22



”ねぇ、青峰っち”
”俺は、青峰っちのバスケが好きだった。傍若無人で変態でどうしようもなくムカつく事もあったし。蹴り飛ばしてやりたいと思うような衝動にかられた事もあったし、手は早いし、人の事考えないし。ムカつく所めっちゃ出てくる。けど…同じだけ青峰っちが好きだったよ。普段はなんも言ってくれない癖に、俺が泣けばめんどくさいと言いながらも泣きやむまでそばにいてくれたし、俺が本気でやりたいときは手を抜かないし、いつも俺の事犬扱いするくせにそれでも俺の事好きだって言ってくれて。泣き虫だなって、笑われたりもしたけど、でもそんな風に笑った青峰っちの事が大好きだった”
”ねぇ、俺は青峰っちに伝えられたかな??”
いきなり知らない人間に会わせられて、いきなり事故に巻き込まれて
挙句の果てに知らない男から“愛してる”だなんて叫ばれるだなんて、ほんとついてないって思ってるかな
でも、嬉しかった
泣きだしそうなぐらい嬉しかった
ほんとは抱きしめて泣き叫んでやろうかとも思ってた
でも、青峰っちがいつもと変わらないで俺に触れてきて、なんだかもう泣きだしそうなぐらいそれが幸せで
だから、俺は

