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やがて赤司につれていかれたのは、道端のカフェテラス、のすぐ近くの公園だった
意味が分からず首をかしげていると赤司は少しだけ楽しそうに「すぐ分かる」とだけ言って後は無言を貫いた
その言葉の意味は5分もしないうちに分かった
「きーちゃんっ!!」
不意に呼ばれたその名に、その声に黄瀬は緊張でうつむかせていた顔をあげる
「桃っち…?」
駆け寄ってきたのは、先ほど緑間の病院で見た桃井の姿
彼女はわずかに息を弾ませて「運動不足かな〜…」ともらしながら黄瀬のそばにやってくる
黄瀬が目を瞬かせていると、ふいに桃井は思いっきり黄瀬に手を伸ばし
そして、抱きついてきた
「っ!!??桃っち!!??」
「きーちゃん、やっと、きーちゃんだ」
その声は震えていて、気付けば抱きつかれたその腕もわずかに震えていて
「桃、っち…?」
「あははっ、駄目だな私、決めてたのに」
そう言って顔をあげた桃井の顔には涙がつたっていた
「きーちゃんが、生きてて、大ちゃんも生きてて。私はその橋渡しができる。”嬉しい”はずなのに」
彼女は再び黄瀬に強く抱きつく
その震える肩を黄瀬は思わずそっと抱き締めかえす
「桃っち??なんで泣いてるんっすか…?」
「泣かないって、決めてたんだよっ…?きーちゃんに心配かけたくなかったのにっ…」
「桃っち…」
「でも、やっぱり、きーちゃん今までいっぱい泣くの我慢してきたんだろうなとか、そんなこと思ったら、き ーちゃんの姿見たら、止まんなくなっちゃった」
そう言って涙ながらに黄瀬を見上げる
「ねっ、きーちゃん、もう大丈夫だよ、大ちゃんに、もう会えるからね」
桃井は涙ながらの言葉を必死に続ける
「赤司君達がね、一生懸命いろいろしてくれた。だから、きーちゃんはもう大ちゃんに言っていいんだよ。文句でも何でもいいんだよ。きーちゃんの言葉で、教えてあげて」
”私は何も出来なかったけど、きーちゃんの言葉なら届くから”
桃井はそう言うなり微笑んで黄瀬をはなす
「赤司君、後は、よろしくね」
そう言うと、桃井は黄瀬の手をとる
そして
手の甲に優しく口づけると
「きーちゃん、幸せになってね??私は、きーちゃんの本当に楽しそうな笑顔が大好きだから」
そう言って手を振って去っていってしまった
呆然と桃井の去った方向を見ていた黄瀬はやがて赤司の方を振り返る
「赤司っち…」
「ここから見える道向かいの喫茶店に、大輝はいる。いっておいで涼太」
息が止まりそうなほど優しい表情を赤司は浮かべた
「赤司、っちっ…」
「涼太、泣くのは、全て終わってからだろう?僕はもう嬉し涙以外の涼太の涙は認めないからね?」
そう笑うと赤司は黄瀬の背中を押す
「大丈夫だ。涼太の言葉で、伝えたかった事全部、伝えておいで。僕が、全てを何とかできるようにしてみせるから。だから、言っておいで」
そっと背中を押された
黄瀬は前を見つめたままうなずく
「……ありがとう、言ってくるっスね」
そう呟くと、黄瀬はすぐ近くの喫茶店に向かって走り出した
「大丈夫だ、涼太。お前が伝えきるまでは、僕がここにいるから」
そして赤司はわずかに表情をゆがめると空に向かって不敵に微笑む
「邪魔は、させないからね??」
黄瀬の運命の歯車は、ついに回りだした

黄瀬は自然と走っていた
頭の中は大切な仲間達が崩れ落ちるように伝えてくれた言葉でいっぱいで、だけどそれと同じくらい
「青峰」の事でいっぱいだった
だから、その場についたときに黄瀬は一瞬で彼の背中を見つけた
「青峰、っちっ…!」
そうまるで呟くように口に出た声が聞こえたのだろうか
懐かしい、その背中が振り向く
「青峰っちっ…!!」
「??お前が、さつきの言っていた“黄瀬”?」
キョトンとした表情のこの世界の“青峰”
その言葉に心が折れそうになる
それでも頭の中で黒子が言った”大丈夫”、赤司の言った”大丈夫” それが繰り返されて黄瀬は一息吸うと頷いて微笑む
「そうっすよ」
そう答えると青峰はわずかに首を傾げてから「まぁとりあえず座れよ」
そう、薦めてくれた
「青峰っち」
そう名前を呼ぶと不思議そうに首を傾げた青峰が口を開く
「なぁ、俺さ、お前にもしかしてどっかであった事あんのか??」
その言葉に黄瀬は首をかしげてどうして?と尋ねる、すると青峰も同じように首をかしげながらも
「なんかな―…なんっつーの??こう、よくわかんねーけどそんな感じがするんだよな―」
そして青峰は黄瀬の髪に手を伸ばすと髪の毛の先をいじり始める
「ちょ、青峰っち、ちかッ!!」
そう視線をあげた黄瀬の目の前にずっと会いたくて仕方のなかった、青峰がいて
「ははっ、お前の髪の毛やわらけーなwwwすっげーwww」
目をキラキラさせて黄瀬の髪の毛をいじっている青峰の笑った表情を見て
閉じていた蓋が、一気に開いて頭の中がぐちゃぐちゃになって
けど、それでも笑っている青峰を見ていて、黄瀬の中はストンとたった一つの結論にたどり着く
やがて、黄瀬は微笑む
「俺、駄目っすね」
「は??」
突然そう言いだした黄瀬に青峰は目を丸くして髪をいじっていた手を離す
黄瀬の瞳には涙がたまっていた
「ほんとはっ…、青峰っちに、文句もっ…ごめんもっ。全部、全部したかったのにっ…」
「ちょ、え、なんで泣いてんだよ!!??」
「なのにッ…俺の中で、青峰っちに言いたい事はこれだけしかないんっすよっ…」
「なぁ、なんd
「涼太っ!!!!!大輝!!!!!!」
青峰の言葉をさえぎったのは、聞き覚えのある声での悲鳴
「赤司、っち…?」
そう呟いた黄瀬は茫然と赤司のいた公園の方を見る
やがて、足を引きずった赤司が道路の反対側で悲鳴を上げるように叫んだ

「よけろッ!!!!!!!!!!!!!」
その声とクラクションが聞こえたのは同時で
青峰の体にまっすぐに迫ってくるトラックを見た瞬間に黄瀬の体は無意識に動いた

「青峰っち」
呆然としていた青峰の額に口づける
そして微笑むと青峰を思いっきり突き飛ばす
「俺は、あんたが世界で一番大好きなんだよ!!馬鹿!!愛してるっスよ!!!だからっ…幸せになれっ!!」
そう言って声の限りに黄瀬は叫び瞳を閉じる
”これでやっと終わる…”
そうふっと安心した、すぐ近くまでトラックは迫っていて
そして黄瀬は苦笑する
”また痛いのかな”
そんな事を考えて目を閉じていたら
懐かしい体温が腕に触れて、強い力で引っ張られる
「黄瀬ッ!!!!!!!!」
愛しい人の声が聞こえて、しかし、彼の意識はすでにどう言う訳か朦朧としていた
「大輝!!涼太っ!!!」
そう叫んだ赤司の声がすぐ近くで聞こえた気がして、そして彼はそのまま真っ暗闇の中に意識を落とした




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