04


「え…?」
我ながら間抜けな声が出たと黄瀬も自覚していたのだろうか
すぐにその次の言葉を飲み込む
「普通に接する分には俺達は問題ない、ただ、あいつは…」
その次の言葉を聞くのが怖くて耳を塞ぎたくなって
けれど両手をつかんでいたのは桃井と黒子だった
「黄瀬君、聞いてくださいっ…」
「きーちゃん、受け止めて、もうっ…」
「大輝はどうやら涼太の姿を認識したら、さっきのように急な激しい頭痛に襲われるらしい。すでに写真も試してみたが、それでも黄瀬涼太の部分だけをどうしてもあいつは受け入れなかった」
「っっ!!!!!なんでっ!!何で俺だけっ!!!!」
「黄瀬君っ!!落ち着いてくださいっ!!」
「離せっ、離せよっ!」
「涼太っ!!」
その怒鳴り声に習慣づいているかのように体が動かなくなる
「すまないっ…済まない…」
そう悔しそうにうつむく赤司
緑間と紫原がそれを補うように口を開く
「これでも、目が覚めて意識がはっきりしてから短い間に色々と試してみたんだよ?赤ちん死ぬほど必死になって、峰ちん何とかしようとしてた。」
「それでも、あの馬鹿は戻らなかった。医者にも色々と聞いてみたし、俺も知り合いを当たってみたが、元来こんな事はあり得ないらしい。だが、それは目の前で起きた。お前達も見たのだろう?あの高飛車なあいつがうずくまってまで痛がる姿を」
その声にざわついていた体育館に再び静寂が訪れる
そう、青峰大輝といえば俺様で自由人で変態で、だけど黄瀬の愛する、キセキの誇る、最強の王様
緑間はそのまま言葉を紡ぐ
「一度、黄瀬を認識して発症した頭痛の原因は分からないが故に一度意識をブラックアウトさせる事でしかあいつの痛みは休まらないのだよ。だから、黄瀬」
その言葉を聞きたくないとでも言うように彼は首を振る
「お前の大切なやつが、苦しんでいるのだよ。」
「っ!!!」
「もう、残る可能性は…霊能関係のみなのだよ」
わずかに吐き出した息と緑間の言葉に赤司は再び皆を見据える
「あいつは、僕達が出来る限りのサポートをするつもりだ、だがそれでもすべてに目がいき届く訳ではない。だからもし校内で一人で泣いていたり、頭を抱えている青峰の姿を見つけたら保健室に連れて行ってやってくれ。僕からの話はこれですべてだ。納得したものから練習を再開してくれ」
その苦い表情を見て1軍メンバーは何も言わずに立ち上がり練習を始めた
「涼太。」
「赤司っちっ…」
すぐ隣でうつむく黒子と桃井の姿
「涼太、お前にはもう1つ伝えなくてはいけない」
「これ以上、何があるんっすかっ…っ!?」
「桃井、黒子、聞いたのだろう?」
その言葉に下を向いていてわからなかったが泣いていたらしい、二人が顔をあげてはっとする
「涼太、話を聞いたら部室に来い。お前にちゃんと話しておきたい事がある」
「…はい…ッス…。」
「涼太…」
「なんスかっ!これい、じょ…っ!?」
その声があまりにも変わらずに少しだけいらだったように声を荒げた黄瀬が初めて赤司の表情を見上げ言葉を失った
「赤司、っち…?」
「すまない…お前にばかり、済まないっ…」
今にも泣き出しそうなほどに表情をゆがめている赤司
「……大丈、夫…ッス。」
「黄瀬君、行きましょう。」
これ以上は赤司も見られたくないだろうという黒子の判断だろうか
その有無を言わさない黒子の声に、桃井の手にひかれるままに彼はその場を後にする