真っ暗闇の中で黄瀬は微笑む
”どうか、幸せに生きて。黒子っちも、緑間っちも、紫原っちも、赤司っちも、桃っちも、青峰っちも…幸せになって“
それで、俺は満足だから


…瀬…瀬、黄瀬ッ!!!!!」
その怒鳴るような悲鳴のような声に黄瀬ははっと目を覚ます
ぼんやりとした視界の中に青色が映る
「青、峰、っちの色、だ…」
「黄瀬ッ!!!」
再びそう呼ばれて、黄瀬の意識はゆっくりと覚醒する
やがてはっきりした黄瀬の視界に飛び込んだのは、
「どうし、て…?」
皆の泣き出しそうな表情だった
「黄瀬君は馬鹿ですっ!!!!!」
まるで悲鳴のように一番に声をあげたのは黒子だった
まだ青白い顔をしているしその手には長いチューブ状の管がついていて、点滴らしきものをすぐそばに持ってきていた
「黒子、っち…?」
「君が死んでしまっては、意味がないでしょう……っ!!!!どうして、そうも周りの事ばかりなんですかっ!!もっと自分を大切にしてくださいよっ…!!!」
優しい水色、その色をぼんやりと見つめていた黄瀬は黒子がそう言って泣きだしたのに驚いたように手を伸ばす
「泣かないで、黒子っちっ…?」
「君が泣かせているんですっ…!!!」
「え??え??ごめん、ごめんね、黒子っち??」
少しだけ慌てたような黄瀬に後ろからため息が聞こえる
後ろを振り返って見えたのは深い緑色
「黒子、あまり泣くと体に触るぞ」
「うるさいです、緑間君だって苦しい癖にやせ我慢しちゃって」
「うるさいのだよ」
そう黒子に憎まれ口の様に返した緑間は黄瀬の視線に気づくと怒ったように口を開く
「お前も、自分の体がどれほど負荷がかかっているか分かってもいない癖に迂闊にその命を投げ出そうとするんじゃない!!第一、黒子の言った通りお前がいなくなっては本末転倒なのだよ!!」
そう言った緑間の声に今度は違う声がかぶさる
「みどちん、素直じゃないんだからーwww」
「うるさいのだよ、紫原」
不貞腐れたようにそっぽを向く緑間に変わって黄瀬はその声の聞こえた方向にわずかに視線を上に向ける
「紫原っち…」
「うん 、黄瀬ちんおはよう。」
そう言って笑うと「まいう棒食べる?」と差し出されて黄瀬は思わず力が抜ける
「敦、真太郎にテツヤも少し落ち着け」
凛とした声が聞こえて
そちらを振り向く前に視界の端に見えた桃色
「桃っち…」
「きーちゃん、自分大事にしろって、みどりんみたいだけど今回は私も言うよ。幸せになってって言ったのに」
そう言って泣き出しそうな桃井
「きーちゃんの馬鹿っ」
「桃っち、ごめ、泣かないで??(汗」
泣きだしてしまった桃井を見て焦る黄瀬
やがて、少しだけ面白そうに笑う声が聞こえてそちらを振り返ると
「涼太。」
そう言って笑っている赤司
だが、その脚は包帯でぐるぐるにまかれているし、その頭には包帯がまいてあり黄瀬の眼は驚愕に見開 かれる
「赤司っちっ!!???どうしたんっすか??!!」
わずかに苦笑した赤司は口を開く
「言っていただろう、時間稼ぎのための対抗手段はあいつ相手に直接手を出させないように自分に縛り付ける事だ、ま、あこれぐらいで済んで奇跡といってもいいかもしれないな」
「な、まっ」
「おい!!」
しびれを切らせたかのような声が不意に聞こえて思いっきり腕が引っ張られる
そちらを振り向かざるを得なくなって振り向くとやはり
「青峰、っち」
とぎれとぎれに呟くその名前が久しぶりに届いたかのように青峰は不機嫌そうに「なんだよ」そう返す
その表情を見て、黄瀬は呟く
「終わった、んっすか…?」
まだ、青峰の事を直視するのが怖いのだろうか、黄瀬は青峰を視界に映しながらも他のキセキに話しかける
その言葉に向かい側にいた赤司は頷く
「僕たちは、元々”涼太”のいた世界のキセキとほとんど一致している、というより、あの世界の僕達が消えた、といった方が正しいかな」
「消えた…?一致…?」
「黄瀬君、詳しい事はいいです。君は、青峰君を取り戻して、元の世界に戻ってきていると思ってくれればいい」
その言葉に納得しかけた黄瀬は唐突にすごい勢いで黒子の方を振り返って口を開く
「それよくないっす!!俺に協力するためにリスクを負った元々の世界の皆はどうしちゃったんっすか!!??俺はまだ、みんなに“ありが とう”を伝えられていないっす…!!」
そう絞り出すように声にした黄瀬を見て黒子達は優しい微笑みを浮かべる
やがて皆の視線が緑間に集まったのを受けて彼は口を開く
「お前が巡っていた世界はいわゆる、青峰がとり憑かれた事でできたパラレルワールド。まぁ未来の可能性の一種の世界だ。本来ならそこでの俺達は互いに干渉する事は出来ない。だが元々お前を死なせてしまった初めの世界の俺達の悲痛な叫びが別の世界として存在する俺達の元に届いた。俺達は直接情報を受け取ったと言う言い方をしたが正確には、元々の世界の俺達と意識が繋がっただけだ。お前と話している間にも俺達の中には元の世界の俺達の感情が流れ込み続けていた。つまり、一人の人間の中に2人の人間の感情が同時に存在 していた事になる。その時点ですでに俺達の脳は容量オーバーだ。だが、それを可能にしたのがリスクを負う事。あちらの世界の赤司が見つけて、こちらの世界の赤司に教えた。そして、その方法でこの世界の俺達の意識を眠らせた。ただ、紫原に関しては情報量が多すぎて処理ができない上に関係ない事も多過ぎて意識を繋げてすぐに生死の淵をさまよった為に赤司からの経由を受けてになった。しかし、そのパラレルワールド、この世界を作っていた原因であった幽霊にとりつかれた青峰が黄瀬の言葉で解放された事によって、タイム
パラドックスを防ぐためにパラレルワールドであった元々の世界、つまりこの世界で黄瀬涼太に協力していた俺達が存在として消えた。ただ、元の世界と繋がっていたから、彼ら の存在はきちんと俺達の中に残っている。分かるか??」
緑間の長い説明に黄瀬は力いっぱい首を振った
結果、一発ゲンコツを喰らってしまったのだが
緑間はため息をつく
赤司はその様子に笑って口を開く
「涼太、お前のおかげでお前を助けてくれていた僕達は消えてしまったけど、でも僕達、元々”黄瀬涼太”として生きていたあの世界の僕達にその記憶は受け継がれたんだ。くさい事を言うならば、彼らは僕達の心の中にいるんだよ」
「赤司君がくさい事言ってる…」
「テツヤ、うるさい」
「すいません」
そのやり取りに吹き出しそうになる
やがて、不意に赤司が笑う
「いけないねwww涼太、大輝が拗ねてる」
そう言って赤司は笑うとすぐそばから青峰の声で反論が聞こえる
「うるせぇ!!」
「大輝、口のきき方を忘れたのかい」
「……」
一つため息をつくと、それでもや がて赤司は黄瀬に向かって微笑む
「やっと、会えたんだ、直視するのが怖くても見てみろ、もう涼太の知っている“大輝”だから。遅くなってしまったけれど、ちゃんとお前の望む元の“青峰大輝”だから」
その言葉を引き継ぐように黒子は頷いて口を開く
「黄瀬君が、自分の力で取り戻したんです、さっきから青峰君構ってもらえなくて少し拗ねてますよwww」
「だぁぁ!!!テツうっせぇぇ!!!」
「青峰君、黄瀬君は今まで君のために頑張ってきたんですから、少しぐらいは言う事があるでしょう??」
そう言われた青峰が言葉に詰まる




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