「先輩、最近ネット始めてから楽しそうだね」

後ろから不意に聞こえた後輩の声に俺は驚いたように振り返る

「おま、…!!」

怪我をしてからしばらくは病院通いになるためほとんど一緒にいられないからと、後輩につなげてもらったネットというものにはまり始めて早数日
いつもなら聞こえることのない時間帯に聞こえたその声に俺は目を見開く

「大丈夫なのかよ…!?」

目の前には空の青さと同じくらい清々しいような笑みを浮かべている後輩の姿

「無事、完治っ!」
ピースサインを浮かべて彼は微笑むとそのまま俺の隣に腰掛けた

「先輩、少しは寂しがってくれるかと思ったら、全然そんなことないんだね〜。俺すねるよ〜?」
そう冗談交じりに言った後輩
そんな表情を見て俺は吹き出しそうになりながらも彼の少しだけ伸びた髪の毛に触れる

「先輩?」
きょとんとした表情を浮かべた彼の頭をポンポンとなでると口を開く

「お前がいなかったから、ちょっと平凡で、つまらなかった」

固まった後輩はやがて大爆笑を始める
「せ、先輩っ(笑)キャラ崩壊」
ひいひいと笑い始めて止まらなくなった後輩を見ると思わず俺も笑ってしまう

「お前の大好きなゼロだって似たようなこと言ってただろうが」

その一言に笑い続けていた後輩がうれしそうに眼を見開く
「ゼロって、え、先輩、「幻想霧伝」やってくれたの…!?」
「お前がいなくて暇だったからな」

「うわー…っ!!やばかったでしょう(笑)」
そう、病院通いになってしばらく遊べないとすねていたこいつは俺にネットと一つずっとゴリ押ししていたゲームを紹介してくれていた

「あれは、確かにくそげーって言われる意味がよくわかった」
「だよねっ…!!」
笑いながらも後輩は口を開く

「でもさ、先輩。真END見て思わなかった???」
「あぁ…いやあれは”お前そこは幸せにしてやれよっ…!!”って奴だろ」
「やっぱりそう思うよね〜」
「でも、俺はきっとあいつ…主人公とゼロにとっての一番の知りたかったけれど知りたくなかった真実で、あの世界での一番のお互いの幸せを願った結果なんだろうな…って思ったら妙に納得したわ」

何気ないその一言で不意に隣で息をのむ音が聞こえてふと隣に座る彼を見る
「どうした?」
「先輩、反則だよ…」
何故か隣に座って先ほどまで笑っていた後輩は泣き出しそうなほどのその表情をゆがめていた

「は、ちょ、なんで」
「先輩、あのゲームはね、俺の逆流にきっとすごく似ているんだ…。俺はあのゲームを見つけた時に真ENDを見た時に、今先輩が言った事と同じことを思ったんだよ。まさか、同じように思ってくれる人間がいるなんて、それが先輩だなんて、この世界はどこまでも俺の事をいじめたいんだね。」

先輩ってば、ほんとに反則

彼は泣き出しそうな表情のまま呟く

「な、お前がずっと言ってる逆流ってやつは、そんなにやばいもんなのか?」

ずっと聞こうと思っていたそれを口にした瞬間、目の前の後輩の表情が固まる

「…っ…!」
まるで言葉の紡ぎ方を忘れたようにぱくぱくと口を開く目の前の後輩

「光、祈?」
その名前を呼ぶと、目の前の後輩は首を振る

「ダメっ…」
小さくつぶやかれたその言葉に俺は再度口を開く

「なぁ、何が」
しかしその言葉は不意になった目の前の後輩のケータイの音にかき消される

彼の表情は再び貼り付けたような笑顔になり、”ごめんちょっと出てくる”そういって後輩は扉の向こうに姿を消した

分からないことだらけの後輩のその姿

「どうして、そんなに苦しそうなんだよ、お前は…」

誰に聞かせるつもりもない俺の呟きは見上げていた空の青に溶けて消えた







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