彼らは体育館を後にする
隣で未だに肩を震わせる桃井を少し心配そうに見つめながら黒子は足を止める
「黄瀬君まずは謝らせて下さい」
「え?」
「僕が、あの時周りを見ていなかったから、僕があのと、k…「黒子っち。」
彼は物悲しそうにそれでもいつものようにその口角をあげる
「黒子っち、俺が助けたくて助けただけっスから、そんな顔しないで」
「でもっ!」
「黒子っちっ!いまはっ・・・もう、」
「っ…」
「桃っちも、ごめんっス、こんな事にまきこんじゃって。俺よりもきっと桃っちのが辛いッスよね、ごめん」
「なっ!どうし、てっ!」
「桃っちは俺なんかよりずっと青峰っちと一緒だった、黒子っちだって…それなのに、俺の方ばかり気を使われてる。」
「それは君がっ!」
「きーちゃんのがそばにいたよっ!!」
「桃っち…?」「桃井さん?」
「大ちゃんはバスケバカ で、他の事なんて何も見えてなかったけど、テツ君と会って少しだけ冷静になる事を覚えたし、きーちゃんと会って、優しくなったっ!!!大ちゃんは、いつだってきーちゃんを見て笑って怒って、そして心配して放置して
それでも、きーちゃんの事話す時、見る時、いつだってその表情は大ちゃんらしくない優しい表情だったもんっ!!だからっ…っそんな大ちゃんを否定するような事・・・っ、きーちゃんが言わないで…っ!!」
まるで悲鳴を上げるかのようにそう言う桃井その言葉に黄瀬は茫然とする
そして続く様に黒子も口を開いた
「黄瀬君、僕は君よりも確かに長い時間青峰君とバスケをしてきましたし、彼にも救われてきた。けれど、彼が誰かに対してあそこまで優しい表情を浮かべるようになったのは君と出会ってからです。どうしようもないくらいに君が好きだと、彼が自覚するまで随分と時間はかかりましたが、それでも青峰君は君の事を本当に大切にしていましたよ。」
「なんでっ…今っ…!」
記憶が消え、黄瀬にとって大切だった彼の姿はもうない今
どうしてそんな事を言うのか
黄瀬はただ茫然と立ち尽くす
「ど…っ…して…っ!」
ついにこらえきれなくなったのか、彼はその表情をゆがめ泣き始める
「黄瀬君…」
「きーちゃん…」
青峰と黄瀬の次に近かった黒子や桃井はよく分かっていた。どれぐらいお互いを大事に思っていたのか
どれほど相手の事を大切にしていたか
やがて、泣いている黄瀬を覗き込み桃井が先に口を開く
「…大ちゃんね、病院に運ばれるまでのちょっとの間だけ意識があったんだよ…?」
今にも泣き出しそうなほどに桃井の声は震えていて
それでも彼女はその口を開き言葉を続ける
「最後までね、きーちゃんの事心配してた。”あいつは…?”って、大丈夫だよ、大丈夫だからっ…!ってそう言うと笑える余裕なんてないはずなのに笑ってね”よかった”って…ッ」
桃井がついに黄瀬と共に泣き始めたのを見て
黒子はその表情を同じくゆがめない様にしつつ彼女の言葉を引き継ぐ
「青峰君は、バカなんです…君を突き飛ばして悪かったって謝らなきゃなんて言うんです。謝ったら、また笑ってバスケしてくれるかな…?でも俺バカらしいから、またあいつ怒らせちまうかも…でもよ、俺…あいつの全部、愛してんだよな…って。まるでうわ言のように呟いて。話さないでくださいって言っても聞きませんでした。青峰君はそれでもまだ言葉を続けようとして、何か見えたんでしょうか…?不意にふっと笑って”あいつ俺のもんだよな…?俺はあいつを愛してもいいんだよな?”そうしてなぜかひとつ頷いて泣きながらに気を失いました。最後まで青峰君は君の事ばかりでしたよ。だからきっと何かあるはずなんです。どうか…赤司君達を責めないであげてください」
壊れたくないと、必死に抑えていた黄瀬の涙腺が壊れた
この人たちの前でだけは泣いてはいけないと必死に押しとどめていた思いが全て口からあふれる「どっ…してっ…!!なんでっ…!!」
大切だ、とか大好きだとか…どうしていつも言ってくれない様な事っ…!
黄瀬はまるで子供のように泣いていた、目の前で桃井も同じように泣いているし、黒子もその表情は歪んでいた
それでも黄瀬は言わずには居られなかった
「どうしてっ…俺なんかかばっちゃったんだよっ…っ!!!!」
そこから先はただただ泣き続けた
今まで隣にいて俺様で傍若無人で変態で、それでも大好きだった人が
めったに好きとか愛してるなんて言葉にはしようとせず行動で示す事のが多い王様が、最後に彼の相棒と幼馴染に託した、他でもない俺への言葉
今更ながらにその存在の大きさが重くのしかかって、同時に黄瀬の心の中にあった幸せな時間が全てよみがえってただ彼は泣 くしかなかった
誰かを責める気なんて起きる訳もなく、でもそれでも黄瀬はどうしたらいいのか分からずにただただ痛いだけなのに頭の中で愛しい、きっともう見る事は出来ないであろう青峰の表情1つ1つを思い浮かべて泣き続けた

