05



「涼、太」
まるでいつもの赤司とはかけ離れた様子で黄瀬の方に手を伸ばす赤司
「赤司っちが泣いて、どうすんっスか、みんな泣き虫だなぁ…?」
伸ばされた手をつかむと態度に反して華奢なその体を引きよせ黄瀬は赤司の涙をぬぐって笑って見せる
「大丈夫…大丈夫っスよ、それに…」
少しだけ苦い表情が顔に出た事に黄瀬は気付いているのかそのまま言葉を続ける
「俺のせいで、青峰っちが大好きなバスケをできなくなるのは、嫌っスから。俺はあの人のバスケに憧れて、あの人を超えたくて、そうこうしてる内に結局好きになって、たったそれだけだから。だから、大丈夫っスよ」
そうして、泣かないで赤司っち…?なんて微笑んで見せる
赤司はとっくに分かっていた、まんぱんになった黄瀬の脳が壊れそうなほど現状を見たくないと叫んでいるのを
黄瀬の心がすごい勢いで壊れていくのが見えたような気がしていた
それでも赤司にはどうする事も出来ずただ黄瀬の言葉に頷き伝えるべき事を伝えるしかできなかった
「涼太、一旦1軍から外れてはもらうが僕たちキセキのメンバ ーや1軍が交互に上手い事練習を抜けてお前の相手ができるように僕と真太郎でローテーションを考えてある。だから、少しだけ待っていてくれ。今は気休めにしか聞こえなくても、それでもいい。絶対に大輝をお前の元に返すから。元の状態になった大輝を涼太の所に行かせて見せるから」
「…ありがとう、っすよ。」
赤司は分かっていた。その万能すぎるが故に視えてしまった
青峰大輝は戻らないと、直感的に理解してしまっていた。
それでも目の前でこんなに壊れそうなぐらい愛している人間がいるのに、それを見て見ぬふりをして諦める事なんてできる訳がなかった
赤司はその日から緑間と共に青峰を戻すために奔走する
黄瀬はその日から、一切バスケットボールに触れても本気で笑わなくなった

全てが少しずつずれて壊れ始めている音が聞こえた

それから、黄瀬と、黄瀬を知るバスケ部のメンバーにとって厳しい練習が始まった
青峰はいつもと変わらず相変わらず王様で変態で、その傍若無人っぷりは黄瀬がいない頃に戻ったかのようだった
気遣う事を忘れた青峰は再びよく黒子に怒られるようになり、その姿を遠目で黄瀬は見て泣きそうになる自分を抑えていた
そして、今にも泣き出しそうなのに決してその笑顔を剥がさない黄瀬に、キセキのメンバーも1軍のメンバーもなんと声をかけていいのか分からなかった
少しでもその仮面を剥がしてしまえば黄瀬が、今度こそ消えてしまう気がして、彼らは動けなくなっていた
青峰は順調に回復し時々うっかり視界の端に彼を捉えてぶっ倒れる事以外はいつも通りに、どんどん元気に戻っていった
それに反するように、黄瀬のやせ方は尋常ではなかった
それでも黄瀬はその顔に笑顔を貼りつけたまま、青峰が苦しまなくて済むように、その視界に入らないように一生懸命だった
その姿はどれほど見ている側も辛かったのだろうか、桃井や黒子もよく体調を崩したと言っては保健室に入り浸るようになったほどだ
それほど、彼らの状況は悪化していった
そんなある日、ぼんやりと空を見上げていた黄瀬は気づく事が出来なかった
「黄瀬」

たった一言、なのにその声で、その名字に黄瀬は驚いたように振り返る
「青峰、っち…っ…?」
それはたった1週間それでも一切話す事もまともに見る事も出来はしなかった大好きな、愛してるを伝えたくて仕方のない相手で
黄瀬の手は自然と彼の制服に伸びて
「痛く、ないっすか…?」
いつものように微笑んでいる青峰の姿
「もう、俺、傍に行っても、名前呼んでも、平気…っスか…?」
そう言って見上げた青峰の表情にふと感じた違和感
黄瀬は思わず手を離し後ろに下がる
「…青峰、っち…?」
笑っている表情が、大好きな人の笑い方が
変わる
傍若無人な彼ではなく、今まで見た事も無いような寒気がする様な口元だけを大きくひん曲げたようなゆがんだ笑み

「ぜーんぶ、お前のせい、こいつはもうすぐ私の物」
青峰の声なのにどこか寒々しさを感じ、そしてけたけたと『青峰』は笑う
「涼太っ!!」
その時後ろから赤司の悲鳴が聞こえた
「え…?」
「黄瀬ちん離れてっ!!」
その紫原の声に目が点になる
意味が分からない
「どうし…てっ…?」
ふいに腕が掴まれた
その手は凄く覚えがあるはずなのに氷のように冷たく
そして、『青峰』はケタケタと笑いながら口を開く
「お前の目の前で何度だってこいつを殺してあげる、愛した人間が自分のせいで連れて行かれる姿をそこで大人しく見ていればいいっ!!!」
そして先ほどまで黄瀬がほおづえをついていた窓から青峰の体は

落下した

肉のつぶれる嫌な音が響く
「っッッっっ!!!!!!!!????????????????」
掴まれた黄瀬がともに落ちそうになるのを後ろから誰かが思いっきり引っ張り引き戻す
「っ!!大丈夫、かっ?!」
「緑間、っち…?」
すぐ下から悲鳴が聞こえた
目の前には赤司がいる
「涼太、目を閉じて、」
「どうし、て…青峰、っち、俺の、なま、え…よ、ん…で…青峰…っち…青峰、っち…?」
「涼太、頼む目を閉じてくれっ!!」
黄瀬は嫌だというように茫然と窓を見つめる
「青峰、っち…?何処…?」
「涼太っ!!」
赤司のその悲痛な声にも耳を貸せないほど、黄瀬はこの1週間消耗していた
「青みn・・・・・・・・」
首筋に鈍い痛みが走って意識が遠のく気がした
「すまないのだよ・・・・」
緑間っちがその綺麗な表情をゆがめていた
「何が…?」
そう聞く前に黄瀬の意識は途絶えた





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