07



一方黄瀬は…

「涼太…?」
家でぼんやりと外を見つめていた彼に彼の父親はそっと彼の名前を呼ぶ
「あ、れ…?」
その瞳はもううつろで、焦点は定まっていなかった
「少しでも良いから、食べなさい」
「えへへ…今度ね1on1してくれるッスか?からだないのにどうすんのwww」
「涼太…!」
「駄目っすよ、え?俺?大丈夫っスよ、もう大切な人なんていないっスもん」
「りょu「もう、みんな失ったっスから」
そう言ってみた事も無いほどきれいな笑顔を浮かべる自分の息子を前に黄瀬の父は固まっていた
彼が学校を休むと言った理由は聞かずとも彼の憧れていた同級生の死と関係があると思っていた
だから父として、少しでも息子が気持ちを整理できるようにと少しだけ目を離していたすきに、彼は全てを捨てていた
今、部屋にいる彼の息子は『黄瀬涼太』であって『黄瀬涼太』ではない
全てをそのはちみつ色の瞳に映さなくなった ただの人形だった
すでに食事を放棄して6日がたっていた

黄瀬はどんどん衰弱していった
全てがなくなったっと彼は言ったが、黄瀬の元には変わらず赤司達キセキや1軍メンバーが連絡を取ろうと必死だった
だが、何もかもを切り離してしまった黄瀬はケータイにも出ようとはせず、家に行っても彼に会う事を両親は受け入れてはくれなかった
彼の両親は繰り返して「今のままじゃだめだ、もう少し私達で頑張ってみるから」と言い続けた

そして、黄瀬とキセキとの間で連絡が取れなくなって2週間がたったある日
「赤司」
不意に呼びとめられた声に振り返るとそこには黄瀬の担任が立っていた

そして一言二言聞いた彼は急いでケータイを操作すると「早退します!」
そう言ってあわててかけていった

「どうしてっ…!!!涼太っ…!!!!」
赤司の顔は疲れがたまっているように見えた。それでも赤司はただひたすらに祈るように呟く
「お前までいなくなるなんて許さないっ…!」
彼が先生から伝えられた言葉はすぐにキセキのメンバーのケータイに伝わった

『title:
 本文:涼太が倒れた ○○総合病院○○4号室』

「涼太っ!!」
赤司が息を切らして告げられた場所についたとき
その名前を呼ばれて彼は初めて赤司の方向を振り返る
すぐそばで見守っていた両親は驚くように目を見開く
「涼太!なぜこんなになるまで無茶したんだっ…!」
まるで自分が苦しいかのように彼はその声を絞り出す
そして手を伸ばした赤司の方をぼんやりと見ていた黄瀬は口を開く

無情にもその言葉は告げられた。
「君、誰?」
手を伸ばした赤司は驚いたように固まり黄瀬の両親を振り返る
両親はただうつむいて首を振るばかりだ
そして、茫然とした赤司から再び視線を外し黄瀬は
笑う
いつもと寸分変わらない、綺麗な笑顔
「涼、太…?」
「あれ、どうしたの?え?俺?まだ来ないかって?大丈夫っスよ、もういけるっス。え?」
虚ろなままの視線の先には誰もいないはずなのに黄瀬は笑って話し続ける
「も―wwwどんだけバカなんだよwwwうっせwww今度は俺が言うからいーのっ!覚悟してまってろ!!今度こそ離れてなんてやんないぐらい愛してやるっスから!ね、青峰っち?」

その名前を聞いた瞬間赤司は思わず黄瀬の肩をつかんでいた
「涼太っ!!!待てっ…ッ待ってくれッ!!!!」
その声とほとんど同時に病室のドアが開く音がして黄瀬は笑う
「いろんな色、いっぱい、綺麗…、でも青が、いない…?」
その瞬間息をのむ音が聞こえた
「赤司君…黄瀬君…ですよ、ね…?」
黒子の恐る恐ると言った言葉に赤司は頷きそのままペタリと床に座り込む
「真太郎・・・駄目だ、涼太、視えてるみたいだっ…」
その声に緑間が声を上げる
「な、なぜなのだよっ!!!」
「青峰っち、それが今のあいつの全て、みたいです」
そこではじめて黄瀬涼太の父親が口をはさむ

「私達だけで、何とかしたかった。だって涼太は毎晩毎晩あなた達を忘れようと泣いていたんです。会いたいけど、会いたいっ…でももう失いたくないんだっ…て。やがて、いつからか彼の視線は虚ろになって気付けば涼太は全てを忘れてただ虚空に話しかけるようになった。その時に出てくるのが“青峰っち”という名前。ただ涼太はその言葉を呟く時だけ唯一幸せそうにしているんです。もうどうあがいても戻ってこなかった。そんな状態の涼太を君達に会わせたくはなかった。きっと君達は…泣いてしまうと思ったから」
黄瀬の父親の言う通り、来ていたキセキのメンバー全員が茫然とただ静かに涙を流していた
誰も声一つあげないで
「少しだけ強い呼びかけにはまだ反応できます。ですが、もうそれ以上は無理みたいです。体が全てを拒否しているらしくて、もう医者にも長くは持たせられないと」
だから、学校にも伝えて、最後になるかもしれないからとバスケ部メンバーにも伝えてもらった
彼の父はそう説明するとぺこりと頭を下げて
「私達はもうこれ以上はきっと何も変えられない。だから、後は君達に差し上げます。どうか、涼太が笑っていられるようにしてあげてください」
そう言うと病室を出ていった

呆然としたままの赤司の隣に黒子が立つ
「黄瀬君…・っ・・?」
ぼんやりとしていた黄瀬は目の前の人影に微笑む
「綺麗な水色。優しい色だ。」
前と変わらず微笑んでいるのに、彼の口調は黄瀬涼太の物ではなくて
「黄瀬君のがっ…優しいですよっ…っ。どうして、こんなに無茶したんですかっ…?」
「む、ちゃ・・・?」
「そうですよっ…ッ、どうして、呼んでくれなかったんですかっ…?」
「よ、ぶ・・・?どうして?俺は君を、知らないんだもん、どうして?」
その言葉に黒子は表情をゆがめる
「みんなきれいな色、でも俺の知ってる人じゃない。誰?皆誰…?」
「黄瀬ちん笑えないよ…」
「黄瀬…」
「涼太。」
再び赤司がそっと黄瀬に手を伸ばす
「足りない色は青だけなのかい?」
そう言って優しく尋ねる
「足りない色…?皆に…?」
「そうだよ、僕達の色が綺麗だと言った涼太から見て、足りない色は、青だけなのかい…?」
彼らはその赤司の言葉に頷く
すると黄瀬はキョトンと首をかしげる
「足りない色は、青だけ…?でも…」
「でも?」
「青は、もう届かない…?……ッ!!!?????」
その言葉を口にした瞬間黄瀬の顔は大きくゆがむ
「ヤダっ…!やめて、嫌だっ、嫌だやめてっ…!!!!!俺なんかいないからっ!!!!もう皆を連れていかないで、こんな人たち知らない、待って!!!俺の大好きないやだっっやめっ…連れて行かないでっ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「涼太っ!???」
唐突に悲鳴をあげて頭を抱えて泣きだした黄瀬
そしてその姿に赤司と緑間の表情がゆがむ
黒子と桃井は茫然としていた

その日、不安定になった黄瀬の状態から消耗が激しいからとすぐに面会謝絶になり、赤司達は誰も口をきけずにいた
黄瀬はとらわれ続けていた
青峰の死、青峰が最後に呟いた言葉に
そして翌日
黄瀬涼太はこの世を去った




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