どれくらい泣いていたのだろうか、実際は短い時間だったのかもしれない
それでも黄瀬にとってはずっと続く様な時間だったかもしれない
「黄瀬君…」
黒子は少しだけ落ち着いたように見えた黄瀬に再び声をかける
「青峰君は、君を忘れてしまったかもしれません。けれど、きっと彼の体がバスケを覚えているように黄瀬君の事を覚えているはずです。もし少しでも記憶が戻るかもしれない、黄瀬君がそのために心を鬼にできるなら、僕と桃井さんは協力します。だって。君達はやっと、幸せをつかんだばかりだったんですっ…!」
わずかに涙ぐんでいた黒子もやはり耐え切れなくなったのだろう僅かに言葉を詰まらせる
「黄瀬君、やっと君が本気で笑ってくれるようになったのにっ…ごめんなさいっ、ごめんなさいっ…ッ!」
黒子はただ黄瀬に謝り続ける

やがて泣きつかれて茫然と黒子や桃井の姿を見ていた黄瀬は立ち上がる
「赤司っちに呼ばれてるんっすよね…行かなきゃ…」
「黄瀬君…?」「きーちゃん?」
心配そうに聞いた二人にまだ昔の彼とはいえないもののそれに似せようと必死に浮かべた笑顔
「大丈夫っスよ!また青峰っちに1からまとわりついてやるっスから、だからもう俺の事で二人は泣かないでね?俺は、青峰っちも大好きだけど、やっぱり黒子っちや桃っちにだって泣いていて欲しくないぐらいには大事だと思ってるんスから。」
じゃぁいくっすね、そう言って黄瀬は中庭を抜ける
彼の頭の中は正直言ってぐちゃぐちゃだった
恨みたくなんてないのに、どうして俺だけだとか、どうして黒子っちや桃っちや、他の皆の事は覚えてるのに、俺だけ忘れちゃったのって
答えてくれる相手なんていないのにただただその疑問をぐるぐると何度も何度も
ねぇ俺は青峰っちが大好きで大好きで、だからこんなに悩んで泣いてんのに、あんたは俺の事愛してるなんて一言も言ってくれなかったのに、もう1度あったらきちんと伝えてやろうって思ってたのに
どうして勝手にいなくなったっスか…どうして俺だけ、その記憶から消しちゃったんスか…?
考えれば考えるほど訳が分からず、どこをどう歩いて戻ってきたのかさっぱり分からず気付いた黄瀬は再び体育館にいた
きょろきょろと赤司を探すもののその姿はやはり体育館にはない
「まぁ…部室って言ってたっスもんね…」
誰に言う訳でもなくそう呟く

「赤司…っち?」
部室に入って、初めて見たのは赤司っちが一人ポツンと立ちすくんでいる姿だった
「涼、太…」
その表情は一瞬にして後悔の色で塗りつぶされる
「すま、ない…」
「どうして謝るんスか…?」
「僕は、今から君にひどい事を言うから」
その声に、その言葉に何となく察しがついていた
「俺、しばらくは部活停止っすか…」
その言葉を聞いて赤司はさらに顔をゆがめる



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