ始めたなら
お前たちはこのスレから姿を消してくれてかまわない
俺は、俺のエゴをお前たちに押し付けてる
俺はあいつを助けたいよ
まだ聞いてない話も一緒にするって約束してたことも、あいつの家の話もまだ聞いてない
あいつが何をしたかったのかすら聞いてない
なんで俺に近づいてきたのかもわかんねぇ
そんな状態で消えるなんて許さない

けど、それは俺のエゴだ
だからもし、自分たちに危険が迫ってると思ったら遠慮なく切り捨てていい
俺はお前たちに言われたとおり、ここに可能な限りの情報をさらす
それをどう扱うかは全部お前たちに預ける
全部、お前たちにいろんなもの預ける
けど、お前たちは俺に何も預けるな
俺にはきっとあいつ以外を助けるなんてできない
ましてや世界なんて無理だ

だから、お前たちは自分たちの意思で決めろ
ここから先何があっても俺についてくるなんて誓わなくていい
自分の大事な奴捨ててまで俺について来なくていい

俺からはそれだけだ

…本当は、こんなこと頼むの間違いだってわかってる
けど、それでも今味方でいてくれるのなら
俺はお前たちに頭を下げるよ

頼む、助けてくれ

俺は、俺の世界に本物の色をくれたあいつを助けたいんだ













それだけ打ち込むと後は彼らがうなずいてそれぞれの仕事の割り振りをするらしい
別のチャットルームに移動するといって、彼らはいったんスレから離脱していった

俺もそれを眺めたのちに自分のケータイを閉じる

むかつくぐらいに晴れていたはずの空は、気づけば少しだけ雲がかかってどんよりとした色になっていた
それが、まるで今後の俺たちの先を示しているみたいな気分にさせられて俺は空から視線を外す

彼らが動いてくれている間に俺も自分のできることをする

俺はケータイを手に立ち上がると
光祈のいる病院に再び向かった





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