05
〜帰り道〜
「謙也、はよでぇや、鍵閉めるでぇ〜」
「おぅ、すまんな、もうちょいやから!!」
少しして謙也がかばんを持ち上げる
「すまんな、今日は待たせてしもたし一緒に帰ろうや。」
「意味分からんで?wwちょっと待っとってや、オサムちゃんとこ行ってからすぐに行くで。」
「おぅ」
少しオサムちゃんと話をしてから、すぐに謙也のもとへ行く
「お待たせ。」
「そない待ってへんから気にしんでええで〜」
そうして夕日の沈む道を帰路につく
「白石。誕生日、おめでとうな。」
ふいにつぶやかれた言葉に笑いながら返す
「やっと、言ってくれたなwwおおきに、謙也。」
「ほんとは、な…、白石の誕生日、祝うんどうしたらええかわからんかったんや」
そしてわずかな沈黙ののち彼は泣きそうな顔でこちらを向いて口を開く
「白石な、最近ずっと泣きそうに見えるんやもん…」
驚いたのと、初めて心の内を見透かされた気がして体が強張った
「白石、何苦しんどるんかは聞かんけど…もうちょっと頼ってええんやで?」
謙也は泣きそうな声で呟く
「俺は、確かにお前みたいにつよないけど、おまえの痛いんずっと見とれるほどでもないんや、千歳みたいになんかできるわけでもなくてな…皆、心配しとったんやで?”最近様子がおかしい“って」
まさかそこまで見破られるほど自分は分かりやすかっただろうか
「俺は、おまえが苦しんどるん見続けれんくて、せやから今日は皆に手伝ってもろてそしたら白石笑ってくれたから」
そう、今日、皆が珍しく告げてくれた
自分がここにいることに感謝してくれて、皆は認めてくれたっていうけど、認められた気持ちになってたんは俺のほうで
初めて、自分の存在がちゃんと地面にふれた気がした
全部、こいつはわかっとたんかな
あかん…泣きそうやと思って思わず下を向く
不意に謙也の影が近付いた
「でも、やっぱりお前終わった後にも辛そうやったから、なんかこらえてるみたいやったから…」
そういうとふいに俺の頭が謙也の肩に付けられる
そして久しぶりの謙也の体温と優しいにおいに触れて
「泣いても、ええんやで?」
なんだか、無性にこらえてる自分がばからしくなって
「せや…な、おまえならええわ……っ…」
簡単に涙が頬を伝った
なんでこんなにも…なんて意味のない事ばかりが頭の中埋められとって
どうしたらいいかわからんくなっとった。
それでも、弱音なんて吐けるわけなくて気づけば見失ってしまっとったんかもしれん
皆が伝えてくれた言葉に本気で泣きそうになった
俺は、そんなに大層な事なんかしてへんのや、おまえらがいつも俺の事考えてくれるおかげで、皆がこんなに1つなんや
本当は、俺なんかおらんでもみんなちゃんとできるんや
考え始めた思考の渦はどんどん悪い方向にばっかり進んでくんが定石や
そして、見せないようにしていた本音が壊れたように涙になった
「白石、おまえが何考えとるかは知らんけど…」
ふいに頭をなでていた謙也が口を開く
「俺たち、四天宝寺中テニス部はな、白石部長がおって初めて形になるんやで?
白石が、俺たちの事ちゃんと見とってくれるように、俺たちやってお前の事ちゃんとみとるんや。せやから心配だってするし、苦しんどったら分けて欲しいと思うんやで?」
「なん…やっ…、謙也ん…癖にっ…」
「そんな憎まれ口だってお前の1部や。俺たちが楽しい時はお前も楽しんでほしい。白石にとって、あのテニス部が大切な場所なようにあのメンバーが大事なように、俺らやって白石のいるあの部活が大好きなんやで?」
びっくりするような謙也らしくないセリフのくささに思わず噴き出す
「なっ!?相変わらず、おまえは俺に対しては遠慮なく失礼やなぁっ!?」
「すまん、あんまり謙也らしくなかったさかいについwwww」
「ったく、まぁええわ。ふっきれたみたいやしなっ!!」
そう言っていつも通りのまぶしい笑顔を浮かべると、彼は前を向く
「白石、帰ろか。」
「せやな、しかしあのセリフは…www」
「思い出して笑うんやないわっ!!!」
明らかに夕日のものではない赤さの混じった謙也に再び噴き出す
「 さっきのイケメンさんはどこ行ったんやwwww完全にヘタレやんかww」
「うるさいわっ!!あんなセリフ、もう2度といったらん!!」
「すまん、すまんwwでも、おおきに。うれしかったで?」
そう言って微笑むと、同じように笑顔で返した彼はそのままうなずく
「白石は自然体でおったほうがいい表情するんやで?」
なんて笑いながら走っていく
「あの馬鹿www」
君に伝えたい言葉
少しだけ先から彼が最高の笑顔で叫ぶ
「いつもおおきになっ!!おめでとう!」
君に伝えたい最大級の感謝の言葉
最後の彼からの優しい言葉
これは、彼らのお話
たくさん挫けながらもまっすぐに前を向いて歩くしかできない不器用な彼らのお話
君に伝えたい言葉があります
君に伝えたい感謝があります
「生まれてきてくれてありがとう」
みんなに愛された部長の誕生日の優しいお話
〜end〜