翌日あったあいつは、いつもと変わらないように見えて
俺は完全に油断していた


「ね、零先輩…」
いつもは絶対名前なんて付けずに先輩、先輩と呼ぶあいつが、珍しくまじめなトーンで俺の名前を呼んだ時

それは、最後の合図だった

「明日から、もう俺のことは忘れて」

そう言ってむかつくぐらい泣き出しそうな表情で、それでも精一杯微笑んだ目の前の後輩の姿に
目が、点になる

「ごめんね、俺はもう、タイムリミットなんだ…、ばいばい、先輩」

今にも泣きだしそうなほど声もその立ち姿も震えていて、それでも精一杯最後は笑って見せたいのか笑みを浮かべようとしている後輩

「・・・・」

あぁ、また見落としてしまった。こいつの助けてを見落としてしまった

けれど

「俺は…お前の言うとおりに動く人形じゃねーの、まだわかってねーんだな」

けれど、今、手を伸ばせる限りは…

そう呟けば、目の前の後輩はきょとんとした表情になる

力が抜けたその体を引き寄せる

「勝手に、消えようとすんな。お前が、言ったんだろう、”大丈夫だよ、そばにいる”って…」

俺にとってはそれが自分の精一杯で、こんな時自分が今までろくに経験を積んでいないことが悔やまれて
けれど、その言葉は目の前の後輩に届いたようで、そっと体を放した後輩はぽろぽろと、涙を流していた

「先輩に、死んでほしくないのにっ…!!先輩だけは、巻き込みたくなかったのにっ…!!!どうしてっ…!!」
まるで絞り出すように、後輩は苦しそうに口にする

「そんなの、そんなのっ…!!!!!」

「なぁ、お前言ったよな」
まるで、それ以上は言わせたくないとでもいうように、俺の口は無意識に動いて彼の言葉を遮っていた

「逆流が始まるって。大丈夫、大丈夫だ。お前のために助けるって言ってくれる人がいるから、だから大丈夫だ」

俺はそれまで書き込みを続けていた掲示板を見せる
最初は荒らされていたし、今でもそういう奴らはいるけれど、いつしか、俺の話を聞いて後輩を身近に感じて、俺にとって大切な奴なら、って言ってくれる奴らができた
お前にとって大切なら俺たちも手伝うよ、できることをするよ、
そういってくれる奴らができた

「お前は、俺以外のところでも人を救ってんだよ。勝手に、消えるなんて許さねーから」

そういえば、目の前で泣いていた後輩は、泣きながら微笑む

「先輩、横暴。けど…ありがとう」


そして、その日、何事もなく終わった俺は、いつもとは違う時間帯のバイトのせいで後輩と早くに分かれた

翌日
「なー、聞いたか??」

不意に話しかけてきたの、後輩が怪我した時に手を貸してくれたクラスメイトの一人
村上慧(むらかみけい)
彼は何気ない様子で、けれど少しだけしかめっ面でその言葉を口にする

「学校の付近のラーメン屋で昨日火事あっただろ??あれにうちの生徒が一人巻き込まれたらしいな〜」

その時は、何も知らなかった
俺は彼の言葉に面白半分の状況で耳を貸してはいたものの大して聞いておらず
そして、それがすべての始まりになったことを今も俺は、よく覚えている

「冬槻君。」
滅多に呼ばれることのない職員室に呼び出されたのは昼食の最中

目の前にはいつになく困ったような表情を浮かべている専科の担任をしている先生がいる
「どうかしたんですか?」
どうもしなければ呼ばれることはないだろうとわかっているのに、ばかみたいに定型文を繰り返す

先生は手元にあったメモ用紙を俺に向けて差し出す
「そこに、いってください」

受け取ったメモ用紙には病院の名前が書かれている
「ここは…?」
そう聞いた瞬間表情が曇った、そして次に口にされたその言葉に、俺はその場をはじかれたように飛び出した


”君がよく一緒にいる彼… 橘君と言いましたか?彼が、昨日の事故に巻き込まれて、そこにいます”

頭の中に困ったような、表情の先生の姿がよぎる
いつも時間帯は不定期で、だから会わなくてもまぁ、今日は忙しいんだろう、そう思っていた俺が、ばかだった

あいつは、いつだって全部自分で飲み込む癖があるのに

どうして
今回のSOSに俺はまた気づけなくて

「…っくっそ!!!」

自分のダメさ加減に舌打ちをしながら捕まえたタクシーに飛び乗る

告げた先までたどり着くのにそう時間はかからない

目の前で流れる景色を見ながら俺は唇をかみしめ、彼の無事を祈った






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